過去話 綴 葵(つづり あおい)2刻目
小さな女の子が大の男達をしかりつけている、そんな光景があった。女の子の名は葵。7歳になった彼女の毎日は、大雑把でおおらかな傭兵団の面倒を見ることだった。実際には、面倒を見てもらっている…はずだが…?
「葵は怒っていても可愛いな!」(せ)
「…珍しく世界一とか一番とかつけないんですね?」(リ)
「あ?そんな当たり前のことは言うまでもないだろう?」(せ)
「いや…だったら可愛いとか言わなくてもいいんじゃ?」(リ)
「これは俺の葵に対する愛が溢れてる証なんだよ!俺の葵に対する愛情にケチをつけようってのか?」(せ)
「本当にあんたは…。いや、俺の負けです。葵ちゃんはどんな表情してても可愛いですよね!」(リ)
「だろう?当たり前だけどな!」(せ)
「葵ちゃん主義は未だ健在どころか、最近悪化してるんじゃないかと心配になってくるんだよなぁ…」(リ)
「なんだ?何か言ったか?」(せ)
「何でもないですよ…」(リ)
「そうか?」(せ)
「もう!二人とも早く列に並んで!ご飯を配り始められないでしょ!」(あ)
「葵ちゃんごめんね?すぐに並ぶからね!」(リ)
「葵、わるいわるい!怒ってる葵が世界一可愛いから見惚れてたんだ!!」(せ)
「む~?すぐにそうやってはぐらかすんだから…そんなこと言ってもお肉増やしたりしないからね?」(あ)
「やっぱり今日も葵がみんなの分を配るのか?」(せ)
「当たり前でしょ?お父さんたちにやらせたら、お肉だけなくなっちゃうんだもん!」(あ)
「あのな?葵…お願いがあるんだが?」(せ)
「何?お肉増やしてくれと言うのは聞けないよ?みんな平等だって決めたでしょ?」(あ)
「いや、違うんだ…その、たまにはパパって呼んでくれないか?」(せ)
「む~?何で?」(あ)
「いやな?別にお父さんって呼ばれるのが嫌なんじゃないんだぞ?ただ…その…パパって呼ばれる方が親しみがある感じがして嬉しいと言うかだな…?」(せ)
「む~?よくわかんないから却下です!」(あ)
「そんな!?葵、お願いだから!一度でいいからパパって呼んでくれないか!?」(せ)
「はいはい、呼んで欲しかったら早く列に並んでくださいね?」(あ)
「了解だ!すぐに並ぶから呼んでくれよ!約束だぞ!」(せ)
言うが早いかその巨体でどうやって?と思える速度で列に並ぶ本郷。
「・・・相変わらず、葵ちゃんが原動力だとあの人は人外の能力を発揮するな…」(リ)
「もう!パパったら…しょうがないんだから!」(あ)
「やっぱり、リーダーの前じゃないとパパって呼ぶんだね?」(リ)
「えへへ♪癖になっちゃってて…やっぱり可笑しいかな?」(あ)
「いや、葵ちゃんの年齢なら普通でしょ?気にすることはないんじゃないかな?」(リ)
「そっか…ありがとう、リーウィお父さん!」(あ)
「俺にはお父さんってつけなくていいよ?それだけでも…あの人に聞かれると最近は面倒だからね…」(リ)
「うちのパパがご迷惑をおかけしております。」(あ)
「いえいえ。こちらこそ、うちのリーダーが多大なるご迷惑をおかけしております。」(リ)
そう言いながら、頭を下げ合う二人だったが…
「「ぷっ♪」」(あ・リ)
二人ですぐに噴き出した。
「おい!リーウィ!!早く並べ!お前がもたもたしているせいで葵の気が変わって、パパって呼んでくれなくなったらどう責任取るつもりだ!葵と楽しそうに会話しやがって!今日を命日にしてやろうか?あ゛あ゛ん!!」(せ)
「もう…パパったら…」(あ)
「はは…行かないと本当に殺されそうだから並んでくるね。」(リ)
「はい…あまりパパを甘やかさないようにしてくださいね?」(あ)
「まあ…あれでもうちの傭兵団のリーダーだからね…善処します。」(リ)
「あれでもリーダーなんだよね…?」(あ)
葵から疑問符が飛び出し、苦笑いで返すリーウィ。
「リーウィ!早くしろ!!」(せ)
「今、行きますって!!ごめんね、葵ちゃん。配給よろしくね?」(リ)
「はーい!また後でね。」(あ)
そう言ってそれぞれ向かうべき場所に歩き出した。
それから葵は、傭兵団のみんなに今日の昼食を配った。メニューはこの辺りの主食の芋を蒸かしたものと、狩りで得た獣の肉と近くでとれた山菜を入れたごった煮風のお鍋だ。みんなと一言二言交わしながら配膳していると、ついに本郷の順番が回って来た。
「はい!お父さんの分はこれ!」(あ)
「葵…パパって呼んでくれるんじゃ?」(せ)
「ん~?食べ終わってからだよ?」(あ)
「そ、そうなのか…。なあ…実はパパの分だけこっそりと肉を増やしてくれたりは…?」(せ)
「してないよ?みんな平等で~す♪」(あ)
「そんな!?最近、葵はパパに冷たくないか!?」(せ)
「もう!お父さんってばすぐに拗ねるんだから!みんな待ってるんだから早く席についてください!」(あ)
「うう…わかった…」(せ)
トボトボと席に向かう本郷。その背中はガタイが大きいわりに小さく見えた。
「本当にパパは…仕方ないんだから…」(あ)
「まあ、そう言わずに…あれは本当に葵ちゃんを愛してる証でもあるのだから…ね?」(リ)
「もう!そうやってリーウィさんが甘やかすからパパがいつまでも葵離れ出来ないんだよ?」(あ)
「残念だが…あの人は絶対に葵ちゃん離れ出来ないと思う…」(リ)
「うん…何となくそんな気がしてた…」(あ)
「と、とりあえず、俺の分も頼めるかな?早くしないとあの人が復活して騒ぎ出しそうだし、何よりみんなを待たせているからね。」(リ)
「そうだね。よっと♪はい、リーウィさんの分です!」
そう言って、お盆代わりの板を渡す葵。
「本当は一番苦労してるリーウィさんには、お肉おまけしてあげたいんだけど…」(あ)
「気持ちだけありがとう、葵ちゃん♪実際にそんなことされたら…リーダーに嗅ぎつけられて俺が殺されそうだし、遠慮しておくよ…」(リ)
「そんなことないって言いたいけど…パパなら有り得るからね…」(あ)
「そうそう、あの人は葵ちゃんが絡むと超人以上の能力を発揮するからね…」(リ)
「本当にもう…」(あ)
「ははは…じゃあ、俺は席に着くから葵ちゃんも自分の分をよそって来てね?」(リ)
「はーい!じゃあ、すぐ行くから待っててね♪」(あ)
そう言ってささっと自分の分をよそい、リーウィの後を追った。そして、葵が席に着くとリーダーの挨拶でみんな一斉に食べ始める。…のだが、今日はまだ落ち込んでいた。
「もう!みんな席に着いたから挨拶して!お父さんが挨拶しないとみんな食べられないんだよ!」(あ)
「わかってるんだ…わかっているんだが…何か力が入らなくてな…」(せ)
「もう!また変なこと言って…そっか、残念だなぁ?葵、お父さんがみんなの前でキリッと挨拶するの、かっこよくて大好きなのになぁ?」(あ)
「急に力がみなぎって来た!!」(せ)
「お父さん、頑張って♪」(あ)
「任せておけ!!」(せ)
この男、葵の掛け声さえあれば死からも復活しそうである。
「『暁の沈黙』、注目!!今日も奪った命のお陰で自身の命を繋いでいる!その事に感謝を忘れずに残さずに食べるように!特に、葵が折角作ってくれた料理を残す奴は俺が許さん!覚悟して全部食え!わかったな!!」(せ)
「イエッサー!!」(暁団員)
「いただきます!!」(せ)
「いただきます!!」(暁団員)
挨拶と同時に各々食べ始めた。カチャカチャと食器の音が響き、楽し気な雰囲気に包まれた。
「どうだった、葵?パパはかっこよかったか?」(せ)
「とってもかっこよかったよ!」(あ)
「そうか!とってもかっこよかったか♪」(せ)
上機嫌で席に着く本郷。本人は隠しているつもりだろうが、その顔はこれでもかと言うほどにやついている。
「だからね?はい!葵のお肉を一つパパにあげるね♪」(あ)
「え!?今…パパって呼んでくれたのか!?」(せ)
「そっちに反応するのかよっ!?」(リ)
律儀にツッコミを入れるリーウィ。お仕事ご苦労様です。
「おっと…気持ちは嬉しいけど、さすがに葵の分を貰うわけにはいかないな…」(せ)
「気にしないで?パパは、いつも葵の知らないところでみんなのために頑張っているんでしょう?だから…これくらいのねぎらいはさせてください。」(あ)
「葵…お前ってやつは…」(せ)
「それにね?じゃーん!私のお椀見てみて?お野菜たっぷりなの♪私が最後だし内緒でたくさん入れさせてもらってるの♪えっへっへっ♪」(あ)
「葵…そうか、それじゃあありがたくいただこう…」(せ)
「うん♪遠慮なく食べてね♪」(あ)
そう言って、お椀からすくった野菜を口に入れる葵。
「うん♪今日の味もなかなかかなぁ?」(あ)
「・・・」(せ)
「む~?どうしたの?難しい顔したままお肉を見つめて…?何か入っちゃった?」(あ)
そう言って問いかける葵に答えないまま、ガバッと急に立ち上がる本郷。
「本当にどうしたの!?」(あ)
「そのまま食べるのは勿体ないから、葵に貰った肉を他の奴らに自慢してくる!!」(せ)
「む~?え!?何言ってるの!?パパ!?」(あ)
「じゃあ、ちょっと行ってくるから葵は先に食べちゃってくれ!!」(せ)
「ちょっと!?パパ!?」(あ)
そう言って、本郷はとても大事なものを抱えるようにしてお椀を持ち、近くの団員の元に向かった。
「もう…パパったら…食事中は席を立っちゃダメでしょう?」(あ)
「つっこむべきはそこじゃないでしょう!?」(リ)
「リーウィさん?」(あ)
「ごめんごめん、葵ちゃん。もう、あの人のせいでつっこみ入れないと気が済まない体質になっちゃってね…」(リ)
「それは…何と返せばいいやら…」(あ)
「それにしても、葵ちゃん?パパを甘やかしちゃダメだったんじゃないの?」(リ)
「あはは…落ち込んだパパを見てたら…つい。」(あ)
「葵ちゃんはいるだけでリーダーのエネルギーになるからね…与えすぎるとああなるんだよね…」(リ)
そう言ってリーウィが指さす方に注目すると…
「どうだ?俺のお椀を見て何か気が付かないか?」(せ)
「え?俺らと同じお椀ですよね?」(団員)
「そうじゃねえよ!中身だよ、中身!」(せ)
「中身?それも同じじゃないですか?」(団員)
「ばかやろう!よく見てみろ?肉の数が違うだろ?」(せ)
「肉の数?…ああ!?本当だ!?全員4つのはずなのに、リーダーのお椀に5つ入ってる!?」(団員)
「おっと!?しまったなぁ?ばれちゃったかぁ?こいつはこまったなぁ?」(せ)
演技とも呼べない酷い物だった…
「どうしたんですか?その肉は?葵ちゃんが数を間違えるはずはないし…まさか!?」(団員)
「おっとぉ…気付かれてしまったかぁ?」(せ)
「葵ちゃんから奪ったんですね!?なんてことを…」(団員)
「あ゛ん?俺が葵から物を奪うわけがないだろう!そんなことするくらいならお前らの命を奪うわ!」(せ)
「いや…その宣言もどうかと思うっすけど…」(団員)
「この肉はな?葵が普段頑張ってるパパにあげると言ってくれたとっても素晴らしいお肉様なんだぞ?」(せ)
「え?葵ちゃんから貰ったんですか?返さなかったんですか?」(団員)
「俺も最初は貰うのを躊躇ったさ、でもな?葵が普段頑張ってるパパをねぎらうためと言ってくれたんだぞ?その気持ちを踏みにじるわけにはいかないだろう?」(せ)
「はぁ…そうっすね?じゃあ、さっさと食べてしまった方が良いんじゃないですか?」(団員)
「ばかやろう!そんな勿体ないこと出来るか!この肉は最後の最後に味わって食べるんだ…何と言ったって、葵の感謝と愛が詰まったお肉様だからな♪」(せ)
「そうっすか…じゃあ、もう食事に戻っていいですか?」(団員)
「なんだ?急にそっけなく…ははーん?さては、嫉妬だな?このお肉様が羨ましくて仕方がないんだろう!」(せ)
「いえ…葵ちゃんから貰ったのは確かに羨ましいことは羨ましいけど、そこまで大袈裟に騒ぐことでは…」(団員)
「はっはっはっ!焼くな焼くな♪確かに凄い価値のあるものだが、俺が!貰ったのだ。お前らにはひとかけらほども渡さんぞ?」(せ)
「うわー…この顔は腹が立つっす。ぶん殴りてぇ…」(団員)
「おっと、殴って奪いたくなるほどとは参ったな♪取られる前に他の奴に自慢しに行くか♪」(せ)
「…何を言っても無駄なのはわかってるんすけど…マジで腹立つわ…この人は!!」(団員)
「焼くな焼くな!わっはっはっはっ♪」(せ)
上機嫌で次のテーブルに向かう本郷。いつになったら食べるのだろうか?
「・・・あれが葵ちゃんパワーの過剰摂取の結果だよ。」(リ)
「うん…今後は気を付けます…」(あ)
その後、みんなが食べ終わった後、一人で幸せそうに冷め切った食事をする巨漢の男がいたのは言うまでもない。
その頃の葵の趣味は、獣ウォッチングだった。遠くの獣の様子をスコープで観察していた。そう、葵は狙撃銃を買ってもらっていたのだ。もちろん、買ってもらうのは大変だった…いや、とても簡単だった。その経緯はこんな様子だった。
「パパ!葵も獣が倒せる銃が欲しい!まだ近づくのは怖いけど…遠くからなら戦えるもん!」(あ)
「葵…さすがに、銃は葵にはまだ早い…。と言うより、葵は俺が守るから銃何ていらないんだぞ?葵を傷つけようとする輩は、俺が全部この拳で殴り飛ばしてやらぁ!!」(せ)
「ん~?でも…葵だってみんなと一緒に戦いたいんだもん…」(あ)
「しかしな…銃はとても危なくてだな…」(せ)
「いいんじゃないですか?葵ちゃんに銃を持たせてみても?」(リ)
「何言ってんだ?銃はおもちゃじゃないんだぞ?少しのミスで自分や他人を簡単に殺しちまうんだぞ?」(せ)
「でも、傭兵団と一緒に住んでいるんですよ?今まで細心の注意を払っていたから何事もなかったですけど…それでも、この世界で生きていくなら銃くらい扱えないと色々と危険でしょう?」(リ)
「そこは俺達が守ってやればいいだろう!」(せ)
「本当に一生守ってあげられると思っているんですか?」(リ)
「それは…でも、まだ早いだろう?」(せ)
「そうやって先延ばしにし続けることになる気がするんですよ…違いますか?」(リ)
「いや…しかし…」(せ)
「リーダーの気持ちは分かります。俺だって葵ちゃんには銃なんて使って欲しいとは思ってません…。ですが、俺たちは知ってますよね?この世界はそんなに甘くないってことを…」(リ)
「・・・」(せ)
「そうやって先延ばしにした挙句、俺たちに何かあって葵ちゃんが一人で放り出されてしまったらと考えたことありますか?」(リ)
「それは…」(せ)
「とりあえず、弾は込めなくていいので狙撃銃を与えてみませんか?」(リ)
「何?なんで狙撃銃なんだ?」(せ)
「それは…葵ちゃんが双眼鏡で俺たちの狩りの様子を見ているのは知っていますよね?」(リ)
「ああ。何度か怖くないか?と聞いたんだが葵が怖くないって言うからな…」(せ)
「それですよ。葵ちゃんは、怖い獣でも双眼鏡を通してみると怖くないみたいなんです。」(リ)
「それで?いや…それでスコープから覗いても同じじゃないかと思ったわけか?」(せ)
「そうです。スコープで獣を安全なところから狙撃して狩れるようになれば…それを糧に生きていくことも出来るはずです。」(リ)
「しかし…」(せ)
「まだ、上手く出来るかもわからないんですよ?とりあえず、与えてみませんか?それで一応、銃を持ちたいと言う葵ちゃんの要望は叶えてあげられるわけですから。」(リ)
「むぅ…」(せ)
「ねぇ、葵ちゃん?」(リ)
「む~?葵にご用なの?」(あ)
「そう、葵ちゃんにご用なんだ!」(リ)
「なになに~?」(あ)
「葵ちゃんは銃を持ってみたいんだよね?」(リ)
「うん!でも、千次郎パパダメだって…」(あ)
「だったら、もっとお願いしてみよう!きっと、たくさんお願いすれば千次郎パパも分かってくれるよ!」(リ)
「本当?」(あ)
「本当だよ!試しにたくさんお願いしてごらん?」(リ)
「うん!してみる!」(あ)
「おい、リーウィ…お前何を言って…」(せ)
「千次郎パパ!お願いがあります!」(あ)
「な、なにかな?」(せ)
「葵もみんなと戦いたいから銃を買ってください!」(あ)
「だ、だめだ。」(せ)
「お願い!お願いします!買ってください!」(あ)
「だ、だめなんだ…葵、わかってくれ…銃はとっても危ないんだよ?」(せ)
「パパ…お願い…します…」(あ)
服の裾を掴んで目に涙を溜めながら見上げてくる葵を見た瞬間に本郷は…
「わかった、買ってやろう!」(せ)
「本当!やったぁ♪」(あ)
「あ…ま、待ってくれ…」(せ)
「わーい♪銃だ♪銃だ♪葵、頑張るぞ~♪」(あ)
「ぐぅ・・・」(せ)
飛び跳ねて喜ぶ葵に、がっくりと項垂れてそれを見つめる本郷の構図が完成した。
「これはもう買わないと嫌われちゃいますね?」(リ)
「リーウィてめぇ…こうなると分かってて葵を焚きつけやがったな?」(せ)
「ええ、それはもちろん。」(リ)
「どういうつもりだ?銃は危険だと…」(せ)
「だからこそ、少しずつでも銃について学ばないといけないんですよ…知らない方が危険な事なんてたくさんあるんですから…」(リ)
「それは…そうかもしれないがな…」(せ)
「それに…さっきも言いましたけど、俺たちがずっと一緒にいられる保証何てないんですよ?だったら…少しでも生き抜くための手段を与えてあげた方がいいじゃないですか?」(リ)
「・・・はあ。どちらにしろ、葵に買ってやると言った時点で俺の負けだしな…買ってやるさ。」(せ)
「そう投げやりにならないでくださいよ。先程言ったように、弾は込めないで様子を見ましょう。スコープで銃のスコープを覗いているだけで一緒に戦っている気分になるかもしれないですし?弾を込めるのはもっと銃に詳しくなってからと言えば葵ちゃんも納得して頑張るはずですよ。」(リ)
「そう…だな。しばらく持たせてみてから判断してもいいわけだからな?」(せ)
「そうですよ!まあ…まずは狙撃銃は重いですからね?持って動き回れるようになるまでが大変でしょうね?固定を素早くする技術も必要でしょうし…」(リ)
「リーウィ…お前酷いな?そうやって難しいことをさせて煙に巻く気だろ?」(せ)
「いえ…何となくですが、葵ちゃんは真剣に一緒に戦いたいと思っているみたいなのでそういう全てを超えてくれると思っているんですよ…」(リ)
「そうか…葵次第なんだな?」(せ)
「そうです…葵ちゃん次第ですね。」(リ)
二人の視線の先には、無邪気にはしゃいでいる葵の姿があった。
そして、狙撃銃を買ってもらった葵は、暁の沈黙のメンバーに狙撃銃について詳しくないのを知ると、買ってもらった店に何度も連れて行ってもらい、話を何度も聞いていた。
他の傭兵団と顔を合わせた時も、狙撃担当が要れば、色々な話を聞き出していた。
そうして、半年後には解体、組み立て、手入れ、そして、細かな扱いも完璧と言っていいほど出来るようになっていた。重さも気にならないほどではないが、スコープを覗き込んでいる間はそれほどブレないくらいにはなっていた。そして…
「ばぁん!ばぁん!」(あ)
葵は、自分で狙撃タイミングを計って、言葉にして銃を撃っていた。ここまで出来るようになって、どうして実際に撃ってみたいと言わないのか?みな不思議には思いもしたが、指摘すれば藪蛇になりかねない事なので誰も触れなかった。それに、口に出して狙撃の真似事をする葵が可愛かったのも理由の一つだろう。
「ぐぅ…何て可愛いんだ!葵は撃っている振り何だろうが、俺の心はもう撃ち抜かれているぞ♪」(せ)
「確かに可愛い光景なんだけどな…あんたのせいでこっちは台無しだよ…」(リ)
「うるさいな!今は可愛い可愛い葵の可愛い光景を目に焼き付けているんだ!黙って見ていろ!」(せ)
「あーはいはい、すみませんね…」(リ)
「分かればいいんだよ。」(せ)
そう言って、葵の言動を全て見落とさないようにじーっと見つめる不審者…もとい、本郷だった。
「葵…可愛いけど、あまりばんばん言ってると…獣が寄って来ちゃうぞ!」(せ)
「いや…そんなに大きな声を出してないでしょうが?」(リ)
「は?葵の声はな?エンジェルボイスなんだよ!凄く澄んだ綺麗な声だから…獣も引き寄せられちまうかもしれないだろうが!少なくとも俺なら、100キロ先でも聞き分ける自信があるぞ?」(せ)
「いや・・・あんたを基準にしないでくれ、マジでな?」(リ)
「・・・」(せ)
「そして、すでに聞いちゃいねぇし…」(リ)
「・・・癒されるなぁ♪」(せ)
「・・・リーダー、ちょっといいか?」(リ)
「なんだよ?今、俺はすごくいそがしいんだよ?見ればわかるだろ?」(せ)
「いや…どう見ても暇そうなんだが?」(リ)
「なら、お前の目は節穴だな!!」(せ)
「言い切ったみないな態度で葵ちゃん観察に戻るのはやめてくれ…」(リ)
「なんだよ!俺の脳内に葵の可愛い姿を保存するより大事な用事なんだろうな!」(せ)
「・・・一応、葵ちゃんの事なんだが?」(リ)
「ぐ…仕方ないな。手短にしろよ?こちとら貴重な葵の脳内保存時間なんだからな?」(せ)
「いや…あんたこの拠点にいる間のほとんどがその時間でしょうが…。まあいいですよ、それで葵ちゃんの事なんですが…」(リ)
「なんだ?葵がどうかしたのか?」(せ)
「葵ちゃんは…なんで銃を撃ちたいって言わないんですかね?」(リ)
「ああやって口で撃ったつもりになって満足してるんじゃないのか?」(せ)
「みんなその意見が多みたいですけどね…俺はそうは思えないんですよ…」(リ)
「ん?どういうことだ?」(せ)
「何て言ったらいいですかね…真剣過ぎるんですよ。スコープを覗き込む葵ちゃんは、真剣な目をしてませんか?」(リ)
「そりゃ…口で撃ったつもりになるために真剣にやってるんじゃないのか?」(せ)
「いや…それにしては真剣過ぎるんですよ…。何より、毎日の手入れを欠かさずしてますよね?口で撃つ真似で満足してるならたまにはさぼったってよくないですか?(リ)
「そう言われれば…そんな気もするな?」(せ)
「でしょう?だから…葵ちゃんに何でか直接聞こうかと…」(リ)
「待て!藪蛇になったらどうするんだ!」(せ)
「でも…聞かないでもっと不味いことになったらどうするんですか?今の葵ちゃんが何を考えているか分からないんですから、予測できない行動に出るかもしれないんですよ?」(リ)
「いや…それは…」(せ)
「とにかく、聞いてみない事には分からないですから…いいですね?」(リ)
「・・・分かった。」(せ)
「それじゃあ、早速聞きに行きましょう!」(リ)
「まて!今は葵が銃の訓練をしてるしな?後でいいんじゃないか?」(せ)
「しているから意味を聞くんでしょう?話の流れって知ってますよね?」(リ)
「いや…でもな?」(せ)
「ああ、もう!なら、俺一人で行くのでいいですよ!」(リ)
「待て!…俺も行く…」(せ)
「最初からそう言ってください…」(リ)
二人は葵に近づいて声をかけた。
「葵ちゃん、ちょっといいかな?」(リ)
「ん~?・・・うん、いいよ?」(あ)
そう言ってから、葵は銃を肩にかけてからこちらを振り向いた。
「葵ちゃん…重くないのかい?銃を置いてもいいんだよ?」(リ)
「平気だよ!これも鍛錬だからね?」(あ)
「そっか…やっぱり真面目に鍛錬してるんだね?」(リ)
「そうだよ!早くこのライフル銃で獣をやっつけられるようになって、パパ…お父さんたちに楽させてあげるんだから!」(あ)
「葵…そんなことを考えてくれていたのか?」(せ)
「そうだよ!だって、お父さん時々、腰がいてぇ!とか言って叩いてるのみるもん!傭兵稼業は大変なんだよね?」(あ)
「確かに大変なんだが…葵はまだ子供なんだから、気にしなくていいんだぞ?」(せ)
「私もう子供じゃないよ!…なんて言えないけど…でも、私だってたくさん練習したら役に立てることあるんだから!だから、葵は買ってもらったこの銃で頑張るって決めたんだよ!」(あ)
「そっか…葵も成長してるんだな…くそっ!雨が目に入りやがった!」(せ)
「ん~?雨?降ってる?」(あ)
「いや…葵ちゃん。雨降ってないからね?」(リ)
「そうなの?」(あ)
「そうそう…ゴミが目に入ったんじゃないかな?」(リ)
「ゴミ?葵が取ってあげようか?」(あ)
「ああ!自分で取るみたいだから良いんだよ!それよりも、葵ちゃん話の続きだけど…」(リ)
「ん~?何のようだっけ?」(あ)
「ええとね…銃の練習のことなんだけどね?ばぁん!って声を出してるのは撃つタイミングの練習しているのかな?」(リ)
「そうだよ!撃つタイミングを見極めて?いるんだよ!100%当てるのは難しいよね…」(あ)
「100%当てるって…?」(リ)
「えっと…声を出したタイミングと獲物との距離と位置でね?葵の…予感?予測?で当たったか見極めているんだよ!まだ80%くらいしか当たらないからダメなんだよ…」(あ)
「優れた傭兵は撃った瞬間当たるか予測できるとか聞いたことあるけど…撃たずに予測何て出来るのか?いや…しかし…」(リ)
「ん~?あ!またリーウィさん、疑ってるんだね!」(あ)
「え?いや…その…葵ちゃんの予測が凄すぎて俺には分からないと言うかだね?」(リ)
「じゃあ、葵がちょっとだけ教えてあげる!」(あ)
「え?何をかな?」(リ)
「獲物の捕らえ方!…狩り方?」(あ)
「ああ…じゃあ、お願いしていいかな?」(リ)
「うん!いいよ!えっとね、獣…動物はね?とても勘が鋭いんだよ?知ってる?」(あ)
「そうだね。気が付かれてないと思っても、逃げられたり、逆に襲ってきたリすることがあるかな…」(リ)
「それは音とかが原因だと思うけど…。まあ、いっか?それでね?遠くから狙っててもさっと逃げちゃうことがあるんだって!」(あ)
「なるほど…それは当てるのが難しいね?」(リ)
「そうなの!だからね…葵はわざと動き出すのを待ってから撃つの!歩き出してすぐなら咄嗟に動けないと思うからね!」(あ)
「理屈はわかるんだけど…とても難しくないかな?」(リ)
「だから80%なの!とっても難しいんだよ!」(あ)
「・・・え?それをやって80%も当てられたのかい?」(リ)
「そうだよ!まだ葵の事を疑ってるな~?」(あ)
「いや…疑うと言うか…そんなことが出来たら凄すぎると言うかね…」(リ)
「じゃあ、見せてあげるよ!はい!」(あ)
そう言って、葵はリーウィに双眼鏡を渡す。
「え?何を見せてくれるって?」(リ)
「葵が練習で獣を撃つところ!ちゃんと見ててね!」(あ)
「分かった!見てるから頑張ってね?」(リ)
「うん!よ~し!一発で当てるからね♪」(あ)
「なるほど…動物が動いた後に素早く声を出すのを聞けってことかな?まあ、それも練習にはなるのかもしれないけど…」(リ)
リーウィには葵の練習が狙撃の練習として成り立っているのか分からなかった。しかし、葵が真剣にやっているのだからきっとなるのだろうと、軽く考えていた。
「お?いるなぁ…あれは…イノシシか?結構近いな…葵ちゃん、大声は出しちゃダメだよ?」(リ)
「・・・」(あ)
「葵ちゃん?」(リ)
振り向いたリーウィが見たのは、とても練習をしているようには見えない、真剣な表情をした葵がスコープで獲物を捉えている姿だった。
「リーウィさん…あのイノシシ見てる?」(あ)
葵に言われて、慌ててイノシシに視線を戻すリーウィ。
「うん、見てるよ!」(リ)
「イノシシ動きそうだから目を離さないでね?」(あ)
「分かったよ!」(リ)
と、返事をしたものの、イノシシが動きそうかどうかなどリーウィには分からなかった。
「ばぁん!」(あ)
「うごい…た?」(リ)
その時、確かにイノシシが動く前に葵の声が聞こえた…。そして、葵の声が聞こえた瞬間…リーウィは確かに見た。イノシシが一歩を踏み出したと同時に頭を射抜かれて倒れ伏す姿を…その幻視を…
「やったぁ♪また命中したよ!どうだった!リーウィさん?」(あ)
「あおい…ちゃん?」(リ)
一瞬だが振り返ってこちらを見る前の、スコープを覗く葵の目が赤く光っているように見えた。だが、こちらを見て喜んでいる葵の目は、両目とも赤くなどなかった。
「(一瞬だけど、スコープを覗き込む葵ちゃんが別人に見えたな…イノシシが射抜かれる幻視も見ちまったし…思ったより疲れているのかもなぁ。)」(リ)
「どうしたの?」(あ)
「いや…葵ちゃんが凄いからびっくりしちゃったんだよ!」(リ)
「ふっふ~ん♪これで信じた?」(あ)
「もちろん、信じたよ!いや、本当に葵ちゃんは凄いなぁ…」(リ)
「葵!パパにも撃つとこ見せてくれ!」(せ)
「ん~?葵、そろそろ夕飯の準備しないといけないし…また、今度ね?」(あ)
「そんな!?もう一回!もう一回だけやって!パパにも見せてくれ!」(せ)
「ダ~メ!葵の集中力が切れたら、そろそろ夕飯の準備の時間なんだよ?葵がやらないとお夕飯が大変なことになるよ~?」(あ)
「そこをなんとか!だって、明日からパパは仕事でちょっとここを離れないといけないんだ!葵と暫くの間会えなくなるんだよ!?だから…お願い!」(せ)
「だったら、なおさらちゃんと食べないとダメじゃない!仕事に行くお父さんに、美味しい物作ってあげるから期待しててね♪」(あ)
「本当か!葵の料理はいつも美味しいけど、今日のは一段と美味しい料理になりそうだな♪」(せ)
「もちろん!だから、早く帰って準備しないと!」(あ)
「それなら…よっと♪」(せ)
「あっ!ちょっとお父さん?私はもう肩車してもらうような子供じゃないんだからねっ!」(あ)
「急ぐんだろう?この方が速いぞ!」(せ)
「もう!しょうがないから肩車されてあげる♪超特急だよ!」(あ)
「良し来た!おらぁぁぁぁああ!!」(せ)
「きゃあ!!もう!いきなり走り出さないでよ!落ちたらどうするの?」(あ)
「すまんすまん!」(せ)
「もう!仕方ないパパなんだから!あはははは♪」(あ)
「わっはっはっはっ♪まだまだ飛ばすぞー!!」(せ)
「何か前にもこんなことあったなぁ…リーダーはあの頃から全然成長してないってことだなぁ…」(リ)
一人、感傷に浸るリーウィ。遠ざかる親子を見つつ、ため息混ざりに歩き出した。
「しかし、さっきの葵ちゃんは…俺の見間違い?いや、その前のイノシシと言い…何か気になるところではあるけど…疲れてるんだな、やっぱり…」
ふとさっきのイノシシはどうなったのだろう?と振り返って見ると、幻視で倒れ伏した場所にまだ佇んでいた。イノシシはぼーっと立っているようにも見えるが、その姿はまるで魂を抜かれてしまったようにも見えた…
傭兵団は書いてて楽しくなってしまい…無駄に長くなっている気がします。
ただでさえカタツムリなのに…何とかせねば!
傭兵団の物語は、書いてて楽しいのでいつか本編が落ち着いたら番外編でちょろちょろ書きたいですね…いつになるかは見当もつきませんが…
過去編は、あと1~2話で終わる予定です。…予定です?何分、予定通りにいかないことだらけなので話半分に聞いておいてください…そんな感じですが、これからも頑張るのでよろしくお願いします。