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氷のお姫様2 ~ティアsaid

「分かりました。私が、ローディ帝国に嫁ぎます」

 ティアは力強く言い放った。


「なっ、ティア、本当にいいのかい?」

「そうよ、あの死神のところに嫁ぐなんて…」

 父もフレアも心配そうにティアを見つめる。


 その言葉だけで、その想いだけで、充分すぎるほどに愛されているのだと今更ながらに実感した。


「大丈夫です。それに、もしかしたら噂が独り歩きしているだけで、いい方かもしれませんよ?なんせ、ローディの聖剣様でもあるのですから」


 ティアは今までにないほど、優しく微笑んで見せた。

 その手が震えていることを隠すように…。






─────それから着々と準備は進み、ティアの輿入れの日となった。


 ローディ帝国までは、馬車でも丸一週間かかる。ティアの〝ちから〟を使えば、一日とかからない距離だが、それではあまりに無作法だ、ということで馬車での移動となった。


 護衛の兵やティアの侍女含め、数百人が一斉に移動するが、実際ローディ帝国に残るのはティアと専属の侍女の5人だけだ。


「では、行ってまいります」


「っ、姉様っ!!」


 淡々とした儀礼的な言葉を残し、馬車に乗ろうとするティアをフレアが呼び止めた。


「嫁ぐからには幸せになってください。それが出来ないなら、帰ってきていいんですよ。私と姉様が力を合わせれば、死神くらい倒せます…から⋯だから⋯」

 その目には、涙が浮かんでいた。その涙を必死に耐えているのだろう。そしてその手は、微かに震えていた。


(…あぁ、この子は本当に、優しい子ね)


 一体、何年ぶりだろうという涙が零れる。その場にいた者たちが、初めて見たティアの真顔以外の表情に、ギョッとした顔をしているのが視界の端に映る。


「ふふ、分かったわ。私は誰かと関わるのも、話をするのも苦手だけど、頑張ってみるわね。フレアみたいに。フレア、あなたも何か本当に困ったことがあったら、いつでも妖精に語りかけなさい。きっと彼らが私の元に、あなたの声を届けてくれるから」


 ティアはできる限りの優しさを込めて、フレアに語りかけた。


 滅多に笑わないティアの優し気な笑顔に、フレアの瞳からはとうとうポタポタと激しく涙が溢れ出る。


「はいっ!姉様っ!」

「「ふふふっっ」」


 フレアとこうして、笑い合ったのはいつぶりだろう。今まで互いにどう接していいか分からなかったのに、やっと話をしたのが別れの言葉だなんて。


 そう思うと、喜びと共に、涙が零れてきた。


「もう時間よ。では、行ってまいります。今までお世話になりました」

 ティアは最後まで、微笑んでみせた。




─────ガタガタッガタガタッ


 ティアは馬車に揺られていた。一人になりたいと言って、侍女の相席は断った。


(こんなにも、活気溢れる賑やかな国だったのね)


 馬車に揺られながら、ティアはティアを見送る民たちの歓声を聞きながら、美しいネービス王国を瞳に焼き付けていた。静かに、涙を流しながら…。






─────二週間後、そうしてようやくローディ帝国に着いた。


 ただでさえ、馬車では一週間かかる所を、数百人の大移動という事で二週間もかかった。と言っても、予定通りなのだが…疲れた…。


(はぁ、きっとフレアなら脱走してるわね。ふふっ)


 ティアは馬車に揺られ、帝国の城門をくぐった。




───ガチャッ

 馬車の扉が開くと、護衛の騎士が手を差し出してくれる。ティアは、その手を借りて馬車を降りた。


 ネービス王国の近くには妖精の森があり、その地に近いからか、国では〝ちから〟が使いやすく、制御もしやすかった。だが、この地ではそうはいかない。


(〝ちから〟はコントロールができるまでは、なるべく使わない方が良さそうね)


 そんなことを思いながら、ティアはローディ帝国に降り立った。


「…ありがとう。フレアをよろしくね」

 ティアは手を貸してくれたその騎士にしか聞こえないであろう声で囁いた。


 騎士は小さくうなずいただけだったが、耳が赤くなっていたのを、ティアは微笑ましく見ていた。




 いつの間にか()()()はティアの目の前に立っていた。


「ようこそ、ローディ帝国へ。お初お目にかかります。ローディ帝国の第二王太子、ギルバート・エル・ディアルズと申します」

 その人はティアを真っ直ぐに見つめ、礼儀正しく挨拶をした。


「わざわざお迎え下さって大変恐縮ですわ。ネービス王国第一王女、ティア・ジュリア・ネービスにございます」


(この方が私の夫…あの『ローディの死神』)


 どんな巨漢が出てくるかと思っていたら、スラッとしていて背の高い、正に王子様と云った風貌の青年だった。想像と違ったからか、全く怖く感じない。


「どうぞよろしく。ひとまず、こちらに…」

 死神ことギルバートは、ニコリともせずそう言った。


 ティアは5人の侍女を残し、数百の護衛を自国に帰した。


 そしてこの日、簡易的ではあったがギルバートとティアの婚姻が結ばれ、正式にネービス王国とローディ帝国との間に新しい縁ができたのだった。


(…気遣いのできる優しそうな方ね。本当に噂が独り歩きしていたのかも)


 ティアは家族というものに憧れが強い。両親のように、愛し愛されるまではいかなくとも、良い夫婦になれるかもしれない。その希望が垣間見えただけで、ティアには喜ばしい事だった。

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