二十一話 リンクはおりこうさん①
「シュ……ウ……タ」
シュウタ……。
転生初日から、何かとんでもない夢にうなされているみたいだな。
ものすごい奇声がシュウタの寝床から聞こえてきた。
夕暮れ時に眠ると、人間という種族はあまり良い夢を見ないらしいと聞いた。
次の朝が来たら、思い切って街を探しに出かけてみようとシュウタが言った。
森でフルーツを目一杯かき集めたが、シュウタからはHPが半端ないから何とかならないかと相談を受けた。
いくら莫大な体力をもらっても、それまでが軟弱だったせいかHPの大幅回復が出来ないと、何か心もとない様だ。
ま、そりゃそうだろうな。
死神に最後にねだったのが、お小遣いなのだから。
お金もないと不安になるのが、冒険初心者の心境だ。
ここは君にとって未知の世界だろうが、君は冒険の素人ではない。
集めたフルーツをどうにか合成して回復量をアップできる予感に包まれていた君は、オレにやり方を知らないかと微笑みかけたじゃないか。
ああ、あるさ。
もったいぶっても仕方がない。
オレがシュウタに料理を沢山教えたから、回復量の多い料理を沢山作って、冒険に出かけたい気分になってくれたようだ。
リンゴを1個食べて1しか回復しないのは、確かに彼からすれば馬鹿馬鹿しい話だ。MAXまで回復する料理を紹介すると、彼は大喜びで調理に励んだ。
冒険の序盤から満タン回復薬をMAX所持する。
MAX所持値は999。
つまり、30万の体力を1000回分使える状態から、初めての冒険に出られるのだ。
ただ君が強いゲーマーならそれを拒否するかもしれないね。
オレにとっては拒否しない君が望ましいが。
オレも死神ってヤツもたぶんそれを拒否しない君だと知っている。
とりあえず今は伝えられないけど、チート転生おめでとう!
もっとも、この森だからこそ、その素材が山ほど回収できるのだ。
ここはその為のワープポイントだ。
そして君の家でもある。女神に会えるまで何度でも使用してくれ。
「だけど、シュウタ……ごめんよ」
オレの声が封印されているから詳細を説明してやれない。
いや、声を出せる状態でもオレは君に何ひとつ真実を語れやしないのだ。
君を女神の所まで連れて行かなきゃならない。
今は、君がオレを連れていくのが使命となっているが、本当は逆なのだ。
それすら打ち明けられない。
申し訳ないが、君の力が必要なのだ。
君のような存在はめったに居ないからだ。
他世界の人間は高魔力の持ち主がけっこう居るようだ。
だが君の場合は高魔力どころの代物じゃない。
せっかくの沸き立った冒険心だから、この冒険を目一杯楽しんでくれよ。
ワクワク気分で寝床に入ったが、どうやら生前の悪い夢を見ている様だ。
早朝には、脱しているのだろうが、果たしてその夢自体から卒業しているかが少し不安だ。
君はもう転生を済ませた身だ。
転生を済ませた直後、オレはそこに居合わせた。
「なぜだろう……」
何故と問う自分が居るんだ、不思議な気持ちだ。
オレは確かにあの時……。
それに死神の声も聞き覚えのある声だった様な。
シュウタさんと出会ったのは偶然ではない。しかも、死神の力でもない。
それなのに死神はオレがそこに行き着く事を予知していたのか、オレの事をシュウタさんに問答無用で紹介した。
まさにそこの部分が、なぜだろうの部分だ。
そりゃ死神だから死ぬ予定の者が送られて来る事ぐらいは分かるのかも知れないが。
ならば、死神もあいつらの仲間なのか。それについては別に不思議でもない。
あいつらは女神の居所も知って居たわけだしな。
オレと女神が交わした約束を知っているのか、否か。
知っているのなら問題はないが、もし、そうでないのならどうしたものか。
今となっては確認のしようもないが。
だが、ルシルの元へ彼を連れて行くオレの目的と、死神の言動は被る。
人の心の中を見通せるのだろうか。神にはそんなイメージがあったけど、女神はそうじゃ無かったから。女神ルシルはオレに様々と訊ねた。頭の中を見透かしているなら、人間みたいなやり取りは要らないはずだしな。唯一、そこが引っ掛かっている部分でもある。
何故、引っ掛かるんだ?
何故、素通りしないで引っ掛かるんだ。
そもそも、あの死神はオレに一言も言葉を掛けなかった。
そうだ。
死神自体にオレの目的とは関わりなく、シュウタさんを女神に会わせる意味があるのだとすれば、それなら合点がいく。オレは単に死神の利用素材に過ぎないのかも知れない。
だが声を失っていたオレには、どうしようも無かった。
死神なら死者の名前ぐらい知っているだろうから、紹介された時は深く意味を追求していなかった。それに彼はこの世界では強者に入る。だが死神は、彼がそれを理由に約束を果たさない可能性を一切問わなかった。好き勝手ができる存在なのにだ。そこも不思議だ。
それについては、彼の、シュウタさんの生前の何かが関係するのかも知れない。
なんだか揉めていた様子だった。
神様に文句を言う人が居たことに驚いたが、なんにせよ竜王並みだもんな。
噛みついても不思議じゃない。死神とシュウタさん、どっちが上なのかな。
確か……。
神々には気を付ける様にと促していた。
その時オレは、
「なに言ってんだ、この死神ってヤツは!? 馬鹿も休み休み言え」
そう思っていたんだ。
だがそれならば、もしかするといい勝負をする存在なのだろうか。
まさか互角に戦えるとかは考えられるか。いやどうだろうな。
シュウタさんは魔力が竜王並みだが、竜王ではないのだし。
竜王は確か、十五年前に光の勇者と相まみえて、敗北している。
オレも幼かったから、良くは覚えていないが。
敗北したが、死んではいないのだったかな。
光の一族だった女神が情けをかけてしまい、ボロボロになって力の大部分を失くした竜王は、小さな少年の姿となって、深手を負ったまま暗闇の中を彷徨い歩いた。
「なんで情けなどかけてヤツを生かしたのだ!」
と、全人類は女神を罵倒した。
暗黒世界の王なのだぞ、竜王は。
「魔界を統べる、王の中の王なのだぞ!?」
在り得ない、在り得たことの無い歴史が刻まれてしまったそうだ。
女神は誰にも優しく寛大であった。恨む人達ばかりではないが。
醜悪な神だと、随分と評価を下げてしまわれたとどこの街でも聞く。
そんな女神だから、オレも救われたんだが。
オレには天使だ。
だからシュウタさんも女神に会えば、きっと救いになるはずだ。
その意味でも、オレがその気にさせなきゃならない。
シュウタさん、確かゲームが好きなんだったか。
無双がどうとか言ってなかったかな。強いもんな。
実際どう強いのかは見ていないから分からないけど。
途轍もなく高速で動けるって話していたな。
ドラゴンなんか目じゃないぐらい。
「スゴ……」
思わず言葉を飲み込んだ。
大型でドラゴンと名の付く魔物が本気で暴れ出したら、小さな町はあっと言う間に大破するらしいから。
有翼種で魔族。
その獄炎のブレスは勇者達の様な実力者でさえ、跡形もなく焼き尽くすと言われている。だからこそ、勇者は女神の加護が必要となるのだ。
「……」
女神ルシルは、何ゆえにシュウタさんを連れて来るように言われるのか。
まあ、魔力が必要なのは言えることだが。
何のために必要かまでは知らないさ。
きっとオレなんかには想像もつかないことさ。
オレは、オレの幸せの為に命に従うだけだ。
ただ従っていれば良いのだ。
「シュウタ……ごめん」
女神に君を引き渡した後は、もう会えないから。
オレの身に起きた事情を打ち明ける事は、一切ないから。
打ち明けると、オレは死刑になるんだ。
せっかく女神を味方にできて、そこからの脱却が叶うのに無効にはできない。
「でも君なら犠牲にならない気がするんだ。神とため口利くんだから」
強いに決まっている。
頼りにしているぜ、相棒。
君が目覚めたら大きな街を目指すか、小さな町を目指すのかは君に任せるよ。
◇
大きな街へ向かう為の簡単な地図を描いておこう。
向かって欲しいのは、そこだから。余計なものはなるべく省略しておく。
その途中に小さな町もいくつかある。
小さな町の詳細は、今は分からないが、そんなに問題のある町は無かったはず。
小さな町はお楽しみがいっぱいだよ、と彼には伝えよう。
兎に角、ここを出発して欲しい。
何しろ彼は強い。
オレは姿が見えない。
何もこわくない。
シュウタさん、過去の悪夢より断然こっちの方が楽しいよ。
過去の悪夢の詳細は知らないけどね。
死ぬくらいだから辛い事だったと分かるだけだ。
死んだ記憶がある人の気持ち、よくわからない。
親にでも叱られているんだろうか。
早く、朝が来ないかな……。
オレの方が待ち遠しくて、ワクワクするぜ。




