表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魚の杜の巫女  作者: 楡 依雫
水鏡篇

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/269

八、酒

 亜耶に聞き忘れた事が有った、と言い出したのは月葉(つくは)だった。大王(おおきみ)のお通いに、酒は必要か。其れだけの事なのに、三人では答えが出ない。ならばいっそ月葉が見ればとも思うが、どうも其れは別の話らしい。

「私、酔った男に無理を強いられるのは厭よ」

 真耶佳(まやか)がそう言い出したので、(みお)は亜耶を呼んだ。けれど、呼べども呼べども水鏡(みずかがみ)は応えない。

「亜耶さまは、御館(みたち)をお離れの様ですね」

「今回だけは口を出すと仰有ったのに…困りました」

 亜耶自身が酒を好かない為に、意識の外に在ったのか。其れとも、用意して当然の物なのか。此の宮の外では、毎日酒が振る舞われると聞く。困った澪は、側女(そばめ)の一人に訊く事にした。

 各務(かがみ)と名乗った側女曰く、此の宮では食事は豪華だが、酒が出ない事だけが不服だと嘆く従者(ずさ)が多い、と。其れに、大王は酒がお好きで在られるとも。

「では、宮の外から酒を頂いて来ましょうか」

 澪が提案すると、各務は自分が行くと申し出た。恐らく今後は、宮内(みやうち)に酒が出回るのだろう。

 澪が戻ってそう告げると、真耶佳は大きく溜息を吐いた。

「酒で乱れた宮には、したくない物だわ」

 側女に聞こえる様に釘を刺す真耶佳に、澪と月葉は苦笑いするしか無い。真耶佳に無礼を働けば、即(くび)られる。身分の低い者ほどそう云う事には敏感なのだし、禁じても持ち込まれるのは時間の問題。

 真耶佳を宥めるのは、月葉の役目だ。澪は酒の持ち込みは真耶佳の意では無い事を、出来る限り触れて回る。

 澪も、八反目(やため)が酒を飲む様になるのは酷く不安だ。しかし、大王が酒好きでは仕方無い。真耶佳が発言権を持つ様になったら改めて貰おう、と澪は固く心に誓った。




 亜耶が昼間、最近(もり)では(こわ)い米が出ると言って居た。其れが此れなのか、と三人で食らうのは少ない水で炊いた米だ。普段は杜で充分とされる水で炊いた粥を主食としていたが、此方では強い米が主流だと云う。

 (くりや)族人(うからびと)に、大王から遣わされた従者が教えたのだそうだ。杜では、八反目と交代した小埜瀬(おのせ)が広めたのだろう。

「形の在る米を噛むって、不思議ね」

「赤米では倍の時間が掛かると、厨で聞きましたよ」

 大王は夕餉を欲しないと言うので、先に済ませようと云う事になった。強い米は粘りが強く固まるので、匙に乗せるのも一苦労だ。既に、澪は幾度か床に溢している。

「私、朝だけは粥が良いわ」

「私もです…」

「同感です、私も粥に馴れて居りますので」

 悪意の有る側女が、(ひな)()と陰口を言うのが聞こえた。此方も隠れ里から出て来た自覚は有るので、暴言に成って居無いのに気付かないのだろうか。

 月葉が鋭い視線を向けると、側女は目を逸らした。居直れないならば、言わなければ良い。側女の分際で大王のお手付きを期待して居るのなら、堂々として居れば良いのだ。尤も、容色が追い付いて居無いが。

「美しい方が(うつく)(ごと)を言うと、当然だと思いますけれど…逆もまた然りですね」

「ええ、此方は杜から出て来たのだもの。気にする必要が無いわ」

 真耶佳への暴言に激高した月葉に、真耶佳と澪が揃って止めに入る。相手にする程の者でも無い、と言外に滲ませて。

 側女は、馬鹿にされたと知って顔を真っ赤にして出て行った。仕えを放棄したのか、腹癒せに酒でも仰いで来るのか。余り、此の宮に長くは居なさそうだ、と澪は思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ