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魚の杜の巫女  作者: 楡 依雫
水鏡篇

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三十三、日輪

 其の夜、亜耶は夢を見た。日輪(ひのわ)を頂いた赤子が、真耶佳(まやか)の胎内に抱き締められる夢。ああ、真耶佳はもう孕むのだ。祝えない孕みに、亜耶は少し寂しく思った。

 目を開けると、亜耶は幾日か振りに曇天の空に朝の明るさを見る。大蛇(おろと)はいつも此の時間には起きている様で、既に身支度をして居た。

「大蛇、何処に行くの?」

「山だ。この間、鳥食えなかっただろ」

 気にして居たのか、自分も食いたかったのか。亜耶はそう、気を付けて、とだけ言って送り出した。

 こんな早くには、宮の誰も起きて居無いだろう。真耶佳の孕みの件は、後で水鏡(みずかがみ)を揺らせば良い。大蛇が帰るまで、もう一度寝よう。この頃本当によく眠る、と自分に惘れ乍ら、亜耶は再びの眠りに就いた。




 夕べの雨は酷かったが、今日は曇天の侭時が過ぎた様だ。雨の匂いはせず、湿気た空気が大窓から流れ込んでいる。

 少し寝汗を掻いた亜耶は、大蛇が戻って居無いなら湯殿に行こう、と思った。しかし御館(みたち)から出ると、また大蛇が鳥を捌いて居る。何故かこの間より多く鳥を捕って来た様だ。舎人(とねり)氷冴(ひさえ)が期待に目を輝かせて居るのが、原因かも知れない。

 きっと、御館を出る時に氷冴に聞かれたのだろう。正直に答えてお零れを期待させて仕舞った、と云った処か。

「もう少し掛かる?」

 亜耶が声を掛けると、大蛇は未だだ、と答えた。朝餉ならもう用意されているから、食え。そう言われるまで亜耶は、大蛇が朝餉の下拵えをしていると思って居た。

「もう、昼…?」

「ああ、そうだぜ」

 大蛇は亜耶の思い違いに気付いた様で、忍び笑いを漏らす。あんなに朝が早かったのに、と言われて仕舞うと、亜耶も何も言えない。

「お前、意外と抜けてるよな」

「…朝餉を取って少し、(みお)と話すわ」

 大した反論も出来ない侭、亜耶は御館に引っ込んだ。亜耶が見落として居ただけで、確かに朝餉は置いて在る。抜けている、と言われても仕方無い程分かり易く。亜耶は黙って、今朝も赤粥を食らった。




 昨日から真耶佳が赤粥を羨ましがって居る、と聞いたのは、洗い髪の澪からだった。何故洗い髪なのか聞くと、真耶佳と共に湯を使ったと言う。

「産婆に体を見て貰いました」

 ほのぼのと言う澪だが、宮仕えをして居る分朝は早い様だ。怠惰な自分を改めなくては、と此処でも亜耶は思う。

「其れで、如何(どう)だったの?一月(ひとつき)でも、産婆には分かるのかしら」

「育ちが早い様だと言われました。心の拍がよく聞こえると」

 そうなのね、と亜耶は目を細める。澪の孕みはこんなに喜べるのに、真耶佳の事は気が重い。

「澪、真耶佳も今夜、孕むみたい」

「そうなのですか、夕べ近いとは思いましたが…」

「今朝、夢を見たのよ」

 夢の内容を話すと、澪は事の大きさに気付いて呉れた。日輪を頂くとは、と言葉を詰まらせる。

「亜耶さま、真耶佳さまにもお伝えしますか?」

「拒めない事だけれど、伝えて置いた方が良いわ」

 分かりました、と澪が言った。赤米は今度送るわ。そう言うと、真耶佳に伝える前に、澪が喜んだ。

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