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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

料理

作者: 墨狐


彼女作るご飯はまるでまじないだ

疲れた体にいつも染みる

病気がちな俺を気遣って体にいいものを作ってくれる時もあるしただ単に俺が好きなものも作ってくれる時もある

出会った当初はただ顔がタイプだからという理由で付き合い始めたが正直今はどこをどうとっても好きなのだ

今まで何人か別の人と付き合ったこともあるが彼女が一番好きだ

彼女おかげでいつしか外食に行く機会も減り二人で食卓を囲む日がどんどん増えていく

最初こそ不安や価値観の違いで言い合いになったこともあったがもう彼女がいない生活は今は想像ができない

たまに喧嘩した時には手の込んだ料理を作ってくれる

彼女の料理を食べるとさっきまで怒っていたのがバカらしくなって謝ってしまう

これが2人のちょっとした仲直り方法にいつしかなってしまった

正直こういういった時、彼女に胃袋を掴まれてるなと思うしこれが愛なんだなって深く感じる時だ

同棲してなかなか時間も経ったしもうそろそろ一緒になってもいいんじゃないかと最近思えてきた

今日の晩ご飯は一体なんだろうか?

家のドアを開けながら俺は鼻をきかせビーフシチューかな?と想像しながらゆっくりと部屋に入っていった


彼女


私が作る料理は呪いがこもってる

私は母の影響で料理が好きになった

母の料理はいつでも美味しくて女性として尊敬している

母は父と喧嘩した時ですら手のかかる料理を毎回作っていたのをよく覚えてる

けれど今になるとわかるあれは呪いだったんだ

昔、彼と喧嘩した時母を真似てわざと手のかかる料理を作ってみた

するとその手をかけている時間私は料理に対してずっとその時の不満や苛立ちを料理にのせてまるで魔女にでもなった気持ちだった

だからその恨みがこもった料理を相手に食べさせると少しだけ気持ちが軽くなる

向こうがご飯を食べた後に謝ってくるからもしかしたら少し伝わっていたのかもしれない

彼は付き合いだした頃こそ仲が良かったが

病気がちなこともあり何度何度も看病することになり少しずつ関係に疲れを覚えた

もちろん看病だけが理由なのではない

病気の度に彼は少し嫌なことがあれば怒鳴り、それを注意すれば病気がちな自分のことを呪い自暴自棄になるのだ

ただそれでも彼を嫌いにはなれなかった

ただ彼に言っても何も変わらずそれどころか暴力を振られる、逃げればいいかと考えたがそれで彼の体調が崩れた時に私はきっと罪悪感で押し潰されてしまう


だから私は死のうと思った


何もかもに絶望したと言うよりもただ自分が死ねば全てが解決するのだと腑に落ちたのだ

そう考えて一年ほど経った今日

今日がその日なのだとわかった

理由はないが朝起きて空を見た瞬間に明確に今日が死ぬ日だと気付いたのだ



彼と一緒に朝ごはんを済ませ

彼を仕事へと見送り

洗濯ものを済ませてから

配信サイトで一本映画を見た

結構最近彼が映画館で見ていたもので

カップルの彼氏が最終的に燃やされて終わるもので面白かったけれど後味は少し悪かった

映画を見た後私は夕食を作り始めた

どこまで作れるかはわからないがこれが最期の呪いになるなと思い少し腰を入れた

腰に紐を巻きご飯を炊き出す

何しようか少し迷ったけれどビーフシチューにしようと決めた

メニューが決まったので私は睡眠薬を飲めるだけ飲み

ゆっくり野菜をむき肉の下処理をし

しっかり時間をかけてシチューを煮詰めていった

ある程度済んだ時に徐々に足に力が入らなくなるのに気付いた

ああやっとこの呪いも最後の工程になる

シチューが焦げないようにけれど冷めないように火を弱くした

やっとこの生温い地獄の生活から解放される

彼はこのスープをきっと食べるだろう

いつだって彼は私の料理を残したことはなかった

これもきっと愛の形なんだ

愛に決まった形がないのだからこれも愛と呼んでいいに決まってる

だってこれを思いつかなかったら私達は別れているか私は死んでいたのだから

いい人生ではなかったかもしれないけれど悪い結末ではない私は最期に母に心から感謝した

消えゆく意識の中ゆっくりと鍋に近づき味を確かめた


誰か


今までの現場の中でも特殊な現場だった

マンションの一室で彼女が自殺してる来てくれと通報が入りすぐに現場に向かった

そこではどこを見ているのかわからない男性が待っていて受け答えも曖昧だった

部屋に入るとなにか料理の匂いがしていて少し不思議に思いながら進んで行った

リビングには先程食べたのか食器が一人分並び部屋の匂いと合わせて察するにビーフシチューとかそういったものだろうなと思った

男性に死体はどこですかと聞くと真っ直ぐキッチンの方を指刺された

キッチンにはには腰と戸棚を結んである女性の遺体があった

その女性の顔はほとんど焼け崩れていて個人を判断するのはとても難しかった

個人の意見としてはとても奇妙な死体で二度とみたくないほどだった

そのあと私達は事件性を調べたが女性の血液から睡眠薬の成分が検出され顔の火傷は直接的な死因でないこともわかった

また女性の死亡推定時刻に男性が駅にいたことも監視カメラの映像で確認できたので彼が殺したのではないことがわかった

ただこの自殺の件で問題とされたのは

男性が女性の顔が焼かれたビーフシチューを全て食べていたのだ

もっと言えば男性はビーフシチューを食べきってから警察に電話をしていた

また女性の死に方からも女性は自分の顔が入って鍋がこぼれないように縄で体を固定しているよう様子があったため男性に対して"作られたもの"という考えになった

男性に何故あのビーフシチューを食べたのか問いただしたところこう供述された


「とても長く時間を掛けられて作られていて食べずにはいられませんでした」


この時間とは一体どこからの話なのだろうか、2人の時間が同じであるのかは誰もわからない


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