十五話 戦記の空⑤
《連撃のシュウタ》 戦記の空⑤
◇
突然、同じ五組の生徒に密室というリングを作られて閉じ込められてしまったようだ。
外に助けを求められぬ様にしたのか。もっとも味方などいやしないが。
このままドアを強引に突破して外へ出て、もし待機戦闘員がいれば、学校内での乱闘さわぎでの不始末の責めは、おそらく僕ひとりが背負わされるだろう。
あいつらのコトだもの、逃げ出せば罠にハメられるのは目に見えている。
コトを先延ばしにしても無駄だろうな。
同様の状況が次の日以降も襲ってくるだろう。
「仕方ない。腕力を十倍にしたゴッドハンドだけで一気にカタをつけるとしよう、お願いショウタ!」
『よし、短時間で教室のうしろの壁までぶん投げてやれ!』
「何を一人でぶつくさ言ってやがる! 逃がしゃしねェよ。おらっ、覚悟しやがれっ!」
そう言って彼らは有無を言わさず襲ってきた。
一人は、ドアの前に積み上げた机の前に立ちふさがった。
僕が一瞬、ドアの外に意識を置いて考えたことを見逃さなかったようだ。
『最初からそのつもりのようだな』
覚悟しやがれと言った生徒はドアの前で、僕の心境を見抜いて動揺を誘ったのだ。
僕も結局、そういう事かとドア前のヤツに気をとられた。
その瞬間、他の4人が一斉にとびかかってきた。
僕の手足を押さえつけ、容赦なく叩きのめしにきた。
僕はそれらを払いのけ、一人ずつ猫を捕まえるように首根っこを掴んで、教室の前方から後方の壁へ向けて放り投げた。
これまでの様に、むざむざとやられてやる必要はない。
ただ、わざとやられて置いて、瞬時に傷を癒し、ざまあな展開を繰り広げてみたい気もする。だが始業までそんなにはない。今は遊びを入れている時間がない。
「(今度ゆっくり誰かで試してやればいい。今は無双を優先したい)」
天井に近い高さへと投げ飛ばした。そうしなければ、皆の机にぶつけて壊しかねないから。
「ぐわぁっあああ──!!」
豪快に投げ飛ばされ、壁に激突したやつらの哀れな悲鳴が教室内に轟いた。
それは関取を相手にケンカを売る様なものだった。
意識はあるものの、その身に受けた衝撃はあまりにも大きい。
彼らは、わが身に何が起きたのか頭の整理も追いつかないようだった。
だが、番格4人は根性を見せ、歯を食いしばり身体を起こそうとしている。
僕がハヤテのごとく近づいたので身構えるが、僕は容赦なく彼らを再び鷲づかみにして前方の黒板に向けて、一人、二人と順に放り投げた。
「ここまで来たら、こっちだって逃がすつもりは無いよ」
彼らは黒板に叩きつけられ、激しく落下し、床に倒れた。
往復一回、教壇の前から後方の壁まで、そこから再び前方の黒板まで、ぶん投げられた。想像外の激痛が全身を駆け巡った。彼らの苦痛がその表情を暗く濁らせていた。
気を失ってはいなかった。
汚い雑巾をつまんで放り投げて騒ぐ、掃除中の生徒たちをよく見かけるが。
その程度の軽々しい動作で、自分たちの自由をあっと言う間に奪われたのだ。
ドアの前で見張りをしていた彼は、顔面蒼白ですくみ上っていた。
イクを沈めた当人であることを、もはや否定できない。
それは受け入れがたい現実だった事だろうが。
「まだヤるつもりなら、次の休み時間にしてくれない?」
彼らに向けて僕はそう言い放った。
加えて、
「そこの一名を残したのは、後片づけをしてもらう為だよ! さあドアを開放して、負傷兵を保健室に運ぶ準備に入りなよ」
声を張り、狂犬イクの顔マネをして睨みつけてやると、焦りの表情で頷き、僕の言葉通りに5人は、教室を足を引きずりながら出て行こうとする。
「お、おまえ……こんな強さを今まで隠していたのか!?」
「それに答える義務はないな。とっとと掃けろっ!」
負け犬の遠吠えか。いや好奇心か。強さを隠していたという捉え方が普通か。
彼らとて、人の子だった様だ。
痛みに震える日々がこれからも続く心配が、その質問をさせたのかは分からないが。僕はいちいち答えようとは思わなかった。敗北したなら、ゴミらしく早く失せろと更に凄んで見せた。
教室のドアが解放されると五組の生徒が流れ込んできた。
廊下でしばらく入室を待たされていた様だ。
「おい、あれを見ろよ。イクとつるんでいるアイツらが……。まさか昨日の噂は」
登校時間になり、廊下にいた男子が15人入ってくるなり僕の方を見て目を白黒させる。
なだれ込むように入ってきた生徒たちは、口々に昨日のイクと僕のタイマン勝負の話題をささやいている様だ。
噂の真偽を目の当たりにした生徒たちの中から聞きなれた声が僕に向けられた。
「すごいなぁ、シュウタ! ゴッドハンド最高っ!」
と、僕に駆けより賞賛の声をかけてきたのは、ミリゴとビンゴだった。
この事を機に朝の5人と、今なだれ込んで来た男子生徒15人は、僕とミリゴとビンゴに今後、手出しをしなくなっていくだろう。
気合が入りすぎてゴッドハンド発言が廊下まで漏れていたのか。
『そん時から、外で聞き耳を立てていた連中がこれだけ居たってことだな。ヤツらシュウタと目を合わせない様にしているぜ』
早朝バトルの5人と今いる15人で、20人。それと僕とミリゴとビンゴの3人合わせて23人。
五組の男子は25人だから、残るはハヤトと一人だけだ。
イクはすでに敗退させたしな。
教室に居合わせた男子生徒たちは、その後、僕シュウタの以外すぎる強さに見直したばかりか、いずれ僕がハヤトや他のクラ番までブチのめしてくれるんじゃないかと、強い期待感を寄せてきた。
◇
そっと人知れず片付けるつもりだったのに……まったく面倒くさいコトになって来ちゃったなショウタさん。
『何言ってる、やる気満々って顔に書いてあるぞ。それに下っ端連中を叩き続けてもキリがないだろう。遅かれ早かれハヤトを避けては天国は拝めねェぞ』
ショウタの言う事が正解なんだ。
2度目の戦闘が終わった。
「ふう。僕の通う牢獄学園にお昼休みが訪れようとしている」
『牢獄学園……なんと美しい響きだ。シュウタが羨ましいよ』
「な、なにが?
この名は街の人たちから呼ばれているだけだよ」
ホントに牢獄学園の訳ないでしょ。
普通、学園の創立者がそんな名前つけますか!
「うちの学校は、不死身中学という名称だよ」
『ふ、不死身……それも悪かねェ』
う。なんだ?
口元からよだれが漏れてきたよ。
「しょ、ショウタさん。おかしな想像はやめましょう。特に女子の前では気を付けてよね、ぜったい!」
具体的にどんな想像をしたかは知らないけど、魔少年といい、不死身といい、中二な妄想であることは間違いない。
まったく、どんな教育受けてるんだか。
死神の教育って想像できない。興味もあるんだけど、訊ね返すのは次にしとこう。毒々しいものばかり並べられたら、僕はショウタに好感が持てなくなる気がするから。




