表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/40

踏んだり蹴ったりの犬井③

犬井は関東青龍会の事務所のある、屋敷へ運び込まれた。

車の中で目を覚ました犬井は誘拐だ、と叫んだがもう遅かった。

広い屋敷にBMWが停まると犬井は子分にガッチリと挟まれ、座敷に通された。

「そこに座らせろ」

黒スーツの一人が命令すると、犬井は畳の上に正座させられた。

「会長はもうじきおいでになる。

それまで大人しく待ってろ」

三人の黒スーツの男たちは、座敷に犬井を残して消えた。

恐怖で震えている犬井は、今の内に逃げ出そうと考えた。

走ろうとした犬井は、後ろから「待たんかい、ワレ!」という怒号を聞いた。

振り返ると、座敷の奥にはポロシャツを着たラフな格好をした男が座っていた。

「あ、あんたも俺と同じで、奴らに屋敷に運び込まれたのか?」

犬井は奥にいる男に近づいた。

男は顔を上げた。

男の顔には、見覚えがある。

「よお、このクソガキ。また会えたのお」

その男は、馴れ馴れしくしゃべった。

犬井は最初、よく思い出せなかったが数秒経ってから気づいた。

そいつはこの前、電車のホームで俺を殴って気絶させた男ではないか!

「あ、あんたは・・・」

「うちの徹ちゃんはあれ以来、ビビッて外をよおうろつかんようになってしもうたわ。

これも全部、お前のせいじゃ」

「何でこんな所にいるんだよ?!」

「知らないのか。それなら教えてやろう。

わしは関東青龍会親分、新藤精吉の息子、新藤春雄じゃ」

新藤という若手ヤクザは、ニヤリと笑った。

「わしはじきに親父の跡を継いで、関東青龍会のドンになる男じゃ。

恐れ入ったか」

犬井は頭がおかしくなりそうになった。

三代にも渡って、関東青龍会親分に因縁をつけられるとは。

新藤春雄の首にかかっている、金のネックレスが見えた。

ディズニーのミッキーのマスコットがついている。

悪趣味なネックレスだ。

「ふざけたネックレスだな、それ」

犬井がつぶやくと、新藤春雄は怒って立ち上がった。

「何やとう、ワレ!

これは死んだお袋が遺してくれた大切な形見じゃあ!」

新藤春雄が犬井に殴りかかろうとした時、「やめんかい、春雄!」という声が後ろから聞こえた。

犬井は振り返った。

後ろには子分を従えた親分、新藤精吉がいたのである。

「すんません、親父・・・」

新藤春雄は、大人しくなった。

「この若造の無礼は目に余る物がある。

エンコ詰めさせるよってに準備しろや」

「へいっ、かしこまりました親分!」

子分一同はドスとまな板を、持ってきた。

犬井は体を、ガタガタと振るわせている。

子分の一人が、まな板の上に犬井の左手を置かせ、右手にドスを握らせた。

犬井の体の震えはさっきよりも、激しくなった。

まるで貧乏ゆすりをしているようである。

「今からエンコ詰めさせろ」

親分が言った。

「へい!」

子分は犬井の手に、自分の手を添えてやって、小指を切らせようとした。

「おい、やめろ!ヤクザがカタギにこんな事するのか?!

警察呼ぶぞ!」

犬井は小指を切らせまいと、抵抗した。

「やってみろ。サツを呼ぼうがムダな事じゃ」

親分が涼しげな顔のまま、言った。

「やめろと、言っとるんじゃ~!」

 ドスの刃先は、徐々に小指に近づいていく。

 小指が切られる後一㎜という所で、犬井は気を失った。

「肝の小せえ野郎だ・・・」

ショックで気を失いやがった・・・」

新藤春雄が呆れ返った。

「バカな奴じゃな。小指切らせる真似だけじゃったのに。

この若造を適当な場所に捨ててこい」

「へい!」

親分に子分たちが頭を下げた。


      ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


犬井は目を覚ました。

俺は走ってる車の中にいる。

どこなんだ、ここは?

犬井の頭の中は、ヤクザの邸宅に誘拐され、小指を詰めさせられる寸前までいったのを思い出した。

小指を見ると、ちゃんとあった。

奇跡だ。

「お、降ろしてくれ~!」

犬井はBMWの車内で暴れた。

「黙ってろ、このガキ!」

隣に座っていた新藤春雄が、犬井のみぞおちに鉄拳を入れた。

犬井は涙を流して、前かがみになった。

「おい、クソガキ。親分は寛大なお方だ。

だからこうして今も生きていられるんだ。

関東青龍会の怖さ、とくと身に染みたか」

助手席に座っているヤクザが、振り向いて言った。

「もうここら辺でいいだろう。降ろしてやれ」

「へい!」

新藤春雄が命令すると、走行中に関わらず、子分がドアを開けた。

犬井は確かに走ってる最中の、外の景色を見た。

「あの、降ろすなら駐車場で・・・」

「あばよ!」

子分は犬井の服をつかみ、外へ引きずり出した。

走行しているBMWの車内から、犬井は放り出された。

衝撃で肩を打ったらしい。

犬井は後続車にひかれそうになったが、急ブレーキを踏んでくれたお陰で助かった。

「バカ野郎、死にてえのか!?」

後ろを走っていたダンプの運転手に怒鳴られたが、犬井は肩の骨にひび割れた衝撃で、何も話す事が出来なかった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ