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連撃のシュウタ   作者: ゼルダのりょーご
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三十六話 《リンクの冒険書は傷だらけのデジャヴ》③

『──リンク、起きて!』


 はて、これは夢見の途中だろうか。

 遠くにあったその声は見る見るうちに、オレの耳元へと近づいた。

 もっとも呼ぶ声だけだから、実際は何も見る事はできないけど。


 これは、一体どういうことだろう。


「オレの耳に届くのだから、オレを呼んでるんだよな。でも──」


 あんた一体誰なんだよ。

 そんで、そのリンクってのも誰なんだよ。

 なぜ、オレをそう呼ぶのか。


 どこからともなく、ふわふわとした不思議な声が聴こえてきた。

 夢見に見る様な、枕元に立つような感覚でしかないのだが。

 いや、そんなに明確にこれだと言い切れるわけではないが、近づいたり遠ざかったりするものだから。ついつい、そんな表現になるだけだが。


 それは、勿論女神ルシルの声ではなかった。

 ルシルの声をオレが聞き違えるはずもない。

 今さっきまで、ここで会話を楽しんでいたのだから。

 声の出どころを知ろうと周囲を微妙な間隔で凝視しつつ、見回してみたのだ。

 要するに、自室の壁を気持ち悪い害虫が這って居ないか確認するときのそれだ。

 寝る前に明かりを落とすとき、風呂上りに部屋に出現して欲しくないから、しっかりとカーテンの裏まで確認するじゃない。

 何かがいきなり出てきたら怖いから不安で見まわしてしまう。

 そう、それはもはや生理的現象。


 ここには、家具らしきものは何もないんだけど。


 しかし、何処を見回そうとも何者の影さえも見当たらないのだ。

 何者かの気配も感じ取れず、匂いもしない。足音もない。

 その呼ぶ声だけが、目覚ましの様にまとわりついてくる感じだ。


 つまり周囲には誰の姿も見当たらず、ここにはオレ一人だけがへたり込んでいる状況だった。

 地を這う手のひらの感触は、祠の中と同じく硬い石の床だと思う。


 そして、その呼び声が耳元に迫ってきた時、力強く、はっきりとした声に変わった。

 だけど、誰の声なのかを思い出せないでいた。

 というより、全く聞き覚えのない声だし、思い出しようもないんだが。


 だから、オレは思わず、


「女神さま、お呼びになりましたか!」


 そう答えていた。


 そう答えるに決まっているじゃないか。

 オレは先程まで女神の祠にて、女神さまと会話をしていたのだから。

 オレの記憶はそこまでは鮮明だった、とこの時点までは自信を持って言える。

 だが聞こえた声は、先程のルシルさまの声とは明らかに違っていた。

 聞き覚えがないのに明らかに違うというには理由がある。


 女神様は女人だからな。


 それに、オレの事を呼んでいると感じ取れるのに、全く聞き覚えのない名前で繰り返し呼ばれることが一番不思議でならないのだ。


「この名は、一体……」


 不思議な感覚が、オレの身を包んでいた。

 気づくと辺りは真っ白な空間に変わっていた。

 オレが咄嗟に呼び返した女神ルシルの気配は、すでに無くなっていた。

 いや、そういう気がしてならないだけかも知れない。

 自分でも、よくわからない。


「それに、この場所は……というより、外か室内か。あの祠での用件が済んだから、そこから引き剝がされていく最中なのか」


 白く光る空間に放り出された様だが、その場を何処だか、特定する知識も経験もオレは持たない。そして見覚えもない上に何も見えない。

 今は成す術が見当たらない。そのため、少々パニックに陥りかけている。


 オレは確か……女神ルシルの従者となって、何らかの任務に就く所だった筈なのだが。その喜びの後、一瞬でこの有様だ。

 与えられる筈の任務は何だったのか。それすらまだ何も聞いてはいないのに。

 何が起きて、何処へ流されようとしているんだ。不安で堪らない。


「め、女神さまー! 任務の内容をお聞かせください……」


 もっと大声で訊ねようとしたけれど、もう返事が途絶えて居るのは分かっていたし、もしも違う声の主がこちらの味方じゃ無かった場合、余計な事を聞かせて不利な状況に陥るのも嫌だと考え、オレは途中で声のトーンを落としてしまった。

 そう思った直後、



「う、うおっ!?」



 な、何だ?

 身体が突然、揺らされたぞ。

 呼ぶ声の主の仕業なのか?


「う、うおっ! い、痛いっ!」


 な、何だ今度は。

 頬に痛みが走ったぞ。


 明確に触れられたという感触では無かったが。

 頬に2、3発のビンタを入れられた気がした。

 そう思ったのは、痛みと共に顔が左右にカク、カクンとブレた為だ。

 同時に目の焦点がブレて、周囲の景色が飛ぶような感触を覚えた。もっとも周囲に景色など何もないが。

 それとも、無味無臭で色も無ければ発光もしない。ダメージだけを与える魔法とかだろうかとも考えた。いやそれは物理だろう。


「この痛みの感覚は……」


 若干鈍いようでもある。

 もしかしたら五感自体が鈍っている可能性もある様にも思えて来た。

 得体の知れないものに遭遇すると、慌てて行動しがちになり、足などがもつれる事が経験上よくあるのだ。そんなに運動神経が良い方でもないし。

 やはり、ビンタが正解なのだろうな。

 


 いや、痛みと言っても微々たるものだ。頬に受けた痛みは、ヒリヒリしながらも5秒ほどで消え去った。不意に姿なき者に身体を揺らされ、頬をぶたれたのだ。

 驚いた反動による恐怖心で、逆により強い痛みだと錯覚したのだろうか。

 オレは自分の頬を軽く手でさすりながら、


「攻撃……」


 と言うほどでも無かった。

 それほどの悪意も、敵意も無い様にも思えて来た。



『リンク!』

「お! びっくりした。だ、誰なの? さっきから」


 だから、オレ、リンクって名前じゃ無いんですけど。

 だが相手は、そう思い込んでいるらしいがな。


『リンク! 起きて、早く』

「ああそれ、オレの事なんだね? 分かった、起きるから引っぱたかないでよ」


 例の声の主だ。

 気軽に返答を返してしまったが。

 起きろと言われても、こっちも眠っている訳じゃないのに。

 どうすりゃいいんだよ。そもそも寝た覚えがないのだから。

 そっちからは、オレの様子は見えていないのか?


 いや、見えているなら台詞と行動が異なるはずがないのだ。

 これは見えていないのだな。全く厄介な状況だな。

 叩かれたく無くば、懸命に条件に応じるしかないのか。


「もう起きていますよー! 姿を見せてくださーい」


 どうだろうか、伝わっただろうか。

 立ち上がって、両手を目一杯振って見たのだが。


「ひい! 痛ェテテテ──!」


 またも体に衝撃を受けたぞ。

 無理か、困ったな。

 やはり、見えて居なさそうだ。

 目に見えない相手を呼び出す者に心当たりがあるとすれば、幼い頃、絵本で読み聞いたランプの魔人くらいだが。

 いやいや、そんなわけないだろう。

 まさか、またランプの中に逆戻りしてしまったのか? あれ、ツボだったかな。

 気持ちの焦る場面に出くわしたせいか、記憶が曖昧になって来た。

 どっちでもいいか、今はそんなこと。

 兎に角、あいつらの元に送り返されるのだけは嫌だ。


 オレは、かよわい生き物なんだ。

 お願い! 女神様、見捨てないで!


 「あっ」


 今度は、両耳を引っ張られている!

 何だ? 要求への手抜きはしていないぞ。

 ダンスでも踊れば良かったのか。


「そんなとこ、つねらないでよー!」


 問答無用かよ、お前は!

 姿現せ! 卑怯者め……。

 などと、そこまで言う勇気はない。

 怖いから声に出すのをためらっているのだ。


「ち、ちぎれるぅ。耳が。女神さまー! お助けをー!」


 何だよこれ?

 何が起きて居るんだよ?

 不気味で仕方がないよ。

 何とかして、この真っ白い空間から抜け出さなきゃ。

 だけど……方法が分からない。

 来たことも無い場所だ。

 本当にもうー!


「夢なら、早く覚めてよ!? あ、ああ。うあぁはあ~ん、やめて~、そこだけは勘弁して~!」


 こ、こ、こ、

 股間だけは勘弁してくださいよ!

 こ、こ、こ、

 こいつ、自分の足の裏をオレの股間に押し当てて、小刻みに振動させてやがる。

 しかも、オレの両足が、こいつの両手でがっつりと引っ張られていく。


「なにその、奇特な攻撃ぃいー!?」


 ち、力が抜けていく。

 意識が遠のいていく。

 もう駄目だ──。

 このまま、この「声だけ変態神」のしもべにされるしか無いのか、オレは。

 どう足掻いても、オレの人生は最悪の運勢なのかよ。

 やっぱり地獄に落ちたのか──。


『中二奥義、汚れちまった悲しにがみ!』

「えっ」


 なんか声が返って来た。

 意味不明の言葉が降りて来た──。


 も、もしかして、奇特な攻撃の疑問符への返事ですか?

 こちらの声がやっと届いたのだろうか。

 ──ってか、技名など、どうでもいいわ!


「ご、ご用件だけ、手短にお願いします」


 もう乱暴しないで、ヘンテコ空間から解放してくださ──い。

 祈った、祈った、祈った──。

 心の底から祈った。

 心折れるほどに祈った。

 心折れる寸前まで祈った。







 そして、目の前が暗転したかと思えば、




「おう、リンクってそんな声だったんだ。てか、喋れるじゃんか!」


 どうしてだか分からないが、自然界の景色が視界に飛び込んできたと思ったら、目の前に見知らぬ少年が居て、オレの顔を覗き込んでそう言って屈託のない笑顔を見せてきた。

 その瞬間、完全に地上に出たのだと悟ることができたのも事実だが。


 何、この人。


「君は……だれですか?」


 それを訊ねている自分は、背中に強い痛みがあったのを覚えた。

 オレは訳も分からず、雑木林の入り口みたいな場所に仰向けに寝かされた状態だった。


 白い空間でこの声の主に悩まされていた為、耳を研ぎ澄ませていたままだった。

 そのオレの耳に飛び込んで来る周囲の様々な音をキャッチすると、自然と感じ取れる一つのヤバイ光景が頭に浮かんできた。


 オレは今、数十人の荒くれ達と、ある魔物に囲まれていることを知覚し、そのことに気付かされたのだ。

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