三十一話 神撃の真意
《連撃のシュウタ》 神撃の真意
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戦記神撃<オノノキシンゲキ>
その言葉の連呼によって、僕はナオトに気圧され、怯んでしまった。
僕らは、もはや身動きの取れる状態には居なかった。
例えるなら、「詰まされた」という表現が近い。
将棋のようなゲームの「詰み」と呼ばれる状態。
もう手も足も出ないし、どこかに逃げるという選択肢すら無かった。
魔法が効果を得られないのだから、僕なんかのパンチやキックなどの物理攻撃が通じるものではないし。
「危なかったな……僕」
はっきり言って殺されると思った。
ショウタが間一髪で死神を呼び出してくれたお陰で、その場から身を隠せた。
この行動が逃げた内に入るのなら、あの場に戻らなければならない可能性もあるが。
今、ナオトがどうしているかは分からないが、あの場所に戻るのは危険だ。
ナオトは死後の世界に入界できない様だ。それだけは分かる。
僕を死人と見抜きながら、ここまでは追いかけて来られないのか。
この先、僕は生き戻るのか、それともこのまま地獄にでも送られるのか。
生きられるのだとしても、再び、ナオトに追い回される恐怖と不安が残る。
だからこそ、それもあってショウタには問わずに居られない。
ソレらの意味するものを。
「シュウタ、許せ。全てを話してやる事ができない決まりなんだ。オレは2年前の夏、ギャングに絡まれたナオトを置き去りにしたと言う話だったが、その場で命を落としたのはナオトの方だったのだ」
全力で正面を向いて力説してくる全裸のショウタに僕は、ブレザーの上着を掛けてやろうと服を脱いで手渡した。
別に無くても平気だみたいな顔をするが、僕が恥ずかしいので先ずはこれを着ろと押し付けた。すまねえなと言いながら、ショウタは上着の袖を腰に巻き付けた。
「……うん? ナオトの話と違うぞ」
二人の言い分に食い違いがあるな、どういうことか。
「妖精の力は微々たるものと言ったが、ナオトとは命の盟約を結んでいたオレは、ナオトの代わりに砕け散ったのだ。妖精は盟約者の身代わりになる事ができる、命の石なのだ」
「……それじゃ。そのことはナオトの記憶に刻まれては居ないんだね」
「そんなところだ。だから、復活の呪文を伝授しておいた。しかし──」
復活の呪文と言えば、大体は死体が必要になるな。
ナオトは、僕をショウタではないかと疑っていた。
僕からショウタの匂いがすると言っていたし。
「死人が死人と気付けず彷徨うことが、オノノキ一族では常識化しているの?」
「いや、していないが。──なぜそんな疑問が生じるのだ?」
「だってナオトは、死人と疑った僕に蘇りの呪文を強く発したじゃないか。それはショウタかも知れないと手探り状態だったからじゃないかと」
「ああ、あれか。アイツも焦っていた様だ。神撃は呪文じゃなく、狼煙なのだ」
「のろしって、なんの?」
「戦いの合図なのだ」
戦う相手は死人なのか? ナオトは魔法使いじゃなくて、僧侶の方かもしれない。悪人の魂は祓い、善人は浄化し、仲間は復活させる、みたいな。
「君を復活させたい一心が焦りに変わり、戦いの狼煙を上げてしまったと。それで何が起きると言うんだ」
「戦闘だ。互いの命が尽きるまで殺し合いが開始されるのが、神撃の狼煙だ」
「はあ!? アイツ馬鹿だな! 助けたい人と死闘を繰り広げてどうするのだ!」
「アイツは昔から飲み込みが悪くてな。根はいい奴なんだが」
いや、ただのアホだろ? こっちは一応生きてる人間だったんだぞ。
「魔法が効かなくて死にそうになった。ショウタが不調を来たさなければ、ここには来てないよね僕たち?」
「それについてもすまねえな。だが、盟約者同士は傷付け合えない筈だから、死に至ることは無いと思うが、なぜ神撃へ突入したのかオレも不思議でならねえ……」
ショウタが首を傾げる。
いや待て、首を傾げたいのは僕の方だ。
その言い方から察すると、ナオトと君は命の盟約とやらで味方同士だから、戦闘が起こること自体が不自然な現象だと言いたいんだな。復活の呪文も教えてあるのだから、死んだとしても傷付け合う事はできない関係性だと。
だが先程、死闘になってしまったと言う事実がある。
ならば考えられる可能性は、ふたつにひとつだ。
ひとつは君の体調不良によるもの。
それについては、死神が君の記憶を取り上げていたから死神に聴くしかない。
もうひとつの方は考えたくないけど、僕の何かに関係することだろう。
それも死神に聴く他は手立てが無さそうだが。
それよりも、今僕には気がかりな事が二つある。
とても大事なことなんだ。
ひとつはショウタに聴けばいい事。
もうひとつは死神に聴きたいことだ。
「ショウタに最後に聴きたいんだ、神撃っていったい何の戦いなの?」
なぜ戦闘になったのかよりも、戦闘になったのなら、ショウタの一族とは何かの戦いから逃れられない宿命にあると言うことだろ?
ショウタのせいであるなら良いけど、もし僕のせいだったら……そんな悪い予感が脳裏をひた走るんだ。
「シュウタ……? 最後ってなんだよ。そんな悲しい目をしてさ。──そんなに知りたいのなら教えてやるよ。
神撃とは、神たちの戦いだ。神撃の神はそのまま神の事で、撃とは、不退である戦場に加勢する者を指し示す。ナオトは加勢する者として名乗りを上げたのだ。オノノキの一軍として戦いに参戦する、故にオノノキシンゲキと唱えるのだ……」
「お、教えていいの? ショウタ」
確かに言ったよね。
話せないルールだって。
どうして、話しても良くなったの?
「また撃とは、いかなる異世界に於いても『ゲーム』という翻訳で広く知られていて、オノノキは知の象徴を司り、"神撃の書"により、光の勇者の加護を担う……」
「えっ。異世界の言葉? ゲームに変換されるのか……」
それじゃあ、あっちでゲームと言う人がいたら、その意味になるんだな。
神々の戦いってのに。そうすると空の意味も聞いて置きたい。
「うぐっ……」
「あ! しょ、ショウタ!? ど、どうしたの? 何で苦しんでいるの?」
そのことを僕に告げるとショウタが再び苦しみ出して、死神を傍に呼び寄せた。
まだ聞きたい事があったんだけど、今は聞き出せそうな雰囲気じゃなくなった。
「しょ、ショウタ……しっかりして」
自殺すると天国に行けないって死神が言っていた。
僕たち呪われているのかな。
呪いを解く魔法はないのかな。




