妖精の森~ギルバートsaid
ギルバートの剣を奪い、獣は消えた。
剣を奪われたギルバートは、ただただ冷たい目を森の中に向けていた。
『こんばんわぁ、精霊の寵愛を受ける者』
気付くと、ギルバートは何かに囲まれていた。
獣の姿の者、人の姿の者、いかにも妖精と呼ばれるモノの姿をした者…計12の者がそこにいた。
「…お前らが…妖精王か…?」
不思議と恐怖は感じない。そいつらは誰も答えなかったが、その笑みが全てを肯定していた。
『はじめまして、人の子』
声をかけてきたのは、人型の妖精だった。
無駄に明るい感じに、苦手意識を持つ。兄と同じタイプな気がする。
『…ボクは〝太陽の妖精王〟なんて呼ばれてるけど、ライってのが名前。ティアの妹、フレアに加護を与えた者だよ。そして、あそこにいる冷気を放ってるのが〝氷雪の妖精王〟ギン。君の奥さん、ティアに加護を与えた者だ』
ライと名乗る妖精王が指さした方には、他の者たちと離れたところに、これまた人型の妖精がいる。何となくだが、ティアに雰囲気が似ている。
ギンと呼ばれたそいつは、深いフードを被って俯いていた。そして、顔をゆっくり上げ、口を開く。
『…我が尊き名を、薄汚れた血のお前が呼ぶな』
一瞬で、その場の空気が凍った。本能的に分かる…こいつはマジでヤバい…。
不意に、物凄い殺気を感じた。その方向を見ると、ライと名乗った妖精王。さっきまでの明るさは、完全に消えていた。
『ちっ、こっちが仲良くしようとしてんだから、黙ってろよ。根暗がっ』
「っ!?」
ライの声は、先程とは別人の声なのでは、というほど低くなり、乱暴になる。
ギルバートのために力を抑えていたのだろうか、ギンという名の妖精王と同じくらいの、凄まじい殺気がライから漏れ出る。
ライがいる左側からは、まるで太陽のそばにいるような熱気を感じる。逆に、ギンの方からは、真冬の極寒の地にいるような冷気を感じる。
何事かと思っていたが、周りの他の妖精王から察するに、いつもの事のようだ。
『…二人は仲が悪いの』
「っ!?」
不意に、後ろから声をかけられる。
白い毛並みの馬のようにも見えるが、その鋭そうな角が違うと言っている。その姿は、子供の頃見た本に出てきた、神獣そっくりだった。
『仲が悪いと思ったら、二人してあなたに賭けたのだから面白いのだけど…。あぁ、ごめんなさい。それで、本題なのだけど…私たち賭けをしているの』
その妖精は、優しい声でそう言った。
優しい声だが、どこか闇を感じる。
彼らにとって日常でも、ギルバートにとっては異常な状況だ。 寒くて熱い、熱くて寒い…。ただの冷気と熱気だというのに、氷つきそうなほど寒くて、火傷しそうなほど熱い。この状況に、ギルバートは困惑していた。
それでもユニコーンは続ける。
『…内容は簡単よ。私たちから剣を奪い返して、そして森を出ること』
内容は思ったよりも簡単だった。だが、それに従ってやる気なんて…と思ったが、それを言い残すと、妖精王達は消えていた。不敵な笑み…そしてライとギンを残して…。
「とりあえず、やるしかないか」
─────それから、また森を走っていたが、やはり元の場所に戻ってきてしまう。また、どこまで行っても、熱くて寒い…。
「…っ、テメェらいい加減にしろ!」
ずっと走り回されて、剣は全然見つからなくて、イラついていたギルバートは、とうとうライとギンに怒鳴っていた。
「喧嘩すんなら、よそでやれよ!熱いし、寒いし、迷惑だ」
二人はこちらを見て、ぽかんとしている。そして、互いに目を合わせて、ちっと舌打ちをするとこっちを見てきた。
『剣さえ取り戻せば、道は開かれる。…さて、手を貸そう!』
ライは、初めのように穏やかな口調に戻っていた。
ギンは、いつだったかティアが創ったような氷の剣を生み出し、ライに渡した。ライは、それをギルバートに渡す。
『武器はあったほうがいいでしょ』
剣を手にすると、あの時同様、仄かに暖かかった。
『…ティアを頼む。私たちはお前に賭けているんだ』
ギンは、フードを深く被り直しながら言った。
「…ありがとう、ライ、ギン」
怒るかと思ったが、ライもギンも笑って姿を消した。そして、気づけば、熱いのも寒いのも収まっていた。
感傷にひたっていると、どこからか風が刃のように襲ってくる。
(なるほど、ここからが本番か…)
木が伸びてきたり、突然地面がなくなったり、木が動いて道を塞いだり…。なんでもありのようだ。
正直、森を壊すつもりはなかったが、あちらがその気なのだから仕方がない。ギルバートは、木々をなぎ倒して行く。
「…っ!見つけたぜ、剣」
森を駆け回るうちに、あの、俺の二本の剣を奪って消えた獣を見つけた。その獣は、すばしっこくちょこまかと木々を避けて走り回る。
だが、そのスピードに追いつけない俺ではない。
やっとのことで、獣に飛びつき、剣を奪い返した。ギルバートはそのまま、森を駆け抜ける。ライとギンのくれた剣は、ギルバートには合っていないらしく、やはり先の方が既に欠けていた。
ギルバートが持ってきたその剣は、片方は予備だが、いつも使っている方は今のところ15年間使って欠けたことは一度もない。
そんな相棒の剣に、手をかけようとした。その瞬間、あちらこちらから物凄い風圧や、鋭く尖った木々の枝、葉っぱがいっせいに、こちらに向かってきた。
(…なっ、間に合わ…な…)
『あの子の後継だからとおとなしくしてやれば…。自分の領分をわきまえろっ!』
どこか遠くで、小さく何かの声がした。そこで、ギルバートの意識はプツリと途絶えた。
─────目が覚めると、そこにはティアがいた。
「ギルバート、目が覚めたのね。よかった」
その目には、涙が浮かんでいる。何がどうなったのか、ギルバートには分からなかった。




