二十七話 戦記の空⑭
《連撃のシュウタ》 戦記の空─オノノキのソラ─⑭
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(ナオトに妖精の思い出とは何なのか、聞くだけ聞いたらブタに変える等と物騒な企みを始めた二人の動向が気になった。様子を見ていく他はない様だ)
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「なあシュウタ、オレが翔太と語った妖精の話を打ち明けたら、お前たちのコトも聞かせてくれるのか?」
ナオトはシュウタに詰め寄り、抱え込むように耳元でささやいた。
シュウタは口をポカンと開けて、さも戸惑っているかのようにナオトの目を見つめ返して呟いた。
「良いのか? タブーの話だろ? 僕は誰にも語るつもりは無かったけど、君がそこまで言うのなら。だけど君から話してくれ。僕から話して聞き逃げされたら嫌だから。ここは不良の戦場で君の味方が大勢いるのだからな」
「ああ勿論だ。不安に思っている様な卑怯な真似はしないさ」
シュウタはナオトの持ち掛けに乗り、話を進めさせる誘導をした。
「それと君と二人きりでなきゃ駄目だ。そこの二人には席を外してもらうよ」
シュウタの言う二人とは、ヒロとナッキーの事だ。
「お前ら少しの間、席を外してくれ。オレはシュウタと二人だけで話すコトができちまった」
ヒロたちはナオトに言われる通りに距離を置いてくれる様だ。
「まあ、納得の行くまで話し合ってくれ。良く分からねェけど後腐れの残らねェようにな」
気遣いの言葉を残し、軽く手を振ってナオトたちに時間をくれた。
シュウタは更に静かな場所へとナオトに促し、少し歩き始めた。
周囲に居る人の数が多すぎて、そのざわめきの中では親密な関係を語れないと人気のない河川敷近くへと足を踏み入れる。朝方だったが、真夏の強い日差しは容赦なく二人を照りつけていた。
「ここら辺で良いか。陽射しがやけに強いから手短に頼むよ、ナオト」
「……仕方ない。オレが幼少に井戸に頭からハマった話をしたよな」
「うん」
「翔太が傍を通り、助けを求めるオレの声に耳を貸してくれたんだが、大人たちに言われて狐か狸が化かしているんじゃないかと言うんだ」
「それで」
「オレは必死に状況を伝えた。すると、あの土地は翔太の先祖代々もので、井戸は家系を守る精霊の棲み処だと言うのだ」
「ふうん、お金持ちの屋敷に伝わる伝承みたいなやつ?」
シュウタの目がキラリと輝きを放って、ナオトの話に寄り添う。
「まさにそれだ。だからオレを救い出すのに井戸を解体しなきゃいけない。救ってくれた自警団は翔太が親御さんに内緒で動かしてくれた訳だ」
「……翔太、叱られちゃうパターンだな」
「まさにそこなんだよ。それで、二人とも嫌な思いをしなくて済む方法が一つあると翔太が言ったんだ」
「……それは?」
「井戸を解体して救い出されたオレは、翔太の話を聞いた。翔太には家系に代々伝わる大事な務めがあった」
「務めって?」
「翔太が地元の有力者の家系だと言ったが、翔太が言うには、自分は妖精の子孫で家は代々、光の女神に仕えていると言うんだ」
「小さな子供が、よく言い出しそうなお伽の世界だな」
シュウタはクスッと笑って、ナオトの次の言葉を待った。
「オレも初めはそう思っていた。翔太が妖精だとして、オノノキ一族にとって大事な井戸を傷付けても、咎められない理由が少し謎めいていて怖かったのを、今でも覚えているよ」
「謎めいているとは?」
いよいよナオトが秘めている翔太との秘密が聴ける、シュウタは薄笑みを浮かべ出した。
「妖精は、女神に仕えて一生を捧げる宿命を持って生まれる。その為、オノノキ一族の子孫は、女子でなければならなかったのに翔太は男児で生まれてきた故に、試練の為に短命でこの世を去るだろうとの一族に伝わる予言が翔太を苦しめていた」
「まじかよ……」
「翔太はオレに、一族の末裔にしか唱えられない "セキセイの呪文" と言う存在を明かしたんだ」
「セキセイ……インコ?鳥か何かか?」
「いや……ただそう呼ばれるものなのだと。ちゃんと呪文の言葉があって、予言通り短命で翔太が死んだらオレにそれを唱えさせるのだと、一族に進言したのだ。翔太の一族の重鎮たちはオレを見ながら、翔太に再確認する様にこう告げたんだ。『この者をオノノキのソラに召喚すると申すのだな、ならば見守ろう』と……」
「オノノキのソラとは何だ? 召喚するとはどういう意味だ?」
シュウタが疑問符を投げかけると、
「その部分はオレにも良く分からねェんだが、結局、翔太は死んでしまった。一族の指導によれば、オレが翔太の匂いを感知したら、その時こそ呪文を放つ時だと言われただけだ、だから」
「だから……って、その匂い、まさか僕から感じているのか?(おいショウタ、おかしな雲行きにならない内に錬金術魔呪の準備をしておこうか)」
『準備ならしてある、肝心の呪文の言葉を聞いてからでも遅くはない。シュウタの将来に役立つ呪文かも知れない』
「ナ、ナオト。勿体つけるなよ、全部聞かせる約束だろ? その呪文の言葉を早く聞かせてくれよ。何なら、僕の知る呪文といっせーので発するのはどうかな?」
ナオトの呪文を聴いたらどのみち金無垢に変えてやる腹積もりのシュウタ。
その焦りからか、ショウタに相談も無く、さらに一つ条件を加えた。
「や、やっぱりシュウタも呪文を知っているんだな! これで翔太が蘇って来るかも知れない。よしシュウタ、一緒に唱えよう!」
『聞いたか、蘇りの呪文だとよ! 妖精の末裔だか、末路だか知らんが有難く頂くとするか。聞き逃さぬ様に時間差のクイックセーブも入れて置いてやるよ』
死神のショウタすら慎重さを欠いている様な台詞だ。
確かに蘇生の呪文があれば、今後、人を死に追いやっても後悔のストレスも無くなるだろうが。
聞き逃してしまって、ナオトを金無垢に変えた時の為か、小刻みに状況を記録して手を戻す準備をするとショウタもハッスルしている。
「ナオト、準備は良いか? 呪文の字数は6字だよな?」
「シュウタ! ああ確かに文字に並べると6字だよ! これで役目を果たせるぜ」
「いっせーのー、でっ!」
シュウタとナオトは、声を合わせた。
◇
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(おいおい、だいじょーぶか? そもそも何が起こるかもロクに確認し合わず、それに死神とシュウタは呪文の魅力に何故、取りつかれたんだ?
いや興味なんてないのか。ただナオトを金に変えたいだけなら話を聞く必要性は無いだろうが、基本子供だから、悪乗りで聞いている内に……ん、呪文が互いに6字で一致したんだな。それでナオトの言う翔太は甦るのか? 一体何処から湧いてくるんだ)




