二十六、放逐
側女の放逐を大王に報告するのは、月葉の役目と決まった。各務を取り立てる様、嘆願するのは澪。そう役割を分担して、今宵も大王を待つ。
大王はまた先触れと共に現れ、宮を混乱に陥れた。何の為の先触れか、と澪は心の中で思う。女達にも、心の準備が要るのだと。
「大王、此方へ…。本日はご報告が御座います」
澪か出迎え際に言うと、大王は気にした様子も無く聞こう、と言った。
「側女の件か」
「はい。詳しくは月葉から…」
追い出された側女は、既に宮外で悪辣に騒ぎ立てて居る。其れは、月葉にも澪にも見えて居た。せめて、大王には事のあらましを入れて置くべきだとの判断だった。
「醜女、としか記憶していない側女で御座います。名乗りませんでしたから。其の側女が昨日、真耶佳さまを貶める言葉で嗤って居りました」
其れを筆頭として大王の遣わされた側女は、一人を除いてお手付き目当てで仕事をしません。見せしめに言い出した者を、放逐致しました。
蕩々と述べる月葉の報告は的確で、冷たい。大王も美しい神人の紡ぐ言葉の羅列に、圧されて居る。畳み掛ける様に澪が、除いた一人を側女頭にしたいと訴える。
「各務と云う側女で御座います。一人浮いている様でしたが、きちんと仕事は致しますし、真耶佳さまを敬って居ります」
「あの者を筆頭とすれば、側女達にも真耶佳さまを敬う心が出て来るかと」
「う、うむ…」
眦に朱を入れた二人に詰め寄られて、大王は暫し沈黙した。何より、真耶佳が虐げられて居た事に思い馳せている様だ。
「各務なる者以外は、どうなのだ」
「醜女を放逐してからは、真面目に働いて居ります」
最早醜女と云う固有名詞を付けられた側女が、諸悪の根源。月葉は其の一手で圧す。事実、あの側女が居無くなれば真耶佳を貶める者は出なかった。
「…分かった。各務なる者を呼べ」
「はい」
澪は急いで、各務を大王の前に連れ出した。各務は何事かと青ざめて居る。
「各務で間違いないか」
「は…はい」
「其方を真耶佳姫の側目頭に任ず。主をよく敬え」
各務は何が起きたのか分からぬ様に澪を見、大王に視線を戻す。急な話だ、狼狽えるのも当たり前だろう。
「各務の献身が、大王の信を得たのですよ」
澪がそっと言うと、各務の目から光栄にぼろぼろと涙が溢れて来た。背を撫でて遣ると、大王に頭を下げる。
「勿論、心の限り努めさせて頂きます…!」
「ようよう頼んだ」
各務は更に深く頭を下げ、はい、と返事をした。此れで宮内は安泰、と澪は肩の力を抜く。後は、大王を真耶佳の元へと先導するだけ。
閨へと足を踏み入れた大王は、今宵は更に美しい、と真耶佳を褒め称えた。




