二十八話 戦記の空⑮
《連撃のシュウタ》 戦記の空─オノノキのソラ─⑮
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(よせっ、シュウタ! 何故そんな非道な行いに走るんだ。魔法の力で打ち負かすだけの筈だっただろう。不良と言えども、人間を黄金化するなど言語道断だ。もはや殺意が入り乱れているように思えて来た。しかし、オノノキのソラとはこの現場の筈だ。そこにすでにナオトは引き込まれているから召喚を受けている事になる。
──つまり、翔太の死によって、オノノキのソラという舞台が幕を開けた事になる……オノノキは分かる気がするが、空の意味が今ひとつ掴めない。空に何かあるのか?)
◇
いっせーの、で!
二人は興奮しながら勢いよく声を合わせた。
「オノノキ神撃っ!」
「錬金術魔呪っ!」
互いの呪文の言葉は、互いの耳に力強く交差して、鼓膜までしっかりと届いた。
等しく6字だと、心の準備をしていての発声だった。
当然、言葉は同じ響きになるものとナオトは期待していた。
だが、ここまで文句が異なると、共に意表を突かれる状況のはずだが。
しかし、その挙動を見せたのはナオトひとりだけだった。
秒の差でナオトが先に呪文の言葉を発した様にも感じた。
ナオトは、それが蘇生の呪文であるかのようにも語っていたが。
シュウタの唱える呪文は死神との会話からして、生物を生贄とし、黄金化させる物質変換魔法のようだった。
シュウタはナオトを騙して、金貨を山ほど得ようとする魂胆だった。
単なる悪ふざけなどでは無く、人格が急激に豹変していく様でもあった。
シュウタは、この街の不良たちを魔少年と呼称していた。
魔少年の好奇心の犠牲となり、生き地獄を味わい、死の縁を拝んだ。
結果的に彼の心には強い怒りと、激しい恨みの衝動が焼き付いたのだろうか。
学校の中でわりと友人思いだった彼が、どんどん不良生徒以上の悪意に満ち満ちて行く。
それはショウタの存在をナオトが明かし、不思議な過去の繋がりを語った時点から、より一層過剰になった様に感じる。
違和感を覚える二人は、見つめ合った。
「シュウタ⁉ 言葉が違う見たいだが、それは何を意味するものだ?」
「あれれ? 何故ナオトは無事でいるんだ? ショウタ、魔法の効果が得られていないよ、どうなっているんだ?」
『待ってくれ……俺にも分からない』
ナオトに異変が起こるはずでいたのに彼が無事でいる事と、そのナオトが平然と自分と異なる呪文の文句の意味を問い返している現状に、戸惑いと焦りを見せたシュウタが思わず、そう言った。
なぜナオトは、魔法の餌食に成って居ないのか、と。
「おい、シュウタ! また翔太の名を呼んだな? しかも話しかけた様に聞こえたぞ。まさか……姿が見えないだけで傍に居るんじゃないのか? 今度はお前が打ち明ける番だぞ。さあ答えろ!」
『うっ……うぐぐ…うあぁ』
「な、何を言い出すんだよ。君の友人の翔太は死んだんでしょ? どうして傍に居るだなんてオカルトみたいな言い方をするんだよ。そっちこそ…」
『……ううっ、頭が……』
「オレは翔太とその一族に出会ってから、常識では考えられない現象を数々見せられてきた。妖精とは蘇りの一族だ。託されたセキセイの呪文とは、女神に因縁のある者を覚醒させる儀式だと教えられてきた。それは君なのか? それとも」
『シュウタ……取り…乱すな…そいつから離れる…だ』
ショウタの声がかすれて行く。
頭痛が止まないと強く訴えていたせいか。
残念ながら、シュウタには聞き取れては居ない様だった。
「女神だとか、そんなこと突然告られても分かる訳ないでしょ?」
「隠すなよ! 翔太の死後にしか効力を発揮しない呪文で、翔太の匂いを感じた時に唱えてくれと言われた。そうすればあいつに課せられた試練が終わるのだと」
『うあぁ……頭が痛い…』
「──だったら、気の済むまで唱え続ければ良いだろ! 僕には関係ない。女神なんか知るか。死神ショウタは僕だけのものだ! 喰らえ、錬金術魔呪っー!!」
ナオトに急き立てられてシュウタはさらに言った。
気持ちが暴走するかの様に、激しい感情をぶつけていく。
気の済むまで唱えれば良いと、自分には関係の無い事だと。
魔法の効力を得られなかったシュウタが、悔し紛れにナオトに放っていた。
さらにダメ押しでもする様に、アルケマージュをナオトに向けて、「喰らえ!」と憎しみの言葉を付け加えて言った。
『頼む…その……話をやめ……』
ショウタはとても苦しんでいる様だが、まだ気づいてやれない様だ。
「翔太が死神とはどういう事だっ! お前はずっと怪しかった。お前の強さがそもそもおかしいのだ。不死身であるかのその身体能力。
……聞け! 女神とはこの世の闇を晴らす光の使者。お前、さては死人だな! その怪しげな呪文、すでにオレには通用しないぜ!」
『な、なんだと⁉……』
「だ、黙れ……僕とショウタの魔法が無効化されている? 君こそ何者だ!」
ナオトは、シュウタに向けて以前から怪しいと疑念を抱いていた事を突き付けてきた。
シュウタの強さの不自然さを強調してきたのだ。
そして、ナオトは天の声でも聞かせる様に言い放った。
女神とは、どの様な存在であるかを。
その上、シュウタの存在を死人と呼んだのだ。
全くもってその通りなのだが、なぜ見抜いたのだ!
死神ショウタも面を食らった様に言葉を発していた。
「オレか……オレは、戦記翔太に命を救われて以来、翔太の空蝉と成り、オノノキの召喚書に記載された……神撃のナオトだ!」
"戦記神撃" <オノノキシンゲキ> !
"戦記神撃" <オノノキシンゲキ> !!
"戦記神撃" <オノノキシンゲキ> !!!
「ぐはっ! 何故だ、身体に電撃が走った! 僕の技を僕自身が喰らったのか?」
ナオトが上を向いて、真実の名を力強く名乗る。
その名からは不思議な響きが勢いをつけて、そのまま呪文化して周囲の空域に同調しながら、空へ抜け出す竜巻の様に駆け上がった。
天空へ向かい迸る謎の呪文は、ありとあらゆる魔力を跳ね返す光の鏡となった。
それにより、シュウタの放つ魔法は跳ね返されて、シュウタ自身に返った様だ。
シュウタはその身に耐えがたい衝撃を受けた。
血ヘドを吐くように喉元から鈍い唸り声を上げた。
辛うじて気を失わずに持ち堪えたが、その衝撃はこれまで彼が生徒たちに容赦なく浴びせて来た魔力による痛みなのだ。
死神の身体ゆえか、黄金化は免れた様だ。
危うく己が放った錬金術魔呪によって、古代造形物に成り果てる所だった。
己の身に起きた現象に目を見開き、技の反射を受けた事を理解したのだ。
シュウタは息を吞んでいた……。
脳内で必死にショウタに問いかけていたのだ。
魔法が通用しない現実、それどころか反撃に遭い窮地に立たされた現状を。
何にも増して、ナオトが何者であるかを。
奴が言う、<エス>とは何だ?
奴が言い放った神撃とは何なのだ⁉
何故だ?
空に向かって轟かせる様に吼えるのはっ⁉
それが奴の言う、オノノキとの約束の儀式というやつか?
「(ナオトが語る、オノノキとは君の事じゃないのか? ショウタ。このままでは二人ともアイツに消されてしまうぞっ!)」
「セキセイの呪文、その意味を忘れし彷徨う者よ。闇に飲まれし錬金術師の末裔よ…」
『やめてくれ……二人とも…その話をやめてくれ。魔力を失くした訳ではない。これはきっと俺に関する何かだ。今一度、死神に謁見を申し出よう、シュウタ…』
◇
☆
(こ、これでやっと死神の所へ行くんだな。
あの真っ白な世界……じゃ無かった、三途の川の手前の赤い闇に包まれた死後の世界に。うん? 確か…神撃って死神と逢う場面の事ではなかったか?
あれ、おかしいな。どこで知った記憶だっけかな? 彼らのやり取りでおぼろげだが、ふと思い出してしまったんだ。なぜだろう……。
さあ、そんなことより今度こそ僕の出番はあるんだろうな、頼むよ)




