二十五話 戦記の空⑫
《連撃のシュウタ》 戦記の空─オノノキのソラ─⑫
◇
「シュウタ、おつかれ。まったく聞きしに勝る猛将ぶりだな」
「ど、どうも」
「大将戦なんだが、一回戦はオレとお前に決まった。よろしく頼むぜ大将!」
「そうか、ヨロシク。僕に勝つ自信はあるの? 今あれだけの戦いを見て僕とやり合う気になるなんて、どうかしてるよね君たち」
南中の数十人を一人で地に這いつくばらせたシュウタ。
休憩している顔も涼し気で。
ナオトが大将で仲間より強いと言っても、ハヤトとの戦闘で経験済み。
人間なんて、見えない武器を振りかざされれば、赤子の手をひねる様なもの。
多勢による相手の油断とか、力の過信とかも一切関係ない。
今のシュウタは、この世でただ一人の魔法使い。
いかなる負傷も瞬時回復し、常人の10倍の威力と速度を駆使できる。
疲れ知らずで、怪力で、音もなく外傷なき電撃を放つ。
少しばかり宙に浮く。
倒されても、手足を使って体制を整える必要も無い。
言わば、超人。
武闘派のギャングでも殺意がなければ、この者達の二の舞だろう。
いや、殺意があったとしても、その身体は死神の与えたもの。
死神の監視下において、たかが人間ごときの所業で何が出来よう。
「いや、すまねェ……見てなかったわ。こっちはこっちで取り込んでてよ」
「そうか、段取りを進めているのは君たち大将だもんね」
シュウタの底知れぬ強さを目の当たりにしていなくとも、負傷した者達を見れば得体の知れない強さはうかがい知ることができる。
「どれどれ、オノノキの亡霊は元気か? ほう、全くの無傷じゃねェか!」
「何なんだ、お前のそのタフさはよ!」
ヒロとナッキーが、シュウタを冷やかしに来たのだが。
「ヒロ、変なこと言いに来るな!」
ナオトを冷やかしてしまった様だ。
気まずそうな焦りの表情でナオトが言った。
「オノノキの亡霊ってなあに? 僕は桃ノ木シュウタだ」
「いや~悪い悪い。ナオの奴、お前が昔死んだ親友に似てるって、センチメンタルに浸るからさ」
「バカヤロウ! 友情のノスタルジーを台無しにすんじゃねェよ」
「ヒロの口が滑っちまったついでに話しておいたらどうだ」
ヒロがシュウタにわざとらしく近づき、ナオトが引きずる過去を漏らして、その流れにそって、ナッキーがシュウタにも打ち明けようとナオトに持ちかけてきた。
「あ?」
「ナオ、こーゆーコトはとっとと話しておいた方が互いの為だ。おめェがオノノキの面影をこいつに抱いている以上、全力出し切れないんじゃ示しがつかねェよ」
「……」
「そうだぞ、簡単な説明で良いんよ。その方がオレたちもスッキリできるから」
その方がオレたちもスッキリと拳を交えることができるからと、二人から念を押されたナオトは渋々と頷いて、シュウタを見た。
「シュウタ、すこし耳を貸してくれるか?」
こんな事を知らない誰かに打ち明ける時が来るとは思わなかったと、ナオトにそう言われた。
シュウタは三人に囲まれて神妙な面持ちで、ナオトたちの話を聞いた。
☆
(えー、話の腰を折る様で恐縮ですが、夢の中に戻ってきたシュウタです。鬼河原で他校の不良と乱闘していたあの場面ではあるが、ナオトたちに囲まれて何やら思い出話を聞かされている僕がいる。でも、それは夢の中のシュウタであって、僕じゃないんだ。一度目を覚ましてリンクの地図で興奮し、魔力を意識したせいか再びここに来ても、夢の中の登場人物と成らず、何故か傍で客観視している状態だ。一体これは、どうした事だ……)
「──という様なわけで。オノノキの亡霊とは失礼した。オレはシュウタに対して絶対に手は抜かないとこの場で約束する」
ナオト達は話したい事を話して、スカッと爽やかな風にでも吹かれる様だった。
☆
(君達はスカッとしているかも知れないが、この声は誰にも感知されず、ただ状況を眺めることしか出来ない様だ。僕の意識は夢の中の生き返しに上手く反映されておらず、まるで空気の様なのだ。お~い死神さ~ん! バグだよ~、のんきにナレーションしてないで早いとこ修正をお願いします……って、ゲームじゃあるまいし! そうは言っても目が覚める気配もないし、退屈だなぁ)
「えっ⁉ なに? どうしたのさ」
☆
(えっ⁉ なに? シュウタ? ぼ、僕の声が聞こえるの? 僕は連撃のシュウタって言うんだ。君はまだ知らないだろうけど、そこから君はさらに死んでね、死神に再び会って、チート転生を──)
「ショ、ショウタ。急に頭の中で騒がないでよ!」
「うあっ! 痛えェ──っ‼ す、すまねェ。今の話聞いてたらよ、急に心が締め付けられてよ! どうしてだかオレにも分からねェんだがよ」
ショウタがナオトの親友の話を聞いて、胸がぎゅっと締め付けられたと言うのだ。
それも随分と苦しく急なものだったらしく、シュウタの頭の中ではショウタのうめき声でかなり騒がしかった様だ。
シュウタがその事に驚いて、声を上げたのだった。
☆
(……だよねー。聞こえているわけ無いよねー。もしかして死神さんも気付かないのかな。僕ってどういう立場の存在なんですかー。まあ、それより僕はなぜ死んじゃうんだろう、そこが不思議と思い出せないんだ。ショウタにも人並みに痛む心があったのか。死神なのに?
夢の中で起こるムービーイベントの様なものを鑑賞しているだけの僕がいる。
何も関わる事が出来ず、声も届かず、魔法使いとして生き返ったシュウタの空。今はそんな感じだ。
そう言えば死神さんは夜中に断末魔の叫びがあると言っていたな。夜中って事は、自宅に帰った頃だよな。お、もしや死神が現れて今日の事が凡ミスで、天の声を知られた事に彼が泣き叫ぶという展開も……それ笑えるな)
◇
「ショウタ、死神でも具合が悪くなるの?」
『いや、本当に何が起きたのか、オレにも分からないんだ』
「人付き合い下手な人がテンパると似た症状になるって聞いたことが」
『だれがコミュ障だ! そんなんじゃねェ。ただ……』
死神とて人間と変わらぬ生活や事情を抱えて生きている。
今日までの付き合いで、そんな気もしていたシュウタだが、いま置かれている状況からショウタに不具合が生じると頼みの綱である魔法の行方が心配でならない。
「ショウタ、しっかりしてくれよ! 気を失ったりしないでよ?」
聞こえたショウタの雄叫びが、自分の描く心配に繋がって行くかも知れない。
ここまでとんとん拍子で地獄絵図の逆襲に身を乗り出してきたことが、まさかの裏目に出会う事になったらと、恐怖を覚えずにはいられない。
シュウタもこれまで散々と恥辱の制服に身を包んできた経験者だけに、その行方を問わずに居られなかった。
「しばらくは休憩時間だから、回復魔法をかけておくよ」
シュウタが一度細胞の隅々にまで焼付けてしまった恐怖心は、ショウタの様な超越した友情の存在があっても、魔法を媒体として存在を維持しているため、絶対の信頼にはなかなか至らない。
ましてや出会ったばかりの死神ショウタの体調など本気で案ずるわけもない。
欲するのは魔法であり、魔力なのだ。
「いや待てよ、睡眠と時短のほうが精神には良い気がするから……」
その恐怖の絶叫をこの期に及んで再び体験する羽目になるのだとすれば、自身の保身しか脳裏に浮かばなくなる。それが人間という生き物の弱さなのだ。
『か、身体が燃えるように熱い。気が遠のいていくようだ』
人間にとって死神とは、突然、残酷な宣告をしに現れたり、人の悲痛な叫びを冷笑して楽しんだりと暗黒の象徴であるかのように説かれてきた事だろう。
「ショウタ、ショウタ! 死神でも熱中症になるの?」
『オノノキ一族…古井戸での……妖精の……ナオト…ぐっ』
「ショウタ何言ってるの、古井戸の妖精ナオトって? 彼は人間でしょ」
そうだ、いいぞ! 必死になってショウタの身を案じるのだ。
さあ、もっと! 友だち思いの労りの言葉を懸命に唱え続けよ。
やがて人生の根底に刻んできた魔少年たちとの顛末に、ありとあらゆる本性がむき出しになり、この世の真実を映す鏡をことごとく破壊するだろう。
その本性の鏡には、その気遣いとは裏腹に己の行く末しか映ってない事に今は気付きもしないだろうがな。
ここに集うヤバイ連中は、シュウタがただならぬ猛者であるのは先刻承知だ。
それが突然、元の負け犬に戻ったからと、誰が容赦などしてくれようか。
☆
(──それにしても死神の物言いが怖い。一体何のことだ。鏡……そういえば随分と避けて来た存在だったな。負け犬のみじめな自分を見るのが嫌で。今でも鏡の前に立つと言葉を失くしてしまうだろうか。転生した世界にもいじめっ子がいて僕ばかりを執拗に攻めて、苦しめるんだとすれば……。でもそれじゃ、カッコイイ装備を整えても、身体鍛えて日焼けしても、男らしくなったか分からないじゃ無いか)




