お茶会~ティアsaid
「…はぁぁ」
ティアがローディ帝国に嫁いで、すでに一ヶ月が経とうとしていた。
(大分ここにも慣れてきたわ。でも……)
ギルバートとは、食事やお茶のときには顔を合わすが、それだけである。話は全く続かず、ギルバートは「あぁ」とか「そうか」という返事のみ。ずっとしかめっ面で、ニコリともしてくれなかった。
ティアは元々会話が得意ではないが、それなりに頑張った。何がダメなのか……。
─────ティアは今までの事を思い出す。
ティアが考えたのは、話をすることだ。お互いを知らなければ、何も出来ないから。と言っても、どうしたらいいか分からず、侍女に相談しながら色々と話しかけることにした。
まずは、ギルバートをデートに誘った。ローディ帝国のことを何も知らないので、『一度城下を見てみたいから、案内して欲しい』という名目で。
結果は「…俺の代わりに護衛をつける。行きたい日が決まったら申し出てくれ」だそうだ。一緒でなければ意味が無いのに…。
そんなことでめげるティアではない。妹との約束のために、自分の幸せのために諦めなかった。
次に、ギルバートは剣術が得意だと侍女たちに教えてもらい、『練習風景を見せて欲しい』とお願いした。ティアが勝手に、遠くから見ているだけだが話題を作れるだろう。
結果は「そんなものを見ても楽しくないだろう」とのことだった。邪魔だと思われたのか、敵国の姫に軍事のことを知られたくないのか、理由はなんにせよ怪訝な表情をされた。
その後も、『剣を見せて欲しい』と言ったり、『武勇伝を聞きたい』と言ったり、ギルバートの話しやすそうなことを聞いた。
だが、帰ってくる言葉は依然として、「…知らなくていい」の一言。その一言で、会話を打ち切られてしまう。
「リン、どうしたらいいと思う?」
リンはティアがネービス王国から連れてきた侍女の一人だ。
ティアと違って、可愛らしい印象の女性。家族への誕生日プレゼントや、フレアの癇癪の理由など、ティアが分からないことがあるといつも相談している相手だ。
「う〜ん、ギルバート様がお話ししやすそうな話題を考えてきましたが、今度は逆に姫様のことをお話してみては?」
「そうね…」
確かに、質問ばかりで自分の話もまともにした覚えがない。だが、別段、自分のことで話になるような物も思いつかない。
何か、話題…話題…。
「…ねぇやっぱりあの事をお伝えしたら?」
「ダメよ」
そう言って、リンが他の侍女の言葉を遮る。
「……?…何のこと?」
ティアはその先を話すよう促すと、少し躊躇った後、リンが重たい口を開いた。
「…どうやら、ローディ帝国の者はギルバート様のことも姫様のことも、あまりよく思っていないようなのです」
口篭りながら、リンは気まずそうに話を続けた。
「ローディ帝国では、ギルバート様は『剣聖』と謳われ、他国では『死神』と呼ばれ恐れられているという噂はご存知でしょう。どうやら事実とは異なるようで、実際には『死神』と呼んでいるのはローディ帝国の者の方。皇帝閣下が姫様を嫁にと仰せられたのも、ギルバート様を恐れてこの国の令嬢が誰も結婚したがらないからだと」
初めて知った彼の置かれている状況。何だか、自分と似ている気がする。
「そして、姫様のことは『氷雪の魔女』と。その…触れれば氷漬けにされると噂されているようで…」
ティアは城では自由に過ごしていいと言われている。だが、特にしたい事もないティアはあまり部屋から出なかった。それでもふと外に出れば、時折部屋を出るとローディ帝国のメイドや騎士から、怯えられているのは感じていた。
(なるほど、そういうこと…)
ネービス王国でも、昔はそんな風に見られていたこともあったが、ここ数年は恐れられる事はなかったので忘れていた。
「なるほど、私が怖いのね。ねぇ、ギルバート様も私を恐れているのかしら?」
「姫様とのお食事や、お茶のときの様子を見る限りでは、恐れているようには見えませんでしたが」
確かにティアの目にも、そうは見えなかった。
(…うーん、困ったわね。…何が真実で、何が嘘か、あの方の顔が全く見えないわ。ギルバート様とは、一度しっかりと話した方がいいわ。あの方との敵対だけはしてはならないのだから)
「リン、ギルバート様に今日のお茶は、いい天気ですから外でいただきましょうと私が言っていたとお伝えして。私が、大事な話があると言っていたとも…お願いできるかしら?」
ティアは、有無を言わさぬ声でそう言った。
「は、はい」
しばらくして、リンが帰って来た。ギルバート様は「分かった」と一言だけ、言っていたという。
その後はいつものように本を読んで過ごした。ローディ帝国にはネービス王国には無い書物が多く、あっという間にお茶の時間がやってきた。
────── ギルバート様は先に来ていたようで、後からやってきたティアを見つけると直ぐに立ち上がり、ティアへ椅子を引いてくれる。ニコリともしないがスマートな紳士ぶりに、いつもながら変な気分だ。
「ごきげんよう、ギルバート様。私のわがままを聞いて下さり、ありがとうございます」
「…気にするな」
簡単に挨拶をして二人は席に着き、お茶やお菓子を食べ始める。その間、二人の間には沈黙が続いていた。いつものように。
───カンッ
ティアは沈黙を破るようにティーカップを置き、静かに微笑んだ。
「私のことが、怖いですか?」
「は?」
ギルバートは、予想だにしていなかったのだろう。初めて無表情が崩れるのが見れた。
「私が怖いかと聞いています」
変わらず冷ややかに問うティアを前に、ギルバートは戸惑いの表情を浮かべていた。
(あぁ、この人は私と同じだわ)




