1話 いつの間にか始まっていた異世界生活
「ん・・・」
久しぶりにスッキリした目覚めを経験した気がする。何時ぶりだろうか?そんな感じでまぶたを開けると…
「え・・・!?」
一瞬で目が覚めた。簡単に説明すると、知らない天井です。見回すと、やはり知らない部屋?しかし、どこかで見たことがあるような?そう思い、記憶を辿ろうとすると…
「えっ!?記憶がおかしい…何で記憶が二人分・・・俺と私の記憶があるの!?」
そう、何故か二人分の記憶があるのだ。俺の真崎十夜の記憶と、私の綴葵の記憶が同時に存在している。落ち着こうとするほど自身を混乱に導く。激しく混乱していると自覚し落ち着こうとはしているつもりだけど、記憶を辿れば辿るほどにさらに混乱してしまう。
一度無心になろうと前を向くと、さきほどは視界に入っていても気にしなかった(気にする余裕がなかった?)姿見が目に入った。質素な長方形の姿見には、自分?の姿が映っている。
肌色は白い方だろう。少し緑色掛かった白髪(銀髪?)に、左がエメラルドグリーン右がエメラルドブルーのオッドアイの瞳、顔立ちは整っていて可愛らしいが、身長と顔立ち(あと胸の大きさ?)からして10歳くらい…待て、私の記憶では16歳だと…!?断固抗議する!!・・・などと一人で脱線と言う現実逃避してみても意味がないので思考を戻す。
やはり、私の見慣れた姿なのにわずかな違和感がある。あと、下は履いているが大きいシャツ一枚で寝るのは如何なものか?私がそうしてるはずなのに、これは危険だ!と叫ぶ俺がいる…また混乱してきた。そして、また脱線している…思考を再度戻そう。
記憶を辿る前は、この質素な部屋にも違和感があったはずなのに、すでになくなっている。明らかに可笑しいが、原因が全く分からない。やはり、俺の記憶にヒントがある気がする・・・もう一度、俺の記憶だけを辿れるように集中してみよう。
・・・俺こと真崎十夜は、家の近くにある県立高校に通うごく普通の男子高校生である。…少しだけ体格の良い身体はしているけど、成績など普通の高校生だ。俺の記憶では、昨日も何事もなく授業が終わったので、真面目な帰宅部の俺は真っ直ぐ家に帰ったはず。そして、長年ハマっているオンラインゲームをして…ん?オンラインゲームをした後の記憶がない?
「・・・いや、待て!!そう…そうだ・・・この部屋、そして、私の姿、俺がどこかで見たような気がしたはずだ。ゲームのマイルームとマイキャラだ!!」
やっと思い至った事実だか、それでも色々と不可解な事が多い。いや、不可解な事しかないか…自分の身体、自分の記憶…全てが嚙み合いそうで噛み合っていない。
仮に、この世界に転生して今まで前世の事を忘れていたと仮定したとしても、この私の記憶の違和感がそれを認めてくれない。私が基準で前世を思い出したと言うより、ここに転生して記憶を後から付けられたと感じる違和感があるのだ。とは言え、その違和感も何か確証があっての事ではないので、もしかしたらそれが正解かもと思ってしまう自分もいる。
しかし、ここが一番問題視するべきところだが、余りにも俺がやっていたゲームのキャラ設定と私の記憶が似通っているのだ。俺が、ゲームキャラの『綴 葵』に設定した物語は要約するとこんなだ。
【綴葵の過去】
・小さい頃に両目の色が違うことを気味悪がられて両親に捨てられる。
・偶然通りかかった気の良い傭兵団に拾われ育てられる。
・狙撃の才能を見出され徹底的に仕込まれる。
・運悪く動物の集団(この世界では野生動物は脅威に当たる)に襲われ傭兵団が壊滅する。
・フリーの殺し屋として何とか日々を生き抜いている
と、こんな感じだったはずだが、私の過去が正にこれに当てはまる。もちろん、記憶があるのは5歳くらいからなのでそれ以前は分からないが…偶然の一致として片付けるには、余りにも似通っている。そう考えると、何者か(神?)に転生させられた時、私としての記憶を植え付けられたと考えた方が自然なのだけど…やはり、確証などないわけで・・・。
「ああ…もう!考えたところで答えなんて出ないし、これからの事を考えよう!!」
現実逃避と言うなかれ、少女?一人で生きていくには厳しい世界なのだ。この世界が、私の記憶通りなら間違いなく【World crave】の世界なのだ。この世界が厳しい世界と言うには勿論理由がある。纏めるとこんな感じだ。
【World crave】の事情
・世界の国々は常に戦争をしていて不安定
・文明はそれほど発展していないが、何故か重火器は充実している(戦争を更に悪化させている要因
・野生の動物が繁殖(特に大型の獣)、コロニー規模で点在していて人々も襲われることが多々ある
・美味しいご飯が少ない(特に甘味がない!!)←ここが非常に重要
ほかにもあるが、この辺りの事情が一番大きいだろう。…え?最後は要らないって?一番重要でしょう!?甘味のない世界なんて滅んでしまえ!!(暴言)
おっと、取り乱しました。今ので確証が得られたましたね…後付けの記憶だと言う事の。だって、俺が甘味なしに十年も過ごせるわけがない!!絶対だと言い切れますね、ええ・・・
さっきから蛇行してばかりなのも、きっと甘味がないせいだ…きっとそうだ。(確信)
・・・こほん。とりあえず、当面はこの身体でこの世界を生きていくしかなさそうなので、決めておかねばならないことがいくつかある。大雑把に、この身体の記憶?通りに生きるか、違う生き方をするかだ。
分かってるんだ、熟考するまでもなくこの世界は厳しく、他の生き方は難しいだろうということは…でも、いきなり殺し屋になれとか普通の高校生やってた俺には厳しいわけで・・・。ただ、私の記憶を辿れば殺し屋になることは難しくなさそうではある。けど、精神面がね・・・とても無理です。
でもね、私はまた人を殺すでしょう。この記憶が実際にあったかどうかなんてどちらでもよいことで、この世界では結局、私は人殺しでしかないのだから・・・
・・・自然と思考誘導されている気がする。さっきの思考もすでに自分で導き出した答えのように感じているが、僅かながら違和感を覚えるのだ。だが、この違和感もいつまで感じることが出来るのだろう?自分でも何となく分かってる。段々と意識の中心が俺から私に代わって来ていることに。そして、それを当たり前のように受け入れている自分に…
いずれ俺は私になってしまうだろうけど、それはもう受け入れるしかない。だけど、これだけはしっかりと自分で決断しておきたい。人を殺すと言う事、それを自分の意志で行うことを・・・
これだけは、誘導されるまま…流されるままに行って良いものではない。この世界では仕方ないとか、意識が誘導されているから仕方ないとか、そんな理由で生命を奪ってしまったら、後悔しないわけがないから。幸いにも、私が奪った命は全てどうしようもない悪党ばかりだ。そこを言い訳にしては本末転倒なのでするつもりはないけど・・・
「ふぅ・・・よし!」
これから先は何があるかわからない。だけど、ここで自分自身に誓いを立てる。
「俺は…私は絶対に他人のせいにして逃げたりはしない。自分の決断の力で、この世界で生き続けて見せる!!」
特に大きな変化を期待した誓いではない。どちらかと言えば、この先の変化を抑えるために…自分の中に一本の太い柱を立てた感じだろうか?何があっても折れない柱にしたい。そう、何があったとしても…
「うん。とりあえず、着替えよう。」
姿見には、変わらずにだぼだぼのシャツに着られた自身が映っていた。ベッドを離れ、クローゼットを開けると中には記憶通りの地味な服しか入っていなかった、当たり前である。
「だぼだぼのシャツの寝間着に、普段は地味な色のシャツとズボン…過去と現在の状況から考えて仕方がない部分も多いのだけれど、殺し屋なんてやってるから目立たないようにと言うのも分かるんだけど!記憶を辿って見るに逆に目立ってるよね、これは…」
地味な上下で目立たないようにしている少女(自分)、周りから客観的に見てみると…戦争中とは言え、地味な恰好の女の子なんてほとんどいないわけで。そして、俺が拘っただけあって私はかなり可愛いと思われる。そんな女の子が、地味な恰好で目立たないようにこそこそとしていたら逆に目立っているわけで…
「付け加えられた記憶なんだろうけど…なんだろうけど!目立ってることに気が付いて欲しかったな、私ちゃんよ…」
今日の日程は決まったね。まず、地味過ぎない景色に埋没するような服装を買って、それから甘味探しで今日は終わりそうだ。甘味!甘味探しだけはね?譲れませんよ!!今後の自身のモチベーションに多大なる影響を与える問題なのですよ!!
さすがにベッドから降りたら冷えてきたので、着替えようとシャツを脱いだ時にふと見てしまったのですが、やはり16歳にはとても…一体どういう事?いくらなんでもこれは…いや、きっと甘味が足りないんだ!女性は甘味が大好きなのはそういう事なんだよ、きっと。葵、理解シタ。全部、甘味を食べていないせいなんだ!
「そうだ、そうに違いない…早く服を買ってから甘味を探さないとっ!!」
気合が入ったところで、ささっと服を着て出かける準備OK、いざ出発!!身長+αのために!甘味を求める旅に出ます!!
「心の中で気合いを入れるだけでこんなに時間をかけてしまうなんて…このままでは部屋でバッドエンドを迎えそうだ」
結局なるようにしかならない。いくら思い悩もうと最終的にこの思考に落ち着くのは、やっぱり私だなぁと思う。すぐに何か起こるわけではないとは思うけど、異世界なのだから何かあるかも?と少しドキドキしならがドアを開けた。いざ!新しい世界へ!!
初投稿です。よろしくお願いします。キーワードなどは念のため付けているものばかりです。
亀進行になると思いますが、気に入った方がおられれば幸いです。
…と・・・に関してはその場の作者の気分で分けてるので、意味はないです(汗
拙い文章力ですが、生暖かく見守って頂けると有難いです。
最終更新日、一部編集改変しました。