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魚の杜の巫女  作者: 楡 依雫
水鏡篇

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四十三、報告

 側女(そばめ)を少しは手懐けろ。亜耶は月葉(つくは)に、そんな忠告をして居た。厳しく接するだけでは、真耶佳(まやか)を敬う様にはならないと。

 月葉は皆が真耶佳を敬う未来(さき)を見て居るだけで、其の過程は度外視した。だから各務(かがみ)以外、未だ声も掛けて来ないのだ。

 亜耶に言われたから、早速実行した。そんな報告を受けて居ると、大蛇(おろと)が燻した兎を腰に下げて大窓から入って来た。

「真耶佳の様子は如何なんだ?」

 亜耶が水鏡(みずかがみ)に向かっているのを見て、大蛇が聞く。

「調子を取り戻して来たみたい」

 大蛇の方を向いて答えると、水鏡の向こうの(みお)が仲がお宜しい事で、とからかって来た。其れは大蛇にも聞こえたらしく、兎を解す方に専念する事にした様だ。

「澪、其れで側女達は名乗ったの?」

「はい。やっと全員の真名(まな)を知りました」

 五月(いつつき)にも渡って、主に名を名乗らない。そんな主従関係が有るのかと疑いたくなるが、事実、宮はいつも空気が張り詰めて居たと云う。最初のうちに、側女頭(そばめがしら)を変えた事にも原因は有るだろう。しかし、真耶佳の方から歩み寄らなかった事も大きい。

「そう云えば、今夜は月待(つきま)ちの(うたげ)とやらで大王(おおきみ)がお越しにならないのですけど…」

 真耶佳さまのご機嫌が、(すこぶ)る良いです。澪が続けた言葉で、亜耶は思わず笑って仕舞う。大王も嫌われている訳では無いのだが、(おとな)いが頻繁過ぎるのだ。

 悪阻の間くらい、そっとして置いて遣って欲しかった。其れが、亜耶の本音だ。そう言うと、澪も頷く。

「求められて居無い事は、ご存じなのですけどね…」

「あら、そうなの?」

 お心の強い方ね、と亜耶は思わず口にした。慣れさせるにしても、もう少し遣り方は有るだろうに。澪も其れには同意して、暫く大王の話に花が咲いた。




 澪との会話を終えると、手持ち無沙汰だったのか大蛇が粥を温めて来た。温かい肉には温かい粥だろ、との事だ。

「外で、八津代(やつしろ)に会ったぜ」

「お父様に?」

「三日後には宴だと、言い残して行きやがった」

 遂にか、と大蛇は浮かない顔をする。遣るならば早く済ませて仕舞った方が良い、と亜耶は思うのだが。

「悪阻が開けるまで待ったらしいぞ」

「…悪かったわね、大蛇」

 宴が終わって数日も経てば、大蛇も族人(うからびと)から囲まれなくなろう。其の機を遅らせて居たのが、亜耶の悪阻だった。途端に申し訳ない気持ちになって、亜耶は大蛇に詫びる。

「いや、此の(うから)で巫女姫を(いも)にする代償だと思えば…」

 珍しく殊勝な事を言う大蛇は、表情が言葉と噛み合って居無かった。ただ、亜耶も理由を知った以上、深くは追求しない。有り難う、とだけ言って、二人で遅い昼餉に専念した。

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