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蝿の女王  作者: 黒塔真実
第三章、『亡霊は死なない』
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35、伝えるべき言葉

 一時は絶望に染まってどん底まで落ちていたアリスの心が、今は前向きな意志と気力に満ちていた。


 胸に溢れる感謝の気持ちを伝えたくて、アリスは左手にシンシアの手を、右手にブラック・ローズの柄をしっかり握る。


「シンシア――そしてテレーズ――今まで私のことをずっと近くで見守って、支えてくれてありがとう。

 そして散々、心配ばかりかけてきてごめんなさいね。

 これからは二人を不安にさせないように、命を粗末にするような真似は決してしないと誓うから、どうか安心して」


 聖剣が荊の守りを貫通する事実を伝えなかった後悔、ローズにもう言葉が届かないと思った時の絶望感――今回のことで、大切な言葉や気持ちを伝えるということの重要性をアリスは痛感した。


「アリスの口からそんな言葉を聞く日が来るとは思わなかったわ!」


 シンシアは感激したように喉を詰まらせてから、


「あなたの言葉を信じるわ、アリス。

 それにテレーズが絶対あなたを死なせないって信用している」


 透明な涙を流しながら花が開くように笑った。

 つられて頬をゆるませたアリスは、忘れずもう一つ大事な想いを伝える。


「ねぇお願い、シンシアも絶対に死なないって約束して!」


「私?」


 意外そうにシンシアが問い返す。

 シンシアにもカミュのように霊感があると聞き、もしかしたら予想以上に組織での順位が高いのではないかと、アリスは心配になったのだ。


 結社においては、いかなる相手の個人情報を詮索するのも規則違反。

 そう分かっていてもアリスは訊かずにはいられなかった。


「今まであなたの口から、結社でどんな役割をつとめているのか一度も聞いたことがなかった。だけど、ある時期から夜以外はほとんど修道院に帰らなくなっていた。もしかしたら忙しくて危険な、重要な位置にいるのではないの?」


「そうね、たしかに忙しいけど……私はあなたと違って戦闘向きじゃなく、危険な任務に出たりしないから心配無用よ。

 正直に言うといつも安全な持ち場で、病人や怪我人の看護をしているだけなのよ……。

 何にしても大丈夫――私は死なないわ。だってアリスが悲しむのを知っているもの」


「悲しむなんてものじゃないわ!

 お願いだから……もしも命の危険がある持ち場に配置換えされり、死の危険がともなう任務が出された時はすぐに私に言ってね!

 即、上に掛け合ったり、サポートに駆けつけたりするから――!」


「ありがとう、その時は忘れずにあなたに言って頼るわね。

 そのかわりアリス、あなたもまた辛いことがあったら、必ず私に相談するのよ?」


「うん、分かったわ!」


 約束のしるしにお互いの手を硬く握り合うと――シンシアはふと何か思いついたような表情になり。


「――そうそう連絡手段だけど、これからは私からの連絡は修道女長様を通じてするわね。

 実は今日みたいに墓参りには頻繁に来るんだけど、あなたとテレーズが修道院からいなくなってから、夜もこの部屋に寝に帰らなくなってしまったの」


 忙しいという理由だけではなく、シンシアは自分やテレーズがいない修道院に一人でいるのが辛いのかもしれないと、アリスは申し訳なく思った。


 修道女長セシルの結社での順位は知らないが、確実に100番以内らしく、アリスは何度か魔力必須のメッセージ・カードで呼び出されたことがある。

 逆に言えばセシル経由でしか連絡が取れないということは、シンシアは100番以内ではないということになる。


「了解よ。私の方は何かあれば結社の伝令カードを飛ばすわね」


 ひとまずアリスはほっとして同意すると、カーテンの隙間から射し込む朝の日差しに気がついて時計に目を移し、慌ててベッドから腰を上げた。


「いけない、そろそろ戻らないと!」


「そう……残念だわ」


 寂しそうに言ってシンシアも立ち上がり、二人は別れを惜しむようにブラック・ローズを間に挟んでしっかり抱擁し合った。


「またすぐに会いに来るわ」

「……待ってるわ、アリス」

「うん、いつだって自由に行き来できるから、シンシアも何かあったら呼んで」


 いつかカーマインに言ったアジトの鍵があれば居住地など関係ないという言葉は、そのままアリスにも返ってくる言葉だったのだ。


 今までだって特に禁止されていなかったのに、頭が硬いアリスは勝手に自分の中で規則を作り、鍵を得てから一度もシンシアやテレーズに会いに来ようとしなかった。

 どんなに二人が自分のことを心配しているか分かっていたのに――


 二度と優先順位を間違えないと心に誓い、アリスはシンシアから身を離してクィーン姿に変化すると、いつでも会える証拠を見せるように、異界への扉を開いてみせた――




 ひとまずポレットがカーテンを開けに来る決まった時間前に、無事に侯爵家のベッドに戻ったアリスは、徹夜した頭を絞って真剣に考える。


(出撃許可の申請の関係で王都の任務は今まで保留されていたから、その分、確実に件数がたまっている。

 大幹部会議の翌日だった昨日は一日中グレイ様は忙しかったみたいだから、今日ソードに任務書を渡すはずだわ――出来ればその前に会って、私の決意を伝えなくては……)


 とりあえず魔族は闇に紛れるのと瘴気の関係で、理由がないは限りは魔力が強まる夜に任務に出る。

 まったく有り得ないとは言い切れないが、昨夜アリスと共に夜更かししたグレイは、朝っぱらからソードをアジトに呼びつけたりしないだろう。


(……なので、少しぐらい寝ても大丈夫よね……部屋の鍵は開けておいたから、寝坊しかけたらポレットが起こしてくれると思うし……完全に徹夜だといざという時に力が出ないもの)


 そう思って瞼を閉じたのが甘かった。

 アリスが次に目を開いたのは、時計の針が正午を示す12の数字を回った頃。

 慌てて事情を聞くため呼び鈴を鳴らして呼んだポレットは、なぜか手に料理が乗った盆を持っていた。


「――はい、旦那様より、お嬢様は初めての園遊会に出て疲れているので、できるだけ起こさないようにと言いつかっておりました……。

 それから目覚めたら、部屋に朝食を運ぶようにとも……」


(なにそれ? 今日に限って……)


 さらに本日サシャは王宮の仕事が休みで屋敷にいると聞き、アリスはマラン伯爵夫人に今日のアリバイ工作を頼むのを断念する。

 ただでさえ昨日の騒動で外出許可が得られるか怪しいのに、サシャが休みではたとえ出かけられたとしても、いつだかのお茶会のように監視のためについてこられる恐れがある。


 仕方がないので日中は精神体のみで行動しようと思い、ベッド上で食事を食べ終えたアリスは、そのまま自分の繊細設定を生かして横たわる。


「サシャの言うように、昨日の園遊会でたくさんの人に会ってかなり神経が疲れたみたい……なんだかとっても気分が悪いから、午後も寝ているわ……。

 ――明日になったら必ず顔をみせるから、今日だけは一人にしておいてと、サシャに伝えておいて……。

 あと、同じ理由で午後のお茶もいらないし、来客があっても断っておいて――ポレット、あなたも夕方まで下がっていていいわ」




 自室に一人になるとアリスはさっそく蝿型の意識を飛ばし、最初にNo.3の間を覗いて無人なのを確認したあと、第三支部へと向かった。


 壁をすり抜け機密室に入ると、ヘイゼルが一人で席に座って仕事をしていた。

 どうせローズの脳内を読んだ彼には精神体を飛ばせることはバレている。

 アリスはそばまで飛んでいき、目視しやすいようにクィーン姿をとって話しかける。


「こんにちはヘイゼル。グレイ様は?」


 ヘイゼルはチラッと瞳だけ向けて、無表情に答える。


「……見ての通りまだいらっしゃってません」


 アリスはグレイが来る前に間に合ったことにほっとした。


「何時頃来るか分かる?」

「さあ、細かい時間まで聞いていませんが、今日中にはおいでになると思います」

「そう、ありがとう」


 お礼を言って再び蝿の形をとり飛び立ったアリスは、今度は昨夜訪れた離宮の尖塔にあるカミュの居室を目指した。

 しかし到着するとまたしても無人で――離宮内をくまなく見て回ったが、カミュだけではなく枢機卿のラザルもいないようだった。


(避けられているわけではなく、今日は単純にどこかに出かけているのよね。

 ――たしかラザルは滞在中、教会施設を見て回ると言っていた――カミュ様も付き添って一緒に出かけたのかしら?)


 王国内の教会の重要施設のほとんどは王宮に隣接した聖域内にある。

 通常人間の魂は闇の部分と光の部分が混在しているのだが、困ったことに人間時でもアリスが精神体として飛ばせるのは、魂の闇の部分――闇属性のものだった。

 つまり昨日の魔王の眼と同じように、聖属性の気をぶつけられたり、聖域みたいな神聖の力が満ちた空間に入ると、肉体の守りがないのであっさり霧散するのだ。

 ゆえにせいぜい精神体で見て回れるのは、地域の教会か、先日行った異端審問施設ぐらい。


 それなら要はソードに任務書を渡す前に会えればいいのだから、行き違わないという意味でもアジトで待っていた方がいい。

 分かっていても、一刻も早くグレイに会いたいという早る気持ちをおさえきれず、基本はアジトに張り込みながら、アリスは今まで行ったことがある施設に限って時おり覗きにいった。


 そうして夕方近く、アリスは偶然、聖乙女像がまつられた因縁の場所、サンローゼ教会にてラザル・バジーリの一団に出会う。

 残念ながらカミュはいなかったが、思わぬ場所でラザルに会い、


(なぜ彼がここに? 先日の一件のことで調査でもしてるの?)


 アリスは強く興味をおぼえたが、一行はすでに用事を終えて帰る段のようなので、確認するのを諦めて素通りした。


 ――結局半日無駄にしたアリスは、ヘイゼルに夕食後に出なおす旨を伝え、いったん精神体を侯爵家の本体へと戻す――


 出来るだけ早く実体で第三支部に戻るつもりだったので、監視用の蝿はアジトに置いてこなかった。


(早くアジトに戻って、グレイ様を待ち伏せしてなくちゃ)


 昼同様、夕食もポレットに部屋に運んで貰ってベッドの上で食べながら、アリスの思考はここ数日ですっかりグレイのストーカーと化していた。

 多少料理を残し気味に早々に食事を食べ終え、アリスはポレットに就寝宣言をして、今日はもう下がっていいと伝える。


「それでは、ゆっくりお休みになって下さいね」


 空いた食器を乗せたワゴンを押し、退出の挨拶をしたポレットが部屋の扉を開いた直後だった。


「あ、旦那様」


 不吉な単語が聞こえ――ギクリとしたアリスが扉の向こう側に瞳を向けると――そこには淡い金髪を煌めかせ、優雅な水色の丈長の上衣を着たサシャが立っていた。


「――!?」


(なっ――今日は一人にさせて欲しいと伝えたはずなのに――!?)


 動揺に息を飲むアリスの視線の先で、サシャがポレットと入れかわるように入室してくる。


「アリス、少しいいか? 大切な話がある」


 アリスは平然と話しかけてくるサシャに強く苛立ちをおぼえながら睨みつける。


「――何の話か知らないけどサシャ、今日の私はあなたと会話する気分じゃないの。悪いけど明日にしてくれる?」


「そうしたいが、明朝この手紙を出す予定だから、今日のうちに君に断わりを入れておこうと思ってね」


 眉をひそめるアリスに見えやすいようにサシャは封筒を持つ手を上げ、ベッドの近くまで歩み寄ってきた。


「手紙?」


「ああ、昨日の園遊会で、やはり母では君の付き添人として心もとないことがはっきりしたからね――

 今日の休みの時間を使って、カリーヌ宛に君の付き添人役を依頼する手紙を書いたんだ」


「カリーヌですって……!?」


 最悪の名前を聞いて、アリスは蒼然とする。

 つまりサシャが手に持っている手紙を出したが最後、以降のアリスはカリーヌに監視され、日々の自由を奪われるのだ。


「止めて、そんな手紙出さないで――」


 アリスはとっさにベッドから飛び降り、サシャの胴体にしがみついて懇願の叫びをあげる。


「お願いよ。もう昨日みたいに男性と二人で会ったりしないから!」


「アリス、私も君を信用したいが――万が一にも間違いが起こり、君の評判が傷ついてからでは遅いのだ。

 すべて君のためなんだ――理解して欲しい――」


 決然としたサシャの返答に、アリスはカッとなって本音を叫ぶ。


「評判なんてそんなもの――結婚するつもりのない私には関係ないわ!」


 失望の意を表すように、サシャがかぶりを振って大きく溜め息をつく。


「アリス、まだそんなことを言ってるのか? その話はもうとっくに終わったはずだ。

 誰よりも美しい君が女性としての幸せを捨て、生涯、灰色の修道院生活を送るなど、この私には到底許容できない」


「幸せを捨てる? ――灰色ですって?」


 大切な友人との思い出がある修道院生活を頭ごなしに否定され――アリスは怒りで目がくらみ、全身が震えた。


「何も分かってない癖に知った風に言わないで! ――私にとって修道院での生活は、人生の中で二番目に幸せな時期だったわ!」


 テレーズやシンシアと共に生活し、ただ食事を一緒にしたり、他愛もない会話をした。

 三人で過ごした何気ない日々がどんなに貴重で幸せだったか、思い知った今だからこそサシャの言葉が許せなかった。

 もう戻れないのだと、激しい悲しみに胸を引き裂かれる思いで、記憶を遡り、懐かしい修道院生活を思い浮べたアリスの脳裏に――最後に幼い自分を見送る少年時代のサシャの姿がよぎる。


『どうしても修道院に行くというのか?』


 あの日のサシャはとても悲しそうだった。

 いつものようにしゃがみこんでアリスと目線を合わせ、懸命に最後の説得を試みようとしていた。


 アリスは記憶と見比べるように、今は高い位置にあるサシャの顔を見上げ、戻れないのは、愛する家族やテレーズと過ごした日々だけではないと気がつく。

 7年前に侯爵家に居た頃も、アリスはまた幸せだったのだと――

 最愛のミシェルがいて、厳格でも情の厚かった前ノアイユ侯爵に、穏やかで思いやり深い夫人――そして幼い彼女の気持ちをつねに気遣ってくれた優しい少年――


(――そうだ、かつてのサシャのサファイア色の瞳は、会話する時はいつも私の瞳と同じ高さにあった――)


 先日も感じた悲しみの正体――もうあの王子様のような初恋の少年には二度と会えないのだという――自分の中にある感傷的な想いを自覚したアリスは、瞳から涙を溢れさせ、ポロポロこぼしながらも、サシャの美しい顔を見上げ続ける。


「――泣かないでくれ――アリス」


 苦痛を受けたように顔を歪め、肩を抱いてこようとしたサシャの手を、アリスは「触らないで!」と勢い良く払いのけた。


「……何よ……! 君のため、君のためと口では言う癖に……つねに上から見下ろして、一度だってサシャは、私の気持ちを分かってくれようとしたことがないじゃない……!

 どうせ全部勝手に決めるなら――私が嫌だと言ってもあなたの好きにするなら、こんな風にわざわざ訊きにこないでよ……!

 今までそうしてきたように勝手にすればいいじゃない……手紙でも何でも出して、カリーヌを呼びなさいよ! 

 ――でも、これだけは決して忘れないで、昔はともかく、今の傲慢なあなたなんて私は大嫌い!

 間違っても好かれているなんて勘違いしないで!」


 妹の復活を願い、サシャを自から突き放し、修道院へと旅立っていったのはアリスの方で、変わったことを責める資格などないことは分かっていた。


 だけど悲しくて辛くて、八つ当たりせずにはいられないのだ。


「……アリス」


 サシャの顔面から血の気が引き、激しいショックを受けた呆然としたような表情になった。


「――さあ、決定事項を告げたんだから、もうここから出て行ってよ! 

 あなたの顔をこれ以上見ていたら、食べたばかりのものを吐いてしまいそうだわ!」


 泣きじゃくり、アリスは思いきり両手を突き出し、サシャの胴体をぐいぐいと押す。

 力ではなく物凄いアリスの剣幕に押されたように、サシャはあっさり部屋の出口まで移動していった。


 最後に廊下へとサシャを突き飛ばし――扉を閉めて鍵をかけたアリスは、身を反転させ、ベッドに戻ってつっぷし、しばらく号泣した。

 嗚咽と涙がなかなか止まらず、とてもグレイに会いに行ける状態ではなかった。


 ――そうしてどうにか涙をおさめた時には、夕食を食べた時間を含め、侯爵家に戻ってから、二時間半ほど経過していた――


(……いけないっ……!)


 時計を見たアリスはベッドから跳ね起き、大急ぎでクィーン姿に変化する。




(もうグレイ様は来ているかしら?)


 アジトへ到着したクィーンは少し迷った末――まずは機密室を目指して走りだす。

 しかし駆け込んだ室内には、ニードルとヘイゼルの二人の姿しか見えなかった。


「戻るのを待っていましたクィーン。

 グレイ様はあなたと入れ違うようにこちらに来て、二時間ほど前に溜まっていた王都の任務書を全部持ち、No.22とNo.3の間に移動して行きました」


 珍しくヘイゼルが席を立って、入室してきたクィーンに近づきながら説明する。

 二時間ほど前なら夕食を食べ始めていた頃だ。


「任務書を全部持って? まさかいっぺんにソードに渡してないわよね?」


 間違いなくソードの性格なら、渡した分をその日のうちにできるだけ消化しようとするだろう。


「分かりませんが、No.3の間には書類を保管するような家具がないので、渡さない書類まで持っていくとは考えにくいです……。

 ――それに、私の気のせいかもしれませんが、今日のグレイ様は少々、様子がおかしかったように見うけられました……」


 グレイがおかしいとしたら原因は間違いなく自分だと、クィーンは悟る。

 思い起こせば昨夜『君は私がいなくても生きていけるだろう?』という彼の質問を放置した状態で部屋をあとにしたのだ。


(あれではグレイ様がいなくても平気だと肯定したも同然だわ!)


 またしても自分のことでいっぱいで、他人の気持ちまで考える余裕がなかった。

 クィーンは動揺に震える唇で親指の爪を噛み――それを横で見つめるニードルの表情にも強い緊張の色が走る。


「……どうしよう……! もしもグレイ様が任務書を全部渡していたら、ソードはもう王都を2時間近くうろつきまわっているということになるわ!」


 しかもただうろつきまわっているのではなく、任務をこなしているということは『魔力』を発散させているということだ。

 射程距離は分からないが、仮面の騎士は感知能力が高い――

 いわば複数の任務をソードに一度に与えるということは、仮面の騎士との遭遇確率を格段に上げる、自殺行為にも等しい。

 こうしている場合ではない――


「一刻も早くソードの元へ行かなくちゃ!」


 焦って叫び、クィーンは機密室を飛び出し、一目散にNo.3の間を目指して駆けだした。


(お願いだから、グレイ様! ソードに任務書を全部渡したりしていないで――)


 走りながらクィーンは心中で必死に祈った……――







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