S2-1
「わ、私。何やっているの~~~!!」
パーティーから数日後。私、如月早希は頭を抱えていた。
そして、目の前には親友の葉月がニヤニヤしながらこちらを見ている。
「本当にねぇ。まさか足軽女だと思わなかった」
「それを言うなら尻軽ね! て、誰が尻軽じゃい!」
足軽女。尻軽女と言おうとして書き間違えたネットスラングの言葉……らしい。
決して、戦国時代の足軽の女性という意味ではない。ちなみに尻軽女は多情で浮気する女。そもそも浮気どころか恋人ひとり居た事すらない処女です。はい。
「いや、私は尻軽なんて一言も言ってないから。早希の守りが難攻不落の鉄壁なのは、攻略しようとした私が一番よく知っているし!」
「それはそれでどうなの……」
「そもそも足軽女と言ったのは、守りは鉄壁なのに攻めについてはたちの悪い恋愛雑魚という意味だしね」
「それ、まったく褒めてないよね! むしろ悪口だよね!!」
「だってねぇ~。そうも言いたくなる理由を聞きたい?」
「うぐっ…………」
そこで言い返せないのには理由があった。
それは私がパーティー以降から学校に通っていないから。私の学校では既に期末テストは終わり、卒業式までは自由登校していい事になっている。そして私は葉月と卒業パーティー後も学校に行く約束をしていたのだ。……その卒業パーティーの前日に。
そして、私はその約束をすっぽかしてずっと家に引き籠っていた。
だって、だって……。学校に行けるわけがないじゃない!
思い出して欲しい。私はダンス中に転倒し、そのまま飛び出したままなのだ。
しかも、周囲の注目が集まる中でよりにもよってお断りしていた相手と踊っていたときに。それを事情も知らない人達が見ていたらどう思うのか。
ざまぁ? 高慢でバカな女? 注目集めたくてわざとやった?
顔を見たら笑われるかもしれない。軽蔑されるかもしれない。陰口を叩かれているかもしれない。考えすぎかもしれなかったけれど、大人しく静かな中学生活を送ってきた分、卒業パーティーでのあの殺気や嫉妬の目を思い出す度にコワくなって行けなかった。
だから、時間が経てば周囲も忘れてくれるだろう。そう願ってずるずると学校に行かないでいるうちに、痺れを切らした葉月が私の部屋へと押しかけてきた。そして今に至っている。
「私、ものすごく心配したんだからね! だって、私が後押ししたようなものなんだし」
「ごめんなさい。恐縮で言い訳のしようもございません」
そして土下座をするのはこれで今日二回目。
一度目は、会うなり抱きしめられて髪をぐちゃぐちゃにされしまった後、休んでいる理由を聞かれて『そんな事が起こったら私が守るに決まっている。私を信じてくれないの』と泣きそうになりながら言われてしまったのだから返す事もなく土下座しました。
「それで、……どうなの?」
「どうなのとは?」
「その様子からして、進展はなさそうだね」
「…………はい」
そもそも連絡先を交換していないし。葉月と違ってあの後も動揺して沙耶さんとも連絡先を交換し忘れたし……
そもそも、ファーストキスまで奪っておきながらあれから何にない。なので本当に彼が私の事を好きなのかもよくわかっていない。私もあの時は少しくらいはドキドキとしていたけど、今となってはただ勢いに流されそうになっていたような気もしなくはない。
…………待って。ドコが鉄壁なの? 私、誰からみてもちょろすぎなんじゃ!?
「て、あれ?」
モヤモヤとした気持ちになりながらあれこれと考えていると、なぜか葉月が目をギラつかせながら手を構えて今にも襲いかかりそうな。…………のは気のせいじゃなかった!
「待って! 話せばわかっ!!」
その後は散々なほどに抱きしめられながら髪をわちゃわちゃされ、勢いままに止める条件に明日は学校に絶対に行くという約束をした頃には衣服は乱れ、髪もすっかりごわごわになっていた。
「約束、忘れないでね」
「うん。わかった」
満足げに頷いた葉月が耳元で囁く。
「じゃないと終わっちゃうよ」
そして、その様子に何があったのとギョッとした様子の母と満足げな顔をした葉月を玄関で見送った。
「これも時代の流れかしら……」
そんな呟きをした察しが良すぎて勘違いしている母に誤解を解かなかったために、その晩に父が青い顔をしながら「彼女ができたのか……」と意味不明なセリフを聞かされたのはまた別の話である。
6/18 誤字修正