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切り裂き屋の憂鬱な日曜日 ACT1

この作品は作者が舞氏のHP、「ARCADIA」と自分のHP「たわごと御殿」に掲載しているものを再度投稿したものです。残酷かつ暴力的な描写が出てくる場面がありますので、ご注意してください。追伸:作者の失敗で、振ったルビが全部消えていましたので、あわてて修正しました。ごめんなさい。

 ―――なんでこんなことになったんだ?



 休日で街に溢れ返る雑踏を掻き分けながら自問する。


 ついさっきまで俺は自分が今日世界一ハッピーな人間だと思っていた。

 三日前、ずっと狙っていた意中の相手をやっとの思いでデートに誘い出す事に成功したからだ。


 多忙な彼女の余暇と俺の休日が重なり合うことなんて奇跡に近い。

 この三日間、自由になる時間は全てデートのスケジュールを作ることに費やした。

 最後の一日はほとんど徹夜だった。


 三十路の成人男子がデートぐらいで、初めて遠足に出かける幼稚園児みたいに興奮して眠れなくなるなんて我ながら恥ずかしい話だ。

 だが、そんな事はどうでも良かった。

 家から出る時、そりゃ幸せで幸せでしょうがなかった。

 自分の脚がスキップし始めるのを抑えるのにも一苦労するほどだった。


 ……それが今じゃあコンクリートのジャングルを目に見えない『 肉食獣(プレデター)』の影に怯えながら逃げ回っている。



 ―――なんでこんなことになったんだ?



「おい、『切り裂き屋(リッパー)』。そんなにちんたら歩いてて、俺から逃げきれると思ってるのか?」


 携帯から聞こえる粗野な男の声。

 こいつの名前は『山猫(リンクス)』。

 ちなみに『切り裂き屋(リッパー)』というのは俺の渾名だ。

 今から10分前、『山猫(リンクス)』の電話を受信した時から俺の人生最高の日は奈落への坂道をまっ逆さまに転がり落ちている。


「聞こえるか、『切り裂き屋(リッパー)』? 俺は『山猫(リンクス)』だ」


 10分前、俺が通話ボタンを押した途端、奴は始めましての挨拶も自己紹介もなく、いきなりそう切り出した。

 そして、こっちの返事も待たずに続けて言った。


「今からお前を殺しに行く。首を洗って待っていろ」


 ……きょうび、チンピラのナンパだってもうちょっとマシな台詞を使うだろうに。

 だが、俺はその電話のせいで2時間前から陣取っていた待ち合わせ場所から大急ぎで離れなければならなくなった。

 『山猫(リンクス)』の名前にはそれだけの力があるのだ。


 ……『山猫(リンクス)』。


 俺と同じEX=Geneによって覚醒した『強化人類(イクステンデット)』。

 だけど俺のような落ち毀れの三流能力者とは違う、一流の仕事人。

 一流の元傭兵にして現役の名探偵、そして一流の掃除屋でもある。


 対する俺のほうはといえば、能力(EX=GENE)の破壊力こそ他に類を見ないが、俺自身はあくまで普通の、或いは普通以下の身体能力しか持たないただの成人男子に過ぎない。


 臆病者で小心者。

 部活動は中学校から大学に至るまで全て帰宅部。

 格闘経験も、一人で荒事に携わった経験もほぼゼロに近い。

 ついでに最近ストレスの連続で少しばかり頭髪が後退していた。

 そして、今そんな俺が百戦錬磨の殺し屋は命を付け狙われている。


 ―――くそっ! どうしてこんな事になったんだ!?


 もう何度繰り返したか分からない自分のへの質問。

 頭の中でどこか冷めた部分がその質問に決まりきった答えを返す。


 決まってるだろ、俺?

 こんな馬鹿げた事は全部あのEX=Geneの仕業に決まってる!


 ああ、分かってるとも、俺。

 あたりまえの事を聞いて悪かったな。


 ちょっと変わった特技と少しばかり物騒な渾名、しかしそれ以外一般市民と何一つ変わらない俺のような人間が『山猫(リンクス)』のような危険な輩とかかわりあう事があるとすれば、その接点はEX=Gene以外には考えられない。


 EX=Gene、人は様々な意味と感慨を込めてその名を口にする。

 それは、未曾有のバイオハザードを起こしたレトロウィルスの名。

 それは、ウィルスによってもたらされた異類異形の力の別称。

 そして、その異能力を振るう『強化人類(イクステンデット)』の蔑称でもある。


 その存在は21世紀最大のミステリーと呼ばれ、今だにその記録は塗り替えられていない。


 環境汚染物質によって生まれたミュータント、某国によって開発された生物兵器、果ては地球外知性体によるナノマシーン等々……。

 EX=Geneの発生から今日にいたるまでその正体をめぐって飛び交った流言飛語はそれこそ星の数ほどあった。


 だが、公式と非公式を問わず、各国のあらゆる情報機関が総力をあげて情報収集に努めているにも関わらず、その来歴は今だに闇に包まれ、解き明かされてはいない。

 或いは既にどこかの組織が探り当てて、ずっと隠蔽しているのかもしれない。


 EX=Gene自体はインフルエンザやHIVの元凶と同じただのRNAウィルスに過ぎない。

 だが重要なのはそれが何なのかではない。何をするかという事なのだ。


 EX=Geneがする事はただ一つ。

 デオキシリボ核酸によって綴られた人間の設計図に勝手に手を加え、アデニンでも、グアニンでも、シトシンでも、チミンでも新種の塩基をつけたし、『強化人類(イクステンデット)』と呼ばれる怪物に作り変えるのだ。


 EX=Geneはまず無害なウィルスの皮を被って人体に侵入する。数年間の時間をかけて潜伏期間を経て体内の隅々まで行き渡り、そしてある日民衆が反乱を起こすように突如宿主の体を席巻する。


 今から二年前、この小さな反逆者が初めて牙を向いた時、世界もまた革命のような混乱に包まれた。


 突然、異形に変わった己の肉体に驚愕するもの、絶望する者、歓喜する物.

 その異形が発揮する人体の限界を遥かに超えた能力を悪用する者、活用する者、見極めようとする者。


 変異しなかった人間達が異類となった同胞達に向けた恐怖と嫌悪と迫害、畏怖と憧憬と崇拝。

 怪物や超人、天使や悪魔憑きといった言葉が確かな情報もないまま、疫病のように世界を駆け巡り混乱を一層助長した。


 結局、地獄の如き混沌を納めたのは現在宗教家や政治家が盛んに振れ回っているような愛や寛容による奇跡ではなく、昔から伝わる打算と妥協だった。

 EX=Geneの発症が始まって間もない頃、能力者の中で頭の働く連中がすぐに一般人による魔女狩りの可能性に気がついた。

 彼らは仲間を集め組織をつくり、経済界の要人に自分達の存在を明かし、世界の指導者達に否定しようのない形で新しい人類の姿を見せ付けた。


 人から聞いた話だが、当時能力者のリーダー達は自分達の交渉がはね付けられた場合、一般人達と全面戦争をする覚悟を決めていたという。


 だが、結局人類は『デビルマン』や『X-MEN』のような漫画や小説で語られていた程愚かではなかった。

 『強化人類(イクステンデット)』の存在と能力は恐るべきものだ。

 しかし、怜悧な合理性の中で生きる為政者や資本家にとって魔女狩りがもたらす社会や経済のダメージの方が遥かに身近で理解しやすい脅威だったのだ。


 後の研究でほぼ全人類が既にEX=Geneに感染していたのが判明した事やその内発症して異能者に変異する者が僅か0.0001%であった事、さらに当時急速に普及しつつあったインターネットが国境を越えて能力者達を団結させた事等も俺達に有利に働いた。


 異能者達を隔離管理する事が事実上不可能な事を突きつけられた政財界の重鎮達は積極的に自分達の正体を明かさない事を条件に『強化人類(イクステンデット)』の存在を容認する事にした。


 新旧両方の人類は協力して全ての混乱を秘密裏に処理するための国際的な組織を作り上げた。

 全てが異例の速さで進んだ。

 かくして世界という燎原を荒れ狂った混乱の炎は徐々に消し止められていった。


 勿論、妥協と協力に至る道筋は平坦なものではなかった。

 異能者と一般人との間に確執が全くなかったわけでもなかった。

 犠牲者の数は必要最低限に抑えられたが、決して少なかったわけじゃない。


 あれは混沌の時代だった。

 戦争の時代だった。


 その戦争を生き延びるために生まれた智慧の一つが、俺の相棒の『華神(フローラ)』や『山猫(リンクス)』が名乗っているような渾名であった。


 周りの誰が味方で誰が敵なのかもはっきり分からなかったあの頃。俺達異能力者にとって自分の能力やプライベートに関する秘密を守る事は死活問題だった。

 俺達は一般人と、そして仲間内で接触する場合もインターネットで使うような偽名を名乗りあった。


 まるでアメコミに出てくるヒーローやミュータントみたいに仮面を被って生きていたわけだ。

 漫画と違っていたのは、能力や自分の素性とは何の係わり合いもない名前を付けるのが一般的だったこと。

 

 少しつまらないかもしれないが、まあ現実なんてこんなものだ。

 昔の武術家だって秘技の正体を悟られないように技の内容とは全然関係のない名前をつけたと言うじゃないか。

 漫画の中ならともかく、相手に打ちかかる前に大声で技の名前を叫ぶような馬鹿はリアルじゃ長生きできない。


 ただし、俺の渾名、『切り裂き屋(リッパー)』は少しばかり事情が違う。


 まず『切り裂き屋(リッパー)』という渾名は俺が自分につけたものじゃない。

 一見格好良さそうなこの名前は、俺がかつて犯した人生最大のヘマの証なのだ。


 俺がこうして『山猫(リンクス)』と命がけの追いかけっこをしているのも、あの時の失敗が原因だったと言って良いだろう。

 あれは俺が自分の能力に目覚めたばかりの頃の話だ・・・・・・。



  *****



 EX=Geneの発症は各種フィクションの中で主人公がいとも簡単に超能力に目覚めるのとはわけが違う。

 肉体の変異がしっかり固定するまでには死ぬのほどの発熱、発汗、嘔吐、下痢、眩暈、悪寒、変異する器官によっては幻覚や幻聴、躁鬱を潜り抜けなければならない。


 何しろ、体を人間以外のものに作り変えられるのだ。その苦しみたるや半端なものじゃない。

 今ほど能力者間のサポートが確立していなかった当時には、その苦しみに耐え切れずに自殺した人間が何人もいたという。


 変異の苦しみは作り変えられる細胞が多ければ多いほど長く続く。

 特に俺の場合、肉体のほぼ全てをEX=Geneによって改築されたため、何度も生死の境を彷徨う羽目になった。

 最終的には体重が半分ぐらいに減り、人相も別人のみたいに変わってしまった。


 苦痛が凄かっただけにそれが快方に向かった時の喜びも大きかった。

 39度の高熱が1週間続いたせいで頭がちょっとハイになっていたのかもしれない。


 とにかく、病み上がりの俺は止せば良いのにふらふらと街の中に歩き出していって、そしてトラックに轢かれそうになっている1歳ぐらいの赤ん坊を見つけた。


 どこかの馬鹿がうっかり坂道で停車する時にサイドブレーキを引いておく事を忘れたのだ!


 頭で考えるよりも速く体が動いた。


 トラックの前に飛び出し、赤ん坊の体を抱えあげる。

 そこまでは良かったのだが、病み上がりのへろへろの体は1歳児の体重にさえ耐え切れなかった。


 成す術もなくその場に座り込む俺。

 耳を劈く無力な赤ん坊の泣き声。

 目の前には坂道を物凄い勢いで滑り降りる推定5トンの大質量。


 俺は無意識の内に止まれとでも言うように手を上げ、鉄の殻をまとった死に掌を向け、そして―――



 ―――トラックを真っ二つに切り裂いた。



 それは俺が初めて『力』を振るった瞬間だった。

 自分の中に眠る得体の知れない怪物に震え上がった瞬間だった。

 俺は赤ん坊を近くにいた女性に預けると、一目散にその場から逃げ去った。


 だが、運の悪い事にその場には俺と同じ能力者がいた。

 さらに運の悪い事にそいつは多少顔が変わり果てていても、俺が誰なのか特定できる能力の持ち主だった。

 その日のうちに、俺の名前と衝撃の瞬間を映した写真が能力者間のネットワークを駆け巡り、『切り裂き屋(リッパー)』は一夜にして当時世界でも最も有名な能力者の一人となった。


 あの子を助けた事は微塵も後悔した事はない。


 しかし、他にやりようがあったんじゃないかと思う事がある。

 例えば子供を能力で軽く突き飛ばすとか、俺があの子を抱えた瞬間足元の地面を爆発させて飛び退くとか・・・・・・


 仮定は幾らでもできる。だが、過去を変えることは出来ない。

 混乱に満ちたあの時代、俺達『強化人類(イクステンデット)』は誰もが二律背反する感情を抱えていた。


 誰もが自分が人間よりも優れた存在なのだと思い込みたがる一方で、一般人達に疎外され魔女狩りの対称にされる事を恐れていた。

 誰もが腹の底に抑圧されたストレスを溜め込んでいた。


 ほとんどの能力者達は俺の置かれた立場に同情し、見て見ぬ振りをしてくれた。だが、そうじゃない馬鹿な連中もいた。


 そして、そいつらにとって俺は溜まりに溜まった鬱憤を吐き出すための絶好の標的となった。

あの時受けた嫌がらせの数々を思い出すのは今でもかなりの苦痛を伴う。

奴らは俺を肉体的にも、精神的にも徹底的にいたぶったのだ。


全ての元凶となった能力で自分の頭を吹っ飛ばして、楽になりたいと何度考えた事か・・・・・・。


もし、当時EX=Geneのせいで両親を亡くした姪の事がなかったら、或いは後に相棒となる『華神(フローラ)』に拾ってもらえなかったら、とても耐え切れなかっただろう。


華神(フローラ)』。

最強の名高い『(タートル)』と並んで東日本で最も優れた『強化人類(イクステンデット)』と噂される女性。

俺をあの地獄から救い出してくれた恩人であり、

現在、俺が副業で行っている臨時の事件屋の相棒であり、

そして信じられない事に今日の俺のデート相手だった。

少なくとも、相手になるはずだった……。


彼女のお陰で俺は最悪の状況を辛うじて脱出し、嫌がらせをしていた連中を退けて平穏な暮らしを取り戻した。

それとほぼ同じ頃、世界の指導者達と能力者達の努力が実り、EX=Geneによる混乱も一応の決着を見た。


 現在、EX=Geneを発症させた患者達は怠惰な政府や無責任な噂の犠牲になった哀れな被害者として社会に認知されている。

 超能力や怪物等の噂はただの根も葉もない戯言として時たまワイドショーやスポーツ新聞に取り上げられる程度の存在となった。


 無論、あの大火の火種は今も燻りつづけている。


 中東、特にイラクの近くで生まれた『強化人類(イクステンデット)』の多くはテロ活動に身を投じているというし、ロシアや中国では能力者と犯罪組織の癒着が著しい。

 それでも、世界は今様々な力の均衡の上に危うい平和を謳歌しているのだ。


 神は天にあり、世は事も無し―――


 めでたし、めでた―――痛ってええ!! 


 突然、臀部に走った激痛が過去の記憶に逃避していた俺を無理矢理過酷な現実に引き戻した。


 痛い!痛い!痛いなんてもんじゃない!

 まるで、畳針を深々と尻肉に差し込まれたような激痛だ。


 慌ててズボンをまさぐったが、穴があいている様子はなかった。

 ただ痛みだけがズボンの布越しにずきずきとその存在を訴えている。


 俺が激痛の正体をいぶかしんでいると、無意識のうちに耳に当てていた携帯電話から『山猫(リンクス)』の忍び笑いが聞こえてきた。


「くくく、俺を無視するからだぜ、『切り裂き屋(リッパー)』。何時までも一人で話をさせるなよ。寂しい上に俺が馬鹿みたいじゃないか」


 やっぱり、この痛みはこいつのせいか!!

 あっという間に激痛の名残は遠ざかり、代わりに悪寒が背筋を走り、冷や汗がだらだら零れ落ちる。


 見つかった……。


 こちらはまだ相手を見つけていないというのに、一方的に発見されて、攻撃まで受けた。

 おまけに俺は何で攻撃されているのかさえわかっていない。


 くそ、こう言う事態を避けるためにすぐに雑踏の中に逃げ込んだというのに!!


 ただでさえ低い生還率が物凄い速さで磨り減っていくのを感じながら、俺は必死に『山猫(リンクス)』に訴えかけた。


「待ってくれ。頼むから、待ってくれ! なんで俺があんたに殺されなくちゃいけないんだ! わけも分からないのに殺されちゃ溜まらん! 何かあんたの気に触るような事をしたんなら教えてくれ!」

「何をしたかって?」


山猫(リンクス)』の声の温度が一気に下がった。


「てめえ、あれだけの事をしておいてまさか何も覚えてないって言うつもりじゃないんだろうな?」


 何も答えられなかった。

 正にそのとおりだったからだ。


 人から恨みを買う覚えは……無いわけじゃない。

 しかし、その記憶の中で『山猫(リンクス)』のような手練れに繋がるものは一つとしてなかった。

 いくら待っても何も頭に浮かんできそうにないので、俺は仕方なく口を開いた。


「お、俺にどうしろって言うんだ?」

「好きにしな。逃げるのも、命乞いをするも。何しても俺はお前を殺すけどな。じゃあ、一端電話を切るぜ。ちょっとだけ時間をやる。そのスカスカの脳みそを探ってみろ。もし、次に電話した時まだ何も思い出せないって言うのなら―――」


 わざとらしい沈黙。携帯の向こうで『山猫(リンクス)』にやりと顔を歪めるのを感じる。


「―――その時はお仕置きだ」


 奴は言った通り一方的に通話を断ち切った。

 俺は再び、雑踏の中に一人取り残された。


 好きにしろか……。


 ははは、好きにしろってか?



 くそぉ、ふざけるな!



 人の日常を、俺の今までの生涯で一番ハッピーな一日を滅茶苦茶にして言いたい事はそれだけか!!


 好きにしてやるさ!

 ああ、闘ってやるとも!

 もうこうなったら、とことん殺りあうしかない!


 山猫に追い詰められたハムスターの気持ちを味わいながら、携帯電話を折りたたんでコートのポケットの中に詰め込んだ。


 ついでにそのポケットの中にある小さな箱の感触をまさぐった。

 箱の中には今日俺が彼女の送るつもりで買った宝石の指輪が入っている。

 詳しい金額は恥ずかしくて口に出来ないが、俺の給料一か月分に相当するアクセサリーだ。


 兎にも角にも、これを彼女に渡すまでは死んでも死にきれない!!

 真夏でも皮手袋を外さない自分の両手を見下ろす。

 そこにはEX=Geneと言う名の神の悪戯がつけた決して癒える事のない聖痕(スティグマ)がある。


 俺が『切り裂き屋(リッパー)』と呼ばれる事になった由縁が隠されている。

 震える喉で深深と息を吸い込み、目に入った脂汗と共に躊躇いを拭い去り、



 ―――『切り裂き屋(おれ)』はその『(りょうて)』の『(てぶくろ)』を脱ぎ捨てた。





『主人公に送る死亡フラグその1』


「俺、この戦争が終ったら、彼女と結婚するんだ」


       byジョニー(マジで戦死する五秒前)

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