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あなたとワルツをもう一度  作者: しずか
8/9

S2-4

 運転席に彼、助手席には私。そして後部座席には沙耶さんと葉月。

 これ、もしかして後ろの二人が進展のなかった私たちに何か仕掛けようと!?


「えー!! お兄さんから送り迎えしてもらっているんだ。いいなぁ」

「いえ、お兄様の時間が空いているときだけです。それでですね、お兄様はそれはそれはそれはすごくて……」

「修介さんの事が好きなんだね。ね、早希」

「何でそこで主語を抜いて私にふるの……」

「そりゃ~、早希に俺は沙耶の事が好きだよ(イケメン風)。て言わせるためじゃない」


 あ、うん。ただの成り行きっぽいなぁ。


「それ、どんな流れよ…………てか、そんなフリを入れなくても私は沙耶さんの事が好きだよ」


 キャーキャーと騒ぐ後ろの二人の楽しそうな声。私も加わりたい。

 そして、なぜかこちらをちらりと見る修介さん。いや、運転中はこっち見ないで。普通に危ないから!


 もう少し学校の話とかしてくれればなぁ、と会話のハードルが下がるのを待ちながら母に遊ぶ連絡をしているうちに最近リニューアルしたというショッピングモールに辿り着いた。

 修介さんは手慣れた様子で車を駐車場にとめ、一行は中へと入る。


 私は葉月と手を繋ぎ、前では沙耶さんと修介さんが手をつないて歩く。傍からみれば、修介さんと沙耶さんはお似合いの彼氏と彼女みたいにみえる。


 というか今さらながらだけど、手までつなぐ仲な二人はどうみても物語に出てきそうなヒーロー役とヒロイン役だよねぇ。

 

 実は義理の兄妹で禁断の恋とか普通にいけそうな気がする。そして私が二人の愛を邪魔する悪役のストーリーの方が、私と修介さんとのロミオとジュリエットストーリーよりも数倍は波乱に満ちた情熱的で禁断の面白い展開となりそうな……


 て、いやいや。私は何を考えているの!


 ポケットを触れれば今もジュリエットのカードはある。告白も一応はされた。

 けれど、修介さんの告白に答えをだせなかった時から今に至るまで修介さんと付き合うイメージがどうにもできない。なんなら葉月や佐藤君の方がまだイメージができそうな……


「そういえばさぁ。結局、佐藤君と付き合ったの?」

「はい!?」


 妄想していた所に、葉月のあまりにタイミング悪い問いで思わず声がうわずった。


「あぁ、早希の反応でだいたいわかったわぁ。やっぱり佐藤君の告白を断ったんだ」

「なっ!?」


 なぜわかったし! いや、絶対に反応からはわかってない!!


「……告白?」


 彼がこちらを見て、沙耶さんも何々と興味ありそうな顔をしていた。

 そんな二人に葉月はよくぞ聞いてくれたとばかりに嬉しそうに頷く。


「そうなの! 早希と同じクラスの佐藤君が早希に告白したんだよ!」

「なぜそれを!」

「え? だって当人が教室で嬉しそうに言ってたから。『如月さんとの関係が前進した!』て」

「いやいやいや。そうはならんやろ」


「関係が、前進ですか?」

「そう! いったい何の関係が前進したんだろうねぇ。ね、早希?」


 私のツッコミは華麗にスルーされ、なぜか三人に視線が私に集まった。こうなっては白状……いや、説明するしかなかった。


「違うの! よく知らないからって告白は断っただけだから!」

「それで?」


 まるで続きがあるみたいな言い方やめて! あるけど!


「その、それなら連絡先を交換してくれって言われてその、断れる理由が思いつかなくてなくて……」

「連絡先交換しちゃったんだぁ」


 たしかに知らない人から連絡先を交換した人は大きな前進かもしれない。実際、名前……はまだフルネームでは覚えてないけど苗字は覚えたし!

 けれど、少なくとも告白をふられた直後にクラスで言いふらせられる事ではないと思うの。


「それってまだ諦めてなさそうだよね。ふられているのに強い」


 これも青春だねぇとケラケラと楽しそう笑う葉月。


 同感だし、実際に諦めてないと言われてしまったけれど。それを笑うのもどうなの。

 私の中の想像上の佐藤君も照れ笑いしながらそれほどでもと喜んでいるような気もしないではないけどさぁ。

 

 言いふらしていたとなれば庇う気にはなれず、話題を変えるにはどう返したものかと悩んでいたときだった。


「ん? あれあれ~? もしかして修介さん嫉妬している?」

「まあね。わかるかい」


 修介さんがじっとこちらを見たままだったらしい。ニマニマしながら問いかける葉月に、あっさりと答える修介さん。


 連絡先交換のどこに嫉妬する要素が……? 

 じゃなくて、そこは嘘でも本当でも強がって否定して! 主に私が恥ずかしいから!


 そうだねそうだねとこんな話になれているらしい葉月に流されているうちに、いつの間にか修介さんは私の隣に、沙耶さんと葉月の並びに交代していた。あげく「あ、私は沙耶さんとランジェリーショップに行くから!男は来ちゃだめだよ」と修介さんと残されてしまった。


 ………………てあれ? なんで私までおいていかれた!?


「さて、なら俺たちも行こうか」

「…………どこへ?」


 お互いに見つめ合いながら行き先を考えていると修介さんはジロジロと私の制服姿を見て。


「とりあえず、服を買おうか」

「……たしかに」


 沙耶さんや葉月が居たときならまだしも、そうでない制服姿の女子と一緒というのは何をするにしても周囲の目が気になるものなのかもしれない。

 他に行く所も思いつかなかったので、流されるままにレディースファッション店へと入っていった。


 それからほどなくして。


「これで、大丈夫かな」

「あぁ、似合っている」


 店員さんのご厚意もあり、その場で購入して試着室で着替えまでさせてもらえた。

 カジュアルかつシンプルにシャツとカーディガン、スカート。店員さんに見繕ってもらった衣服一式。お値段は痛い出費ではあるけれども、季節の変わり目で買い替えようとしていたところだったので何とかなりそうだった。

 とはいえ、学校帰りの手持ちにそんなお金を持っているはずもなく、修介さんに立て替えてもらってちゃんと返す約束もきちんとした。ちなみに制服は購入時の紙袋。

 そして、良い服が買えたと気分をよくしながらも店を出た所で気づく。


「さて、どうしようか」

「振り出しに戻ったね」


 雑貨屋さん、ゲームセンター、カラオケ、映画館。行き先はとりあえずあるにはあるけれど、どうぜならどれも葉月や沙耶さんとも一緒がよかった。

 そして、修介さんに提案して葉月に尋ねて三十秒後に返ってきた返事は『違う、そうじゃない!』。


 絶対その方が楽しいのに何が違うというのか。


 そして仕方なく二人で再び行き先を考える。


 男子と女子のペアのとき、普通どこへ向かうんだろ? 男女二人で思いつく場所なんてデートスポットとかしかないしなぁ……て、ん? あ、あれあれ?


 見上げながら修介さんの顔を見て、ずっと目が合っていた事に気づいて慌てて顔をそらす。


 えっ? え?? もしかして、気のせいかもしれないけど……これはデートなんじゃないでしょうか!?


 いや、でも葉月や沙耶さんともさっきまで一緒だったから気のせい。そうわかってはいても意識してしまうと急に恥ずかしくなって顔を見れない。


「どうかした?」

「え? あ、いや……」

「一緒は嫌だった?」


 嫌。こんな時に限ってその言葉で思い出す。

 二人きりのときに告白された夜。『俺の事が嫌いか?』、その問いに『嫌いじゃない』と答えた事を。


「嫌、じゃないけど……」


 けど……。特に意味のない言葉を付け足して気づく。


 あれ? これ、嫌がっているみたい?


 自分で言っておきながら距離が遠くなったような寂しい感覚に、思わず顔を俯ける。


「そっか」


 彼の言葉に意味もなく頷く。

 そして少しの沈黙の後。彼にいきなり手を引っ張られた。


「まぁ、そのまま立っていても邪魔だし、時間を潰すならカフェにでも寄ろうか」

「え? あ、う、うん」


 ずっと手を握って一緒に歩いている間、恥ずかしさで頭がいっぱいになりながらもカフェに辿り着いた。


「ブレンドコーヒーひとつ」

「わ、私はラテで」


 そこでようやく手が離れ。会計を済まして注文したドリンクを手に席に着く。

 そして場所も決まって落ち着いた所で今さらながら気づいた。


 ……な、何を話したらいいんでしょうか!? 


 自己紹介? ……は、今さらすぎる。話題は……て、共通の話題は前回最後に会った時が卒業パーティー後の告白されて曖昧な返事だっけ。

 それによくよく考えれば彼の事をまったく知らない! で、でもでもそういうときはいつもなら……。


 ニコッ。と目が合うなり無言でほほ笑む彼。もしかして『けど』なんていったから遠慮させてる!?


 違う、そうじゃないの!


 そんな意味のないもどかしい沈黙を保ちながらお互いに飲み物を飲み、周囲だけが賑やかな時間がただただ過ぎ。


「あれ? 修介くん?」


 その空気を破ったのは私でも修介さんでもなかった。


 ……誰?


 彼の名前を呼ぶ方を向くと、そこには修介さんと同い年くらいのきれいな女性が驚いた様子で修介さんを見ていた。


「やあ、ナギサじゃないか。帰ってきていたのか」

「うん。実家から戻ってきたの」


 と、気づけば修介さんは彼女と楽しそうに話し始めていた。そして


「このコは?」

「あぁ、彼女は沙耶の友達だ。先ほどまでは沙耶と一緒だったんだが、時間まで今は別々に行動する事になってな。こうして一緒に時間を潰しているんだ」

「ふーん、そうなんだぁ?」


 そう言いながらジロジロと私を見ながら何を考えているかはすぐにわかった。


「付き合っているの?」


 思わずラテを吹き出しそうになったのを堪えられたのは淑女としての意地……なんて事はなく単に熱くて多く口に含んでいなかったおかげで盛大にむせた。


「いや、ふられた」

「ふふ、どうせ強引に迫ったんでしょ」


 楽しそうに話す二人に気持ちがもやもやとするのは、会話から仲間はずれなせい?

 たぶん、きっとそうとに違いないと心に言い聞かせていた時だった。


「ふふ、ほんとかわいい。邪魔してごめんなさいね」

「いえ、そんな事」

 

  彼女は私を見てニコリとほほ笑むと、それじゃと軽く手を振りと去っていってしまった。


 そこからの事はあまり覚えていない。気持ちのモヤモヤはきれいなナギサさんがいなくなってからもずっと続き、その後に修介さんと何か話したような気もするし何も話していなかったような気もする。


 気づけば時間だけは過ぎていて、沙耶さんと葉月と合流すると再び車に乗り、沙耶さんの習い事の先に、葉月の家、そして私の家の順に送ってもらったけれど、そのときも彼とは会話なかった。

 そして、部屋に戻るなりため息をついてスマホを見ると、通知がきていた。


 『楽しかった』


 そんな何が楽しかったのかもわからないメッセージを見た直後にモヤが一瞬だけ晴れて、それがまたもやもやして気づく。


「これってもしかして……変?」


 その晩は夕食で父から話しかけられた事にも私は気づかなかったらしく、「娘が反抗期に」と泣きそうな父と笑いを堪えながら慰める母が居間でその後どう解決したのか知らないまま眠りについた。


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