十七話 戦記の空⑦
《連撃のシュウタ》 戦記の空⑦
◇
教室に入ると女子生徒だけが残っていた。
「シュウタ君、平気だったの? ハヤト君や他の男子たちに呼び出されたって聞いたよ。あっ! 服に血の跡が残っているよ! 大丈夫!?」
うわ!
僕の一番のお気に入りの花園アオイが駆け寄り、気遣いの言葉をかけてくれた。
「だ、大丈夫さ。ほらこの通りピンピン、元気だよ」
嬉しさのあまり顔が紅潮してしまった。
照れ隠しをするようにその場で飛び跳ねて見せた。
そこへミリゴとビンゴの2人も姿を見せた。
「あ! ミリ君、ビン君も無事だったのね、良かった。私たち今、アナタたちの噂をしながら心配していたのよ。特にアオイがシュウタ君のコトを……」
あとから教室にたどり着いたミリゴとビンゴを見て、金井桃子、通称モモが言った。
「モモったら変なコトを……」
アオイちゃんが僕に誤解を受けたくなさげに言った。
「隠さない、隠さない。アオイはシュウタ君の心配ばかりだったのよ」
「もう、モモってば」
アオイちゃんが照れ笑いをした。
こ、これは……。
「は、花園さん……」
小さく名前を呼んだ。
「やーねぇ、シュウタ君ったら照れちゃってアオイって名前で呼んだ方がアオイも喜ぶのに。ねぇ」と、
伊藤保美、通称ポッポが聞こえるように言った。
成績はともかくこの3人の女子は、全学年でもダントツの可愛い娘だ。
『シュウタがお熱をあげるのは、アオイだな。この際、下の名で呼んでやれよ』
ショ、ショウタ! 君もそう思うか?
「迷惑でなければ……アオイちゃん、一緒に帰ろうよ」
僕は良い雰囲気にまぎれてアオイちゃんを誘う言葉を添えて手を差し出した。
その手をためらわずにアオイちゃんが握り返した次の瞬間!
「ぱんぱかぱ~ん! おめでとうアオイ。デートのお誘いよ!」
モモがウキウキした声で言った。
「あぁ~ん、オアイだけなの? ミリ君、私を誘って~! モモはビン君で決まりね!」
ポッポは、ビンゴをモモにあてがってミリゴの腕にしがみついた。
そして帰りにみんなで寄り道をと提案をした。
ポッポちゃん、モモちゃん、ナイスアシストだ!
ミリゴとビンゴもまんざらでもない様だ。
◇
帰り道にデートをするには、おあつらえ向きの公園がある。
公園前には、ファーストフード店が立ち並ぶ。
6人はそこまで寄り道をし、そこでたらふく買い食いをした。
今日は、なんて楽しい放課後なんだろうと心は嬉しい悲鳴をあげた。
好意を寄せていた娘とウソのようにうまく会話が弾み、男女6人はデレデレが止まらない。本当に交際をしているみたいな気分でいた。
「ショウタ、こんな日常生活は初めてだよ……」
僕はそっとショウタに胸のときめきをもらした。
何だか夢を見ている様でこんなに楽しんで良いのか不安になると。
『これが現実でなくて何だ? これからも山の様に続くんだよ、うんと楽しめ!』
う、うん。
ショウタの魔法のおかげで、新学年早々、不良たちの天下も3日で潰えた。
ショウタの言うように一学期の終わりまで毎日のように交際を楽しんだ。
心の底から楽しんだ。
一学期が間もなく終わり、夏休みへと突入する。
楽しい楽しい夏休みの目前、僕は、その日は珍しく1人で下校した。
『シュウタ、何やら不穏な気配が近づいてきたぞ。用心しろ……』
ショウタが久しぶりの忠告を入れてきた。
言われて見て、僕が怪しい人影に気付くと、いつもの帰り道の公園の広場で囲まれていた。
◇
「お前、最近楽しそうだな。お前が桃ノ木シュウタだってコトは知っている」
「これからは、オレたちを楽しませてくれないか?」
「いや、いずれそうなるって!」
見慣れない顔ぶれだった。
他校の男子生徒のようだ。
「お前、ガキみてェな面して、不死身中学の総番、ハヤトを退かせたそうだな」
「!」
突然ハヤトの名が浮上した。
僕は、目を見開いた!
こいつら……。
「なーに、風の噂を耳にしたんだよ。ふじ中のハヤトも所詮、その程度。たいしたコトはなかったのさ」
全部で4人だった。
黙って聞いていると、口々にいろんなコトを言ってくる。
「あんたたち誰だよ? 用件だけをかいつまんで話してくれると楽なんだけど」
見るからに不良という感じではないけれど、ハヤトたちもそんな風だったから分かるんだ。
試しに牽制の言葉を入れてみると、
「オレたち、不死身中学の分校の北、南、西、東中学の総番やらしてもらっている者だけど、お前んトコは不死身中学の本校となるが、以後、お見知りおきを」
ごく普通の私服で登場した彼らは、揃って不敵に礼をした。
『よりによって、このクソ暑い夏休みにめんどくせェのがお出ましだな』
青春真っ盛りの僕のラブバケーションに水を差すつもりか?
それならば、とくと覚悟しなさいよ。お兄さんたち!
魔法使いの僕に僧侶役までさせないでくれよな。
夏休み直前、一人で下校中でいる時をねらわれた様に4人の他校生に絡まれた。
ハヤトを打ち負かした僕に用件があるようだ。
◇
「早い話が──」
中の一人がその話題を要約して切り出した。
「オレたち、ハヤトを含めた5人は四天王を争って夏に闘う予定があった」
「……」
「もう分かるよな? ハヤトが欠場を申し立てて来たんだ。ハヤトが欠けても五校のトップで争うルールは変わらねェ」
「欠場の理由は誰かさんにトップの座を奪われたらしい」
「……」
「アイツにはもう決闘の権利がないのさ」
他校の総番4人に絡まれている時点で良い予感など、一切ない。
つまり、うちの学校のトップは彼らからすれば、僕に切り替わっている訳だ。
仕方ない、話だけでも聞いておくか。
「最終的には、総番同士のタイマンになるが、その前に総力戦がある」
「……」
「学年別のクラ番やその配下にいる者をすべて合わせた全面戦争だ」
なんでそう言うことが好きなのですか、この人たちは。
「総力戦ではどこの学校が一等かを競うものだ」
「……」
少々、厄介なことになって来た。
1対1の勝負はともかく、新学期にクラ番を決めるのに用いたのと同じ、総当たり戦をやろうとしている様だ。
それも五校の好戦野郎すべてが集まって行う喧嘩祭り。
そこへご招待されている様だが、僕はふじ中の総番になった覚えはない。
確かにハヤトと複数人の番格を圧伏させはしたが。
誰も僕の配下に成り下がった訳でもない。
僕だってお山の大将は性に合わないから、彼らとはあれ以来、関わっていない。
「決行の日時は8月の……」
「ちょっと待ってよ! 僕そんなの興味ないよ!」
冗談じゃない。
僕が参加するとなれば、一人きりでやり遂げなくてはならないって事だ。
誰がはいそうですかと受け容れるものですか。
「お前がふじ中の新しい総番であるコトは、ハヤトが認めているコトなんだ」
「……」
「決闘の日にお前が現れなければ、オレたち4校の猛者たちは全力でふじ中に殴り込み、ふじ中を叩きつぶすだけだ」
「そ、そんな身勝手な話をされても……」
……ショウタ、どうしよう。
『どうしようじゃなく、シュウタがどうしたいかだと前にも言ったぞ。ハヤトたちを倒したのは、お前の責任の中のコトだ。
ハヤトや他の生徒が無茶苦茶に傷付けられても平気なら、放っておけば良いじゃないか。
選ぶのはお前自身だぞ、シュウタ!』
「ぼ、僕はハヤトもその取り巻きのあいつらも、もう傷つけたくはない! そして罪もないふじ中の生徒を巻き込みたくない!」
やるよ! ショウタ、決着をつけにいくよ。
『そーこなくっちゃな、シュウタ! せっかくの魔法使い人生だ、派手に見せつけてやりゃあ良いんだよ!』
「うん!」
ショウタが力強く背中を押してくれて、すっかりその気になってしまった。
「なぁに一人でブツクサ言ってんのさ。場所は、不死身市内の鬼河原だぞ! 楽しみにしているぜ!」
そう言い残すと、彼らは慌ただしく僕から遠ざかっていった。
◇
やるしかないんだ。
そうとなったらどんな魔法を使えるようにするのかを、ショウタと相談する為に、僕も早々に帰路に着いた。
『シュウタに一つ二つ言っておきたいコトがある。魔法の効力についてだ。自身にかける魔法は問題ないが、限界もあるんだ。速度や腕力の強化は十倍が限度だ。
オレがいくら死神でもな。
もう一つは自分以外に使う魔法だ。何もない所から物は生み出せない。敵に当てる矢が欲しければ辺りに落ちている石や小枝を「いけにえ」にして創る必要がある』
「物質の変化の様なイメージでいいの?」
『まあ、そんなところだ。
仮に石ころをダイヤに変える。原料が石ころだけにせいぜいガラス玉にしかならない。
例えば、手の爪をはがして高価な物にと願うと、生爪はがした苦痛と血を捧げたゆえ、純金に変わるだろう。どれだけの苦痛をともなって差し出した「いけにえ」かが重要だ。
もう少し説明を加えると……』
ベキッ!
『ぐごあー!』
「痛ででででェェーっ!!」
『何をして……』
「無傷になれー!」
『こらっ!だれがホントに試せと言ったんだ、一応オレも痛いんだからな! 自分の中指の爪をはがして10グラムほどの金貨を手に入れたようだな。
……この野郎めは金欲など出しやがって、一言相談してくれ頼む』
あ、ごめん。
良いこと聞いちゃうとやって見たくなる性分なんだ僕。
『シュウタ、もっと金貨が欲しければ、これから倒すやつの爪をはがせ。オレはもう御免だぞ』
『こいつのコトだ、またいつ何を金貨や宝石に変えるかわからん。油断は禁物だな』
「そんなに心配しなくても次からは必ず相談するから。ショウタの心の声も聞こえているんだからね」




