お茶会~ギルバートsaid
せめて平穏に過ごせるように、と思い接しているのだが、もうお手上げだ。
ネービスの姫と結婚して、一ヶ月が経った。だが未だに、姫が何を考えているのか分からない。
あの感情を覆い隠す微笑み。相手の感情を察するのは得意な方だが、ああも隠されては察しようがない。
「はぁあ…」
ギルバートはティアを完全に持て余していた。
ギルバートは国中の者たちから、恐れられている。ゆえに街に行こうものなら、その目立つ髪色で身分がバレ、騒ぎになるのが目に見える。というか、過去に何度もそういうことがあった。
だから、ギルバートは城外には仕事以外で赴くことは無い。
ティアの髪色は珍しい色だが、悪い印象の色でもないから、他国からの旅人だと思われるだけで済むだろう。そう思って、護衛をつけると言ったが、一向に城下に行く気配はない。
(その他にも、剣の練習風景を見せて欲しいだとか、剣を見せて欲しいだとか。なぜ、俺は自分の妻に恐れられるようなことを、自らせねばならんのか…)
「楽しそうだな」
そう声をかけてきたのは、ギルバートの兄、アレクだった。
いつも掴みどころのない笑顔で遊び歩いている兄。父に似て、何を考えているかさっぱり分からないから少し苦手だ。
「兄上…。何かご用ですか?」
「失礼だな。お前が怖すぎて、扉の前で固まってるお前の部下の代わりに書類持ってきたんだよ」
ふと扉の方を見ると、ギルバートに書類を渡しに来たであろう何人もの騎士や役人が部屋に入ることも出来ずに、青ざめた顔でこちらに来ている。
(またか…)
「ティアちゃんだっけ?何度かお前といるとこ見たけど、いい子だね。お前と仲良くしようと、色々と話題振ってさぁ。お前を怖がっている素振りもないし、お前の理想のタイプだろ?それに、さっきまでの険しい顔、ティアちゃん関係でしょ?なになに、惚れたのか?」
「なっ!?………ん、サインし終わったので、とっととお仕事にお戻りくださいっ!」
耳を真っ赤にして、ギルバートは兄に部屋から出るよう促す。傍からは、頭に血を登らせて怒っているようにしか見えないが…。
その時、丁度ティアの侍女が来た。すると、兄は抵抗をやめ、すぐに帰って行った。
「…分かった」
ティアを見ていて気づいたことだが、彼女は恐れられるような力を持ちながらも、民に愛される姫のようだ。自分とは、大違いだ。
そんなことを思いながら書類を片付ける。気がつけば、約束のお茶の時間だ。
─────何の話かと不安を抱えつつも、お茶の準備をさせた中庭へ向かう。
「ごきげんよう、ギルバート様。私のわがままを聞いて下さり、ありがとうございます」
「…構わん」
静かに微笑む彼女に、相変わらずギルバートはそんなことしか言えない。
席に着いてお茶を飲む。甘い物が苦手なギルバートは、目の前の甘ったるそうなケーキを見ただけで、胸焼けしそうだ。
「私が恐いですか?」
唐突なその言葉に、頭は真っ白になる。やはり彼女は何を考えているのか分からない。なぜ、そんな話になったのか。
「…………俺は…お前を恐れていない」
「…………」
再び沈黙が、その場を支配する。
ギルバートは、ティアを恐れていない。ティアに恐れられることを恐れていた。
似通った、常人にはない力を持った者同士。もし、彼女に恐れられれば、それは本物のバケモノであると言われるようなものだろう。ギルバートには、それが一番恐ろしいものだった。
「……では、私から話しましょう」
そう言うと、ティアは自分や自国について話し始めた。
「ネービス王国は妖精に守護されている国です。私は妖精の中でも特別強いとされる、12の妖精王の一人『氷雪』の妖精の加護を受けています」
ティアは、いつも着けている手袋を片方外した。すると、周りの侍女達の方からざわめきが聞こえた。
「この手袋は力を抑制するもの、ということになっていますが、ただの手袋です。民や城の者たちが恐れるので、そんな話をでっち上げたのです」
近くで、驚きの声が漏れた。彼女の侍女の声も含まれていた。意外なことに、ティアを内心恐れている者がいたようだ。
「ご安心下さい。この国での感覚は掴みました。暴走することはありません」
暴走する可能性があったのかと内心驚きつつ、ティアの顔を見る。
「…自分のことを話したのだから、俺も話せと?」
「夫婦なのです。避けるのはやめて、お話しましょう?」
ティアは変わらず、例の笑顔でこちらを見ている。が、避けたことなどあっただろうか? 記憶を漁るが全く見つからないが…。
「触れれば氷漬けにされると聞いたが、事実か?」
「しようと思えば出来ますが、しませんよ?私は人間ですから」
ティアの表情が少し曇ったが、彼女はちゃんと答えてくれた。彼女が、自分に歩み寄ろうとしてくれているは事実なのだろう。
「持ち合わせが無くてな、氷の剣を作れるか?」
ティアはもちろんと言わんばかりに、氷の剣を生み出した。
「…触れても?」
ギルバートがそう問うと、ティアは迷った後、いつも付けている耳飾りの片方を氷の剣に埋め込んだ。
「普通に触れれば凍傷してしまいますが、この耳飾りには妹の力が篭っているので、触れても安全です」
そう言って、ティアは氷の剣を差し出す。
触れてみると、冷たいどころか少し暖かい。それでも、溶ける気配がないのだから面白い。
剣を持ち、ギルバートは席を立った。そして、何も無いところに剣を大きく振り下ろす。
その瞬間、凄まじい風圧がその場にいた者たちを襲う。
「…すまん、少し欠けてしまった」
風が収まり、遠くを見ると木が真っ二つになっている。剣を見ると刃先が少し欠けてしまっていた。
「故に『死神』と呼ばれている」




