異世界転生して、チートましましでイケメンになりました。
つい思いついて、我慢できずに書いてしまった。
すこし、反省している……
俺は、30過ぎで彼女なし童貞のしがない会社員だ。
会社からの帰り道、飛び出してきた謎の生き物をかばって車にはねられたら、なーんとその生き物は異世界の神様。
ご褒美に、チートましましイケメンで剣と魔法の異世界へ転生させてもらえることになった。
「お主、前世の記憶はもったままがよいか? それとも初期化するか?」
異世界の神様は厳かに俺に尋ねられた。
もちろん異世界転生のお約束、前世の記憶持ちでマヨネーズを作らなくてはいけないし、何なら三圃式農業やノーフォーク農法を導入して内政チートするお楽しみもある。
俺は迷わず、「前世の記憶は持ったままお願いします」と頭を下げた。
――今度こそ、異世界で男の夢ハーレムを築き、うふんアハンな乱れた生活をおくるのだ。
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「ご覧になって。アンドレ様の白い透き通るような肌」
「あの漆黒の大きな瞳でみつめられたら、わたくし気を失ってしまいそうですわ」
王宮の庭園を通る俺を見て、貴族の令嬢たちが嬉しそうに噂する。
「アンドレ様って、全属性の魔法が使えるんですって」
「それに、王国一の剣に魔法の使い手ですもの」
「手足も長くてスタイルも格好いいですわ」
「それに侯爵家のお生まれで、しかもあの美貌。アンドレ様なら、わたくし一夜の過ちでも構いませんわ」
「「「ね~、遊びでも良いからお付き合いしたいですわ」」」
冷めた視線をそちらに向ければ、きゃーと令嬢たちの黄色い悲鳴が上がる。
神様と約束したとおり、俺はイケメンチートましましで生まれた。
しかも、侯爵家跡取り。ものすごくモテている。
だが、俺はまだ童貞だ。女性と付き合ったこともない。
「お前、あんなにモテてるのに女に冷たいよな。真面目なのか? もったいない」
親友のフェルナンドが呆れたようにいう。
コイツも、貴族で美形で俺の次くらいに人気がある。
「庭園にいた3人のご令嬢で誰がタイプだ?」
「誰と言っても……」
「真ん中のご令嬢はかわいい系だし、左端はお姉さんタイプで美女だよなあ。右の清楚タイプも捨てがたいし」
――そうか、真ん中はかわいい系で、左はお姉さんタイプ、右は清楚系なのか。
「……もしかして、女性に興味がないのか?」
フェルナンドはしばらく思案顔で何やら呟いていたが、ハッとした顔で俺を見た。
「俺、お前なら……」
フェルナンドは頬を染めると、長い腕をそっと伸ばして俺の特別な腕に絡めようとした。
俺は、あわててジェット噴射でフェルナンドから逃げた。
「アンドレ様、ジェット噴射で泳ぐ姿も格好いいですわ」
「美事な流線型ですわね」
「アンドレ様とフェルナンド様何やら怪しげでしたわ!」
「きゃあ、禁断の恋かしら?」
「推しが尊い……」
令嬢達が、去って行く俺の後ろ姿をうっとりとみつめる。
俺が生まれた異世界、アクアマリンは地表の全てが水で覆われた星だ。
この星を支配する生物に俺は生まれた。
神様の約束通り、イケメンでチートましましで生まれた。
モテモテだ。
――だが、ハーレムは築けなかった。
前世の記憶のある俺から見て、この生物はどうみてもイカなのだ。
どんなにモテようとも、ここの女性たち、――イカ――、に発情できないのだ。
それどころか、男女の区別ですら難しいのだ。
俺たち雄は、8本の足のうち1本の先端が生殖器で、交接腕と呼ばれている。
俺は、フェルナンドが長い腕(触腕)の先端部分の内側についた吸盤で、俺の特別な腕(交接腕)を触った感触を思い出して、ぶるりと震えた。
――かあさん、今世も俺は童貞のまま人生を終えそうです。
これから、異世界転生をするものたちに告ぐ、異世界は人類とは限らないからな!
――前世の記憶がない方が幸せな場合も有るということを、肝に銘じておけ!