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魚の杜の巫女  作者: 楡 依雫
魚の杜篇

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二十、玉石探し

 翌朝、亜耶が目を覚ますと大蛇(おろと)の姿は既に無かった。(みお)も共に(みそぎ)に行くのを、考慮して呉れたのだろう。たん、と音を立てて床を叩き、間に巡らされた術を解く。

「其の音を聞くと、忌屋(いみや)だわって思うのよね」

 珍しく起きていた真耶佳(まやか)が、隣の間から声を掛けてきた。普段は何をしても禊の時間には起きないと云うのに。

女御館(おなみたち)は忍び恋には向かないわね」

 からかう様な声音に、随分前から目を覚ましていた事が伺い知れる。

「そんな物じゃないわ」

 言い返し乍ら亜耶は、禊衣(みそぎぬ)に着替えていく。忌屋に行くのは夕刻だから、その前に澪を川に連れて行こう。どうせなら玉石(たまいし)探しの上手い真耶佳も、と起き抜けの頭で思考を巡らせた。

「真耶佳、今から寝ないでね。忌屋の前に澪を連れて川に行くんだから」

「禊から戻ったら?」

「そう」

 布連を分けて沓を履くと、澪にも当然聞こえて居た筈で。

「亜耶さま、私も今日から月の忌みです…」

「知って居るわ。夕刻に行けば間に合うわよ」

「…三人で行くのですか?」

 何故か嬉しそうな澪に、そうだと答えると楽しみです、と帰って来た。憂鬱な月の忌みの、何が楽しみなのか。亜耶が問うと、澪は少し沈んだ声で語り出した。

「私、此れまで知らない族の忌屋を借りる事が多かったのです」

 澪は船巫女と云う立場上、年中海に出ていた。寄港先の港で月の忌みを迎え、見知らぬ者と共に憂鬱な二晩を過ごす事が多かったと云う。忌屋の隅で膝を抱え、ひたすら時が経つのを待つだけの日々。忌屋で交わされる女達の会話にも、入れた事は無かったそうだ。

 かと云って、族に戻っても知る顔なんてほんの少し。忌屋での状況は変わらなかった。

「そうだったのね…」

「でも私達、眠っている以外は取り留めの無い話しかしないわよ?」

「其れがしたいのです!」

 喜びに沸いた声でそう言われると、亜耶も真耶佳も弱い。布連から顔を出した真耶佳も、では三人一緒ね、と声を掛けた。




 今朝の禊は、玉石も無いので普段の浄めと同じだ。大した時間も掛からず、亜耶と澪は女御館に戻った。

「ねえ、丈が足りなく為って仕舞ったわ」

 戻ると真耶佳も水遊び用の衣を着ていたのだが、裳の丈が合わなくなったと嘆いている。

「仕方無いわよ、真耶佳は普段水辺になんて近寄らないじゃない」

 その遊び着はいつの物かと問えば、数年前と返って来た。良く見れば踝は隠れているし、其れで良い。沓が見え隠れする程度だ、と、亜耶と真耶佳の遣り取りは簡単に終わった。

「二人は、禊衣で行くの?」

「ええ。夕刻前には着替えるし、神殿も近いから誤魔化せるわ」

 話が決まるが早いか、三人は川へ向かう。夕刻までに、戻る為に。




 宿り木の内側、神山(かむやま)から流れる川は、亜耶の見立て通り玉石で溢れていた。この川は雨の季節に為ると上流の流れが増し、周囲の岩を削って玉石を露出させ流してくる。

 稀に尖った玉石が川底に在るのは、川での熟れが少なかった所為だ。だから気をつけて、と言う前に、澪は川の中へ入って居た。

「うわあ、此れも、此れも…!」

 日に透かしては戻し、新たな玉石を探す。昔真耶佳とした遊びを、今度は三人でして居るのだ。妹姫(おとひめ)なんぞ持つ筈が無いと思っていた亜耶には、新鮮だった。

「ねえ、見て」

 此方も童心に返ったか、夢中で川を探っていた真耶佳が声を上げた。亜耶と澪は、其の声に真耶佳の元に集まる。

「月長石が三つも出て来たの。珍しいでしょう?」

 青く光る月長石を両の手に捧げ持ち、真耶佳が言う。全部、虹が出るのよと。

「珍しいわね…綾に聞いてみましょうか」

 偶然は必然。巫覡(ふげき)(うから)では幼い頃からそう教えられる。

 だから真耶佳は、宿り木の結界を潜って神殿(かむどの)へと向かった。当然、亜耶と澪も一緒に。

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