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連撃のシュウタ   作者: ゼルダのりょーご
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三十七話 《リンクの冒険書は傷だらけのデジャヴ》④



 気づいたら、目の前に見知らぬ少年がいた。

 少年は、馴れ馴れしい言葉遣いでオレを『リンク』と呼ぶ。

 それについては、白い部屋で痛い目に遭った経験から、無理に否定するつもりはないが。聞かせてもらえるなら聞いて置きたい部分ではある。

 だれか別の者に間違われているのかも知れないし。かと言ってすでに返答をしてしまったのに、今さら大否定すれば、またどんな仕打ちを受けることになるか分からないし。慎重に対応しなければならない。


 「お、オレを知っている人ですか……?」


 自分でも正直、なにを言っているのかと思うが。

 あの声の主で間違いないのだ。なら、魔法使いかも知れない。

 オレを白い部屋に誘い込んだ張本人である可能性を否定できない。オレが受けたこの状況からすれば、そう考えずにはいられない。ただ、こんなつぶらな瞳の少年が奴隷商人さながらの恐怖を、笑顔を伴い植え付けて来るのには、それなりの理由があると思いたいのだ。


 なんにせよ、周囲に群がる連中の殺気立った様子が気になって仕方ない。

 彼らは、この少年の仲間なのだろうか。物々しい連中のようだ。

 中年以降の肉体派の男達で、腰に備えていたサーベルを鞘から抜き出して、肩に担ぐように乗せ、舌を見せ、おどける者、刃先に手を添え前方に構える者、頭上に振りかざし奇声を発し威嚇する者、様々だ。


 ざっと見るかぎり、五十人はいるぞ。

 物々しさはその荒くれたちだけではない。彼らは走行用に飼いならした魔物に跨っていた。あれはクヌークと呼ばれるワニの獣人系にあたる種だ。湿原地帯や河原に好んで生息するらしいが。渇いた土地の上でも充分、脅威的な戦力を誇る。ここは山林の道中のようだが、なぜこんなことになったのだ。


 あるいは、奴らに脅されて仕方なく隷属させられているのかも知れない。

 何はともあれ、いまは自分の置かれている状況を把握しなければ。





 「えっと、君は誰ですか? オレは君の知り合いなのですか?」

 「やっと目を覚ましたかと思えば、いつまで寝ぼけてるの? まあでも声が戻ったのならそれに越したことはないけど。それに何だかイメージとは違い、大人びた口調だし」


 どうも目が覚めたという部分から、やはりオレは眠っていたと考えられる。

 あの白い空間は、この少年の仕業では無かったのか。自分でこの状況を作っておいて、脱出したオレに浴びせる台詞にしては、冷たすぎる気がする。

 それにイメージがどうとか言っている。何かしらの交流があったのだろうか。それなら味方とも取れるし好機なのかもしれない。もしかすると友達だったとか。身に覚えのないことだが。人違いであるにせよ、うまく話を進めれば状況を打破することが叶うかもしれない。しかし、


 「声が戻った……とは」


 オレは、この少年と何かしらの交流があり、声を失くしていた。しかもこんな路上で叩いたり、つねったりされなきゃ起きないほど、深く眠っていたということになる。

 彼のいう言葉を辿り、整理するとそうなるのだが。やはりオレには全く身に覚えがない。


 「誰ですかって、僕のこと覚えてないの?」

 「よく思い出せない。し、知らないお顔ですし。友達だったとかですか」


 うわ、つい本音で語ってしまった。怒り出さなきゃ良いけど。彼が軽い口調で聞き返して来たものだから。


 「なんで?」

 「ご、ごめんなさい。友達だなんて厚かましいこと言っちゃって」


 頭抱えてペコペコお辞儀をするオレがいる。

 彼の方が少し、長身だから何気ない一言に威圧されがちになる。


 「一体どうしたの、リンク?」

 「ご、ごめんなさい。お願い、もう叩かないで!」


 喧嘩も弱い。戦闘も苦手。揉め事はうんざり。

 そう思ったら、思わず両膝を着き、腕を上げ、神を崇める様な姿勢を取ってしまっていた。


 「リンク? 顔をあげて。怖がらなくていい。ほら、リンク」


 彼はそう言うと、オレの身体をそっと起こし、静かに抱き寄せて背中にポンポンと軽く手を当ててきた。あやしてくれているのか。優しい声で、涼しい眼差しで、温かい胸で抱きしめられている。

 こんな事……生まれて初めてかもしれない。そういう感覚を覚えた。


 「僕がリンクを叩いたりする理由が見つからない。怖い夢でも見たんだね。落ち着いて話してごらん」

 「お、オレは夢の中にいた時、君の声を聞いて」

 「うん。それで」

 「その声に応えようとしたが、身体に痛みが走ったんだ。頬をぶたれたり、耳を引っ張られたり、その」

 「それで目を覚ましたら、僕がいたからか……」

 

 彼の腕に抱かれながら、そっと彼の事を見上げた。

 とても悲しい目を見せていた。なぜだか昔のオレに重なる様な切なさに駆られた。何も悪さをしていないが、誰にも信用されず、いつも濡れ絹ばかり着せられて酷い仕打ちにもだえ、震えて泣いていたあの頃の幼いオレに……。


 「ごめん。君じゃないかも知れないのに。でも記憶の中に君の名前や顔が全く見当たらないのですが」


 やっぱり、こんな純情そうな子が悪人のはずがないか。オレは人生の破綻者だ。人間としての失格者だ。自分が生涯で受けて来た酷い仕打ちに耐えることが出来ずに、知らず知らずに人間不信となった様だな、オレは。


 「顔も、名前も一切憶えていないのか……。僕、シュウタだよ。森のコテージでリンゴ拾いした事とかも何も覚えてないってこと?」

 「お名前はシュウタさん……ですか?」

 「さんなんか付けなくていいよ。連撃のシュウタだよ。森のコテージで君が僕のために書いてくれた地図だってある。君には色々と教えてもらったんだから」

 「レンゲ……キとは何ですか?」

 「えっ。そこもなの?! 今さら連撃の説明が要るのか。アプリが翻訳してくれていないのか」

 「は? 翻訳って、誰か居るのですか? アプリさんと言う方が」

 「いや、そうじゃない。ちょっと待って。とりあえず、コレを見て!」


 そう言って、シュウタはオレの前に「ほら、コレ」と、ザックリと書かれた地図を広げて見せた。彼が口にしたレンゲキもアプリも人の名ではない様だが、今はよく分からない。

 オレは差し出された地図を手に取って、しばらく眺めて見た。


 「ここら辺の地図みたいですね。あ、これは! ウソでしょ、オレの字だ。じゃあコレ、オレが書いたものなんすか」


 彼の口元が緩んで、


 「お、そこは見覚えがあるのか! 良かったよ、救われた。他にもあるんだよ、君のくれたメモがね」


 そう言うと彼は紙切れを数枚、差し出して来た。

 目を通すと不思議なことに、すべてオレの書いた文字で間違いなかった。だが、書いて手渡した覚えが全く無いのだ。

 

 「一体、いつ書いたんだろう。不思議な気持ちっす」

 「これで僕とリンクが初対面じゃなく、友好であることが証明されたね。リンクはとっくに友達だよ」

 「と、友達っすか……? う、うぐ……っすん」

 「ど、どうしたんだよ。リンク、急に泣いたりなんかして」

 

 友達だと彼が言ってくれた。


 その瞬間、胸に熱いものが込み上げて来て、その感情のままに涙が溢れ出していた。自分でも分かっていた。まさか、こんなタイミングで友達などができるだなんて。一度終わった人生の先に。


 「あ、安心しただけっす。何だかほっとして。ホントにオレなんかと友達っすか」

 「なに言ってるのさ、あったりめぇだろ! リンクが居てくれなきゃ困るんだよ、僕は」

 「ところで、オレたち出会ってどのくらいの時間を過ごしたんすか」

 「コテージの朝が始まりで、リンゴ集めして夕方に君は寝て、色々あって次の朝まで待てなくて、リンクを一生懸命に起こしたんだけど、爆睡中で仕方なしに背負って夜に出かけて来て、今日で半月が経ちました。リンクはその間、ずっと眠っていたんだ、よ♪」

 「担いで外に出たんすか。それはそれは、世話をお掛け致しまして」


 ときめきで弾み出す彼の笑顔が、オレの全身を疾風の様に抜けて行った。

 何とも言えない爽快感に見舞われた。

 シュウタは、地図とメモを回収すると、どこかに収めた様だが、衣服のポケットではない様だ。彼は鞄を持っていない様だし、何処へ消えた。というより、何処から出して来たんだ。


 「シュウタ、メモがどこかに消えたみたいだけど」

 「じゃあーん。これだよ!」


 彼が見せて来た物、それは。


 「それって、冒険書じゃないか! そうか。メモの内容をようやく理解することが出来たよ」

 「うわ、良かったぁ。冒険書については君の方が詳しいから、出して見て見覚えが無いって言われなくて本当に良かったよ。言われたら詰んでいたかも知んない」

 「お、オレの方が詳しいとはどういう意味っすか」

 「うん?」

 「いや、だからオレは冒険書を所有したことないから。持っているのは冒険者のシュウタであって、オレじゃないのにって」

 「ふふーん。冒険書の使い方ここまで全部、リンクが教えてくれたんだよ」


 ふふーんって、満面の笑みを浮かべて少し、ドヤ顔も含んで彼がそう言った。

 それは一体、どういうことだろう。オレも冒険者だったのか。いやまさかだろ、それ。戦いはできないからな、オレは。


 「勿体ぶらずに説明して欲しいっす」

 「その説明よりも僕の質問に一つ一つ答えてくれれば、少しは見えてくるはずさ」


 彼の質問に答えれば、この状況が把握できると言う解釈でいいのかな。

 とりあえず、聞くしかない様だ。オレは首を縦に振った。


 「リンクってさ、女神の従者なんだったよね?」

 「……!」

 「やっぱり覚えているんだね、そこは。女神の祠へは行ったことあるの?」

 「あ、あるにはあるっすけど。そ、そ、そんな話までしたんすか?」

 「いや実はね、君からは直接は聞いてないんだ。君は声を失くしていたから」

 「そうっすよね。なら、メモに書いたとか」

 「うーむ。出会いの記憶からが飛んでいるな、こりゃ」

 「記憶が飛ぶんすか、空をブーンと、こんな感じで」


 オレは上空に手先をスーッと上げて真面目な面持ちで言った。


 「あはははー。リンクって面白いね!」

 

 笑われてしまった。面白いか。もちろん分かっているさ、彼が言う意味は。

 だが、ここまでの質疑応答で、こちらの心境は心臓が張り裂けそうなくらい、バクバク鳴っているんだよ。シュウタは一体どこまでの事を知り得ているんだろう。オレは全てを彼に打ち明けてしまったのだろうか。半月、つまり二週間ほどの付き合いだとか言うが、初日の夕刻までしか交流をしていないらしい。しかも、オレは声が出ないから、書いてやり取りをしたのだな。


 それなら彼の手元にあのように証文として残る事は百も承知だし、絶対オレがあのことを打ち明けるはずは無い。

 彼はまさか、全ては知らないはずだ。今だって知っているなら聞く必要ないわけだし。


 「聞いてばかりだけど、もう一つ、聞かせてね。リンク。落ち着いて聞いて、落ち着いて答えてね」


 うん?

 何だ、彼の声のトーンも真面目なものに変わったぞ。

 次は何をぶつけてくるのだろう。少し、怖いな。


 「ねえ、リンク。僕たちは神様の前で出会ったんだよ」

 「──!」


 な、何を!

 何を言い出すんだ、このシュウタって子は。

 もう後戻りできないのか。やはり運命は何も変わってはいなかったのか。

 こ、これ以上の会話は避けるべきか、流れに身を任せるべきか。

 避けたところで出口は見えないだろうな。おまけにここでもし、彼に嫌われてサヨナラされたら、周辺の、恐らくは山賊だろうが、奴等の存在をさばけないこっちが詰むことになる。


 オレの味方はこの子しかいない、この「レンゲキのシュウタ」という少年しか居ないのだ。ここは一つ腹をくくる以外にはないか。

 勿体つけずに話せと言っておきながら、オレが返事を出し渋れないじゃないか。


 「か、神様って……。しゅ、シュウタも女神にあったのか……ルシルさまは、何と仰せになっていたの?」


 唇の先は震えながら、喉が異常に渇きを感じた。

 彼が味方だと信じるしかない。


 「やっぱり女神ルシルの方か……」

 「る、ルシルさまの方かとは、どういう意味っすか。他にも神様が?」

 「そろそろ状況を話そうと思うけど、先に詫びておくよ。ごめんねリンク。試すような事を言って不安にさせた事。話せないことまでは無理に答えなくて良いんだよ。誰にも秘密はある。話したくない過去を人間は一つや二つ背負っているものだから。僕も同じだから」


 ハッとさせられる言葉を添えてきた。


 「いいんだ。オレを想ってのことでしょ。気にしてない、ありがとう」


 それにしても女神じゃない神様に、二人とも出会ったと言うのか。


 「状況説明をすると、こうなる。静かに聞いていて欲しい。


  まず、僕らは死神を名乗る者に会った。僕は別の世界で十五歳の夏に死んだ。その後、死神の前で異世界シュートリアに転生させて貰えることとなった。転生に際しては格別なる能力を賜った。

  この折に僕はチート転生の条件として、死神からリンクという名の君を託された。君が女神の従者であることはこの時、死神より聞かされたんだ。死神はさらに僕に言った。


 『リンクは、シュウタ以外の人間には姿が見えない。リンクは声を失い会話ができない。リンクは妖精で性別は無い。リンクを無事に女神ルシルの元へ送り届けて欲しいのだ。女神ルシルは、女神の祠に居る。祠の所在地はシュートリアに居る、錬金術師か高等魔法使いが知っている。その者らを訪ねよ』


 リンクを無事に送れば、僕の任務は終わる。自由になった僕は転生後の世界でずっと気楽に生きる。僕には桁外れの魔力が体内に内包されている。

 そして死神より、冒険書を受け取った。僕は死神に小遣いをねだった。死神は気前よく一億と百万くらいのお金をポンとくれた。


 その後の細かいことは、後でおいおい話すとする。記憶がないならさぞ驚いた事だろうが、僕で分かる事なら答えるので質問してね。あと、君の世界でリンク自身も死んだか、死にかけたと死神が言っていたが、詳細は伏せられている。神様の口は堅くて聞けなかったよ」


 「…………」


 えっ!? 

 な、何ていったの? あそことあそこの部分、ごっつう気になるわぁ。

 いやはや、衝撃過ぎでしょ! 言葉を失いました。こんな経験をしていたのか。この子。

 だけどこれで少し、話が見えて来た。だって心当たりがあるんだもの。こちらの現在の記憶と符合する。死ぬと、死神の所へ行かされるのか。びっくりだな。死神ってどんなだ。さぞやおぞましい姿なんだろうな。

 しかし、なぜ一部分の記憶がないのだろうな。


 「死んだからか……でもシュウタは」


 思わず小声で呟いてしまった。

 彼は記憶を保っている。人それぞれなのだろうが。

 オレにとっても、シュウタは必要不可欠な存在だ。オレは女神の所へ戻れるんだな。


 最後は単刀直入に打ち明けてくれた。ここまで聞かされたのなら──。


 彼にはもう少し説明を加えて貰わねば、彼もオレが答えられる範囲の知識を必要としている様だ。

 それは、なんともありがたい。

ありがとう

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