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魚の杜の巫女  作者: 楡 依雫
魚の杜篇
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七、痕

 (もり)に着く頃には、日が傾いていた。騒々しくして仕舞った所為で、未だ上衣(かみぎぬ)が暑い。

神饌(みせ)神殿(かむどの)に上げて、明日お下がりを頂きましょう」

 保存食を作るには、此れから来る季節は向いていない。早めに腹に収めて仕舞うのが良い。知るのは亜耶のみだが、どうせ明日の夜は急な宴だ。其の仕上げをする為に、亜耶は真耶佳と澪を湯殿に誘った。

 長い旅路を来た澪は特に、湯を使えると知って喜んだ。真耶佳とも、共に湯浴みするのは久し振りだ。

「ねえ、花湯にしましょう」

「そうね、皆で入るなら其れが良いわ」

 女御館(おなみたち)の奥に在る湯殿に向かう足は、皆軽かった。亜耶は忘れて居たのだ、上衣を着た其の訳を。




 亜耶が生娘で無い事は、湯殿の女達と真耶佳には知れている。知れているが皆口が固く、誰にも漏らさない。

 そして、何も知らないのが澪。彼女は、衣を脱いだ亜耶の胸乳(むなぢ)を見て悲鳴を上げた。

「あ、亜耶さま、お胸が酷く(かぶ)れて居ります…っ!」

「あ…」

 生娘らしい反応に、女達も真耶佳も皆笑う。

「違うわよ、澪。そう云う物なの」

「え……?」

 気不味さから目を逸らした亜耶に、真耶佳が更に笑う。真耶佳も男は知らない筈だが、亜耶の胸乳に度々散らされる痕を見慣れて仕舞って居るのだ。

「此度は一層派手で御座いますねえ」

 湯殿で一番年嵩の婆が、最早関心した様に無遠慮な視線を寄越す。

「だから上衣なんて着ていたのね、今日の陽気にしては厚着だと思ったのよ」

「………」

 (くが)に出掛ける日に限って、何故そんなに派手に。女達も真耶佳に同調するので、亜耶は事の顛末を披露しなければ為らなくなった。

「夕べは添い寝だけ、と思って居たのよ…」

 亜耶の話に興味津々。そんな目に曝され乍ら、亜耶は顔を赤らめて話し出した。




 昨夜、大蛇(おろと)と共寝した時。毎回亜耶の肌に痕を残したがる大蛇を、軽く咎めたのだ。そうしたら、事態は開き直る大蛇と、秘め事なのだと言い募る亜耶と云う痴話喧嘩にも似たものに発展した。

 (きぬ)(はだ)ければ、他人(ひと)に知れてしまう。只でさえ今は季節の変わり目で、前の年の衣の胸紐を無理に結ばなければ為らないのに、と。

「だからお前、いつも上衣なんて着てるのか」

 大蛇に取っては笑い事でしか無かったらしく、更に痕を散らされた。只人には見えない大蛇は他人の目など気にして居無いだろうが、亜耶は立場が立場だ。困る、と言うのに。

「痕さえ無ければ、幾ら開けたって良いのよ」

 弾みで出たその言葉が、大蛇の眉をぴくり、と動かした。

「だったら、もっと付けとかねえとな」

 見せたく無い。そう云って呉れれば可愛い物を、大蛇は手心を加える事無く言葉に従う。

 結局、亜耶の胸乳は疹れた様に紅くなった。満足げな大蛇に、亜耶は(あき)れるばかりだった。




 亜耶が悪い。そう言い出したのは、湯殿の女達だ。

「悋気に触れる様に仕向けた、としか聞こえません」

 惘れ果てるのは此方だと、婆が皺だらけの顔に渋面を貼り付ける。

「亜耶さまは人目に触れるお方。お相手様にも、そう扱って欲しい物です。其れに鑑みても、亜耶さまのお言葉は過ぎます」

 婆のお小言は、一度始まると長いのだ。肩を竦める亜耶を、真耶佳と澪が見放して居る。澪に至っては、全身の垢を擦られ乍ら湯殿の床に敷かれた玉石に気を逸らされて居た。

「其れから、剰り大きく育てない様にとお相手様にもお伝え下さい!」

「そ…育てる…?」

 自然発生的に膨らみ出した物を、育てるとは何事か。疑問符を浮かべて仕舞った亜耶に、女の一人が耳打ちする。

 胸乳は、男に揉まれても育つのですよ、と。

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