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修正は明日しまする。
「えっ……性者って何⁇」
思わずそんな声がこぼれた。
『基礎値』という基本的な能力値の下に生命力を表すHPや魔力の量を表すMP、純粋な肉体の力ーー腕力を表すSTR、器用度を表すDEX、敏捷性を表すAGI。
この下にスキル欄がある形式で並んでいた。
強さの段階を示す『レベル』がないこと以外は、まあよくある戦闘モノのゲームで出てくるようなステータス画面のようだ。
正直なところ愛大はステータスについてあまり知らないので自身の『基礎値』を見てもイマイチ理解に欠けているためこの数値がどれほどかは把握できないでいた。
が、しかし。
スキル欄にあるーー『性者』
これに関しては、絶対おかしい‼︎ というのは簡単に理解させられた。
(な、なにこれ⁉︎ 性者って⁉︎ 『性』って⁉︎)
性ーーそれはセクシュアリティ。
つまり人間においての性に関連する行動や概念、心理の全てを示す。
そんな『性』の字が入った名前のスキル。
だいたいの場合、このワードが入るとエロく……否、いかがわしい雰囲気になってしまう。
(犯罪臭がやべぇ……正直、完全にアッチ系のエロスキルにしか思えないんだけど……⁉︎)
そのスキルを見たときから愛大の全身からは止めどなく嫌な汗が溢れていった。
なんせ名前の響きからして絶対に碌でもない能力というのをヒシヒシと感じさせているのだからそう思うのも無理はない。
己のスキルが理不尽な力確定だと謎すぎる自信があった愛大は出鼻から挫かれた形となった。
(これが俺の待ち望んでいた理不尽な力とでも言うのか⁉︎ ふざけんなあああああああああああああああーーッッッ‼︎‼︎)
心の中で怒り狂う愛大。
しかし残念ながらその通りである。
これが転生前に神様から貰った『レアな特典』とやらの正体だ。
思ってもみなかった自身のスキルのせいで立ちくらみがしてきた愛大。
顔色もみるみると悪くなっていく。
よく見れば、いやよく見なくても変な震えも起こしているのがハッキリとわかる。
そんな情緒不安定な愛大の様子に気がついた院長先生がすかさず声をかけた。
「だ、大丈夫? 顔色悪いけど……自分が予想していたのよりステータスの数値がよくなかったのね。だとしても安心していいのよ。愛大はまだ子供。それは伸び代があるってことなんだから。それも無限大にね。だからこれからうんと頑張っていけばいんだから‼︎」
愛大の様子を見て、自身の基礎値が思いのほか低かったのだろうと勘違いした院長先生は安心させるように、そしてこれからに期待させるように優しい声音でそう言う。
院長先生は孤児院の代表を長年務めている。
よって自身のステータスが優れなかった子供たちを過去に何度も見たことがある。
だからこそ今の愛大の状況もなんとなく察せられた。
そんな時は優しい言葉で未来にかけるように言う。
毎度している対応のひとつであり、こんなところで挫折しないようにする先生の優しさでもあった。
愛大にも同じように言葉をかけて未来にかけるように促すが。
それは大きな勘違いである。
なんせ愛大を悩ませているのはステータスの基礎値の方ではない。
スキルの方だ。
件のスキルのことで頭がいっぱいだが、命の恩人であり自身を育ててくれた親代わりでもある院長先生のことを無視するなんてことはできない愛大。
それでも、このスキルについては言いたくなかったので。
「正直、自分のステータスについてよくわからないけど、こんな感じの数値だった」
自身の基礎値だけを伝え、スキルには触れないことに。
「えっ、魔力そんなに高いの⁉︎ これかなり凄いことよ‼︎ なんだ、全然ステータス悪くないじゃない。なら何をそんなに悩んでいたの? あ、もしかしてーー」
スキルが発現していたの⁉︎
と、続けざまに聞いてきた。
他の基礎値は極々普通だが、魔力に関してはこの歳では考えられないほど高い数値であったので喜ぶところだ。
だからこそ愛大が何をそんなに悩んでいるのかわからなかった院長先生だったが話している途中でスキルに関して悩んでいるのだと思い当たる。
事実それは正解であった。
しかし何度も言うが、愛大の心情的にこのスキルは話したくないので再び話をそらす。
「あ、そういえば院長先生。ステータスの基礎値にレベルってないの?」
あのスキルと比べれば遥かに劣るが、微妙に気になっていたことに関して聞いてみると先生は首を傾げながら。
「え、レベル? 基礎値にはレベルという概念はないよ」
と、簡潔に答える。
「じゃあどうやったら基礎値は上がるの?」
「自分が努力すれば、例えば筋トレとかすると腕力の数値は勝手に上がるし、加齢で老がきても下がるからね。要は努力次第で基礎値は大きく変わるよ。あ、でもスキルにだけはレベルは存在するよ」
スキルから話をそらすために聞いたけど結局のところ、スキルの話に戻ってしまい、愛大は顔を歪める。
(愛大くん、何か隠してるわね。やっぱりスキルが発現していたと見て間違いなさそう。それを隠すとなると結構危険を伴う系のスキルなのかも……ちゃんと把握しておかないといけないわね)
愛大にスキルが発現しているのをこのやり取りの中で何となく察した院長先生。
院長先生から見た愛大という少年は非常に聡明な少年だ。
なんせ他の子供たちより物事の本質を理解する力がずば抜けている。
その他にも考え方や立ち振る舞いがどう見ても一般的な子供の範疇ではない。
まあそれは愛大にアラサー男の魂が宿っており、10年以上の社会経験があったのが理由ではあるが、院長先生たちには知る由もない話だが。
そんな聡明と勘違いされた愛大が隠そうとするというのは、それなり以上の理由があると思われているようだ。
スキルは多種多様であり、その中には自身を傷つけるものや周りに被害をもたらすものも存在する。
そんな危険なスキルが発現していると仮定したならば早々に把握するべきだ。
何かの間違いでそのスキルが暴発でもしてしてしまえば、孤児院にいる他の子供たちにも被害が出るだろう。
無論、愛大自身も傷ついてしまうことも想像に難くない。
そう考えた院長先生は愛大の目を真っ直ぐ見つめながら「スキルが発現したのね」とストレートに言う。
「え、いや、えっと……そんなことはないですよ」
明らかに挙動不審な愛大。
普段は使わない敬語まで口に出る始末だ。
しかも目は院長先生を見ずに斜め上にずっと逸らしている。
そんなあからさま過ぎる反応では流石に院長先生を誤魔化しきれるはずがなく。
「愛大くん、流石にそんなんじゃ騙されないって……」と呆れたように言われ、すぐにバレた。
しかし愛大は件のスキルについてだけは話したくないので必死に誤魔化そうとするがーー
嘘のつき方が下手くそ過ぎて当たり前のようにバレ続けるのであった。
前世の時から愛大は嘘をつくのが下手だったが、どうやら今世でも受け継がれているようだ。
そのせいでもう誤魔化すのは無理と観念するほかなかった。
(はあ……言いたくなかったけど、もう何言っても誤魔化しきれないし言うしかないか。いやだなあ……)
心の中で盛大な溜め息を吐きながらも自身に発現していたスキルの名前をボソリと呟いた。
「せ、性者……」
「えっ、聖者? ってことは聖人ってことかな。あの徳を積み重ねた者っていう意味のーー」
まさかアダルトの方だとは思わなかったためにそう捉えた院長先生ではあったが、残念ながら読みは合っているが字が違う。
それはつまり意味合いもまるで違うことを意味する。
仮に聖者だったら愛大もここまで頭を抱えていなかっただろう。
絶賛勘違い中の院長先生に一言「違うよ」と訂正した後、続けてざまに。
「えっちぃ意味の方のやつ……」
と言いたくなかったであろう真実を告げると、「えっ、うそ……」と予想外のスキルに思わず固まってしまう院長先生。
「嘘だったらどれだけよかったか」
「じゃ、じゃあやっぱり性的な意味合いってことなの⁉︎」
愛大は力なく「うん……」と頷く。
黙って項垂れる愛大をアワアワと見つめながらも顔色が一気に悪くなる院長先生。
まさか、そっち方面のスキルとは予想もしていなかったようだ。
普段は冷静な院長先生だが、今はプチパニックでも起こしているかのようにアタフタしていた。
ちなみに5歳の愛大が性について理解があるというのはおかしい話だが、この時はスキルのインパクトが強すぎてその違和感をスルーしてしまっていたようだ。
危険なスキルの可能性があったとはいえ、言いたくなかったであろうスキルを無理矢理言わせてしまったことに申し訳なさを感じる院長先生だったが、どうにかこの重い空気を変えようと試みる。
しかしこの時の院長先生は落ち込んでいる愛大をどうにかしようと考えるあまり、冷静さを欠いでいたのかその場繋ぎにしかならないことを言ってしまった。
「も、もしかしたら私たちが思っているのと違う種類のスキルかもしれないよ‼︎」
そんなわけがない。
あの字面でまともなスキルだと期待する方がおかしいのだ。
しかし愛大は心ここに在らず状態であり、院長先生の言葉に素直に頷く。
そして、もしかしたら至極まともなスキルの可能性に一縷の望みをかけて『性者』のスキルを発動させようとする。
スキル発動はステータスを確認するときと同様に、このスキルを使いたいと念じるだけでいいいとのことだ。
それに従って、スキルを使いたいと念じる愛大。
すると愛大の身体の一部に異変が起きた。
なんと愛大のお腹より少し下ーーつまり股間辺りから眩い光が放たれる。
その輝きは膨らむように大きくなり、しばらくすると次第に収束していった。
そしてーー
ーー愛大の股間から天を突きささんばかりに伸びた剣が現れた
それを見た二人は。
時が止まったかのように固まるのであったーー