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はあ……
今日は愛大の記念すべき5回目の誕生日。
5歳になれば天よりステータスを与えられ、何らかの特技や技術、技能、魔法などの適正があるスキルが発現する。
ようやく神様から与えられたレアな特典とやらの正体がわかるのでウキウキしていた。
そんな待ちに待った日であったのだ。
院長先生からプレゼントも貰って上気分の愛大だった。
このまま何もかもが順調にいくだろうと思っていた。
しかし、そうは問屋が卸さなかったのだ。
院長先生からも促される形で自身のステータスを確認したところ、想像を絶するスキルが目に入ってしまった。
そう、発現してしまったスキルーー性者。
このスキルを見た瞬間、一気に顔色が悪くなる愛大。
性というワードからしてロクでもないスキルと推測できる。
どっからどう見ても戦闘で使えるようなスキルではなく、むしろエロ系のスキルとしか思えないかった。
前世で結婚はおろか恋愛も経験無しの愛大からしたら、このスキルは皮肉以外の何物でもない。
そんな残念スキルと半ば確信めいたものを感じてはいたが、もしかしたらマトモなスキルかもしれない、マトモなスキルであってくれ‼︎ と一縷の望みをかけてスキルを発動させたのだが……。
愛大の顔色が更に青ざめる結果となった。
理由はスキル発動後に起きたとある一部の変化によるものだ。
ーー自身の股間から天を突き刺さんばかりに伸びた刃
それは稀代の名工が打ったかと見紛うほど美しく輝く1本の剣……いや、性剣とでも言うべきか。
何者でも斬り伏せることが出来るであろう雰囲気を醸し出しているそれは、動かそうと思えば自身の意志で上下左右と縦横無尽に動かすこともできた、できてしまった。
そんな股間から生えた剣を見た愛大は思わず眩暈を起こし倒れたそうになる。
よく見れば胸が痛くなり、動悸も激しいようだ。
いや、よく見なくてもか。
冷や汗も溢れて息も荒い。
今にも胃の中のものも吐き出しそうだ。
体が拒否反応でも起こしたかのように震えている。
(お、俺とにかく落ち着け! まずは深呼吸だ。まだ焦る時じゃない……いや無理があるのは分かるけど。でも一旦落ち着こう。落ち着いて考えるんだ俺)
色々と察して冷静ではいられなかった愛大は「すーはーすーはー」と息を整えようと深呼吸をする。
そしてもう一度股間を見下ろす。
が、当たり前のように変わりはなかった。
あるのは美しく輝く性剣。
むしろここが俺の定位置ベストポジションだ‼︎
とばかりに我が物顔でそびえ立っている。
それと、これからよろしくな相棒‼︎ 的な雰囲気すら感じさせていた。
そんな性剣をハイライトが失いかけた目で眺めながらも、へし折ってやりたいと思っていたようだ。
完全にやべえスキルである、特に見た目が。
これが神様が言っていたレアな特典とやらの正体。
何の根拠もなかったが、自身の身に起きたことを鑑みて、これはネット小説に星の数ほど蔓延る異世界転生モノの主人公だと重ねたがゆえに、てっきり自分にも理不尽な力ーー通称チートをほぼ確実に手に入れると思っていた愛大は一気に地獄に落ちたかのような衝撃に襲われていた。
予想を軽々超えたまさかのスキルに膝から崩れ落ちた愛大を誰が責められようか。
とはいえただの夜御用達スキルではなく、ちゃんと戦闘もできそうなのは良かったと見るべきか。
この世界は神様も言っていた通り、人類に敵対する種族やモンスターが存在しているので大変危険だ。
そんな物騒な世界で身を置かないといけないとなれば、自身を守るための力は絶対に必要不可欠。
そんなときにエロいことでしか使えないスキルなどまるで役に立ちはしない。
しかし愛大は股間から生えた立派な性剣があり、見た目は最悪だが武力を手に入れた形になる。
まあ一応ではあるが。
そう無理矢理ポジティブに考えると最悪は免れたと言っていのかもしれない。
とはいえやはり見た目があまりに酷いのは確かだ。
想像してみたら分かるが。
皆がかっこよく剣でバサバサ斬ったり、スタイリッシュに魔法で攻撃しているときに愛大だけは、こんなふざけたスキルで挑まなくてはいけないのだ。
控えめに言っても絶望しか湧かない。
愛大が欲しかったのは、こんな犯罪臭がやべえスキルではなく、超絶かっこよくて無双できるごく普通のチートスキルだったのだ。
(……いや、もうかっこいいチートスキルとか贅沢なこと言わないから炎とか水とかを扱う魔法使いみたいな堂々と行使しても問題がないスキルに変えてほしい。正直こんな変態スキル、誰にも見せられんわ。見せたらドン引き間違いなしだし、女性の前で見せてなんて見ろ? セクハラで訴えられても仕方がないレベルだ。最悪すぎる……)
間違いなく愛大の思った通りのことになるだろう。
スキルの名前と見た目は女性からしたら生理的に受け付けない者がほとんどだと容易に想像できる。
それか、それ以上に忌避される存在となる恐れすらあった。
こんな見た目の奴に自身の背中を任せておけるはずもないと思うのも無理がない話だ。
そんなことを思って絶望感を漂わせている愛大をいまだにアタフタと見つめることしか出来ないでいた院長先生。
院長は即座にスキルの性能は置いておくとして、見た目がアウトなのを見抜き、さらにそのスキルのせいでこれから苦労するだろうなと予想する、否、未来予知していた。
とはいえまだ幼い子供である愛大にそんな残酷なことを言うのは憚れる。
というか言えるはずなかった。
今まで何度も施設の子供たちがスキルを授かるのを見てきた院長先生だが、流石に愛大のようなアダルトチックなスキルは初めてだ。
そのため掛ける言葉が見つからなかった。
今安易に優しい言葉をかけても愛大に変に期待をさせてしまうだけであり、それはただの先延ばしでしかならない。
それは今後さらに絶望することが予想できてしまう愛大にとっても良くないことだ。
要は今の時点で院長先生に出来ることはなかった。
ただただ愛大を見守ることしかできなかった。
「な、なんで、こんな犯罪臭のやべぇスキルが……俺のチートどこ行ったんだよッ‼︎」
愛大はこの日を生涯一度も忘れることはないだろう。
こんな甚だ卑猥なスキルを与えた神様を恨んだこの日を……‼︎
ーーそんな最悪の誕生日であった
この後、愛大は一月ほど寝込んだというーー