7話 逆転ホームランって簡単には出来ないと思うんだよね
「二人とも聞きなさい。まず、浮かれ過ぎだ。葵ちゃ…葵さんが可愛いのはわかる。私も彼女が娘になってくれたらとても嬉しい。でもね?いくらなんでも過程を飛ばし過ぎだよ?まあ、自己紹介の時は私も悪かったのは認めるが・・・それにしても、ルシーから一度はきちんと葵さんのことを紹介するべきだろう?どこで知り合ったのかとか、今どこに住んでいて、何をしているのかとか…その辺りの話をするのが筋じゃないかな?何よりも、葵ちゃんの気持ちを無視して話を進め過ぎだよ。彼女はずっと困惑した表情をしているじゃないか…確かに、困った顔も可愛いけど、一番はやはり笑った顔じゃないのか?葵ちゃんが笑顔になれない話し合いで決めて良いはずがないだろう?私は間違ったことを言っているかな?」(ウ)
まさかの正論攻撃!おじ様…素敵です♪でも、もっと早く言って欲しかったとかちょっと思います。
「いえ・・・あなたの言う通りですね。少し浮かれ過ぎていたみたい。ごめんなさいね、葵ちゃん。」(フ)
「私もちょっとはしゃぎすぎたみたい・・・ごめんね、葵ちゃん。」(チ)
「葵さん、二人ともこう言っているし、今回は許してくれるかな?」(ウ)
「は、はい。と言うより、私は別に好意自体は迷惑に思っているわけではないのですけど、その・・・さすがに出会ったばかりでそういう関係になるのはどうかと思いまして・・・。」
「ふむ。チェルシーの主観で構わないから、出会いなどの経緯を話してくれないか?」(ウ)
あれ?私が説明した方が良い気がするけど…。そっか、ルシーがちゃんと反省してるか試してるのかな?さすがおじ様!考えていらっしゃいますね♪
…え?ウィルフレッドさんの扱いが変わり過ぎだって?仕方ないじゃない…私にとっては窮地を救ってくれた王子様みたいなものだし♪え?略奪愛?ないない!私は、そういうドロドロにわざわざ足を突っ込む気はないのですよ、ええ。
「分かりました。ただ、私の主観なので多少違うところもあると思いますけど、嘘は言わないと誓います。」(チ)
「それで十分だ。先ほどまでの浮かれ気分は抜けているようだし、大丈夫だろう。」(ウ)
「では、今日私が出かけたところから話します。」(チ)
「ああ…朝ご飯を食べたと思ったら、出掛けて来ますとだけ言ってすぐに家を飛び出して行ったんだったね。」(ウ)
「そ、それはちょっとした事情があったんですよ…。その事は置いておいて下さい。えっと…それで、出かけた先がいつものブティック…服屋だったのですが、そこで服を見上げてる葵ちゃんに出会ったのです!運命の出会いでした♪」(ウ)
「ちょっと待ってくれ。それはつまり…葵さんとは今日知り合ったばかりだと言う事なのかい?」(ウ)
「そうですよ?あ、言っておきますがふざけた気持ちなんてほんの少しもなく、本気で葵ちゃんの事を愛してますからね?これだけは、何を言われても自信を持って答えられます!」(チ)
「そうか…チェルシーがそこまで言うのだから本気なのだろうが…葵ちゃんからすれば、さすがに今日知り合って結婚まで話を進めようとするのはドン引きすると思うぞ…」(ウ)
「だってだって…葵ちゃんなしではもう生きていけないほど好きになっちゃったんだもん!葵ちゃんこんなに可愛いんだよ?ゆっくり時間をかけてたら、どこかの誰かに取られちゃうかもしれないじゃない!?そんなの絶対に嫌だもん!!」(チ)
「チェルシー、言葉が思い切り崩れているぞ?」(ウ)
「パパも結構崩れてきてるよ?」(チ)
「いや、これは…そうだな、ここは言葉を崩して本音で話そうか。ルシーとしては、どうしても葵ちゃんを他の誰かに取られないように深い繋がりが欲しいと言う事なんだね?」(ウ)
「その通りよ!何度も言うけど、葵ちゃんはこんなに可愛いだよ?それに、とっても素直だし…数日放っておいただけで、悪い男に騙されてひどい目に遭わされてるんじゃないかと気が気じゃなくなりそう。」(チ)
え?私ってそんな風に思われてるの?さすがにそんな簡単に騙されたりしない…はず?
「確かに、葵ちゃんの反応みると…騙されるだけではなく、強引な押しに負けてしまいそうで心配になるのは分かるのだが…」(ウ)
え?ウィルフレッドさんにもそう思われていたの!?私は、そう簡単に騙されたり、強引な押しに負けてそのまま流されたりしないよ!・・・あれ?ルシーと出会ってからの私を振り返ると…否定材料が一切ないような…き、気のせいだよね?
「そんなわけでね。葵ちゃんがひどい目に遭う前に私が捕獲…ではなくて、保護する意味でも結婚…最低でも婚約しておきたいの。確かに、私の気持ちを押し付けてしまっているのが現状だけど、これから絶対に葵ちゃんにも私を好きになってもらうから覚悟してね♪」(チ)
覚悟してね♪じゃなくてね…結局振り出しに戻ってますよ、チェルシーさん…
「わが娘ながら恐ろしい…欲望が先行し過ぎて私が注意したことを忘れ去っているな…。ルシー、色々言いたいことがあるが…まず、出会ったことだけしか話して貰っていない気がするのだが?」(ウ)
「・・・些末な事です。結局辿り着く結論は一つ!葵ちゃんの笑顔を守るために私は戦い続ける!私は諦めない!葵ちゃんの未来を守り続けるために、葵ちゃんのパートナーとなることを!!」(チ)
凄いや、チェルシーさん。両親の前だと言うのに暴走の一途です。でも、私が余計なことを言うと火に油を注ぐことになりそうなので様子を見ることにします…
「だからな?葵ちゃんの気持ちを無視するなと言ったばかりだろうに…。ルシーの気持ちは分かりたくない部分まで十分に伝わってきた。しっかりと落ち着いてから、再度考えて発言してくれないか?」(ウ)
そう言われて落ち着こうと思ったのか、目を閉じてじっとしているルシー。よく見れば深呼吸をしているようだ。さすがのルシーも、父親に諭されるように言われればちゃんを聞き入れるみたいだね。
今度ルシーが暴走した時、私も諭すように語りかけて落ち着かせてみようかな?・・・ダメですね、止まるルシーを想像できませんでした…
「うう…葵ちゃんへの想いが強すぎて私を暴走させる…。ごめんなさい、落ち着きました。」(チ)
「また暴走しそうな気がするのが怖いが…とりあえずの落としどころとして、葵ちゃんさえよければ何日かうちに泊まってもらうのはどうだろう?幸い、うちは広いから葵ちゃん一人くらいなら何日泊まってもらっても問題はないからね。」(ウ)
「お泊まりですか…」
「ご両親が反対するのかな?まあ、葵ちゃんみたいな可愛い娘がいるならいつまでも手元に置いておきたいと思う両親の気持ちも分かるが、お泊まりくらいなら許可が出ないかな?何なら、私が直接説得をしても構わないが?」(ウ)
「えっと、その…」
ここで両親には捨てられましたなんて言えない…それならここに住みなさいとか言われそうな気がするから…。
そう言えば、今日出会った人がみんな触れないので忘れていたけど、私の両目の色が違う事はそんなに気に留めることでもないのかな?この目の色が原因で両親に捨てられたんだけど…私がつけた設定のせいではあるけど、それにしても全くそのことに触れないのは…逆に、触れたらまずいとでも思われているのかな?その可能性があるかもね…
そんないつもの現実逃避に浸っていると…
「先に大事な話をし忘れてたからそれを言って置きたいのだけど?」(チ)
「何だい、改まって?まだ何かあると言うのかい?」(ウ)
「私の話ではなくて、葵ちゃんの話と言うか…実は・・・葵ちゃんは殺し屋さんなの。」(チ)
「・・・どういうことだい?まさか、最初はルシーの命を狙っていて…?」(ウ)
「違う違う!そうじゃないんだけど、そのことでもし葵ちゃんを否定するなら私はこの家を出てでも…」(チ)
「待って!…その話は私からするから…ううん、私からしないといけない話だから。」
「・・・大丈夫?本当に話せる?」(チ)
「大丈夫、私が話さないとダメ。」
「分かった。葵ちゃんを信じてるから。」(チ)
「・・・ありがとう。」
ウィルフレッドさんの評価の上下とか、ルシー母娘に翻弄させたりとかで、すっかり忘れていたけど…私は殺し屋だったんだよね。…違うね、きっとルシーの時みたいに出来れば話したくないから意識の奥底に無意識に沈めていたんだと思う…。でも、話すならちゃんと自分で話さないと…それに、ルシーにも詳しく話したわけではないからちゃんと話したいからね。
ルシーのご両親は黙って私が話し出すのを待っている。本当はすぐにでも話したいのだけど…やはり、怖い…自分ではやってないと言う言い訳はルシーにしか通用しない…いえ、私が今は葵なのだからやってないと言う否定は自分を否定することだから…やっていいことじゃない。だからこそ、拒絶されることに恐怖しているのだと思う。でも…ここで話さないと、この先もずっと逃げ続けることになるから…
「先に言わせて下さい、私はとても卑怯者です。何故なら、この話をしないで済むなら良いと思って意図的に奥底に沈めていました。ルシーがきっかけをくれなければ話せなかったと思います。ごめんなさい。」
「葵ちゃんは悪くないよ!」(チ)
そう言ってくれるルシーに視線で制止をかける。そう言ってくれるのは嬉しいけど、最後まで聞いて欲しいから…
「全てを話すと長くなるので、簡潔に話させてもらいます。思う所はあると思いますが、最後まで聞いてから質問してくれると助かります…」
そう言って3人の顔を順番に見る。いつの間にかルシーとフィリーネさんは少し私から離れて座っていた。真剣に聞くためだと思うけど、心まで離れてしまったようで複雑な気分になった。
「まず、私は両親の顔を知りません。皆さんはあえて触れないでくれたようですけど、私の両目の色が違うのが原因で捨てられたみたいです。そこに偶然通りかかった傭兵団が私を拾ってくれました。それからしばらくは平穏な日々を過ごせました。とても気の良い傭兵団だったみたいで、どこの誰かも分からない子供の私を可愛がってくれました。私の一番古い記憶は、その傭兵団と一緒に過ごしている日々です。でも、私が10歳を迎えた次の日…運悪く獣の大コロニーに狙われてしまって傭兵団が壊滅しました。私は傭兵団の皆が命懸けで逃がしてくれたお陰て生き延びられました。でも、一人ではどう生きていけばいいか分からず途方に暮れました。」
一度深く深呼吸をする。これは葵の記憶で私のじゃないと自分に言い聞かせる。今だけはそう思って話さないと、悲しみや憤りで押しつぶされそうになるから…
「その後、傭兵団の伝手を頼って私は教えてもらった狙撃の技術を使い殺し屋として生き延びました。標的はどうしようもない悪党だけだったのが救いになるのでしょうか?どの道、私が人殺しで得たお金で生きて来たことには変わりがありません。だから…私と一緒にいると復讐などに巻き込まれるかもしれません…。私は実際に復讐される立場にあるので仕方がないですが、それにルシーとその家族を巻き込みたくありません。ですので…ここでお別れした方がお互いに良いと思うのです。」
「それが葵さんの…自分で出した最良だと思う方法なのかな?」(ウ)
「・・・はい。ウィルフレッドさんなら…家族を守る立場だから私の意見が一番だと分かってくれますよね?」
「…そうだね。」(ウ)
「パパ!?」(チ)
我ながらずるいと思うけど、ウィルフレッドさんに一番に意見をまとめて貰えばこうなると思っていた。さすがのルシーも簡単には父親の意見を覆せないはずだし、何よりフィリーネさんも夫の意見につくはず。そうなればきっと、ルシーも…
「チェルシー、私は一家の大黒柱として家族を守る責任がある。だから…」(ウ)
「だからなんです?そんな納得いかない顔をしながら私とルシーを説得出来ると思っているのですか?その台詞は、自分自身に言い聞かせているのでしょう?ウィルには悪いですけど、ウィル自身が納得してないことを私とルシーは納得など出来ませんよ。」(フ)
「そうだよ!パパ、全然納得してない時の顔になってるよ!そんな自分に嘘ついた言葉で私を説得なんて出来ると思わないでよね!!」(チ)
「そうか…私はそんな顔をしているか…自分では出さないようにしているつもりだったんだが…。そうだな、確かに自分が納得してない事で他人を説得しようなんて土台無理な話だったね。」(ウ)
何で…何で上手くいきそうだったのにまた私に希望を与えてしまうの?ダメだよ、そんなの…ここで離れないと私はきっと甘えてしまう…。傭兵団のみんなみたいに生きるための犠牲にしてしまう。そんなの嫌だ…
「私はそんなの望んでない!私は…私はっ!」
「葵ちゃん!!落ち着いて…」(チ)
「ルシー…わ、私は…」
「葵ちゃん…今、自分がどんな顔をしてるか分かってる?」(チ)
「・・・え?顔?」
「葵ちゃん…今、『見捨てないで』って顔をしているよ?」(チ)
私は慌てて自分の顔に手をやってみる。いつの間に出ていたのか涙が伝っていた。本当に情けない。私は自分では突き放さないといけないと思って行動していたつもりが、すがりつく顔をしていたらしい。本当に嫌になる…私は…なんて…弱いんだ。
「葵ちゃん…」(チ)
ルシーが抱きしめてくる。振りほどかないといけないのに出来ない。
「無理しないでいいんだよ?私は絶対に葵ちゃんから離れないからね?」(チ)
さらに強く抱きしめられる。私は振りほどくどころか、いつの間にか抱きしめ返していた。胸が、心が温かくなってくる。
この温もりを払わないといけないと思うと苦しい。この優しい想いを払わないといけないと思うと苦しい。とても苦しくて、涙がとめどなくあふれてくる…
「葵ちゃん、逃げないで。私を見て?」(チ)
そう言われて、ルシーを見上げる。涙を堪えようとしているせいで、目に涙が溜まってしまってルシーが良く見えない。
「葵ちゃんは一度貰った優しさを失ってしまったせいで、優しさから逃げてる。自分に向けられた優しさから逃げてる。なのに、自分は他人に優しさを与えてる。それって可笑しいと思わない?」(チ)
「私は…そんなつもりなんて全くないよ…」
「無意識なのかもしれないけど、間違いなくそうなの!」(チ)
「でも…私は優しくなんて…」
「もう!余計なところで頑固なんだから!!とにかく、ここに住むのが嫌なわけじゃなくて、迷惑をかけるのが嫌なんだよね?」(チ)
「そうだけど、でも…」
「でもはなし!なら、話は早いね。パパ!葵ちゃんが納得する理由お願いね!」(チ)
「そこで私に振るのか…。私としては複雑な心境なのだが…」(ウ)
「あなた?」(フ)
「分かってる。葵ちゃん、ちょっといいかな?」(ウ)
呼びかけられたのでルシーに抱きしめられたままで動けないけど、横に振り向いてウィルフレッドさんを見た。
「これだけの美少女が目に涙を溜めて見つめてくると、何やらくるものがあるな…」(ウ)
「あなた…?」(フ)
「す、すまない。うおっほん。それでね、葵ちゃんとしては、私たちが君に対する復讐の騒動に巻き込まれる可能性があるからここにはいられないと言うことで良いのだよね?」(ウ)
「はい。巻き込まれてからでは遅いので…」
「コルネット家は資産家なんだ。知っているかい?」(ウ)
「え?…いえ、そういう事は余り詳しくないので…」
「5代前の当主が荒稼ぎしてね、色々手を出して今の資産を築いたそうだ。そこで恨みを買っていても可笑しくはない。いや、今でもこの町では有数の資産家だ。こんな情勢では、お金持ちってだけで恨まれることなんてよくある。何が言いたいか分かるかい?」(ウ)
「自分も恨みを買っているからお互い様だと言いたいのですか?」
「その通りだよ。逆にこちらの方が根が深い分、葵ちゃんが巻き込まれる可能性の方が高いかもしれないわけだけど、葵ちゃんはそんな理由でルシーから離れるのかい?」(ウ)
「それは…しませんけど」
「そうだろう?なら、私たちも同じだ。そんな理由で葵ちゃんから離れたりしないさ。だから、安心してこの家に住むといい、歓迎するよ。」(ウ)
本当ならまだ反論は出来るはずなのだけれど、私自身がもう一緒にいられる理由を探してしまっているので結果は決まってしまった。それでも、私はまだ…
「葵ちゃん、もう意地を張るのはやめなさい。貴方がとても優しい娘なのは分かったわ。自分のせいで私たちが傷つくかもしれないのが、とても辛くて悲しいことなのね?でも、それは私たちも同じなの。葵ちゃんが自分に嘘をついて傷ついている姿を見るのがとても悲しいの。分かる?葵ちゃんは未来のもしかしてを想像して悲しんでいるけど、私たちは今、傷ついている葵ちゃんを見て悲しんでいるの…。優しい葵ちゃんは私たちが悲しんでいるのは嫌でしょう?ね?だったら分かるわよね?」(フ)
「その言い方は…ずるいです…」
これ以上逃げ道を塞がないで欲しい。…逃げ道、自分でもやはりそう思っているんだ…
「それに、ルシーと結婚や婚約が嫌なら、私たちの養子になれば良いのよ♪ね?それなら問題ないでしょ?ウィルも葵ちゃんが娘になるのは賛成なんでしょう?」(フ)
「そうだね。葵ちゃんみたいな娘なら大歓迎だ。」(ウ)
「ね?ウィルもこう言っているし問題ない…」(フ)
「問題あります!葵ちゃんは私の嫁なの!ほかの誰にも渡さないんだから!!養子で私の家族になってしまったら…結婚しにくくなるでしょ!?」(チ)
「結婚しにくくなるだけなのね…。葵ちゃんは、ルシーの妹にしようと思っていたけど…こんなわがままで言うこと聞かない姉がいたのでは大変だから、やっぱり葵ちゃんを姉にしようかしら?」(フ)
「ちょっと!何ですかそれは!?万が一葵ちゃんを養子にするにしても、私が絶対にお姉ちゃんでしょう!?絶対に葵ちゃんには、お姉ちゃん♪って呼んで欲しいもん!!」(チ)
「その理由はどうかと思うのだけれど…」(フ)
「これは譲れない大事なところだよ!?パパなら分かってくれるよね?」(チ)
「うむ。あ…いや、どうだろうな…」(ウ)
「ウィル…」(フ)
「そ、そんな目でみないでくれ!ちょっと魔が差してしまっただけなんだ!?」(ウ)
「ふふふ、パパも葵ちゃんの魅力にメロメロなのね…でも、絶対に渡さないからね!!」(チ)
「…あなた?」(フ)
「ち、違うぞ!いつも言っているだろう?私が本気で愛しているのはリーネだけだと!」(ウ)
「そうなのね。やはり、子供たちの事は愛してくれてないのね…」(フ)
「だから揚げ足を取らないでくれ!?私は真剣にだな…」(ウ)
「そんなことはどうでもいいの!!ママに誘導されてしまったけど、葵ちゃんは私の姉でも妹でもなく、私のお嫁さんになるんだからね!!」(チ)
「どうでもいいってルシーよ…」(ウ)
「あら?もう気が付いてしまったのね?でも、ルシーのお嫁さんになるよりは現実的だと思うのだけど?」(フ)
「現実的じゃないです!葵ちゃんの未来は私のお嫁さんになることに定まっているのです!!ね?葵ちゃん?」(チ)
「え!?それは…」
「もう、葵ちゃんが困ってるじゃないの。私の娘になる方が良いわよね?とっても大事にしますよ?どうかしら?」(フ)
「あの…そのですね…」
「ほら、ママの方が葵ちゃんを困らせてるじゃない。」(チ)
「いえ、ルシーが困らせてるから私に返答出来なかったのよ。」(フ)
「違うもん!葵ちゃんは恥ずかしがり屋さんなだけだもん!!」(チ)
「ルシーはもうちょっと現実を見るべきよ。葵ちゃんは私の娘になりたがっているの。」(フ)
「二人とも、また葵ちゃんを困らせてるじゃないか。ここは私が仕切って順番に意見をだな…」
「「(あなた・パパ)は、黙って(下さい・て)!!」(母娘)
「・・・はい。」(ウ)
「あはははっ♪」
「「「え?」」」(ウ・フ・チ)
今の笑い声は誰の声?コルネット親子は三人とも私を見ている。何だろう?…今の声ってもしかして…
「葵ちゃん…その笑顔は反則よ!魂が魂が抜かれちゃうよ!!」(チ)
「本当に素敵な笑顔ね。これは、確かに昔のルシーよりも可愛いかも。」(フ)
「ああ、本当に可愛いな…」
言われて私は自分の顔に手を持っていく。確かに笑顔になっていた。可笑しいね…私は笑おうなんて思ってなかったのに…
「あなた…後で真剣にお話があります。」(フ)
「待ってくれ!二人だって可愛いと言っていたじゃないか!?なんで私だけ…」(ウ)
「あなたが浮気性だからです!」(フ)
「だから待ってくれ!私は今まで一度も浮気何てしてないじゃないか!?」(ウ)
「そうだったかしら?」(フ)
「そうだよ!リーネがいつもやきもちを焼くから…」(ウ)
「そう…事ある毎にやきもちを焼く女は鬱陶しいと言いたいのね?」(フ)
「そんなことは言ってないだろう!?」(ウ)
「そう、私たちはもう終わりなのね…」(フ)
「冗談でもそんなこと言わないでくれ!?私が悪かった!私が全面的に悪かったから!!」(ウ)
「では、浮気を認めるのね?」(フ)
「認める!もう二度としないから許してください!!」(ウ)
「浮気性な人はちょっと…」(フ)
「それは酷過ぎるだろう!?リーネ!?」(ウ)
「と、このようにして夫を尻に敷くのが妻の役目です。葵ちゃんも将来の参考にするのよ?」(フ)
「え?その…はい。」
「ちょっと、ママ!?尻に敷かれるのは私なんだから、葵ちゃんに変な事教えるのはやめてもらえますか!?」(チ)
「あら?ルシーは、葵ちゃんのお尻に敷かれるのは嫌なの?」(フ)
「え?それは・・・望むところです!!」(チ)
「…ウィルのせいでルシーが変な性癖に目覚めてしまったじゃないですか…どうするんですか?」(フ)
「え?私のせいなのか?」(ウ)
「ウィルが、私の尻に敷かれて嬉しそうにしてるから…」(フ)
「ええ!?嬉しそうになんてしてないだろう?困惑したり、縋りつく勢いで謝ったりはしている気がするが…それだけでもどうかと思うのだが…」(ウ)
「本当にね…いっそのこと、ウィルに見切りをつけて私が葵ちゃんを貰っちゃおうかしら?」(フ)
「それは絶対にダメ!!ダメだからね!ママは絶対にダメなんだから!!」(チ)
「あら?ウィルの時より激しく否定するのね?」(フ)
「それはそうだよ!パパと違ってママが相手だと本当に取られちゃいそうで怖いんだもん!!」(チ)
「そうなの?そんな風に思われていたなんて…困ってしまうわね♪」(フ)
「そんな楽しそうに困るなんて言われても、こちらが困るんだけど…」(チ)
「その…私の方が男なんだし危機感を持つべきじゃないかと…」(ウ)
「「(あなた・パパ)は、黙って(下さい・て)!!」(母娘)
「・・・はい。」(ウ)
「あはははっ♪」
「ほら、また笑われちゃったじゃない?パパのせいだよ?」(チ)
「そうですよ。ウィルのせいですからね?」(フ)
「私のせいなのか!?その…恥ずかしい所を見せてしまったね。」(ウ)
「「ええ、本当に。」」(母娘)
「息がぴったりで羨ましいな!?」(ウ)
「っふふふっ♪」
「葵ちゃんが必死に笑いを堪えようとしてるじゃないの、もう…」(チ)
「そんな姿も愛らしいわね。」(フ)
「ああ、そうだね。」(ウ)
「今の葵ちゃんなら…私たちに言う事があるんじゃない?」(チ)
言われて私は3人を見る。ルシーとフィリーネさんは笑顔で、ウィルフレッドさんはちょっとだけ困った笑顔で、私の事を見つめている。それは私が何かを言うのを待っているようで…
本当はもう無視が出来ないほど気が付いていた。先ほど笑顔を指摘されてから私の中でこの3人の輪に入りたいと言う願望を抱いてしまっていたから。後はもう次から次へをこの輪の中に入ったらどうなるだろうと言う想像に浸ってしまっていた。だから、ルシーの問いかけに私は他の考えを浮かべる間もなく…
「私は…ルシーの家族と…皆さんと一緒に…ここに住んでみたいです。」
言わないはずだった思い。言うはずだった思い。色々な思いがごちゃ混ぜになってしまった。どうしたら良いかわからなくなっている私に届いた言葉。
「「「ようこそ!歓迎します。」」」(ウ・フ・チ)
その言葉を聞くだけで私は限界でした。隣のルシーに縋りついて大声で泣いてしまった。これから未来の事を考えれば不安だらけなのに、今はとても温かい気持ちが次々に溢れてきて自分でもどうしようもない。その気持ちに押されるように、不安が心から外に吐き出されて行く気がした。それに合わせるように、私は声を出して泣いていた。
本当は抱えていかなければならない不安なのに、本当は悩まなければいけない不安なのに、それがどんどんと出て行って温かい気持ちが湧き出してくる。そんな今が、とても幸せなのではないかと思ってしまっている。
そんな私を、コルネット親子は笑顔で見守ってくれている。ルシーだけはとても優しく私を撫でながら…本来なら恥ずかしいと思うはずなのに、今の私はそんなルシーの手がとても温かく感じられてされるがままになっている。3人は、そのまま私が落ち着くまで笑顔で待ってくれていた。
スキップ機能発動
「葵ちゃんと一緒♪葵ちゃんと一緒♪」(チ)
とても嬉しそうなルシーが目の前にいる。ここは、ルシーの部屋。とてもお嬢様と言う部屋で落ち着ける場所なのだけど…当の本人のルシーは、先程から妙にはしゃいでいる。原因は分かっているけど…私だから何とも言えない。
少し前に私が落ち着くまで見守ってくれていたコルネット親子は、私が落ち着いたのを見計らってとりあえず続きは夕食でも食べながらと言ってくれた。そして、それまで二人で話でもしていなさいとルシーに部屋まで案内するように言ってくれた。そして、部屋に着くなり現状に至ったわけですが…
「葵ちゃんと一緒♪葵ちゃんと…ぐふふふ♪」(チ)
たまにとても不気味な笑い声が聞こえるのは気のせいですかね?それと、ルシーさん。折角のお洋服がしわだらけになるので、その服のままベッドでゴロゴロやるのはやめた方が良いと思います。
「えっとね…ルシー?」
「葵ちゃん!!」(チ)
「は、はい!」
「もう…我慢しなくて良いんだよね?」(チ)
「…え?」
ちょっと待って下さい。その台詞ってまさか…
「良いんだよね?」(チ)
「ちょ、ちょっと待って!その…さっき抱き着いたのはそういう意味じゃなくてその…ね?」
待って!心の準備が…ではなくて、今日出会ったばかりなのにそういうのはどうかと…でもなくて、まずい…思った以上に混乱して頭が働かない!?
「良いんだよね?葵ちゃんの許可も貰ったし…」(チ)
「え?私の許可?」
え?え?私許可なんて出した!?覚えてないのだけど…無意識のうちにしてたの!?どうしよう!どうしたらいいの!?
「あのあのあのえっと…」
「良いんだよね!葵ちゃんのファッションショーを始めても!!」(チ)
「あのあの…え?ファッションショー?」
「葵ちゃん、話が終わったら私の昔の服を着てくれるって言ったじゃない♪」(チ)
「そう言えば…待って?確か、私は着るとは言ってなかったと思うよ?」
「そ、そうだったっけ?水着以外は着てくれるって…」(チ)
「水着を拒否したのは確かだけど、それ以外なら着ると言った覚えはないよ?」
「葵ちゃん、泣き疲れて忘れてしまっているのよ…」(チ)
「う…そこをつかれるとそんな気がしてくる…」
あれ?そうだったかな?誰か2~3話前を確認して来て!確か着るとは言ってないはずなんだけど…
「よし、いけそう…」(チ)
「え?何か言った?」
「何でもないよ!とりあえず、そんなわけだから早速着替えよう!これから先、ここに住むならそれなりの服を着ないと周りから変な目で見られそうだからね。」(チ)
「うぅ…ルシーにしては正論を…」
「じゃあ、早速着替えようか♪」(チ)
早速用意をしようとするルシー。でも、その前に重要な事があるのです…
「待って…分かった。そのファッションショーとやらの承諾をした記憶がないけど、それをしても良いから私の話を先に聞いて欲しい。」
「ええっ!?まだお預けされるの!?私の理性が限界で厳戒体制だよ!?」(チ)
「意味が分かりそうで分からないことを相変わらず言うよね…。大体、話が終わったらじゃなかったの?まだ二人で話し合いをしてない気がするのだけど…」
「フフフ、このままだと私の臨界点を超えるよ?どうなるか保証しかねますよ?」(チ)
「久しぶりに本気で身の危険を感じてるんだけど…お願い、間を空ければ空けるほど言えなくなりそうだから今聞いて欲しいの…」
「そっか…分かったよ。葵ちゃんが水着も着てくれるなら話を聞きましょう。」(チ)
「え!?こ、交換条件なんてずるいよ!!」
「ずるくないよ!私もすぐに葵ちゃんを着替えさせたいのを我慢するんだから、葵ちゃんも我慢して水着を着てくれても良いじゃない!?」(チ)
「凄く利己的なことを言ってるよね…。・・・分かったよ、着ても良いけど…条件があるよ?」
「え?条件?私も一緒に着替えろと言うなら喜んで着るよ♪」(チ)
「違います。最初はそうしようと思ったけど、被害が大きくなる想像しか出来なかったから…」
「被害が大きくって何かな?葵ちゃんってば、エッチなんだから♪」(チ)
「…話がそれてきりがないから条件を言うよ?簡単な条件だけど、私を押し倒したら終わりと言うだけ。」
「それ簡単じゃないよ!?とてもとても厳しい条件だよ!?それは受け入れられません!!」(チ)
「待って、ルシー。それはつまり…私を押し倒すつもりだったの?」
「違うよ!そんなつもりはないけど…水着の葵ちゃんが目の前にいるんだよ?押し倒さないとか男じゃないでしょう!!」(チ)
「ルシーはいつ男になったの!?やっぱり、前世は男だったの!?」
「え?前も言ったけど女だったよ?ただ、葵ちゃんの前では男でいたいのですよ!」(チ)
「・・・それだと、私と一緒に着替えたり、寝たり、お風呂入ったり出来ないってことだよね?」
「ごめんなさい、さっきのは無しにして下さい。」(チ)
「本当に欲望に忠実な子供みたいだよね、ルシーは…」
「私は、自分に嘘をつく大人になりたくないの!!」(チ)
「嘘はつかなくていいけど、理性は持とうか?」
「理性何て自分を縛る鎖なんです!私は理性を解き放つの!!」(チ)
「分かったよ。水着を着る話はなしで…」
「我慢してみます。」(チ)
ルシーがまるで戦場に向かう兵士のような表情をしてるよ…そこまでなの?元男のはずの私だけど…全然理解が出来ない。
「とりあえず、私の話を聞いてくれると言う事でいいんだよね?」
「うん、どんな真面目な話でも最後まで聞くよ!」(チ)
「それでは…聞いて下さい。葵の…私の過去を。私が本当の意味で葵になるために必要だと思うから…」
「え?さっきパパとママと一緒に聞いたけど…?」(チ)
「あれは簡潔にって言ったでしょう?…その時の気持ちとか色々細かいところも聞いて欲しいの。そうしないと…また言い訳に使っちゃいそうだから…」
「分かった。最後まで真剣に聞くよ。」(チ)
「ありがとう…。じゃあ、長くなるけど私が覚えている最初から話すね…」
そう言って長い長い葵の過去を話し始めた…
もっと短く区切るつもりでしたが…なんだかんだで長くなりました。まあ、自分としてはですけどね。
そして、シリアスっぽさが見え隠れ…してましたよね?(汗
次は今までで一番のシリアスさんが顔を出すと思います。
しかし…まだ1日目が終わってないって…どうなんだろう?(滝汗