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世界観の説明会となります。
強引に説明してますがご容赦くださいませ。
熱々の焼き芋が恋しくなる今日この頃。
世界の東側にある島国、その中でも北の大地と呼ばれる地域一帯は連日の大雪により、雪が積もりに積もって白銀の世界を作り出していた。
日中ではあるが、太陽の光は雪雲によって完全にかき消されているためか一層寒さを際立たせている。
もはやコートなしでは出歩けないほどに凍てついた空気が流れていた。
そんな極寒地域の山中にポツンと佇んだ大きな一軒家。
中をのぞくと多くの子供たちと、それを見守っている大人たちが穏やかに過ごしていた。
その中にある赤子を寝かせている部屋にて。
「ありゃあ、いっぱいしましたねえ〜。じゃあオムツ交換しようねえ〜」
(死にてえ……)
剣菱愛大2歳。
お察しの通り、現在、彼の心は酷く荒んでいた。
それはもうこれ以上ないほどに荒み、精神崩壊の一歩手前まできていた。
転生を果たして早2年。
そして苦節2年。
予想はしていた愛大だったが、赤子とは想像以上に自制が効かない生き物なんだと痛感していた。
気がつけばオムツを自分色に染める。
その度に院長先生を始めとした孤児院の先生方からオムツ交換をしてもらうという苦行を繰り返す。
自身の身から出た排出ブツを綺麗にしてもらうという申し訳なさ。
そしてなにより自分の世話すら満足に出来ない己の無力さに日々心は荒んでいくばかりだ。
この2年という短い間ではあるが、愛大の僅かばかりあった尊厳は早くも地に落ちていた。
まあそんな下の話はこれくらいにして。
まず愛大がどうして生きているのかというと。
「はい、オムツ変えたよお〜これでスッキリなったでしょ。ふふふ」
今、愛大のオムツ交換を行った女性ーー北育美紫穂により、あの過酷な環境下から助け出されたからだ。
彼女はとある国が支援している孤児院ーー養護施設キタイクミの院長先生であり、愛大たちを始め、多くの身寄りのない子供たちを保護している。
そんな孤児院に引き取られた愛大は、赤子ながらも可能な範囲で転生を果たしたこの世界についての情報を収集しようとしていた。
無論、赤子なので自由に動けるどころか、食事や風呂以外の時は基本的に一日中ベッドに寝かされているため情報集めは耳に入ってくるものに限られたが。
とはいえ、在籍している先生同士の会話や、年長組ーーこの孤児院に保護されている年上の子供たちーーの勉強会で聞こえてくる内容により、なんだかんだ結構な量の情報も入手することに成功していた。
その結果、ある程度の知識は身についたと言っていい。
愛大はそう自負していーー
「あっ、今変えたばっかなのにもうオシッコしちゃったの⁉︎ ああ全く仕方ない子ねえ。それじゃあ変えよっか。はい、お尻上げるよお〜」
(はぁ、またやってしまった。なんで赤ちゃんってこんなに膀胱ゆるゆるなんだよ……いや、もう考えるのはよそう。考えたって詮無きことだし……それよりも、この世界に来て2年経つけど以外と情報集まったし、そろそろ整理しとかないとなあ)
全く仕方ない子だと言いながらも優しい表情でオムツ交換をしてあげる院長先生。
そんな彼女を尻目に、この2年の間で集めた情報をふと思い起こしたくなった愛大。
決して、気がついたらオシッコを漏らしたという痴態を誤魔化すためではない。
そう、決して現実逃避などではないのだ。
「うーん、なんでこの子オムツ交換の度に哀愁漂わせながら泣くのかなあ? 不思議な子ねえ。普通の子はもっとオギャアって騒がしく泣くもんなんだけど……」
それは愛大にアラサー男の精神が宿っているからである。
そんなことは言えるはずもなく。
まあ愛大も赤子なので話すことすらままならないので伝える術はないが。
そんな年齢以上の雰囲気を醸し出しながらも、この世界に関して集めた情報を思い起こしていた、オムツ交換をされながら。
完全に現実逃避である。
(でも、本当にまさかだったよなあ。この世界も地球だなんて……)
そう、愛大が心の中で呟いた通りだ。
なんと転生を果たした世界なのだが……。
ーー地球であった‼︎
では愛大が再び同じ地球に転生することになった。
かと聞かれたならば、否と答えられる。
たしかに名前こそ同じではあるが、こちらの地球を異世界と呼んでも違和感がないほどに異なった文化を遂げていた。
愛大が元いた側の地球は『科学』の発達により大きく繁栄した世界であったはず。
対して転生した側の地球は『科学』に加え、『魔法』、そしてなにより未知の宝庫である『ダンジョン』により繁栄した世界なのだ。
二つの異なる概念が存在するだけで、その進化の過程はまるで違う。
つまり愛大がいた地球に、魔法とダンジョン、それに連なる概念がくっ付いてきたような世界であった。
まあいわゆる並行世界という分岐した地球に分類される類いの世界なのだろう。
物凄く強引な言い方で表現するのであれば、
ーー剣と魔法のファンタジー世界(現代版)
と言えば、しっくりくるだろうか。
カッコの中が特に重要である。
全くの異文化が繁栄しているとはいえ、自身の転生先がまさか馴染み深い地球だとはつゆとも思わなかった愛大。
この事実を初めて知ったときは驚きすぎて丸一日、思考が停止していたことはまだ記憶に新しい。
愛大がオタク趣味に富んでいたことが関係あるかは不明だが、転生するという自身の状況を鑑みて、よくあるネット小説の王道テンプレ主人公と重ねていたこともあり。
「転生先もよくあるテンプレ通りだろうし、あまり文明が発達していない中世ヨーロッパ辺りかな。アニメ鑑賞が出来ないのは辛いけどしょうがないかあ」
と転生前に思っていたが、蓋を開けてみると、街を歩けば文明開化の音が聞こえてくる現代社会であったのだ。
もちろんアニメもあればゲームもある。
なんせ現代社会なのだから当然の話だ。
予想を遥かに覆す展開に愛大が混乱するのも無理はない。
ちなみにお察しかもしれないが、愛大が現在いる場所は『日本の北海道』である。
その中でも田舎村の山中にある孤児院に住んでいる。
それと今更だが苗字名前ともに前世と同じであったことも言っておこう。
なので今世も剣菱愛大として生きていく。
なぜ赤子の愛大は話せないのに院長先生たちに名前がわかったのと思ったかもしれないが、それは簡単なことで、雪山に放置されていた時に乗っていたオンボロベビーカーの中に誕生日と名前、あとよろしくお願いしますと、記載されていた置き手紙があったからだ。
おそらく神様の仕業だろう。
そのおかげで出自こそ不明ではあるが、勝手に名前を付けられずに済んだ。
余談ではあるが、大きな愛を与えられる側にも与える側にもなってほしいと両親から名付けられた愛大という名前は大層気に入ってるので、そこに関しては本当に良かったと安堵の息をついていた。
あと気になっているであろう神様から与えられた『レアな特典』に関しては、いまだに不明であった。
この世界には魔法といった特殊な概念がある。
それゆえにレアな特典とやらは、その魔法に関する特殊な能力だと推測ができるが、今の愛大では確かめる方法がないのだ。
というのも一応理由がある。
魔法というのはすぐに使えるようになるわけではないという話だ。
魔法を使えるようになるには最低限の条件があり、それは5歳を迎えることであった。
なぜかは判明していないが、この地球では5歳を迎えると天より、ステータスーー自身の能力を文字化数値化させたものーーを確認できるようになる。
確認方法は自身のステータスを見たいと思うだけで脳内に表示されるらしい。
言ってみれば、そのステータスに表示された能力を確認、いや把握することがキーとなって魔法は使えようになるのだろう。
ちなみに、この天からステータスを与えれるという謎な現象については魔法研究学会と呼ばれるーーその名の通り、魔法を研究する組織が長年の間調べているが、いまだに明確な理由は見つかっていなかったりする。
要は、そういうもの、これは常識なんだと思うしかない。
これが世間一般の認識であるのだ。
とまあ、そんな理由で5歳になるまで貰った特典はお預けとなっている。
愛大自身、理不尽な力だと思っているので、その力を早く使ってみたいという気持ちがあるが、まだ2歳の赤子ではどうしようもなかった。
残念ながらそれまで気長に待つこととなった愛大は大きな溜め息ついたという。
三人称視点まだイマイチ把握出来ないわ