二十四話 戦記の空⑪
《連撃のシュウタ》 戦記の空─オノノキのソラ─⑪
また眠りについたようだ。
どうやら楽しい夢への招待はお預けのようだ。
戦記の空へとギアチェンジをしたようだ。
しかも眠りに入るとき、まるで呪われたかの様に友情や思いやりの心を翻して、なにか得体の知れない人格が僕を襲って来るのだが、何か意味があるのかな。
夢への導入部も手荒だし、もっと考えを詰めて置きたかったのにあっさりと眠りに落ちてしまった。
◇
「やめろっ! 今のはヒロが悪いんだ」
目と目で火花を散らした二人の間へ割り込んで、仲裁に入るナッキー。
(あ、ちょうどあのシーンだ。夕方に眠ったせいか眠りが浅くて、途中で夢から抜け出した場所だ)
☆
──やれやれ、学生さんたちはこんな感じで話し込み始めた。
シュウタとショウタは、そこから20メートルほど離れた地点で南の連中と魔法使いとしてのあくなき戦いを繰り広げておる。
シュウタよ。
今はまだ心地良い過去の夢の途中じゃ。
異世界シュートリアでお前さんが眠りに就いたのは、夕刻だ。
真夜中の断末魔の叫びまでには、まだ時間がある。
転生後、この悪夢のループにこれまで幾度、遭って来たのか知る由もないだろうな。だが、もうすぐ終わらせてやれる。
あと少し、ここで生きて見てくれ……。
☆
(え? マジか! その後の死神による天の声だ。真夜中に……何が待っているんだ。悪夢は、生前の悪夢という意味だな。その苦しみから完全に抜け出せるという事か。もう夢を見なくて済むのだな。
あと少しの辛抱か。
僕は南中の人たちをことごとく打ち負かした所で、一旦休憩をしに放送台の近くまで戻っていた。すぐ傍で、ナオとヒロがちょっとした言い合いを始めたんだ)
「……すまねぇ、つい熱くなっちまってよ」
「こんな日だから仕方ねえか、ヒートアップしちまうのも」
ヒロが素直に非を認め一言詫びると、ナオトも気を静めて落ち着いた。
こんな日だから、心がヒートアップするのも無理はないとナッキーが言った。
「オノノキって、もう死んだんだよな」
「……」
「お前にとっちゃそんなにも大事なツレだったのか、ナオ」
ヒロはナオトに顔を向けることなく、声をかけた。
遠くの戦場に目を向け、何気ない素振りで尋ねた。
ナオトは沈黙しているが、言葉をのどに詰まらせた様な苦い表情をしていた。
「だがよ、もう2年も前のコトだろ。いつまでも引きずっててもよう……」
「……」
「ヒロ、ダチってもんはよ死んだからって消えちまうワケじゃねーよ。だろ?」
沈黙のナオトに向けて、ヒロがあっさりと吐き捨てるように言った。
そんなヒロに対してナッキーが、傷心というものが時の経過だけでたやすく消化できない事を分かって欲しくて言葉を添えたのだ。
「オレたちだって、ダチじゃねえのかよ! ソイツより付き合い短くてもよ。そろそろ胸の内を聞かせてくれや! ふたりの思い出にオレたちが邪魔なんだったら、そんな辛気くせぇ顔を見せんじゃねェ……」
「!」
「ヒロ……お前、もしかして今泣いてるん?」
ナッキーが言葉を添えてから、ヒロがやけに情熱的な台詞を切り出して、言葉を飲み込むものだからナオトとナッキーは、ヒロの両脇からその顔をじっと見つめていた。
ふたりの瞳の中に、少し涙ぐむヒロがいた。気持ちが入ったふたりは驚きと同時に心地良い風に吹かれていた。
「……ッキャロー。勝手に見損なってんじゃねェよ! ダチ公の痛み踏みにじる総番に人が付いて来っかよ、バッキャロー」
「言いそびれたんだ……」
ヒロの照れ笑いの中に何か感じるものがあり、ナオトは沈黙を破り、応えた。
ヒロとナッキーは互いに顔を見合わせた後、ナオトの声にそっと耳を傾けた。
「ケンカの火種をつくったのはオレだった。二年前の夏、二人で街を歩いていると、前方からツッパった二人連れが立ちふさがった。オレはその頃、クラ番に成りたてで気がデカくなっていた。親友のあいつの前で格好つけて、前方のそいつらにガンをくれてやった」
「──よくある場面だよ、オレたちの間じゃよう」
ヒロが相槌を打つ。
「当然ケンカになり、二人ぐらいは軽くのしてやったんだが、そいつらは街で名の知れたギャングの仲間だった。結局オレたちは囲まれ、追い詰められてフルボッコにされた」
「そこまではよくあるパターンだぜ。オレたちの縄張りでもよ」
ナッキーが相槌を打つ。
「オレが先に気を失い、あいつがその場に残ったんだ」
「そらぁ、やべェよな。よくもそんな奇特な場面をこしらえたな」
ヒロが相槌を打つ。
「オレを庇いきれずにあいつは、その場を走り去った」
「さぞかし複雑な心境だった事だろうな。オレたちの様なケンカ屋でも不良でもなかったんだろ、そいつ」
ナッキーが相槌を打つ。
「その後、ふたりの関係はギクシャクし、あいつはオレを裏切ったという後悔の念に堪え切れず、マンションの屋上から飛び降りたんだ」
「そこだよ! いくらなんでも親友に当てつける様に死ぬかよふつう? なぜそんな奴がナオのダチ公なんだよ? とんだハナクソ野郎じゃねェか」
ヒロは険しい表情を見せ、疑問符を投げかけた。
昔の親友の振る舞いを良く思えないヒロたちをとがめないナオト。
「オレだって、あいつが死を選んだ時はクソ野郎って吐いたさ」
「なら、なんで吹っ切れずにいるんよ?」
「あいつはオレの命の恩人だからだよ……」
ヒロの言い分には賛同する所があると、ナオト。
それでも忘れずにいる理由は、命の恩人だからだと切り出した。
「オレ、幼い頃から二親が居なくて、田舎の親戚中をたらい回しでさ」
「それは、さぞ肩身の狭い思いをしたことだろうにな」
「それで家をしょっちゅう抜け出し、近所の寺社に行って遊んでたんだ」
「近所のガキどもと楽しくやってたのか?」
「いや、一人で寺の屋根を伝ってヤンチャをしまくっていたのさ」
早くに親を亡くして親戚の家で肩身が狭かったナオトは、一人で寂しさを吹き飛ばすために近所の寺に行き、屋根に上るなどして世間を見下ろしていた。
ナッキーは黙って頷き、ヒロが聞き手になった。
「見知らぬ土地で親のいねェ、オレなんかと親しくなりたい野郎など居なかった」
「……切ないな」
「だが、ある日オレは足を滑らせて、寺の屋根を転がり落ちた。とんでもなく山の方へ転がって行って、古井戸の中に頭から突き刺さるように落ちてしまった」
「どこぞの国のニュースでたまに見かける、こども珍百景みたいな?」
「まあ、そんな感じだ。あは」
「悲惨な画だがよ、ある意味ヒーローじゃねェかよ、ナオ」
屋根遊びが過ぎたナオトは、勢いよく転落して長く放置してあった井戸に頭から突っ込んでしまった様だ。
珍百景みたいな子供の救出劇を海外メディアが放映していたと、ヒロが尋ねるとナオトも大体イメージはそんなところだと苦笑いで答えた。
「そんなんじゃねェよ。とんでもない田舎でさ、いくら叫ぼうと助けがくる気配は無かった。誰も気づいてはくれなくてよ、マジ怖かった」
「その状況はマジでやべェな」
「ああ、身体がすっぽりと入っちまってな、井戸の底は2mほどだったんだが」
たとえ、人が通りかかっても助けを求める声が聞こえなければ、ナオトの姿は見えず、素通りされてしまう最悪の状況だったと。
「待てど暮らせど人は来ず、午後4時過ぎだった。辺りは薄暗く気味の悪い獣の鳴き声が聞こえていた。オレの人生はこんな形で終えるのかと涙ぐんだ小1の夏」
親兄弟はすでに無く、天涯孤独だったナオト。
7歳にして絶体絶命の危機に瀕した。
夏の日が高いと言っても、地方の山によっては日暮れが早い場合もある。
「まさか……そこにオノノキが通りかかってとか?」
「ああ、そうだよ! あきらめず声を出してたら、通りかかってね。……だけど」
「気付いてくれたんだろ?」
「親達に相談する声が聞こえたんだが、その親達が分からず屋で、キツネかタヌキの仕業だと抜かし始めてさ」
「おいおい、マジかよ。それで」
「オレはすでに頭に血が上っていて、気が遠くなっていったんだが、結局、地元の自警団に救助されていたんだ」
「子供じゃ大人を説得できなかったが、それが元で自警団がきた訳か」
ヒロの予想に対してナオトは、首を横に振った。
「あいつの親は聞く耳を持たなかった。けど、あいつはオノノキ一族といって地元の有力者の子息だったそうだ。オレはあの時必死すぎて、助けてくれたら何でもすると叫んでいたんだ」
「その状況なら、誰だってそう言うわな」
「あいつはお寺の持ち主の子で、働き手に必死に命じて自警団に調査をさせてくれたのだそうだ」
「お、やるじゃねェかよ」
「あいつの願いは友達になることだった。それからは有力者の恩恵でオレを色々と支えてくれていたのさ」
「ナオの初めてのダチがオノノキってわけか」
自警団による少年ナオトの救出には、井戸を解体しての大仕事だったそうだ。
ナオトから事情を聴いた自警団は大ごとにはせず、そっと彼を家に帰してくれた。
そしてナオトにとって、オノノキは命の恩人であり、幼馴染であり、いつしかかけがえのない親友になっていった。
「良いことばかりじゃない。あいつも家庭の中では微妙な立場でね。オレは中学になる前にこの街に引っ越してきたんだが、あいつとは一生切れる事は無いと思っていたのに」
「……」
今にも泣き出しそうなほど、思いを込めて出会いを打ち明けるナオト。
「なんだか悪い夢でも見ているんじゃないかと、今でも思えてならないんだ」
「ナオ。おめェの気持ちは分かった。さっきは酷いこと言ってすまねェ」
「裕福でも、家族というのは複雑なものがあるよな。きっとオノノキも、ナオに出会って救われてきたんだと思うぜ」
ヒロはナオトの長年のツレを批判したことを詫びた。
ナッキーも温かく言葉を添えた。
「言ってやれなかった……悪いのはオレだって」
「だがよ、オノノキはもういねェじゃん。自分自身を許すことが大事なのでは」
「似てたんだ! シュウタに昔のあいつの面影が重なって。シュウタがあいつじゃないのは分かっている、でもどこか懐かしい匂いがするんだ」
「……」
「ナオの親友はこの世を去った。しかし偶然会ったシュウタにオノノキの面影があり、愛着がわいたと言うんだな」
シュウタにオノノキの面影を見た。ナオトがそう言った。
「お前、そんなこと言ってるとこのタイマン勝負に負けちまうぜ! お前は北中を背負っている番格なんだぜ、ヘタな感情移入は命取りだぜ!」
「ヒロの言う通りだな。個人的な情に流されて負けたとあっちゃ、総番失格だな。しょーがねェーな。タイマン勝負の一番手はシュウタとナオに譲るとするか。なぁヒロ」
「ああ、しょーがねェーな。オレたちが先にシュウタを倒したら、シュウタはお前と当たらねェからな!」
(なに?黙って聞いていればこの人たちの会話。なぜ、僕の事がでてくる? 僕とナオの親友の顔が似てると言ったのか? いや確か、オノノキと言っていた。……オノノキって、ショウタのことじゃないのか。 なんで?)
ヒロとナッキーが何やら気を遣って相談し、勝負の順を譲るとか。
「ちぇ! 余計な気を遣いやがってコンニャロー!」
両こぶしを力一杯にぎりしめガッツポーズをするナオト。
ナオトたち三人が語り合っているうちに、戦場からワーワーと歓声が聞こえてきた。
傷付いた南中の戦士たちを安全な場所に運び、介抱する北中の生徒たちの姿があった。
そして引き続き二回戦を開始するナオトたちの姿があった。
シュウタがナオトたちの居る放送台の近くで身体を休めていた。
そこへナオトがゆっくりと近づいて来た。




