ブルク
デシンは、組合会館に出かけた。総督府は、政治との関係上、発行にいくつもの書類が必要で、揚句審査が煩雑であると知っていたからだ。
「組合会館に着いた。」
「デシン!」
デシンを呼ぶ声がした。デシンが振り返ると、そこには、長身で、細目の、日に焼けた男がいた。
「ブルクじゃないか!久しぶりだな!」
男の名はブルク。十五歳の青年で、デシンとは幼少のころからの付き合いである。
幼年学校(小学校に相当)、海洋学校をデシンとともに学び、指導した。
ただし、五歳離れているので、学校に一緒にいたのは二年間だけである。
海洋学校卒業後は、商業とフィールドワークに役立つことを学びたいと大学で経済地理学を専攻した。
「どうした、こんなところに。おまえさんところの店は一階だったな、二階以上の店舗と同じよう建物税への優遇税制を導入してほしいとの陳情か?または、滞納している収益税の遅延納入申請か?」
「ちがうよ。航海に出るのに、外洋での通商許可証をもらいに来たんだ。」
「ふーん。しかし、組合会館で、通商許可証を取るとなると、手数料なり月々の上納金なりを取られるんじゃないか?」
「え!?そうなのか?」
「組合に入っていれば、問題ないけどな。総督府でもらう方がいいと思うぞ。」
「でも、手続きが煩雑って聞くけどな…」
「大丈夫。こんなときこそ、僕の人脈を使おう。」
しばらくして、二人は通商許可証を入手することに成功した。
「まさか、ブルクが総督府で働いていたとはな。」
「昔の事さ。昔、アルバイトで事務の仕事で派遣されていたことがあって、手際が良かったせいか、正式な官吏に昇進したんだ。あと、俺からだが…」
ブルクは金貨1ザクールと銀貨2千クールを渡した。
「何から何までありがとな」
「あと、デシン…俺を一緒に旅に連れて行ってくれないか。俺は、海の世界や外の世界にあこがれていた…いままで、一歩を踏み出せなかった。でも、おまえとなら、楽しく冒険できそうな気がする。」
「もちろんだ!一緒に行こう!」
早朝、デシンの船は、ギシンとブルクとともに港町ラルム(「真珠の採れる町」)を目指した。