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間違えて違う作品のドMの方に投稿してさしまいました。
あっちは即消し申したです。
ビュンビュンと風を斬る音が森の中で木霊する。
股間辺りから立派な聖剣……否、性剣を生やした愛大は、思いのほか優秀なスキルに神妙な表情で「なるほど」と頷く。
検証を始めてからしばらく経ち、既に切れ味、強度、動かせる可動域、ついでに自己修正能力についてはある程度把握できた。
剣を動かす速度や咄嗟の反応に関しても問題は見当たらないようだ。
スキル自体の性能には満足していた愛大ではあるが、やはり自身の格好の酷さに今日何度目か分からない溜め息を吐いた。
「はあ、これで見た目さえ良ければ言うことなかったのになあ……」
それは詮無きことだと分かってはいても、そんな呟きが溢れる。
はっきり言って見た目の酷さについての改善は不可能だろう。
それゆえこの見た目ともどうにか折り合いをつけていくしかないのだ。
「それにしても俺の股間はいつの間に手より器用になって、足より力強くなったんだ? ……不思議でたまらないな。前世じゃあただの一度も使えなかったんだけどその反動みたいなものかな。……まあ死ぬほどどうでもいいことだし気にしないでおくか」
愛大は前世から結婚はおろか恋人さえ出来ずじまいのまま人生を終えた。
だからこそ神様より与えられた理不尽な力で三流小説の主人公みたく成り上がり、可愛い女の子たちからチヤホヤされたり、あわよくば恋人になったりとご都合主義な妄想をしていたがご覧の通り、このザマだ。
現実というものは実に世知辛い。
まあ現実とは所詮そんなものだと割り切るほかないが。
そんな現実の無情さに打ちのめされながらも検証を続けていく。
実はスキルに関しての強度や斬れ味よりもある意味で重要な問題が二つほどある。
そのうち一つは自身の股間部分と剣が同化していることに関係することで、一言で言えば股間へのフィードバックだ。
簡単に説明すると股間から顕現している性剣で斬りつけた振動や反動が股間にダイレクトに響いてしまう。
その結果、当然股間から生えている剣と、その下のぶら下げた2つの魂も物理的なダメージが入るのではないかという恐ろし過ぎる懸念を抱いていた愛大。
そうなってしまうと常に弱点丸出しとなり、デメリットは計り知れないものとなる。
とてもじゃないがそんなスキルを使うことは不可能。
モンスターや悪意のある者たちに殺られる前にこのスキルに殺やられるという全く笑えない結末を迎えてしまう。
そう思って内心ヒヤヒヤしていた愛大ではあったが意外なことに全く問題なかった。
響くと言えば当然のように響く。
しかしそれだけ。
許容範囲に収まるレベルであった。
よって、それが原因で苦痛を伴うということはないのが証明されたので、懸念の一つは解消されたと言っていい。
で、もう一つは『スキルのオンオフの切り替え』に関してだ。
こちらも股間へのフィードバックと同様に懸念があったのだが、ありがたいことに自分の意思で問題なく行えた。
流石に常にこのままだったら下手をしたら……いや下手をしなくても猥褻物陳列罪で捕まってしまう。
この世界にそんな法律があるかは不明だが、どうであれ、そう遠くない未来で犯罪者のレッテルを貼られてしまうことは必須だったはずだ。
今挙げた二つの問題に関しては地味に最重要懸念であり、検証中は気が気じゃなかったが、何の問題も起きずに解消できたので愛大は安堵の息を漏らした。
もし仮にこの問題を回避できずだと、既にボロ雑巾のようになっている愛大のメンタルが更にズタズタにされる羽目になっていたことだろう。
と、そこそこの時間を費やして検証してきた。
検証結果としては大いに満足のいくものだったと言っていいだろう。
スキルの見た目は言わずもがなではあるが、戦闘能力に関して言えばそれなり以上に優秀だと十分に判断できた。
これは大きな収穫だ。
「さてと、とりあえず能力はある程度把握したし、後は鍛えるしかないんだけど、どうやって鍛えればいいかなあ」
鍛える段階に移った愛大だったが、鍛え方が分からないため悩んでいるようだ。
この世界にはステータスという概念があり、それぞれ数値がある。
また、スキルを使い込んで熟練度を上げて、一定水準以上を超えるとレベルも上がっていく。
つまり鍛えるというのはステータスの数値とスキルレベルの両面を上げていくことを意味するわけだ。
単純に考えてスキルを使っていればスキルレベルはもちろんのことそれに連なるステータス値も上がっていく。
とはいえ、それだけでは上がり幅は余り良いものとは言えない。
ならどうすれば効率的に自身を鍛えれるのか。
それはーー
ーーポキッ
「ん? なんか今、音しなかった? ーーッ⁉︎⁉︎」
愛大は背後から枝を踏んで折ったような音が聞こえたような気がしたので振り向くとそこにはーー
「クキャキャキャ」
緑色の皮膚をした小鬼とも言うべき化け物がいた。
「こ、こいつは……⁉︎」
目の前に現れた不気味な笑い声を発している化け物は人類に害を成す存在ーーモンスターであった‼︎
そう、効率的に鍛えるのであればこのようなモンスターを倒すのが一番手っ取り早い。
実践の経験値というものはそれだけ大きいのだ。
とはいえ、その手段を取るのであれば必然的に命のやり取りを行うことなり、それ相応のリスクが生じてしまうのだが。
いきなり目の前に現れたモンスターを険しい目で見据える愛大。
警戒しながらも目を凝らす。
腰蓑を付け、片手にゴツい棍棒を持っている。
この特徴からその正体を即座に判断できた。
「……ご、ゴブリンだ……‼︎」
検証のため木々を斬り倒したり、自身の見た目の酷さを叫んでいたりと、派手な行動を取っていたため偶然にも森の奥深くにしかい生息しないはずのゴブリンを引き寄せてしまったらしい。
(ま、不味い! どうしよう? どうしたらいいんだ⁉︎)
と、声に出さないものの内心焦りまくる愛大であるが、この反応は仕方がないものだ。
なんせこの世界に転生してから初めて訪れた危機。
先ほどこんな危機的状況に陥っても対応できるようにと、己の変態スキルを鍛えることを決意したものの、まさかこんなに早くその機会とやらが訪れるとは思いもしなかった。
当然、まだ能力の把握しか出来ていない。
つまりまだまだモンスターと戦うには準備不足。
とはいえ時間は刻一刻と過ぎていく。
ゴブリンは真っ直ぐこちらに向かって来ている。
それは既にこちらの存在に気がついていることを意味する。
つまりこの状態で選べる選択肢は『迎え撃つ』か『撤退する』かの二つ。
(……逃げたいけど、こいつに背を向けるのは怖すぎるよな。何してくるか分からないし……)
愛大とゴブリンとの距離は僅か20メートルほど。
ゴブリンがどの程度の俊敏性を持つのか、また攻撃範囲がどれくらいかを分からない愛大にとって、そんな相手に背中を見せるような行為は出来ない。
既にロックオンされているため尚更のこと。
下手をすれば、背後から棍棒を投げられ、仮に当たってしまったら致命傷になりかねない。
そうなるといよいよ自身の身が危険……というよりゲームオーバー。
即座にそう考えた愛大は一度息を吸って、自身を落ち着かせるようにゆっくりと吐いた。
腰を低く落として何があっても動けるような体制へと整える。
そしてスキルを発動させ、股間きら性剣を顕現させた。
「よ、よし、やってやる……‼︎」
どうやら愛大はゴブリンと一戦交えるつもりのようだ。
その目は真剣そのもの。
一瞬たりとも目を離さない。
どうやって倒そうかと普段はあまり使わない脳をハイスピードで使って思考を巡らせる。
(さてどうしたもんか……いやまあ俺が出来ることは限られるんだけど……)
そう、愛大が出来るのは股間から生えた性剣を振り回すことくらいだ。
5歳の時にこのスキルを得たが、見た目の酷さからスキルを全く使おうとしなかったためスキル熟練度は限りなく低く、当然レベルも最低レベルの『1』である。
こんな状態で倒さなければならない。
それが出来なければ……。
ーー死あるのみ
棍棒で雑巾のように打ちのめされ、最後には頭を潰されて第二の人生も早々に幕を閉じることになるだろう。
それだけは嫌だ‼︎
その強い想いで怯えている自分を奮い立たせ、立ち向かうことにした。