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あなたとワルツをもう一度  作者: しずか
9/9

S3-1

 あの日からモヤモヤは残り続けたまま。修介さんとの関係も連絡先を交換した以上の事はなかった。

 結局、ロミオとジュリエットのような物語の進展も今のところない。それどころか最初からそんな展開に全くなっていないような気もする。


「もし、そうだったら……?」


 それはつまり物語が終わり、私と彼との関係を阻む不幸な障壁もなくなっていたということ。でも、それは同時に二人の運命もなかった事になる。


 あれ? それってもう私と彼に接点が、ない? 


 こんなとき、障壁画なくなったと前向きで行動的になれる性格であればどれだけよかっただろう。けれども私にそんな勇気があるはずもなく、既に一度は告白を振った身なのだ。

 修介さんにはナギサさんへ「沙耶の友達」と紹介されながら二人が楽しそうに話していた様子を思い出し、知り合いかすらも怪しいかもしれないという遠い関係という現実にため息をついた。


「べ、別に、好きかもわからないし……そもそも始まってもないし……」


 そう言い訳してため息をつくのは何度目だろう。そろそろ変なのと目を逸らすのにも限界が近づいてきた気もする。

 そう心が痛くてジュリエットのカードを手に取り胸元で抱きしめる。


 心許ない安心と大きな虚しさ。

 

 その理由はもうわかっている。

 そして、今は唯一の繋がりに感じるジュリエットのカードを眺め、そのモヤモヤは振り出しに戻る。




 そんな私を見かねたのか、

 帰宅後に部屋で話した。


「うわぁ……患っているねぇ。何があったの?」

「別に……てか、うわぁとかひどくない!」

「あははは、ごめんごめん。てかだいたいの予想はつくけどね。連絡先は交換したんでしょ?」

「……うん」


 たしかに毎朝毎晩にやりとりするようになった。もっとも……


 そのやりとりを記録したスマホを葉月に見せる。


『楽しかった』

『おはよう』

『おはよう』

『おやすみ』

『おやすみ』

『おはよう』

『おはよう』

『おやすみ』

『おやすみ』

…………

……


「あんたたち、何がしたいの……?」

「いや、だって話す事ないし。……そもそも共通の話題もないし」

「それにしたってもう少し何かあるでしょうに……これじゃただの起床報告と就寝報告じゃない。何の意味が…………焦らしプレイ?」


 何をどう見たらそんな変態趣味みたいに受け取れるのか。

 葉月の最後の一言は華麗にスルーする事にして、首を傾げ、真剣に考えた末に答える。


「……接点、かな?」

「あのねぇ。ただ起きた寝た報告のドコに接点があるの」

「だって、……何か送らないと、挨拶すら送る勇気すらなくなる気がして」

「それにしたって他にもう少し、お互いに何かあるでしょうに……」


 お互いに。つまり彼にも問題があると葉月が認めてもらえた気がする。

 頭を抱えていた葉月がその喜びに目を輝かせた私の様子を見て、さらにため息をついていたけど。


「だってだって、他の言葉だと話したいという理由で送らないといけないじゃない。でも、私にはそんな勇気なんてないし。もし、返事が返ってこなかったら、そう考えてしまっただけで手がすくんで……」

「…………はぁ。まるで喪女ね」

「せめて乙女と言って! なら、お手本を見せてよ!!」

「言ったね♪ 後悔しないでよ」


 と、不敵な笑みを見せた葉月に後悔しながらもスマホを渡して数十分後。


「……あ、うん。なんかごめん。私には攻略の糸口すらわからなかった」


 と、降参してスマホを返してくれた内容は、ドン引きするほどに露骨なまでに甘えながら誘惑する文章が並び、当たり前というべきか彼にあっさりバレて謝ってあった。


「くそ。あまあまな攻めじゃダメか。ツンデレか? ツンデレが好きなのか? 誘われ攻めと見せかけてのひたすら攻めたいだけなのか。ぐぬぬ、そういえばどこか女みたいな臭いが……!?」

「えぇ……」


 余程釣れない事が悔しかったのか、意味不明な言葉を呟く葉月。

 まぁ、それでも私が修介さんからももらった最高記録の五文字よりは多かったりするんだけど。


 結局、何の進展もなければ出会う事もなく、悶々とした気持ちばかりが募って日々を過ごしながら迎えた卒業式。




 ……は、あっさりと終わった。




 いやまぁ、普通は何かなくても盛り上がる一大イベントなんだとは思うんだよね。

 けれども今も昔も人気者でもなく、ずっと目立たず静かに過ごしてきた私の中学生活はイベントも含めたすべてが無難なもので、別れの寂しさを感じられるほどの後輩や同級生との熱い友情もなければ華もない。

 ましてや既に受験の終わって葉月とも同じ高校に行く事が決まっているともなれば思い出そうにも泣き所が無かった。


 …………うん、少しだけ訂正。思い出そうとして、無いと言えちゃう事については泣きたいかも。


 卒業式も終わって、周りの涙を流しながら鼻をすする姿を眺め、「青春だねぇ」と少しだけ羨ましく思いながらも何に泣いているのかと他人事みたいに呟く。


 そして、それぞれがクラスをまたいだりしながら写真を撮り合ったりワイワイと泣いたり笑ったり抱きあったりしながら中学生活の最後のひと時を楽しんでいた。

 それは葉月も例外ではなく、この時ばかりは女子だけではなく男子たちにも何度も話しかけられて楽しそうにしたり涙ぐんだりしていた。


「さて、私はどうしようかな」


 今までの葉月との多くの時間を独占してきたし高校でも同じになる。なら、この時間は周りに譲るべきだと思うんだよね。

 そう思い立ち上がろうとしたとき、目の前に人が立った。誰なんだろうと顔を上げると見覚えのある男の子がいた。


「やぁ。卒業おめでとう」


 彼は、……佐藤君だった。

 別に名前を忘れかけてて名前がすぐに出てこなかったという事じゃないよ。少し驚いただけだから!


「あ、うん。佐藤君も卒業おめでとう」


 ニコニコとする彼はそんな些細な間を気にしたりせず明るく笑顔のままだった。


「ありがとう! さっき葉月と話をしたんだけどさぁ。高校同じなんだってな」

「そうなの?」


 ちらりと葉月を見たけれど、タイミング悪く彼女は他のクラスメイトに囲まれていて見えない。


 どうして彼はそんなにニコニコしながら私に話かけられるのだろう。私は彼の告白を振った酷い人なはずなのに。


 それでも笑顔で話しかけてくる彼。何をそんなに私に話す事があるのかさっぱりだけれど、その勢いにだた半ば呆然としながら彼を見上げて相槌を打っていたときだった。


「なにやってんだよ」


 彼の友達らしい人達まで笑いながら近寄ってきた。


「バーカ、卒業式だぞ。だから大事な話をしているんだよ」


 ……そうだったっけ?


 やばい。途中から何を話していたかまったく覚えてない。


「へぇ、そうなのか」

「え、えっと…………どうだったかなぁ」

「違うじゃねぇか! こっちも大事な話があるんだから付き合えよ」

「そ、そうなんだぁ。いってらっしゃい?」

「ほら、如月さんの許可もでたぞ。行くぞ!」

「疑問形だから! 俺が許可してないから! も、もう少しだけお時間をぉぉ。き、如月さん、待っててね!」


 そう言われて佐藤君は半ば強引に引っ張っていかれ、私に笑顔で手を振りながら姿を消した。

 彼も引っ張りだこになる程度に人気のある人らしい。この様子からしてこの後は笑い合いながら遊びに出るつもりなのかもしれない。


 たぶん、バカ正直に待っていても帰ってこない、よね?


 そうなると待つ理由もない。葉月もきっと同じ展開になる。葉月が変に私を気づかって誘おうとする前に静かに教室を出て、校門前へと向かう。


 すると、そこには修介さんが立ち校門の柵沿いに咲き始めたサクラをぼんやりと眺めていた。

 彼に対して遠巻きに見る人たち(主に女性)の姿もあり、卒業生よりも目立っているんじゃないか思える程。


 そんな彼の姿を見て、一瞬だけ安堵した。……のは気のせいだったらしくあの時のモヤモヤが心に広がる。


 何て話したら……て、沙耶さんの為に待っているだけだよね。沙耶さんの友達の分際で何を意識しているんだろ。

 関係もなくなったし、それに彼には……ナギサさんもいるし。


 そう心で呟き、今さら痛む胸が辛い。


 そう思い直して校門へと歩んでいく。

 けれども、ただ無言で校門を通り過ぎればいいだけなはずなのに近づけば近づくほどにその胸の痛みは大きくなり、勇気もすっかり無くなってしまった。


 ……そうだ、やっぱり沙耶さんの迎えが終わるまで校内で時間を潰そう。


 そう思って引き返そうと立ち止まったのが良くなかった。


「やあ」


 一人だけで不自然に立ち止まった私に向かって修介さんが手をあげ、修介さんを見ていた周囲の目が一斉にこっちへ向いた。

 その一糸乱れぬ無駄に無駄のない無駄なまでに揃った視線に耐えられず、私の事じゃないよ、勘違いだよとアピールするように後ろを見る。……が、不運な事に、周囲に人がたくさんいるというのに私の後ろにだけは誰もいなかった。


……どうしていつもこういうときだけ。


 そして私が気づいていないと思ったのか彼はわざわざ歩み寄り。


「卒業おめでとう」


 とこともあろうに周囲の目も気にせず話しかけてきた。

 その一言で胸の痛みが一瞬で晴れたのはどうしてなのかわらない。ううん、わかっている。

 けれども久しぶりに会っての久しぶりの会話。それなら、できる事なら今回こそは場所も選んで欲しかった。


「……あ、ありがとうございます」

「なんだかよそよそしいな」

「いえ別に……ただ衆目に耐性がないだけで……」


 そう言われて彼は周囲を見渡し納得したらしい。


「それなら、場所を変えるか?」

「それはそれで……その、沙耶さんを待っているのでしょ?」


 卒業式なのでただの知り合いかと周囲の目も穏やかなもので済んでいる。

 葉月や沙耶さんが居るときならまだしも二人で一緒に場所を移すという、どう見ても勘違いしかされない事なんかしたくない。それは私のだめでもあり、彼のためでもある。

 そう言い聞かせる。


「それもそうだな。なら沙耶を待っている間の暇つぶしに付き合ってくれ」

「いや、……だから」


 違う。そうじゃない。

 気づけと修介さんから視線を逸らし、何がと彼もその方向に向けた所でそうだった気づいてくれたらしい。


「……なら、場所を変えるか?」

「いや、だから沙耶さんを」


 あ、これ無限ループだ。


 そう気づいて黙り、晴れやか気持ちから一転して徐々に湧き上がる苛立ちに彼を睨む。


 思えばナギサさんのときはあれほどすらすらと会話を弾ませていたというのに私に対してはこうもぎこちなくなるのはなぜなのか。思えば卒業パーティーの時だってそう。


 ……嫌がらせ?


 そう思うよ余計に腹が立ち、何か言ってろうと口を開いたところで彼がため息をついた。


「はやり場所を移そう」

「いや、だから!」

「周囲の目が気になると早希が言ったんだろ。大丈夫だ、一緒に居るのを見られるのが嫌なら先に行ってから場所を教えてくれれば後で行く。沙耶にもその事を伝えておくから心配いらない。同じ失敗は繰り返したくないんだ」


 同じ失敗。その言葉に我に返り、周囲を見渡し口を閉じる。


……もしかして、私の方がやらかしてる!?


 頭が真っ白になり、あとは言われるまま頷いてその場をはなれた。


「……や、約束してしまったし」


 必ず場所を連絡して待っていてくれ。その言葉に頷いてしまったので部室棟にまで移動してから連絡して待つ。

 思えば、初めて挨拶以上の長い言葉を送ったかもしれない。……内容は淡々とコマンドみたいに書き記した行き先だけなんだけれど。


 。ぼんやりと桜広がる青い空、ただ綺麗だと一句も忘れて、眺めているうちに彼もやってきた。


「ココは? ……人がいないんだな」

「部室棟だからね。まぁ、もう少ししたら部活のために人がくるかも」

「じゃあ、それまでに済ませないとな」


 済ませる? 何を?


 何をするのかと思って彼を見ると、彼はニコリとほほ笑み跪き、私の手を取り……接吻した。


「…………ぇ?」


 あまりにもあまりすぎる急展開に驚きに言葉を失っていたときだった。

 立ち上がった彼がなぜかさらに近づく。私はただただ驚きに悲鳴も宥める言葉もだせずに後退る。

 が、すぐに背に壁がつき、逃げ道も失った所で彼が私を抱き寄せ唇にキスをした。


「…………!?」


 それは避けようと思えばきっと避けられたはず。

 けれども身体は動かす事はできず、恐怖か混乱なのか頭が真っ白になった私にはか何が起こっているのかさえ理解できなかった。


 そして、ようやく彼の顔が離れた所で我に返ったその直後。


「好きだ。もう早希の返事を待てないほどに。もう、おはようとおやすみだけじゃ堪えられないんだ」


……もう少し、葉月の言葉を真剣に聞いておくべきだったよ。


 それが本気だと示すように、壁際に追い込んだ彼は逃げる事を許してくれなかった。


前後文脈のズレを修正。

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