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あなたとワルツをもう一度  作者: しずか
6/9

S2-2

もしかしたら、後日若干変更するかも。

引き籠りから出てくれたおかげでやっと話が先に進める。

 希望では踏み出せなかった一歩も恐怖からの逃げる一歩なら踏み出せる。


 あれ、名言? いえ、迷言でした。


 翌日。

 私は重たい身体を起こして制服に着替え、お守り代わりにジュリエットのカードをポケットにしまい、きちんと朝食をとってから家を出る。


「よし!」


 心はまだとどまりたい気持ちでいっぱいだけれど、気合いれると身体だけは動き出す。


 あれだけ重かった身体も一歩外を踏み出してみれば、天気は私の気持ちとは真逆なほどに雲ひとつない晴天だった。おまけに梅の花はより一層美しく咲き満開となっている。


「……ほんとウケる」


 昨日、帰り際に葉月が耳元で囁いた事を思い出す。


『じゃないと終わっちゃうよ』


 え? 何が?


 それが葉月との関係なのか、沙耶との関係なのか、沙耶さんのお兄さんとの関係なのかは考えたところで結局わからなかった。その晩に気になって尋ねても、葉月は電話もメッセージの返事も返してくれなかったから。


……私、一人になっちゃうの?


 そう気づいて悩み、関係が終わる事の恐怖からこうして学校に向かっているのだからきっと葉月の作戦通りなのかもしれない。


 それが怖くて来た。なんて知られたら葉月は悲しむのかな。

 ううん。きっと私の言葉を信じて約束を守ってくれたんだねと喜んで抱きしめてきそうな気がする。…………私、良い所ないなぁ。

 きっと普通に少しだけ勇気があれば、あの日の出来事も翌日に登校して笑い話にできていたのかもしれない。けれど、私にはそんなメンタルはなく、笑って流してもらえるような性格でもない。

 もしかしたら、ずっと世間に流されクラスでも目立たず意思を持たず過ごしてきた罰かもしれない。


 勇気がなくなり歩みがとまりそうな気持ちを堪えようとポケットに手をやりカードに触れる。

 

 ……恋に落ちる前のジュリエットはどうだったんだろ。どうしたらあんな行動的になれるのかな。

 こんなにも意思の弱くて地味ですぐくよくよする面倒くさい女。やっぱり彼もそんな私を知ったら幻滅するのかなぁ。


 考えれば考えるほどに家を出たときの空元気はなくなり、学校が近づくにつれて不安が大きくなる。ただ、そんな考えをやめた所で今度はクラスの人たちに笑われたりしないかという不安を思い出すだけで足取りは重くなるばかりだった。


 そんなダメダメな自分に呆れながら歩いているうちに学校へと辿り着き、不安にかられながら校門を見る。

 私が約束を守るかもわからないというのに葉月は当たり前のように校門前で待ってくれていた。


「おっはよう!」


 ずっと待ちながら探してくれていたのか、まだ距離もあるのに私を見つけるなり嬉しそうに手をブンブンと振って駆け寄り、その姿に私も小さく手を振り返す。


「えらい! ちゃんと約束を守ってくれた!」


 守れていないけどね。と苦笑いで返す前に、コラえきれないとばかりに嬉しさを全身で示して私を抱きしめてくれる。

 まだ空元気のときに思っていたとおりの反応。


 これだけでも来てよかったかも。

 

 そう思えるほどに不安は消え、心が軽くなる。

 

 包み込まれて周囲がどんな目で見ているかはわからなかったけれど、それ以上に葉月が喜んでくれている事に意識がいって気にはならなかった。

 こうして、強引に葉月に手を引かれながらも校舎に向かい、靴を履き替え、廊下では葉月は周りに元気よく挨拶していく。


「おはよう!」

「おはよう。お、今日はご機嫌だねぇ」

「わかる? えへへ」


 などと軽いやりとりをしながら進む人気な葉月に視線が集まるけれど、みんなが葉月を見て話しかけ私はそのおまけ。

 そんな、卒業パーティー前とは変わらないいつもの光景だった。


 そして辿り着いた教室。

 驚いた事に多くのクラスの人たちは残りわずかな時間を思い出づくりのために出席しているようだった。


「おはよう!」


 元気良い挨拶と共に私の手を引きずかずかと入る葉月。

 女子達からは「おはよう」と返され陽気に手を振り返しながらそのまま私を席に座らせ、自身は前の席に座った。


 ……よかった。気にしすぎだったのかも。


 そう安堵の息をついたのも束の間だった。


「なぁ、聞いたか?」

「あぁ、知っている」


 ……ヒソヒソ


 と、こちらを見ながら教室の入り口でにやけながら話すいちぶの男子たちと女子たち。

 恰好の話題のネタがやって来たのだ。聞き耳をたてなくてもわかるし覚悟もしていた。


 ……でもやっぱり目の前にされるのはキツイなぁ。


 せめて気を紛らわせればと思い、葉月に話題をふろうと顔をあげたときだった。

 葉月が彼らの方をキッと睨んだ。そして、身体の向きを変えて歩き出そうとしたところで慌てて手を握って引きとめる。


 なんでっ!


 そう私に言いたげな葉月の気持ちは嬉しかったけれど、あれは私の失態なのだ。ここで騒いだ所で消える過去でもないし、見える場所から見えない場所に変わるだけの事。


……私が気にしていないフリをすればいい。そうすれば葉月が心を痛めなくて済む。


 そう、だから残り数日の卒業式までを堪えればいい。だって私のためを思ってくれる葉月がいれば大丈夫だから。


「ありがとう」


 拳をぎゅっと握りしめる葉月の手を優しく両手で包み、そう素直に伝える。

 そして再び囁きがはじまりだし、呆れたと不満げにため息をつく葉月に今朝の通学路に咲く梅の花の話をはじめたときだった。


「早希さん、おはようございます」


 今度は教室の入り口から可憐な声が響き、男子たちがざわついた。

 それもそのはずで、別のクラスであってこれまでにこのクラスに来る事がなかった沙耶さん来ていたから。


「あっ、おはよう!」

「おはようございます」


 葉月の明るい声に教室に入ってよいと受け取った沙耶さんは小首を傾げてニコリとほほ笑むと教室へと入り、私の机のもとまできた。沙耶さんからパーティーの時とはまた違ったほのかに上品な香りがする。

 ……挨拶よりも前に思わずいい香りと変態みたいな事を言いかけたのは未来永劫胸の内にしまっておこう。


「お、おはおうございます」

「はい。またお会いできてうれしいです」


 その光景にさらにざわつく男子達。


 卒業パーティーの時に一緒に話していたんだけれどなぁ。


 まぁ、あの時も葉月と沙耶さんが傍に居たのだから私の事などそのおまけの存在だと眼中になかったのかもしれない。ましてや、男子達が憧れているらしい沙耶さんがわざわざクラスにやってきて私に話しかけているのだ。男子たちからすれば中学生活で一度は起こって欲しかった出来事なのだろう。

 クラスの男子たちが私を見る目が一転して代わって欲しいという切望の眼差しが刺さり、女子たちも興味があるのか教室が授業中よりも静かになった。


 沙耶さんて、すごいなぁ……。


 この衆目すら慣れているのかまったく気にする様子がない。

 葉月も同じらしく、クラスで私を囲むように楽しそうに話しだす葉月と沙耶さん。


「あれ? そういえば沙耶さんは今日は早希が来るって知っていたの?」

「いえ。でも今日は校門で待つ詩織さんの姿がありませんでしたからきっとそうかもって思いまして」

「あぁ、なるほど!」

 

 いつの間にお互いを名前で呼び合う仲に!? 人気者と可憐な美少女が話す光景。何これ、まるでマンガの一枚絵に選ばれそうなワンシーンじゃん。


 …………私がいなければ。


 そんな麗しい光景をぼんやりと眺めていると、沙耶さんと目が合った


「あ、そうでした」


 何かを思い出したように言いいながら手渡してくれたのは一枚のメモだった。

 そして、そこには連絡先らしきアドレスが二つ書きこまれている。


「これは?」


 見てわかっているのに信じられず思わず呟いてしまった。

 そんな私に沙耶さんはニコリとほほ笑みなぜか耳元にまで顔を寄せて小声で囁く。


「下の方は私の連絡先です。そして、上の方がお兄様の連絡先になります。お兄様から早希さんにと思って詩織さんにお伺いしたのですけれど、この方がいいと聞きまして」


 もしかして!


 『じゃないと終わっちゃうよ』の意味がコレだったのかと目線を葉月に向けるとニカッとした笑顔からして私の予想はおおよそ当たっているらしかった。


 だ、騙された! ……いや、騙されては、いない?


 たぶん、こうして学校に行かなければ葉月の優しさも沙耶さんの連絡先もわからなかった。

 そして、沙耶さんのお兄さんの連絡先も。


 どう反応していいかわからずにいる中、沙耶さんは言葉を続けた。


「必ず連絡ください。これはお兄様からの伝言です」


 そういうと耳元で囁くのを終え、姿勢を正すとニコリと天使のようにほほ笑んだ。

 沙耶さんの連絡先も書かれているとなれば受け取らない理由はない。それに、わざわざ小声で話したのも、このメモの話を聞いて私が変に恨まれないようにとの配慮なのだろう。


「ありがとう」


 と沙耶さんに笑顔で返し、再びメモに目をうつした直後だった。


「好きです」


 驚きに顔を上げると、沙耶さんの変わらずニコリとほほ笑む顔が映る。


「えっ?」


「ではもう一度だけ。 好きです。それではまた後ほど。よいお返事を期待していますね」


 そう言いながら教室を出ていく沙耶さんを見送りながら私は呆然としていた。


 好きです? 誰が? 誰に? て、ああそうか。伝言は『好きです』の方か! て、何を沙耶さんに言わせてるの!!


 混乱からようやく推理が追いつき、追いついた所でむず痒い胸の高まりに思わず顔を覆ったその十秒後だった。


「神崎さんが如月に告白した!!」


 という意味不明な男子達の叫びと絶望する嘆きや悲鳴によってなぜか男女問わずクラスは騒然となっていた。

 そこで、私もようやくもう一つの可能性に気づく。


 え? え? そうだとしても友達として、だよね? それとも……?


「まったく、やるねぇ」


 ただ、そんな騒ぎの中で葉月が私に向けた関心とも呆れともとれる苦笑いで、私がダンスで転んだ事の話題は一瞬にして吹き飛んだ事だけはすぐにわかった。


6/19 物語上の不整合を修正(memo渡し)


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