異変~ティアsaid
「はぁはぁ……はぁはぁ……」
ティアは走っていた。
つい数時間前のこと…。
ネービス王国からの遣いだという妖精が来た。曰く〝フレアが暴走したと〟…。
それが起きる事を、予期していなかった訳では無い。そういったことはよくあった。それが起きないようにするのも、止めるのも私の役目だったのに…。
妖精は頼れない…。彼らは気まぐれに加護を与えてくれるだけの存在だ。その代わりに、彼らの森をネービス王国の者たちが他の人間から守る契約だから…。
妖精たちにとっては、加護を与えた者であっても、その生死はどうも思っていない。彼らからすれば、人間の寿命はとても短く、それが少し早まったに過ぎない。
「お願い…間に合って…」
ティアはそれを一心に願い、走っていた。
ティアは〝ちから〟を使って走っている。朝には着くだろう。ティアが通った所には、氷の跡が残っている。今の季節は夏だから、夜が明けてすぐの時間にでも、跡形もなく溶けるだろうが…。
ティアは、走った。国境を越え、妖精の森に入り、その森を抜けた。
普段ならもうすぐ、皆が起き始めるだろうという頃合いだ…。国は一見すると、平穏そのものだった。
少しの疑問も抱く余裕がなく、フレアがいるであろう王宮を目指す。
─────キーン──キーン──キーン
国を囲む城壁を跳び越えた。その瞬間、国を氷が覆う。
(…氷?…ギンの仕業!?なんで!?)
ティアには訳が分からなかった。
「あれ?姫様?」
城壁の警備をしているのであろう兵が、ティアに気付き、近づいてくる。
「何かあったんですか?この壁は一体…」
ティアはその問いに、自分がはめられたことを悟った。
現状を把握しようと頭を働かす。そのため、難しい顔になってしまったからだろうか、その兵は、「死神が攻めてくるのか」と突拍子もないことを考えてに至ったらしく、声に出して青ざめている。
それは違うと、否定して、王宮へ向かうことにする。
─────国の城壁の周りを見事に氷が覆っているのだ、王宮は大騒ぎになっていた。
騒いでいる者たちの中から、両親と妹を探し出す。
「お父様!お母様!フレア!」
会いに行くと、家族も皆が兵と同じ考えに至っていたらしい…。
そうではないと、これまた否定して、本題に入る。
「申し訳ありません。どうやら、はめられてしまったのです。私が不甲斐ないばかりに…」
心の中で、自分に舌打ちをする。
どういうことかという、家族の不安に応えるようにティアは語る。
「…現状況を全て把握している訳では無いので、全ては分かりません。…ただ分かっているのは、〝妖精王級の者たちが、何か企んでいる〟という事です」
皆が、分からないという現状に不安を抱いているようだった…。無理もないだろうが、何もしないわけにはいかない。
─────今分かる、彼らがした事は、二つ。
一つ目、私をネービス王国に連れ戻した
二つ目、ネービス王国を氷で閉じ込めた
二つ目に関しては、確実にギンがやってる。したがって、これは私やネービス王国を守るための行為…。という事は…。
「目的は…ローディ帝国……。いや、ギルバート…?」
『大正解っっ!』
ティアが一つの答えにたどり着いた瞬間、見慣れた顔が目の前に現れた。〝太陽の妖精王〟ライと〝氷雪の妖精王〟ギンだった。
『さすがに賢いね、ティアちゃん』
相変わらず、ライは軽い調子で振舞っている。ギンはその後ろで、どうでも良さげな様子で立っていた。
「…これはどういうつもり?」
最初に声を荒らげたのは、フレアだった。
ライは何でもなさそうな顔をして『賭けだよ』と、一言だけ言った。
『…頭の固い妖精王らが、精霊嫌いなんだ…。ギルバートと言ったか? あの子を試すことになってな』
ライが話を渋るにはいつもの事だ。それを嫌うギンは、簡潔的に説明した。
その回答に対して、次に声を荒らげたのは、ティアだ。
「は?…何故、ギルバートを巻き込んでるの?…ねぇ、そっちの昔の因縁に、何でギルバートを巻き込んだのかって聞いてるのよ」
ライとギンは、それ以上何も言わず、『大人しくしていてくれ』とだけ言い残して消えていった。
(これは凄いことよ、ライ、ギン。今まで絶対にあってはならないと、私たちが避けてきたことが起こってるんだから)
この時、フレアとティアはものの見事にキレていた。だが、頭はこれまでにないほど酷く冷静だ。こうなった私達を止められるものはない。
ティアとフレアは、全力を持って、氷の壁を破壊しにかかった。
─────何時間かけただろうか…。
流石は妖精王…。ティアとは桁外れに強力で、氷の壁は壊したところから直っていく。
だが、それで諦める私たちではない。妖精の加護を受け、攻撃系統の力があるものを集め、一箇所に力をぶつける。
───ドーンッッッ!!!
凄まじい音が鳴り響く。氷の壁に、穴があいた。が、次の瞬間には塞がろうとしていた。
(まぁ、その隙間を見逃すほど私たちはやわではないわ)
ティアとフレアは、ギリギリのところで氷の壁の外に出られた。その瞬間には、壁は元に戻っていたが。
すぐにでもギルバートの元へ行こうと、走ろうとした瞬間。それは飛んできた。
───ドンッッ!!!
数キロは離れている妖精の森から、〝妖精王〟が吹っ飛んで来て、氷の壁にヒビが入る。あの硬い壁に、簡単にひびが入るなんて、よほどの力で飛ばされたのだろう。女の姿でも、容赦がない。
一体何事かと森へと視線を移すと、その一瞬で目の前に人が立っていた。
「わぁ、ティア!ごめん、いるって気付かなくて…。そいつ投げ飛ばしちゃった…。怪我してない?」
そう聞いてくる男は、ギルバートだった…だが。
「…誰ですか?」
何故か、彼をギルバートだとは思えなかった。




