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蝿の女王  作者: 黒塔真実
第二章、『地獄の底で待っていて』
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1、反抗的な配下

 大声を出して物に当たって発散し――

 おかげでクィーンの頭はいくぶん冷えてきて、自分の甘さに気がつくとともに、笑いたくなった。


(そもそも男嫌いだからといって、女性の配下を希望したこと自体が間違いだった……。

 カーマイン様は私に、甘ったれるなって言っているんだわ)


 おかげで一気に目が覚めた。

 だから慣れ合いは『危険』なのだ。

 9歳の頃からNo.2であるカーマインの下で働き、自分の中にはいつの間にか彼への『甘え』が生じていたらしい。


(きっとテレーズに今回のことを知られたら、また言われるわね)


『あんたは自分が悪の組織に身を置いているという自覚がなさ過ぎる!』


 ともにカーマインの下で働いていた、修道院で出会った同じフランシス王国出身の自称アリスの姉貴分――異名「黒薔薇姫」。通称「ブラック・ローズ」に、コンビを組んですぐの頃、言われた言葉がアリスの脳裏に蘇った。


 あの当時から自分は少しも進歩していないらしい。

 自ら弱みをさらしたうえに、それを理由に配下の選別をお願いするなんて――


『アリス、その甘さはいつか確実にあんたを殺すわ。

 私が傍にいる限りは妹分のあんたをかばってあげられるけど、いつまでそうしてやれるか分からない。

 どちらが先に死ぬかは不明だけど、あんたがあまり早く、例の落ち合い場所に行かないことを願うわ』


(ええ、分かっているわよ、テレーズ。私は甘く、早死にするタイプ――そうして待ち合わせ場所は――)


「本当に大丈夫ですか? No.9?」


 ふっとニードルの声が耳に響き、物思いから覚めたクィーンの視線が、気遣うような菫色の瞳にぶつかる。

 自分がアジトで新しい配下と顔合わせしている途中であることを思い出し、クィーンは椅子にストンと腰を降ろすと、重い溜息をついた。


「ええ、大丈夫」


「今のって組織からのメッセージカードだろう?

 何か嫌なことでも書いてあったのか?」


 ソードが指摘する通り、組織からの伝達に使われるメッセージカードは、先ほど破り捨てたもののようにシンプルな二つ折りカードだ。

 基本的に内側のみにしか文字は書かれていないが、外側に意味のある透かし模様が入っていることがあり、クィーンは読む前に必ず裏と表を確認する習慣がついていた。

 今回のはNo.2からのただの個人的なメッセージだったものの、説明するのが面倒くさいので適当に流すことにした。


「別に、大したことが書いてあったわけではないわ。

 今日は少々嫌なことが重なって、ストレスが溜まっていただけだから、二人とも気にしないで……」


「……ふーん」


 納得していない様子のソードが、鋭く探るような瞳でじっとクィーンを見つめる。


 言い訳ではなくストレスが溜まっていたというのは本当のことだった。

 滅多に爆発しないアリスがついにキレたのは、何も今日の酷い一日だけが原因ではない。

 侯爵家に戻ってからのこの半年間、もっと言うなら組織に入ってからの数年間、アリスとしてもクィーンとしても、自分は可能な限りの努力を重ねてきたつもりだった。

 

 アリスとしては、修道院に戻れるかどうかが後見人のサシャの一存で決まるがゆえ、彼の機嫌を損ねないようにつとめて従順な態度を取ってきた。


(その結果が、あの夜会後のサシャからの言いがかりなんだから、もう笑うしかない)


 クィーンとしてもそうだ。

 自分はカーマインの元でそれなりに貢献してきて、所属してきた支部にとって必要な人材であると自負していた。

 修道院を出るタイミングで彼の側近を外された時も、帰れば元の位置に戻れるのだと、これは一時的な状態だと硬く信じていたのだ。


 しかし、目の前にいる、新しい配下の二人の顔ぶれはどうだ?


 秘密結社『黄昏の門番』には地域ごとに拠点があり、そこで 人員の管理や任務の振り分けが行われている。

 No.2がひきいる聖クラレンス教国は第二支部、このフランシス王国は第三支部の管轄地域に含まれていた。


 そして目の前にいる二人は、あきらかに第三支部に所属する人間。

 自分が第二支部の人間ではないという現実を、はっきりつきつけて教えるものだった。

 修道院にすぐに戻るつもりだったアリスは、今まで第三支部から任務が降りてきてそれをこなしてはいても、あくまでも客員意識だった。


(つくづく馬鹿な私。カーマイン様の側近を外された時に気がつくべきだった。

 自分が同時に彼の下からも外されたことを――もう修道院にも第二支部にも帰らない人間だと、戻る必要もないのだと、判断されているってことに――)


 第三支部の管轄区域に含まれるのはフランシス王国とお隣のスライン公国のみ。

 スライン公国にいる大幹部はNo.10なので、この支部のトップはNo.3のカミュである。

 

(何が、近いうちにまたカミュ様に会うことになる……よ! 

 所属が変わっているのなら、大幹部になって城に自由に出入りできるようになった時点で、速やかに挨拶に行かなければいけなかったのに)


 いくら伝達がなかったとはいえ、現在の所属ぐらいしっかり確認しておくべきだった。

 おのれの間抜けさ加減に苛立ち、とことん自分の意志を無視される状況に、やさぐれた気持ちになる。

 彼女の機嫌が悪そうなのを感じ取ってか、ニードルとソードは黙って立って見ている。

 控えている二人の姿を眺め、さっさと顔合わせの挨拶を終わらせてしまおうと、クィーンは思い立った。


「改めて自己紹介するわね。

 私が今日からあなた達のリーダーになる組織のNo.9、通称『クィーン』よ。

 今後は番号ではなく、クィーンと呼んでちょうだい。

 あなた達のことも通称名で呼びたいけれど、いいかしら?」


 クィーンが二人と違って異名を名乗らないのは、それにそった異能を魔王から与えられているから。

 つまり能力の特徴が分かる言葉になっており、一つの弱みになるからだ。

 上の者は下の者に名乗らなくても良く、逆に下の者は敬意を表すために名乗らなくてはいけなくなっている。


 対等の立場では名乗り合う必要もなく、そういった事情で組織では番号呼びか通称で呼び合うことが一般的だった。


「分かりました。クィーンですね。

 僕は今まで仕えていたNo.10のところではずっと『ニードル』と呼ばれていたので、そう呼んでください」


 クィーンの下に配属されるまで、ニードルはNo.10の配下だったらしい。

 アニメと同じであればNo.10は異名『暗黒医術師』という、医療関係の異能を持った大幹部である。 


「別にいいけど俺には通称なんてないが? 生憎、今まで番号呼びしかされたことがないからな。

 組織内で馴れ合ったこともないし、この前まで世話になっていたNo.3は何しろ、ろくに口をきいてもくれなかったからな!」

 

 ソードが言うように、たしかに彼はカミュとは気が合わなそうだし、協調性に欠けるので、これまでの仲間と愛称で呼び合うほど親しくなかったというのも頷ける。


 アニメではクィーンとソードはカミュの元側近仲間であり、クィーンが先に大幹部に出世することになって、配置変えとなったのだ。

 アニメのソードが素直にクィーンの指示に従わないのは、クィーンがカミュに贔屓されて自分より先に出世したという、鬱屈した思いがあったからだ。

 そのしがらみがないぶん、今のソードはアニメより扱いやすい男であると信じたい。

 とにかく、いまだに通称なしだったということは、ソードの呼び名はその時代にクィーンがつけたものだったのかもしれない。

 

「だったら、あなたを『ソード』と呼ぶわ」


 クィーンがそう言うと、ソードは顎を撫でさすりながら、口の端をニヤっと歪めた。


「ソードか、なかなかいいね、非常に気に入った」


 少し含みのある言い方をして、ソードがまた例の下品た笑いを口もとに浮かべ、ねっとりとした欲望丸出しの嫌らしい視線をクィーンへと送ってくる。

 まさにこの男は彼女が一番苦手なタイプの男性だった。

 しかし、今の心身ともに疲れきっているクィーンには、彼の不遜な態度をいさめる気力はない。


 今日の彼女の疲労感は大きく、カミュに挨拶に行くのも明日にしようと決めているぐらいだった。


(今日はもう部屋に帰って寝よう)


 心の中で呟き、


「では、挨拶も済んだことだし、詳しいことは明日からにして、今日はもう解散にするわね」


 宣言してテーブルに手をつき、立ち上がりかけたクィーンだったが、それを制止するように、目の前にどかっと酒瓶が置かれる。


「おいおい、待ってくれよ、クィーン!

 これで解散なんて有りえない! 

 これから長い付き合いになるんだから、まずはじっくりと語り合って、お互いのことを知り合うべきじゃないか?」


 さも正論のように言いながらも、クィーンに向けられるソードの眼差しは、明らかに挑戦的なものだった。

 だいたい語り合おうなどという台詞は、クィーンの立場なら分かるが、配下であるソードが言うようなものではない。

 この口のきき方からして、やはり過去のしがらみがあろうがなかろうが、ソードはクィーンにとって、反抗的で扱いにくい部下であるようだ。

 

(はぁ……勘弁してよ)


 またしても面倒くさい流れとなり、心底うんざりするクィーンであった――




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