二十話 戦記の空⑩
《連撃のシュウタ》 戦記の空⑩
たった一人で鬼河原の会場にやって来たシュウタ。
クジで決められたルールに従えば楽だったが、シュウタは周囲を挑発した。
南のリューイの配下との総力戦に突入していく。
◇
「シュウタ! オレはお前に何かを期待しちまうんだ、不思議とな。頼むぜ、南のヤツらは全部で56人だ」
『変わった男だな。敵の情報をくれたぜ? 何を期待されてんだか』
「知らないけど、伏兵が紛れるのは彼らにとっても不利だから排除したんだよ」
「──あのハヤトの率いるふじ本中を一人でどうにかしちまうお前だ、オレのトコまで頑張って勝ち進んで来いよ! 待っているぜ、シュウタ!」
──北中のナオトが、やたらとシュウタにエールを送っているな。
彼の詳しい思考までは読み取れないが、
シュウタに対する感情の中にほのかな懐かしさを噛みしめているようだ。
人間とは、敵に塩を送るような時は心で祈りを捧げているのだとか。
たしか師匠がそんなコトを言っていたな。
ナオトは、シュウタの無事を祈るような表情で戦場へと駆け出すシュウタの後ろ姿を目で必死に追っていた。
戦いのゴングは、すでに鳴らされていた。
「リューイがキレた為に南中の人たちがスゴイ気迫で迫ってくるよ。キレさせたのは僕なんだけどね。早速、囲まれちゃったなぁ」
『嬉しそうに言うね、大将!』
「カナデール! スズメバチの羽音で不意を衝くよ、ショウタ!」
『バトル向きのカッコイイ技名はねぇのか?』
「喰らえっ! ショタ砲ぉお──!」
──オ、オレの名から取ってくれたのか! 涙がちょちょ切れるぜ。
シュウタに向かってくる軍勢の巻き起こす砂煙をうまく生贄にして彼らの足元にスズメバチの大群がまとわりつき、風もコントロールできる新魔法のショタ砲が早くも炸裂だ。
蜂の姿は実際見えないが、その方が返って恐怖心や動揺が募る。死に至る毒虫がいると一度思い込めば人間の弱い心は自動増幅する。
周囲の連中が意表をつかれジタバタと足踏みをして、仲間に不安を連鎖させている。
足止めは成功。
すかさず空高くジャンプをして、月面宙返りで彼らの背後に回り、猛ダッシュをしながら「うめうめ波」を小さく手のひらに隠し、十倍速でその高速電撃拳を一人一人に確実に命中させていった。
武器の使用が認められていない為、光を放つ「うめうめ波」は手の中に隠して背後から攻撃する必要があったのだ。
武器の使用、それは乱闘や暴力行為という認識で、素手なら力比べとの言い訳が立つ。公安でも乗り出してきたら、皆でそれこそ運動会だとでも言い張るつもりなのだろうな。
「十人。二十人。三十人……」
気絶させた相手の人数を数えて、シュウタは後方に大きくジャンプする。
「さあ、どうする? 南中の人たち、クラ番は誰?」
彼らにまだ戦意があるかと尋ねるシュウタ。
残り二十六人との距離を測り、間合いを取って様子をうかがうシュウタだった。
必要以上に人を傷つける所に興味を持たないシュウタの人間性だ。
まだやり合うか?
というシュウタの問いに彼らは一瞬、周囲を見渡した。
お互いの顔を確認し合うと、中の一人が手を挙げた。
「オレは一年のクラ番だが、二年と三年のクラ番が全員アンタにヤられて倒れている。……オレたちの戦意は半分以上失われたものと考えてくれ……総番のリューイさんなら「怯むな、戦え!」と言うに違いない。だからオレはぶっ倒れるまでやり合うつもりだ!」
南中の一年坊が意地を見せてきた。
「おーし、その意気だ! しかし、なんて動きをしやがるんだ。パンチもほとんど見栄やしねぇ。おめぇら、ソイツの動きを何とか封じるんだ!」
リューイが一年坊の言葉をしっかり聞いていて、エールを送るとともに、シュウタの謎めく強さに息を飲んでいた。
その場に居合わせる者も同様に驚愕していた。
その半面で外野の見物客からは、どよめきと異常な歓声が湧きおこっていた。
「闘うと決めた以上は、周りの空気にも飲まれるな!」
ナオトが両者へ向けて言った。
「強いぞ、あの総番。ふじ本中を仕切っているだけのコトはあるぜ!」
「ああ。目にも止まらぬ速さだったぜ!」
「迅速かつ正確にだ!」
「一発だ、一発で倒してんじゃねぇか?」
「ミナミのヤツら相当ヤバイじゃん! オレらもヤバイんじゃないか……」
「いやオレは本中の総番も人間、疲れやスキはあると思うぜ」
方々から聞こえて来る他校の生徒たちの意見があった。
「殺せーっ!殺せーっ! 相手は一人だぁ! 痛めつけてやれーっ!」
中にはそんなテンションあげあげの声も多くあった。
◇
「なあ、ナオよう。アイツ何なんだ一体? 強ぇよ! 三年のクラ番が5人もいて瞬殺だったぜ」
北中のナオトにそう話しかけたのは、東中の夏気。ナッキーだった。
「ナオ、お前。シュウタってヤツに肩入れしてるみたいじゃねぇか。なんかあるのか? お前とアイツ」
さらにナオトに声をかけたのは、西中の緋色。ヒロだった。
ナオトを挟んで三人が放送台の上に座って戦況を眺めながら語らった。
「いや……別に」
遠くを見つめて思いに更ける様にポツリと返事をするナオト。
「お前がそんな顔するときゃ、たいてい戦記のコトを思い出してんだろ?」
「……!」
ナッキーの一言が図星だったのか、ハッと口を開け、顔を背けるナオトだった。
「オノノキ?……ああ。ナオの昔のツレで、ナオを置いて勝手に遠くへ行っちまったヤツか」
「よせっ! そんな言い方っ!!」
ヒロが無神経な言い方をしたのか、ナオトが腹を立てた。
ヒロのシャツの胸元をがしっと掴み、ナオトが睨みつけた。
「なんだよ、ホントのコトじゃねぇかよ! ヤルんなら今すぐヤッてやるぞっ!」
ヒロがナオに掴まれた腕を払いのけ、逆に啖呵を切って睨み返した。
「やめろっ! 今のはヒロが悪いんだ」
目と目で火花を散らした二人の間へ割り込んで、仲裁に入るナッキー。
──やれやれ、学生さんたちはこんな感じで話し込み始めたが、シュウタとショウタはそこから20メートル向こうで南の連中と魔法使いのあくなき戦いを繰り広げておる。
シュウタよ、今はまだ心地良い過去の夢の途中じゃ。
異世界シュートリアでお前さんが眠りに就いたのは、夕方だ。
真夜中の断末魔の叫びまでには、まだ時間がある。
転生後、この悪夢のループにこれまで幾度、遭って来たのか知る由もないだろうな。だが、もうすぐ終わらせてやれる。
あと少し、ここで生きて見てくれ……。




