ギルバートの選んだ道2~ギルバートsaid
「お話があります」
ティアに仕える侍女は、ギルバートを恐れていないようだった。自国の者より、隣国の者たちの方が自分を恐れないとは、滑稽な話だ。
「こちらには妖精の加護を持っているものが、二人います。双方の話から察するに、妖精王が何やら賭けをしているようなのです」
分からないという顔をしていると、それに気づいたのか、どう話すか考えているようだった。
「…え~と、妖精たちにも派閥があるのです。派閥に加わっている者は何も話そうとしませんが、派閥に加わっていない妖精たちが教えてくれました」
ギルバートを真っ直ぐに見て、侍女は言った。
「私たちからすれば、加護を持っているわけでもない貴方様の力は、恐怖の対象以外の何者でもありません。ですが、姫様が言うのです。貴方様は、恐れるものでは無いと」
俯いていた顔が、咄嗟に上がる。きっと今の自分は、とても間抜けな顔をしているだろう。
「人間とは弱い生き物です。常識を超えた何かを、自分の理解できないものを恐れる生き物です。ですから、私たちは貴方様が恐ろしかった。ですが、姫様は仰ったのです。『ギルバート様の力は〝精霊〟の加護』だと…」
「精霊…?」
全く話が入ってこない。
「… ギルバート様、貴方様は〝精霊〟の加護を持っているのです。私たちからすれば、貴方様の力の根源が分かったのですから、一安心でした。…ですが、〝妖精〟にとっては違ったのです。妖精たちにとっては、ギルバート様が人間であってくれた方が都合が良かった。ですが、精霊と繋がりがあるものだった…。妖精族と精霊族は仲が悪いんです」
彼女の話を要約するとこうだ。
妖精族には派閥があり、そして上下関係がはっきりしている。そのトップが、12の妖精王だという。
理由は知らないが、妖精族と精霊族は仲が悪い。
と言っても、どうとも思わない妖精も中にはいるが、一部の妖精族が精霊族をとてつもなく毛嫌いしているという。そして、その〝一部〟というのが、妖精王なのだ。長寿な分、頭がお硬いらしい…。
ギルバートが精霊の加護を受けていると知った妖精王と、ティアに加護を与えてくれている妖精王らとが、真っ向から対立しているという。妖精王同士の戦いは、人間の戦争など比ではないほどの甚大な被害を及ぼす天災となる。
故に、賭けをして、今後のことを決めるということで落ち着いたらしい。はた迷惑な話だ。
「妖精が言うには、夜中の2時くらいに、ティア様の妹君の使いが来て、その後すぐに城を出たのを見たと…。ですが、置き手紙もないなんて…」
侍女はティアを心配しているようだ。本来なら、今すぐにでも、自分が国に帰って、ティアの手助けをしたいのだろう。
「… ギルバート様、お気をつけください。妖精にも色々おります。闇の妖精が貴方様の名を聞いて、笑っていました。彼らが笑みは、不幸を意味します」
侍女は少し青ざめた表情をしている。
余程のことが、起ころうとしているのだろうか。
「…分かった。父様、行ってきます。残ってる仕事は兄上に押し付けてください。今度倍にして返すので…」
そう言って、ギルバートは二つの剣を抱えて走っていった。精霊の加護はよく分からんが、ギルバートは身体能力が高い。今日中には着けるだろう。
─────「これでいいのね?」
ギルバートの発った城内で、リンは声を出す。
『…ああ、役者は揃った。あとは、あれのお手並み拝見と行こうか』
リンにしか聞こえていないだろう声は、ギルバートが消えて行った方を見ながらそう言った。リンがその声の主を見ることはなかったが、声の主の口元に不気味な笑みがこぼれているのは想像に難くないだろう。
「…どうか…ご無事で」
リンは主の無事を祈った。
背後で、バカバカしいと呆れた視線が向けられていることに気づきもせず。─────
───── ギルバートは全速力で、国を駆け抜ける。
気付けば、国境に差し掛かっていた。そこには、確かに妖精と呼ばれているだろう者がいた。
「…そこを通してもらいたいんだが」
警戒からか、殺気が漏れでる。
妖精は不気味に笑うと、すんなり道を開けた。そこには渓谷がそびえていたが、それを飛び越えられない俺ではない。
『来たぞ』
『精霊の寵愛を受ける者だ』
どこからか、クスクスと声が聞こえた。だが、ギルバートには、たった一体の大きな妖精しか見当たらない。
「どうでもいい…」
そう言って邪念を吹き飛ばし、ギルバートは、森に入った。ここを抜ければ、ネービス王国だ。
だが、一向に森を抜ける気配がない。もう何時間も、走り続けている気がする。どうなってんだ、この森…。傾いていたはずの日は森の木々で見えないが、まだ沈んでいないどころが、むしろ登ってきているのではと思えるほどに、森が明るい。
(…化かされてるみたいだ)
ふとそんな考えが頭をよぎる。いや、あながち間違ってもいないかもしれない。
そう思って、持っていた二本の剣のうち一本を適当なところに置いて、走る。すると、すぐにあの剣が見えた。
「…幻術の類いか?」
己の現状が分かったところで、どうしたらいいのか分からない。あと少しで、ネービス王国に着くというのに…。
(…考えろ、考えろ)
ギルバートが頭を悩ませていると、不意に身体が軽くなった。ふと見ると、腰にぶら下げていた剣が二本ともなくなっている。
辺りを見渡すと、何やら獣がギルバートの剣を持っている。そして、そのまま、消えてしまう。不敵な笑みを浮かべて。
「なっ…」
『必ず不吉なことが起こります』
ティアの侍女の言葉を思い出す。嫌な感じだ。
あの剣は、俺の宝物だというのに…。幼少期に友にもらった、大切な剣。
「…後で覚えてろよ…妖精」




