過去話 綴 葵(つづり あおい)1刻目
綴葵の一番古い記憶は、自分を拾ってくれた傭兵団である、『暁の沈黙』の皆との思い出だった。『暁の沈黙』のリーダーである本郷千次郎から捨てられていたのを拾ったと聞かされた時も、暁のみんながいるから平気だと言っていた。
そこそこの規模を誇る『暁の沈黙』は、人間だけでなく獣も相手取って戦っていた。幸運にも、葵を拾ってからは順調で、誰も死人が出ていなかった。そんなこともあり、今後葵をどうするかこっそりと話し合っていたのだがなかなか決められなかった。
と言うのも、リーダーである本郷が葵にベタ惚れしてしまい、「俺が育てる!」「俺が絶対に死なせない!」と言い張り、絶対に手放そうとしなかったのだ。完全な親バカ状態の本郷に不安を感じつつも、それでもリーダーとしての役割はきちんとこなしてもいたので、とりあえずは任せてみることにしていた。
当然のことだが、傭兵団が赤ん坊を、そして子供になったとしても、抱えているのは目立つし余計な摩擦を生み出すこともあった。ある時、他の傭兵団の者が葵を指して「なんだ?非常食か?」と冗談を言ったときは、本郷の逆鱗に触れてしまい、危うく傭兵団同士の抗争になるところまで話が大きくなってしまったりもした。
そして、色々な苦労を重ね共に歩んでいれば、情を生み、やがてその情は愛情へと昇華していく。本郷がベタ惚れしすぎて目立っているが、他のメンバーも葵にはやはり甘く、それは弱点になり得ると分かっていても誰も何も言わないのが暗黙の了解になっていた。
そんなある日の事、傭兵団の仮のホームを獣の集団が襲ってきた。犬ないし、狼が中心の動きが早いコロニーだった。数はそれほどではないが、翻弄され時間が掛かった。やっと最後の一匹を倒したところで本郷は気が付いた。葵が双眼鏡でずっとこちらを見ているのを。本郷が「怖くなかったか?」と問うと、葵本人は「双眼鏡の向こうの景色は違う世界のことだから怖くないよ。」と言った。違う世界…本郷は葵には違う景色が見えているのではないか?と思ってしまうほどのあっけらかんとした発言に戸惑いつつも、そうかと答えてその場は済ませた。
その頃の『暁の沈黙』は、この傭兵団の発祥の地とも言える町に居を構えていた。この町に落ち着いている理由は多々あるのだが、一番の理由はこの町の出身者がメンバーの7割にもなることだろう。
この町、ルッフェルエルドはそれほど発展してはいないが、ほどほどの活気があり、傭兵の仕事には事欠かない事情を抱えている。まず、左手に河川があるので、水や魚など生活を支えるための優位の条件がありこの町を支える土台となっている。だが、右手には大きな森があり、そこから、時折獣のコロニーがやってきて町を襲うことがあった。そのため、町では数多くの傭兵団を雇い入れて町を守っていた。
だが、時折想像もつかないほどの大規模な獣のコロニーがやって来ることがあった。名のある大傭兵団がこれに遭遇し全滅したこともあり、町では傭兵を繋ぎ止めるために必死で働いているため、これ以上の発展は現在は望めそうもなかった。
もちろん、そうまでしてこの地に留まり続けるには訳がある。どこの国も戦争戦争で疲弊している現状だが、この町に置いてはそれがなかった。丁度、上と下で国に挟まれているのだが、両国ともこの町には手を出さずにいたのだ。理由は簡単、いつ獣の大群がやってくるか分からない町を手に入れても被害が増えるだけだと匙を投げたのだ。
皮肉なことだが、獣たちのお陰で町は戦争と無縁で要られて、さらに獣の襲来が度々あることから人々の団結力は他に類を見ないほど強いものとなっていた。さらに、町の人と傭兵たちとの間にも良い関係が築かれていた。見回りをする傭兵がいれば、労いの声をかけたり、傷ついた傭兵を見かければ率先して医者まで運ぶのを手伝ったり、あちこちの家々から差し入れがされたりもした。
その甲斐もあり、現在は大傭兵団が壊滅した当時より連携と言う意味でも強化されており、環境も良く、多くの傭兵団が町を守り、下手な城塞都市より強固になっているほどだった。
『暁の沈黙』もその噂を聞きつけやってきたのだが、思っていた以上に守りが強固な町の現状に、自分たちが来た意味がないのでは?とは思った。だが、ここ最近は獣の襲撃が増えて来ており、もしかしたら大きなコロニーが作られて逸れて追い出された獣がやって来ているのではないか?と言う見解もあり、『暁の沈黙』もいざと言う時に備えて日々獣を狩って様子を見ていた。
「ここ最近の獣の様子から大きなコロニーが出来ているはずなんだが…未だに襲ってこないのはどういうことだ?もし仮に、こちらの想像出来ないような巨大なコロニーが出来上がりつつあるとしたら…今のメンツだけでどうにかなるのか?いや…考えても仕方ないか。森に踏み込むなんて命知らずな事はやれねぇしなぁ。」(せ)
そう言いつつ、強面の顔を大きく歪めて髭を撫でている。その姿はとても怖く、誰も近付きたがらない様だったが…
「せんじろうパパ、なんでむずかしいおかおしているの?」(あ)
「おお!葵じゃないか!一人で出歩いたらダメだろう?獣に襲われたらどうするんだ?」(せ)
「だいじょうぶだよ!あおいはね、あしはやくなったからね!けものあいてでもにげられるんだから♪」(あ)
「そうかぁ、葵は昔から足が速かったからなぁ…獣相手でも逃げられちゃうかもしれないな!」(せ)
「そうだよ!あおいははやいから、けものになんかまけないもん!」(あ)
「そうかぁ!なら一人でも安心だな!!」(せ)
「そんなわけないでしょう…」(?)
「何?リーウィてめぇ何言ってんだ?…葵の足の速さにケチをつけようってのか?」(せ)
「あんたこそ何を言ってるんだ?普通に考えて獣の速さに人がついていけるわけないでしょう!?」(リ)
「そんなことないもん!あおいのほうがはやいんだから!」(あ)
「そうだそうだ!葵の方が速いんだぞ!」(せ)
「だから、あんたは何を言ってるんだ!ああ、もう!ちょっとこっちに来てください!!葵ちゃんごめんね?ちょっとだけ千次郎パパを貸してね?」(リ)
「うん、わかった!ちょっとだけだよぉ?」(あ)
「ありがとう、葵ちゃん♪ほら、リーダー!ちょっと来てください!!」(リ)
「おい!なんだ!!俺と葵を引き離すとはどういう了見だ!?」(せ)
「いいから!葵ちゃんに内緒の話があるんですよ!」(リ)
「なんだ?そうならそうと言えよ!」(せ)
「内緒の話なんて言ったら葵ちゃんが聞きたがるでしょうが…少しは考えて下さい。」(リ)
「おう…そうだな。それでなんだ?」(せ)
「いいですか?先に言って置きますが叫ばないでくださいよ?少ししか離れてないんだから叫んだら聞こえますからね?」(リ)
「そんなこと言われないでも分かってるぞ。」(せ)
「葵ちゃんが絡むとリーダーはとことんダメになるから心配なんですよ…」(リ)
「なんだ?葵絡みのことなのか?」(せ)
「そうですよ…と言うより、何ですぐに思い至らないのか不思議なんですが…」(リ)
「何でも何も…何のことだ?」(せ)
「はぁ・・・いいですか?先ほど葵ちゃんの足が速いと褒めていましたよね?」(リ)
「そうだぞ?知らないかもしれないがな、葵は良く走り回っていたせいかとても足が速いんだぞ?俺でももうすぐ抜かれてしまうかもしれないなぁ!」(せ)
「段々と声が大きくなってますよ?静かに話してくださいね…。それでですね、葵ちゃんは確かに同年代と比べれば速いですが、獣と比べて勝てると本当に思っているんですか?」(リ)
「おまえは俺を馬鹿にしているのか?葵には悪いが、さすがに大人でも獣相手じゃ勝ち目がないことくらいわかっているぞ!」(せ)
「いや、分かっててあんなこと言ったんですか?葵ちゃん主義もほどほどにしてくださいよ、本当に…」(リ)
「何?どういうことだ?」(せ)
「あのですね…葵ちゃんは素直ですよね?」(リ)
「そうだぞ?葵は世界で一番素直で可愛いんだ!」(せ)
「いや…だから声を抑えて下さいよ?それでですね、素直で可愛い葵ちゃんは千次郎パパが言ったことを信じますよね?」(リ)
「当たり前だろう?俺の言いつけは素直に守る本当に良い子なんだぞ?まさに天使だよなぁ。」(せ)
「いやまあ…天使なのは認めるとしても、リーダーに言われたことを信じる葵ちゃんに、さっき千次郎パパは何て言いました?」(リ)
「何を言ったかって?ただ、葵は足が速いって褒めただけだろう?」(せ)
「いや…褒めただけってあんた…良く思い出してくださいよ?獣よりも葵ちゃんの方が足が速いって認める発言したでしょう?」(リ)
「・・・あ」(せ)
「あ、じゃないでしょう?葵ちゃんの言葉は一言一句漏らさず記憶してるのに…肝心の意味まで考えないで同意することが多すぎなんですよ…」(リ)
「悪い悪い…それで、何が問題なんだ?」(せ)
「ここまで言って分からないですか…。あのですね、葵ちゃんは千次郎パパの言いつけで獣がいて危ないから一人では出歩いてはダメだと言われているんですよね?」(リ)
「その通りだぞ?葵はとても賢くて良い娘だからな!言いつけは破ったことがないんだぞ?」(せ)
「そうですね、言いつけは守りますよね?でも、もう一度よく考えてみてください?葵ちゃんは獣がいて危ないから一人で出歩いてはダメだと言われているんですよ?その獣より葵ちゃんは足が速いと認められたんです。どちらも、大好きな千次郎パパに。」(リ)
「・・・ああ!?それは確かに…まずいな…」(せ)
「やっと分かってくれましたか?そうです、獣より速くなった葵ちゃんは危険な獣から逃げ延びることが出来るようになった…と、思っているんですよ?葵ちゃんは…」(リ)
「やっぱり…一人で出歩いても平気だと思っちゃうのか?」(せ)
「当たり前でしょう?大好きな千次郎パパのお墨付きを得たんですよ?それは堂々と一人で歩き回るでしょうね。幸いにも?葵ちゃんは道を覚えるのも得意ですからね?」(リ)
「この場合は幸いじゃないだろ…どうしたらいいんだ!?」(せ)
「一番は、葵ちゃんに獣より速く走るのは無理だと言う事ですが…」(リ)
「い、言えるわけないだろう!?俺は、葵なら獣より速く走れるみたいなことを言ってしまったんだぞ!?」(せ)
「だから、声を抑えて下さい…。撤回することは?」(リ)
「俺は今まで葵には嘘を言ってないんだ。今回撤回してみろ?パパの嘘つき!大っ嫌い!!なんて言われたらもう…ショックで死ぬかもしれん…」(せ)
「あんたはもう…。分かりましたよ、俺が説得してみます…余計な口を挟まないでくださいよ?」(リ)
「わ、分かってる。だが、気が付くと葵の擁護を無意識にしているんだ…」(せ)
「どんだけ葵ちゃん主義なんですか…でも、今回は余計な事言われると説得出来なくなるので、気を付けて擁護しないようにしてください。」(リ)
「・・・分かった。なるべく素早く説得してくれよ?」(せ)
「また難しい注文を…。とにかく、余り一人にするのも危険ですからさっさと葵ちゃんの元に向かいましょう。」(リ)
「よし、分かった!説得は任せたからな!」(せ)
「はいはい、邪魔しないでくださいね?」(リ)
「あ、やっとかえってきた!リーウィパパのうそつき!ちょっとっていったのにながかったよ!」(あ)
「ごめんね?葵ちゃん。思ったよりも用事が長くなっちゃったんだよ。」(リ)
「む~?ようじってなんだったの?あおいからもみえるところにいたのに、なにかしてるみたいじゃなかったよ?ないしょのおはなしだったの?」(あ)
「そう、そうなんだよ。大事なお仕事のお話でね?葵ちゃんにはちょっとだけ早いから離れて話していたんだよ?」(リ)
「あおい、むずしいはなしでもわかるもん!だから、おしごとのはなしだってわかるんだから!」(あ)
「そうだそうだ!葵は賢いからお仕事の話だって分かるんだぞ!」(せ)
「あんたは…!?もう忘れたんですか?」(リ)
「すまん…つい…な?」(せ)
「ついじゃないですよ、もう…」(リ)
「む~?またふたりでないしょのおはなししてる?」(あ)
「してないですよ!ちょっと虫が飛んでて邪魔だね?って話していただけですよ!ね?」(リ)
「いや、そんな話は…ぐふっ!?」(せ)
「あんたは…話を合わせるくらいしてくださいよ…」(リ)
「だからって肘鉄くれることなかろうに…ダメなんだよ、葵には意図的な嘘をつけないんだ。」(せ)
「それなのにとっさの嘘はつくんですね…」(リ)
「いや…あれは嘘をついているわけではなくてだな…」(せ)
「む~…やっぱりふたりでないしょのおはなししてる…」(あ)
「葵!?そんな顔しないでくれ!?実は葵のために…ぐふっ!?」(せ)
「あんたはもうしゃべらないでくれ…」(リ)
「あおいのためにぐふっ?それってなに?」(あ)
「何でもないんだよ!?葵ちゃん、実は葵ちゃんだけに大事な話があるんだ。」(リ)
「あおいにだけのおはなし?」(あ)
「そうそう、葵ちゃんにだけのお話だよ?」(リ)
「あおいにだけ…せんじろうパパにもないしょなの?」(あ)
「そうなんだ。リーダーにも内緒なんだよ?葵ちゃんだけにお話があるんだ。」(リ)
「そっかぁ…あおいにだけのおはなしじゃあおいがきかないとダメだよね?」(あ)
「そうだよ?葵ちゃんにだけの話だから葵ちゃんが聞いてくれないと、とても困るんだよ。」(リ)
「わかった。リーウィパパのおはなしきいてあげるね!」(あ)
「ありがとう、葵ちゃん♪」(リ)
「うん♪それで、どんなおはなしなの?」(あ)
「そんなキラキラした瞳で見つめられると…とても話しにくいのだけど…」(リ)
「リーウィ頑張れ!お前なら出来る!!」(せ)
「応援するくらいなら変わってくださいよ…」(リ)
「俺には無理だ!頑張ってくれ!!」(せ)
「ああもう…分かりましたよ!」(リ)
「せんじろうパパ?あおいはいま、リーウィパパとないしょのおはなしするところなんだよ?もうちょっとはなれてて!」(あ)
「そんな!?葵!?パパに内緒なんて…そんなの酷いぞ!?リーウィお前、俺に内緒なんてなんで言ったんだ!?」(せ)
「話の流れでしょうが!?とにかく、すぐにすみますから!少しだけ離れていてください!!」(リ)
「はなれていてください!!」(あ)
リーウィがしっしっと追い払うしぐさをすると、葵もそのしぐさを真似してやっていた。
「葵がパパを追い払うしぐさを!?もうだめだ…俺の人生は今日で終わりだ…」(せ)
がっくりと地面に手をついて嘆く千次郎。いかつい男がやるととても見苦しい姿だった。
「あんたは落ち込み過ぎだろ…今の見てたよな?葵ちゃんは俺の真似していただけじゃないか…」(リ)
「そ、そうだな…しかし…葵に聞きたいことがあるんだ!葵は、パパのことが嫌いになっちゃたのかい!?」(せ)
「え?せんじろうパパのこときらいになってないよ?」(あ)
「とするとまさか…リーウィ…パパのことを好きなのか?」(せ)
「うん。だいすきだよ?」(あ)
「大好きだと・・・フフフ、そうか、そう言う事か…リーウィ」(せ)
「な、何ですか?物凄い殺気を感じるんですが…」(リ)
「残す言葉はあるか?」(せ)
「え?何を言ってるんですか?」(リ)
「遺言くらいは聞いてやると言ってるんだよ。」(せ)
「しゃれになってねぇ!?ちょっと待ってください!マジで!!」(リ)
「安心しろ…苦しまないように一撃で楽にしてやるから!」(せ)
「全然安心できねぇ!?いや、マジで落ち着いてください!!」(リ)
「大丈夫だ、俺は冷静だぜ?冷静に…葵に手を出す奴は全員平等に死刑にするだけだ…」(せ)
「冷静って言葉を使ってるだけで全然冷静じゃねぇでしょうが!?マジで殺される!?葵ちゃん!葵ちゃんに質問があります!!」(リ)
「え?ないしょのおはなしはじめるの?」(あ)
「始めたいけどその前に俺の人生が終わりそうなので、その前に葵ちゃんに答えて欲しいんだ!」(リ)
「うん?なに?」(あ)
「葵ちゃんは俺…リーウィパパだけじゃなくて、傭兵団のパパ全員が大好きなんだよね?」(リ)
「うん!パパたちみんなやさしくて、だいすきだよ♪」(あ)
「聞きましたか!?俺だけじゃないんですよ!!ただ単にパパとしてみんな大好きの中の一人なんですからね!殺気を引っ込めて下さい!!」(リ)
「そうだったのかぁ…葵が大好きなんて言うからてっきり…焦ったぜ。」(せ)
「焦ったのはこっちですよ…マジで殺されるかと…」(リ)
「はっはっは!悪かったな?」(せ)
「いや…マジで笑い事のレベルじゃなかったんですけどね…」(リ)
「ところで葵…その…千次郎パパのことも大好きなんだよな?」(せ)
「うん!だいすきだよ♪」(あ)
「!!?いや待て…これは行けるのか?そのな?じゃあ…リーウィパパより千次郎パパの方が大好きかい?」(せ)
「うん!せんじろうパパがいちばんだいすきだよ♪」(あ)
「うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」(せ)
屈託のない笑顔で大好きだと答えた葵の言葉に、大声で反応した本郷の叫び声は遠く離れた隣町まで響いたとか…
「葵のその言葉があれば!俺はあと1000年は生きられるぜ!!」(せ)
「いや…あんたならマジで生きられそうで怖いんですが…」(リ)
「もう!せんじろうパパうるさいよ!」(あ)
「ごめんごめん!葵がとっても嬉しいこと言うから思わず叫んじゃったんだよ♪」(せ)
「うん?うれしかったの?」(あ)
「そうだよ!葵に一番大好きって言ってもらえてとってもとっても嬉しかったんだよ♪」(せ)
「やべぇ…かつてないほどリーダーが喜んでるのが伝わってくる。つか、言葉遣いが優しすぎて逆に怖いわ…」(リ)
「ふっふっふ♪何とでも言うといい、負け犬君?葵の一番大好きは俺だったんだよ!この、千次郎パパなんだよ!わっはっはっはっ♪」(せ)
「うわ…何て腹の立つ顔と態度…殴っていいですか?」(リ)
「殴りたければ殴ればいいさ!しかし、いいのか?葵が一番大好きな千次郎パパを殴っても?葵に嫌われてしまうぞ?それでもいいなら殴るがよい!今の俺は、お前に殴られた程度では屁とも思わないわ!!」(せ)
「うわ…腹立つ…マジで殴りてぇ…」(リ)
「ふたりともケンカしちゃだめだよ?」(あ)
「はーい♪葵ちゃんの言う通りだね!ケンカ何てしちゃダメだよねぇ♪」(せ)
「・・・いや…もういいわ。今のリーダーと関わってもこちらのストレス溜まるだけだわ…」(リ)
「それじゃあ、葵は内緒の話をするみたいだから終わるまでちょっと離れているね?葵が一番大好きな千次郎パパに会いたくなったらいつでも来ていいからね?もしして欲しいなら、抱っこでもおんぶでも好きなだけしてあげるからね♪」(せ)
「うん♪ありがとう、せんじろうパパ♪」(あ)
「いいんだよ♪千次郎パパも葵ちゃんが一番大好きだからね♪じゃあ、お話終わったら呼んでね?」(せ)
そう言って、上機嫌でスキップしながら離れる本郷…正直怖い。
「何かもう、物凄く疲れたわけだけど…葵ちゃん、話していい?」(リ)
「うん!どうぞ♪」(あ)
「それでね…葵ちゃんは獣さんより速く走れるようになったんだよね?」(リ)
「そうだよ!もしかして、まだうたがってるの~?」(あ)
「いや、そうじゃなくてだね…えっと、葵ちゃんは獣さんより速く走れるようになったから…一人でお出かけしたりするのかな?ってちょっと思ったんだよ。」(リ)
「うん!するよ!だって、せんじろうパパは、けものがあぶないからひとりじゃだめだっていったもん。けものよりはやくなったあおいなら、けものからにげられるからへいきだもん!」(あ)
「まあ…そうなるよなぁ…。葵ちゃん、確かに獣さんが一人なら逃げられるけど、獣さんがたくさん来たら葵ちゃんは捕まっちゃうんじゃないかな?」(リ)
「だいじょうぶだもん!あおいのほうがはやいんだから!」(あ)
「でもね?…なんと説明すればいいのか…そうだ!葵ちゃん、最近ずっとパパたちの狩りを双眼鏡で見ているよね?」(リ)
「うん!パパたちすごいよね!たくさんのけものをやっつけちゃうの!」(あ)
「そうだね!それでね…葵ちゃんはパパたちが獣さんをやっつけるところを見てどう思ったかな?」(リ)
「えっとね…パパたちがたくさんけものをやっつけるとね、けものがにげるの!でも、けものがにげるところにパパたちがいてけものがにげられないの!たしか…さきをよむんだよね!」(あ)
「おお!葵ちゃんは本当に賢いな…そうそう、先を読むんだよ。」(リ)
「ふっふ~ん♪あおいはパパたちとべんきょうもしてるんだよ?だから、かしこいんだもん!」(あ)
「そっかぁ、葵ちゃんは賢いんだ?じゃあ、賢い葵ちゃんなら、パパたちだけじゃなくて獣さんも先を読むことが出来るのは知っているよね?」(リ)
「う、うん…もちろんしってるもん!」(あ)
「じゃあ、葵ちゃんが一人でお出かけした時に獣さんがたくさん来たら葵ちゃんは逃げようとするよね?」(リ)
「うん!あおいはあしはやいから逃げられるよ!」(あ)
「本当に?獣さんたちがパパたちみたいに葵ちゃんが逃げる道を塞いじゃっても?」(リ)
「パパたちみたいに?…にげられ・・・ない…かも?」(あ)
「そうだよね?逃げられないかもしれないよね?逃げられなかったらどうなると思う?」(リ)
「えっと…かまれちゃう?」(あ)
「そうだよ?嚙まれちゃうんだよ?噛まれるととてもたくさん血が出て、とっても痛いんだよ?葵ちゃんはそんなの嫌でしょう?」(リ)
「いたいのはいや!ころんじゃったときとってもいたかったもん…」(あ)
「そうでしょう?転んだ時、痛かったよね?でもね?噛まれるともっともっと痛いんだよ?」(リ)
「もっといたいのいや…」(あ)
「そうでしょう?だから、葵ちゃんは一人で出かけないで欲しいんだ。もっと葵ちゃんが大きくなって、獣さんを一人でもやっつけられるようになるまでは、パパたちの誰かと一緒にお出かけするようにしてね?」(リ)
「・・・うん、わかった。」(あ)
「葵ちゃんは言う事を聞く良い子だね♪そんな良い子の葵ちゃんは、千次郎パパに肩車してもらえる権利が与えられます!」(リ)
「え?せんじろうパパのかたぐるま!とってもたかいからだいすき!」(あ)
「そうでしょう?葵ちゃんは言う事を聞いて、一人で出かけないって言ってくれたから、きっと千次郎パパが良い子の葵ちゃんのお願いを聞いて肩車をしてくれるよ?」(リ)
「ほんとう!?」(あ)
「本当だよ?千次郎パパのところに行って、聞いてみてごらん?」(リ)
「は~い!千次郎パパ~!!」(あ)
葵は勢いよく本郷のところに駆けて行き、そのままの勢いで飛びついた。
「おっとっとっ!どうしたんだい?葵?」(せ)
「えっとね、あおいね?ちゃんとリーウィパパのおはなしをきいてね?それで…ひとりでおでかけするのは、もっとおおきくなるまでがまんすることにしたの!」(あ)
「そっか!葵は本当に偉いなぁ!ちゃんとお話を聞いて一人でお出かけするのは危ないってわかったんだね?」(せ)
「うん!もっとあおいがおおきくなって、パパたちみたいにけものをやっつけられるようになるまでがまんするの!だから、おでかけするときはパパたちといっしょにする!えらい?」(あ)
「えらい!すっごくえらいぞ!葵は本当に言う事を聞く良い子だな!」(せ)
「えへへ♪それでね?リーウィパパがね…あおいがいうことをきくいいこだから、せんじろうパパにかたぐるましてもらえるっていったの!せんじろうパパ、してくれる?」(あ)
「リーウィのやつが?葵は、千次郎パパの肩車が好きなのかい?」(せ)
「うん!せんじろうパパのかたぐるまは、とってもたかいからだいすき♪」(あ)
「そっか!大好きか!それじゃあ、しないわけにはいかないな!よっと♪」(せ)
「わ~♪やっぱり、せんじろうパパのかたぐるまたか~い♪」(あ)
「そうだろう?このごついガタイも、戦闘以外で役に立つこともあるもんだな!」(せ)
「あるもんだな!」(あ)
「「わっはっはっはっ♪」」(せ・あ)
「いやもう…仲の良い親子にしか見えないのが困るところだ…」(リ)
「お?なんだまだいたのか、リーウィ?もう帰ってもいいぞ!」(せ)
「いいぞぉ!」(あ)
「二人して…でも、一応獣の警戒してるんで…お二人は気にせずに遊んでいてください。」(リ)
「獣の一匹や二匹来たところで、葵には指一本触れさせやしないぞ!」(せ)
「しないぞ!」(あ)
「「ね~?」」(せ・あ)
「ね~?って…いやもういいっすわ…」(リ)
「葵!今日はたくさん遊べるぞ?何をして遊びたい?」(せ)
「えっと…おいかけっこはせんじろうパパはやくてすぐにつかまっちゃうし…」(あ)
「あれはな?葵が転んじゃうから転ばないように傍についているからだな…」(せ)
「あおいころばないよ!…このあいだはたまたまなんだもん!」(あ)
「そうだった!この前はたまたま転んじゃっただけだった!でも、転ぶと痛いから他のにしようか?」(せ)
「・・・うん。じゃあ…あ!あそこのおっきなきまであおいいきたい!」(あ)
「お?あの木だな!じゃあ…葵?パパの頭にしっかりつかまれよ!」(せ)
「うん!しっかりつかまったよ!」(あ)
「よし!じゃあ、いくぞ!ゴー!!」(せ)
「ゴー!わ~♪はや~い♪」(あ)
「まだまだ~!ゴー!!」(せ)
「キャー!ゴーゴー!!」(あ)
「ちょっ!?人が周りを警戒してるのに勝手に走り出すなぁ!!全く…でも、楽しそうだから許しますか。」(リ)
そう言いつつ、走り去っていく親子の後を追うリーウィ。
「葵ちゃんは…双眼鏡から見る景色は別世界だって言っているけど…何かあるのかね?余りにも見たいというから見張りもどきとかで見せているけど…獣を覗いても怖がらないし…ちょっと異常じゃないか?いや…まだ分からないな。でも、もしレンズ越しの景色を怖がらないなら…狙撃手なんて出来るように?いや、考えたら…うちには狙撃手がいないから教えられないな…。いずれにしろ、もう暫くは可愛い娘の成長を見守りますか♪」
そんな独り言を言いつつ、葵たちを追いかけるリーウィ。その姿は、葵たちにつられたのかとても楽しげだった。
葵、まだ5歳の幸せな過去の一幕であった。
過去の話と言う事で1話完結でさくさくと終わりシリアスさんが出てくるはずだったのですが…
ふたを開けてみればこんなことに…(汗
過去編長くなりそうです…シリアス待ちの人が万が一いたら、ごめんなさい。
恐らく…次…か、その次で出てくるはずです。ただ、気が付くとこんな感じの構成になってるんですよね…
そんな感じですが、今後も頑張って更新するので気が向いたらまたお越しください。