表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魚の杜の巫女  作者: 楡 依雫
水鏡篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/270

四十五、八反目の資質

 亜耶は一部始終を、闇見(くらみ)して居た。水鏡(みずかがみ)の向こうの(みお)に、共に見て呉れとせがまれた為だ。

「澪は、暫く宮に居られる様よ」

 そう言うと、澪は少し安堵した顔をした。八反目(やため)と顔を合わせたくない、其れは本心なのだろう。

「亜耶さま、もう妹背(いもせ)言挙(ことあ)げを行っても、良う御座いますよ」

「澪…」

 八反目に裏切られた。其の思いが、今は強いだろう。そして此の先、八反目が澪の為にする事など、たかが知れている。

「一の兄様に、子を見せなくて良いの?」

「………見せても、同じ事の繰り返しでしょう」

「宴は三日後よ。澪が落ち着くまでの時間も無いわ」

「其れでも…っ、此れ以上は、厭です」

 今までに八反目が知らぬ香を纏って来る事は、幾度も有った。澪は其れを、宮外(みやそと)での事として知らぬ振りをして来たのだと云う。

 一度失った信頼は、月日を経ても戻らない。男と女の間は、特に。其れに澪は、もう未来を闇見(くらみ)して仕舞った様なのだ。

「…外して仕舞いました」

 水鏡の向こう、澪が左手を見せる。小指に有った筈の赤い糸は、今はもう無い。

(もり)と違って、触れる事の許される女が多過ぎるのです。そして八反目さまは、其れを喜んで居る」

 澪の言う通りは、亜耶の闇見でも見えて居る事。八反目は大王の元で、采女(うねめ)や侍女に目移りして居る。

 後押しに、八反目は()がり(なり)にも杜の男。目元涼やかで美しく、一目を呉れれば女達が勝手に色目を使う。其れを愉しむ事を、覚えて仕舞ったのだ。

 そんな(ひと)の為に、亜耶と大蛇(おろと)が忍んでいるのは心苦しい。澪はそう言った。

「お父様と大蛇と、相談するわ。明日、御館(みたち)に行って」

 澪の決意が固い事を知って、亜耶はそう返した。巫王(ふおう)はこの時を見て居て、澪が初めて御館を訊ねた時に八反目を牽制したのか。

「有り難う御座います、亜耶さま」

 厭な役目を押し付けて、済みません。其れは、亜耶が最後まで言わせなかった。澪に厭な思いをさせたのは、亜耶の采配だから。




 一夜明けて、亜耶は大蛇と時記(ときふさ)と共に巫王の御館へ来て居た。八反目の所行(しょぎょう)は既に巫王に知れていて、如何(どう)した物かと頭を悩ませて居る。

「亜耶は、如何思う?」

「此の先、一の兄様が澪に出来る事など有りません」

「時記は?」

「私は構わないよ。予定より、少し早く纏向(まきむく)に行くだけの事だ」

 集まった巫覡の二人共が、八反目にもう挽回の余地は無いという。そして、巫王も同意見だ。美髯を撫で、巫王は唸る。

 今後、八反目は大王の怒りを買う事は有っても、お褒めに預かる事は無い。其れが、八反目の資質。対して時記は、夜目は利かないが要領は良く、頭が回る。そして誠実だ。長子を寄越せと云われなければ、巫王は最初から時記を送る積もりだった。

「ならば時記、宴を終えたら纏向へ向かえ」

 小埜瀬を先導に付ける。異世火(ことよび)を追い掛ければ、夜道も行けるだろう、と。巫王は覚悟を決めた様子で、段取りを決めていく。

 (くが)で早馬を借りる、と言って、巫王は退座した。亜耶と大蛇は、神殿(かむどの)へ向かう事にする。

「時記兄様、一緒に神殿に行く?」

「ああ、偶には良いね。角を落とした大龍彦(おおつちひこ)も見て居無いし」

 聞けば時記は、守神(まもりがみ)になった綾と大龍彦に声を掛けて良いのか分からず、(みそぎ)の後に神殿に祈るだけにしていたらしい。きっと綾は、一笑に付すだろうに。

 話が決まった所で、集められた全員が巫王の御館を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ