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三人称視点やってみた
剣菱愛大はとある田舎町で生まれ育ち、地元の中小企業に就職、休日にはオタク趣味を満喫する、どこにでもいる普通の男だった。
そんな彼の人生は実に呆気なく終わりを迎えることになる。
簡潔に述べると、トラックからの衝突事故。
当然彼はそのまま亡くなった。
しかし、ここからが彼の転機となった。
そう、彼は死んだにも関わらず目を覚ましたのだ。
そして白髭が鬱陶しいほど伸びたお爺さんと会った。
なんと、そのお爺さんは神様と呼ばれる天上の存在らしく、死ぬ予定じゃなかった彼を自身の手違いで死なせてしまったという。
おいおい何とんでもないことしてくれたんだよ‼︎
と、当初怒りが収まらない愛大だったが、神様からのとある提案ですぐ手のひらを返すことに。
「その代わりと言ってはなんじゃが、おぬしを異世界へと転生させてやろう。これならどうじゃ?」
「えっ、今なんて⁉︎」
なんと罪滅ぼしに異世界へ転生させてくれることを提案してくれたのだ。
オタク趣味に富んでいた彼にとって『異世界転生』はある種の憧れであった。
当然のことながら即答でその提案に乗る。
その際に転生する世界についても大まかに聞いてみた。
どうやら転生先の世界には『魔法』が存在したり、人間に害を成す『魔物』、はたまた謎に満ちた『ダンジョン』など地球にはなかった概念やモノが存在するらしい。
言うなれば、『剣と魔法のファンタジー世界』。
こういうことだろう。
二次元を愛して止まない愛大にとっては大変興味がそそられるワードの数々。
思わず、気持ち悪い笑みを浮かべるが仕方がないのかもしれない。
しかし、このまま転生させてもすぐ死ぬということを聞かされ、「やっぱ普通に天国行きにしてください」と即座に異世界転生を諦めた。
憧れではある。
そして最大のチャンスでもあるが、誰しも死ぬのは怖いのだ。
愛大も当然、その一人であった。
しかし、そんな愛大に神様はニヤリと口角を上げながら待ったをかける。
「まあ待てい。とあるレアな『特典』を用意しておる。それがあれば大丈夫じゃろう」
危険に満ちた異世界でも生き抜けるようにと、神様から特典とやらを与えてくれるという。
目ざとい愛大は、「そ、それって理不尽な力ってやつですか⁉︎」と目を輝かせながら聞いてみたが。
「それは今後のお楽しみじゃ」
残念ながら神様は教えてくれず。
どうやら特典の内容は転生後でないとわからないらしい。
(とはいえ別に大した問題ではないだろう。こういうのは必然的に馬鹿みたいに強いスキルって相場が決まってる。それがテンプレってもんだ。今の俺のポジションはまさしく王道テンプレ物語の主人公そのもの。間違いなく理不尽チートスキルを与えてくれたはず‼︎)
と、愛大は謎の思い込みを発揮していた。
憧れを抱いていた異世界転生の切符を手にしたことで、普段以上に冷静さを欠いでいたのかもしれない。
そんな都合の良い展開は物語だけだというのに。
まさかレアな特典というのが想像以上にアレなものとは……。
この時はつゆとも思っていない愛大であった。
ついでとばかりに、気になっていた転生状態についても尋ねると。
転生状態ーーそれはどのような状態で転生するのかということ。
つまり今の姿のままでスタートするのか、幼い子供からスタートするのか、それとも少し若返らせてスタートするのかという話である。
愛大としては、圧倒的に後者が望ましいと思っているようだ。
「多少若返らせて転生させる予定じゃ」
どうやら今の年齢ーー29歳なのだが、これから多少若返らせてあげるらしい。
これを聞いて愛大はホッとしたように安堵の息を漏らした。
流石にアラサー精神を持つ男にとって赤子からのスタートとは辛すぎるようだ。
自身の排尿排便の世話もできず、他人からやってもらうというのは、普通の感性を持つ愛大からした生き地獄でしかなく、そんな地獄を楽しめるほど性癖は歪んでいない。
赤ちゃんプレイという超高度な性癖を持ち合わせていないのだ。
神様の口ぶりからして「多分高校生くらいまで若返らせてくれるんだろうな、テンプレ的に」と、またもや都合の良い思い込みを発揮させ、どうなるかわからないのに喜ぶ愛大。
終始ニヤついている愛大に神様から転生まで少しかかるきら待っておいてくれと言われ、暇だったので自身が転生してからのこたに妄想に耽ることに。
ご覧の通り、青にはやや妄想癖があった。
(貰ったチートスキルでよくあるテンプレみたいに速攻で無双してやりたい。んでもって、みんなからチヤホヤされよう。そしてゆくゆくは前世では縁がなかった女性ともお付き合い……はちょっとコミュ障の疑惑がある俺ではハードルが高いから、まずは友人になれるように頑張るか! ああ早く転生したいなあ‼︎)
これからの異世界生活を妄想しただけで、思わずニヤケ顔になってしまう愛大。
浮ついた気持ちをかけらも隠さず、ウキウキしながら転生を心待ちにしていた。
しばらくすると転生の準備が完了したと教えてもらい、転生の儀式を行う場所まで案内される。
そして、転生の儀式が始まった。
神様は愛大の方に両腕を突き出し、謎に聴き取れないワードをぶつぶつと唱え始める。
すると突然、身体がふわりと浮いたような感覚に包まれ、何かの紋様が刻まれた魔法陣のようなものが愛大の足元に現れて眩い光を放ち始めた。
その光は視界をゆっくりと覆うように広がっていく。
あまりに眩しさに両手で目を覆う愛大。
しばらくすると、次第に光が収まっていき、数秒後には光が完全に収まった。
と、同時に。
ーーさっむ‼︎⁉︎
凄まじい寒さに全身が凍えた。
慌てて目を開けたところ。
ーーそこは雪国だった。
雪一面の銀世界がお出迎えしてくれたようだ。
「あ、あいいいいいいいいいいいいいーーッ⁉︎⁉︎(寒むすぎいいいいいいいいいいいーーッ⁉︎⁉︎)」
ーーえっ⁉︎ 今、声が……‼︎
ふと愛大は自身の違和感に気づいた。
今なんで声が思うように出せなかったんだ⁉︎
あとなんであんなにも甲高い声なんだ⁉︎
もしかして……。
すぐさま結論に達した。
ーー俺、赤ちゃんになってる⁉︎
そう思って目線を下げると、視線に入る小さな手足。
触ってみるとプニプニしていて柔らかい。
「あんえんいああああんああん(完全に赤ちゃんじゃん‼︎)‼︎」
確かに若返らせるって言ってたけど、多少って言ってたよね⁉︎
アラサーから赤ちゃんの若返りって多少なんだっけ⁉︎
予想外の展開に混乱しながらも、一旦情報を得ようと周りを見回す。
が、首が座って正面しか見えなかった愛大は目線だけで見れるところを確認する。
積もりに積もった雪山。
辺りにある木々やその下にある土も全て雪で覆われている。
愛大自身は、背もたれと毛布が引かれたオンボロのベビーカーの中にいるようだ。
「あうおお、いあうういえうおおあああうあ(なるほど、今が窮地ってことはわかった)」
そう、憧れさえ抱いていた転生を果たした愛大だったが気がついたら、この過酷な環境下に赤子のまま放置されるという事態に陥っていた。
この世界に生をなした瞬間、ウルトラハードモード突入。
かけらも笑えない冗談だ。
そんな怒涛の展開に転生をさせた神様に文句を言いたくなったが、今はそれどころではない。
(やべぇ、めちゃくちゃ寒くて早くもゲームオーバーになりそうになんだけど⁉︎)
赤子の状態で投げ出された愛大の体温は凄まじい勢いで下がっていく。
赤子は体力も無ければ免疫力もない。
一刻も早くどこか暖かい場所に避難しなければ死は免れないだろう。
とはいえ、赤子の身体では動こうにも動けない。
何もできない。
そうこうしていると、段々と意識がぼんやりとしてきた。
睡魔に襲われる。
目をつぶってしまいたい。
そうしたら楽になるだろう。
しかし、それをしてしまったが最期、そのまま逝ってしまいそうだ。
(マズい‼︎ 寝るな‼︎ 目をつぶるな‼︎)
我慢しないと‼︎ そう自分に言い聞かせるが、赤子となった愛大はもう限界を迎えようとしていた。
(や、やべぇ、死ぬ……)
そう心の中で呟いたのを最後に意識を手放した。
ありがとうこざいま