浮気の代償
陽二はしゃがむと、雅夫の目線に合わせた。
「だって、ママが・・・部屋にカギをかけて・・・一緒に寝てくれないんだもん」
雅夫は泣きベソ状態だ。
陽二は舌打ちした。
先に帰った妻が、息子をほったらかしにするとは。
「じゃあ、今日はパパと一緒に寝よう」
陽二は雅夫の手を取って、ベッドに入らせた。
さっきまで泣いていた雅夫は、ものの3分で眠りに落ちた。
やはり眠たかったのだろう。
陽二は雅夫が完全に眠ったのを確認すると、合鍵を持って祐子の部屋の前できた。
「祐子、俺だ。開けてくれよ」
ドアノブを回したが、開かない。
「まだ怒ってるようだな。お互い理解が必要だな」
陽二は合鍵を使って、ドアを開けた。
部屋には椅子に座ってる祐子が背を向けている。
陽二は声が漏れないよう、ドアをそっと閉めた。
「お前が何を考えているのか、教えてくれよ」
陽二は問いかけたが、祐子の返事はない。
「無視してるのか?何とか言えよ」
祐子が黙ったままなので、陽二は祐子の正面に立った。
祐子は死んだような顔をしている。
「おい、俺が嫌いなのか?
嫌いなら、離婚してもいいんだぜ」
陽二は座ってる祐子の顔に近づいた。
「離婚するのかしないのか、イエス・オア・ノーを聞かせてくれ」
黙ったままの祐子。
「おい、いい加減にしろ!何か喋れ!」
陽二が怒鳴ると、祐子は泣き始めた。
「泣き落とし作戦かよ・・・、その手は食わねえ」
「出てってよ・・・」
祐子がポツリ、と言った。
「愛人作って浮気しておいて、一言出てってよか?ふざけんなよ」
「出て行けって言ったのが、分からないの?!」
祐子は怒って立ち上がった。
「出て行くもんかよ、ハッキリ離婚に同意してくれるまではな!」
陽二は離婚届けの用紙を、祐子に見せた。
「俺の記入欄は全部埋めた。判子も押した。
残ってんのはお前の分だけだ」
陽二が祐子に離婚届け書を渡すと、祐子はビリビリに破いてゴミ箱に捨てた。
「てめえ、何さらすんや?!」
「この人でなし!」
祐子は初めて陽二の顔に、ビンタを食らわせた。
「くそアマ!もう貴様は妻でも何でもねえ、この売女が!」
陽二は祐子の鼻に、拳で殴った。
祐子は後ろの壁に激突した。
「お前のチンポコの皮をバナナみたいに剥いで、中身を食ってやる・・・」
鼻血を出した祐子が言う。
「売女のクセによくそんな事が言えるな!
お前に母親なんか、務まるもんか!」
キレた陽二は祐子を妻と思わず蹴ろうとしたが、足を止めた。
開けっ放しのドアの向こうには息子の雅夫が、じっとこっちを見つめているのに気づいたのである。
怒鳴り声で目が覚めたのだ。
「パパ、ママ、何やってんの・・・?」
「いいから寝なさい、雅夫」
陽二が雅夫をベッドに戻そうと近づいた時、祐子は立ち上がって、フライパンで背後から陽二の頭を殴り付けた。
倒れた陽二はグッタリとして、起き上がらない。
「ざまあみろ、てめえが死んでも墓は建ててやらねえからな!てめえも父親なんか務まるか!」
祐子が陽二の首を絞めようとすると、雅夫はベランダへと飛び出した。
「あっ、どこへ行く気?!雅夫!」
祐子は叫んだ。
雅夫は手すりから、身を乗り出した。
手を放せば、10メートル下へ真っ逆さまだ。
「雅夫、やめなさい!」
「ママとパパがケンカするなら、僕は死ぬよ!」
「雅夫!」
祐子が慌てて近づくと、雅夫はつかんでいる片方の手を放した。
「ママ、近寄ると手を放すから」
「バカな真似はやめなさい!
あんたをそんなバカ息子に育てた覚えはないよ!」
祐子は一階まで届くぐらい、大声を出した。
「ケンカしないって、約束してくれる?!」
「するわ!だから危険な真似はやめてちょうだい!」
祐子が我を忘れて叫ぶと、雅夫は手すりをつかんでベランダに戻った。
雅夫は母親である、祐子に抱きついた。
「パパとママがいがみ合う姿なんて、見たくないよ・・・」
「ママが悪かったわ、本当にごめんなさい。
許してくれる?」
「ママとパパが仲直りしたらね」
雅夫は祐子の手を引っ張って、陽二が倒れている部屋に戻った。
陽二は殴られた頭に手をやって、意識が回復した所だった。
「祐子・・・、俺たちの関係も、もう終わりだな」
「そんな事ない、まだ始まったばかりよ」
祐子はいきなり、陽二を抱きしめた。
「陽二、あたしが全部悪いの。あなたに秘密で浮気しておいて。こんなあたしでも、これまで通り、妻として愛してくれる?」
「どういう風の吹き回しだ?
手の込んだ芝居だな?安心させておいて、寝ている間に首絞めて殺すつもりだろ?!」
「そんな事する分けがない!」
足元にいる雅夫が陽二の手を握った。
「パパ、お願いだからママを信じてあげてよ!
ママは本当に反省してるんだから」
陽二は息子の顔を見た。
息子に言われると、何となくその気になってしまう。
「今度浮気したら承知しないからな」
雅夫は両手で陽二と祐子の手を握った。
「やったー、パパとママが仲良くなったー」
はしゃいでる雅夫は、床にゴキブリが這っているのを見つけた。
「ママ!」
「何?!」
「スペースモンスターがいるよ!」
雅夫が指差すとゴキブリは、祐子の足元に近づいた。
「キャー!」
祐子はゴキブリが大の苦手なのだ。
ゴキブリはそのままタンスの後ろに隠れてしまった。
「俺に任せておけ。害虫と戦うには素手は無理だ。何か武器が必要だ。
武器を買ってくるから待ってろ!」




