S2-3
あとは卒業を控えるだけの授業は午前中で終わった。
それに、このクラスは女子が女子に告白する事そのものには抵抗がないらしい。たしかに、最近のマンガや小説とかアニメでも百合文化とかあるにはあるけど。
……うーん、沙耶さんだからこそ許されているような気が?
その間、授業中から休み時間に至るまで沙耶さんとの件に弁明の機会すらない好奇心に満ちた周囲の囁きは耳を塞ぎたくなるものであった。それでも転んだ事を囁き嘲笑われるよりは何億倍もよかった事ではあるんだけれど、やはり沙耶さんに迷惑がかかっている事に申し訳なさを感じてしまう。
…………でも、誤解をといたところで私みたいに沙耶さんのお兄さんからかもと勘違いされたらもっと面倒だしなぁ。
今思えば赤面ものの勘違だけれど、卒業パーティーで踊っている所は囁かれるていどには目撃されているのだから起こりえなくもない。
それで男子たちは安堵するかもしれない。けれども女子達はどう思うか。なんせ、私のせいでそのお兄さんである修介さんはパーティーでこのクラスにいる女子達とも踊っていたのだから。
そして、今も沙耶さんを見かけた事で、沙耶さんんのお兄さんと踊った事を思い出しながら嬉しそうに話す人たちがちらほら。
そこに告白された優越感などなく、例え羨望の眼差しだろうと恐怖にしか感じない自信だけはあった。
堂々と周囲を巻き込み蹴散らかして自慢げにする悪役令嬢のようになりたいよぉ……
この時ばかりは本気でそう思ったものの、そんな勇気も自信もない私にできるはずもない。
唯一この場をうまくおさめられそうな葉月は、私が頼む前から他の女子達からずでに問いかけられ、代わりにその役目を果たす事でいっぱいいっぱいのようだった。
どうしよう。葉月には悪いけど先に帰った方がいいのかも。
さすがに自ら混ざる気にはなれないし、役に立たないならまだしも私では足を引っ張りかねない。
学校に行った事だけでもよくやったと自分に言い聞かせ、帰ろうと立ち上がったときだった。
「あの、如月さん」
「ん?」
名前を呼ぶ声に顔を上げる。
そこに居たのは同じクラスの大人しそうな男の子だった。
気まずぞうな様子からは好奇心やからかうつもりで尋ねているようには見えず、思わず首を傾げる。
「その、ちょっといいかな?」
まぁ、予定も断る理由もないし?
頷き、用事も言わない事を不思議に思いながらもついて行くと辿り着いた場所は体育館裏だった。
……て、あれ? こんな場所に何の用が?
何も考えずについてきたけれど、面白みもないこの場所に来る人たちはいない。
不安になって立ち止まった直後だった。彼も立ち止まって振り返り向き合う。
あ、あれ? こんなシチュエーションどこかで?
静かな体育館裏、呼び出し、放課後。考えられる事は………………もしかして沙耶さんの告白の件!
え?えっ!? もしかしてヤバい!!?
襲われると思わず周りを見渡しても恨んだ男子が現れる……ことはなくバットやナイフ片手に待ち伏せた不良も現れる気配はない。
…………よかった。違う、みたい?
安堵の息をつき、じゃあどうして呼び出されたのかと再び疑問に戻る。
ココで本来なら最初に考えるべき普通の展開に気づくのが遅れたのはたぶん私のせいじゃないと思いたい。
「如月さんの事がずっと好きでした。付き合ってください!」
…………あぁ、なんだ。普通の告白だったのね。
と、まるで他人事みたいな感想を抱きながらムードの欠片もなく、それで何で呼び出されただっけと考えながら待つこと三分。
……て、あれ? あわ! あわわ私、告白された!?
ようやくその事に気づき、顔が熱くなるのを感じながらも落ち着けと両手を頬に当てる。
ま、待って待って待って!
なんでこのタイミング? なんで私? そもそも彼の名前はあ、か……、さ、佐藤君だっけ?
パニックになりながらもようやく一年間過ごしたクラスの男子の名前を思い出した。そして彼との関係を思い出そうとし、おそらく一度も普通に話しをした事もないのも思い出した。ダメじゃん!
あぁ、この状況で何を答えたらいいの! 助けて神様!仏様!葉月様! えぇい、どうにでもなれ!
「あ、……うん?」
ごめん、無理でしたぁ!
「ご、ごめん。突然すぎてびっくりだよね」
これ絶対、私が間抜けな顔をしているって事だよねぇ。
彼の私を気遣ってくれた言葉になんとか返す。
「え? あ、うん。そ、そう。ビックリしちゃった」
「驚かせてごめんね。たぶんまだ神崎さんの返事をしていない今しかチャンスがないと思って」
チャンス。て、何のチャンスなんだろう?
むしろ、卒業パーティー前の方がチャンスだらけだった気がするですけど。……あ、なんか悲しくなってきた。
先ほどまでの混乱はドコへやら。すっと熱は冷めていき、ようやく我に返った。
て、今は心の中でツッコミいれてる場合じゃなくて返事! そ、そう、だって、まだ彼の事をよく知らないし! 今度は修介さんのときと違って後腐れないようにハッキリと言わないと!
「そ、その、私。まだ佐藤君のことよく知らないから……その、私なんかじゃ、その……」
冷めてもダメダメじゃん!!
もともと、告白されるような人間じゃないし。そうわかっているだけに申し訳なさで何が言いたかったのかすらわからなくなってきた。
けれど、佐藤君は悲しむ様子もなく顔をまっすぐを私に向けた。
「うん、そうだね。じゃあさ、よかったら友達から始めよう」
あ? あれ? よ、よかったぁ。わかってもらえたて事だよね。
「うん。それなら」
と、ふった申し訳なさもあって連絡先を交換する。
「その、神崎さんとは付き合うの?」
神崎さん、そう言われて先に思い浮かんだのは沙耶さんではなく修介さんだった。
そういえば私、まだ彼の事も何も知らないんだ。……て、今は沙耶さんの方だよね!
と、違う違うと慌てて首を横にふる。
そして、彼の質問に答えようと顔を上げたときだった。
「そっかぁ。わかった。連絡先を交換してくれてありがとうな。 俺、まだ諦めてないから! また後で連絡するよ」
……ん? あ、あれ? 私、たしかに彼をふったよね?
さっきの返事も聞かずに彼は笑顔で手を振り行ってしまったけれど、思い返してみても彼が喜ぶような事をした記憶はない。
「なんだったんだろう。もしかして罰ゲームだったとか?」
そう思うと不思議と一連の流れも繋がるけれど、それはそれで悲しいような……。
とりあえず気を取り直そうと沙耶さんからもらったメモから連絡先を登録した事を沙耶さんに告げる。そして、修介さんにはどう送ろうかと考えながら教室に戻ると、そこには葉月が待っていた。
「あ、遅いぞー! ほら、急いで!」
カバンを手に取り葉月に引っ張られるままに向かった校門。
そこには沙耶さんと修介さんが待っていた。
「あ、あの。学校は?」
「あぁ、大学はもう春休みだ」
今さら知ったたけれど沙耶さんのお兄さんは大学生らしい。
そんな事を考えている間に彼は当然のように車の運転席へと乗り、沙耶さんにあらあらと言われるままに私は助手席へ、そして沙耶さんと葉月は後部座席へと乗り込んだ。…………ん?
「さて、行こうか」
どこへ?
あまりにも三名のあまり自然な動きでそう思ったときには既に車は走りだしていた。
6/20 前話の修正に伴う文章の調整および修正