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蝿の女王  作者: 黒塔真実
第三章、『亡霊は死なない』
72/113

24、青の時代

「――はっ……!」


 自室のベッドで寝ていたアリスは、胸元に異物感をおぼえて飛び起きた。

 手を入れて取り出して確認してみると、No.5からの返信メッセージ・カードだった。


 アリスは第三支部から侯爵家に戻ったあと、深夜の大幹部会議まで徹夜では持たないと思い、送ったメッセージの返事が来るまでベッドで横になって休んでいたのだ。

 結社製のメッセージ・カードは飛ばす際、魔力と一緒に送る位置のイメージを込めればその通りに届く。

 割と眠りは浅い方なので、カードの返信先を衣服内に指定しておけば起きられる自信はあった。 

 『至急、面会希望。時間指定は結社時間。返信は衣服内に』と送ったメッセージに対し『結社時間午前8時に、No.5の間にて待つ』と返って来ている。


 結社時間は聖クラレンス国内にある聖地の時間が基準であり、フランシス王国と時計上では一致している。

 しかしアメリア帝国は一つの大陸にまたがる広大な大帝国で、場所によって時差が変わって時間帯がさっぱり分からないので、結社時間の指定にして貰ったのだ。


(――3時間ほど寝てたのね……)


 思ったより長く眠れたので頭はだいぶスッキリしている。


(指定時間は一時間後か。急いで準備をしないと)


 ――アリスは素早く身支度を終え、朝食へ向かうために廊下へ飛び出した。



 食堂には、すでに日の出とともに起き出すノアイユ夫人の姿はなく、アルベールの起床時間に合わせて王宮に出勤するサシャも食後のお茶を飲んでいる段階だった。


「おはよう、サシャ」


 昨日の今日でかなり気まずかったが、アリスは出来るだけ普通の調子でサシャに声をかける。


「……おはよう、アリス……」


 サシャは顔を上げて悄然と挨拶を返し、アリスが着席して食事を始める様子を、切なげな表情でじっと無言で見つめ続けた。

 口から生まれたようなサシャが朝食の場でしゃべらないのは珍しく、意味深な眼差しを受けながらの食事は非常にまずく感じられる。

 アリスは、時間的な都合を考え、あえて昨日の話題には触れず、居心地の悪い沈黙を破るように口を開く。


「サシャ、私、今日は、以前からマラン伯爵夫人と約束しているので出かけるわね。

 お宅でレース編みを教えて頂く予定なの。午前中の早い時間に迎えが来る予定になっているわ」


「――レース編みか。君は本当に手芸が好きだね……。夕食前に戻ってくるなら、構わないよ」


「えぇ、夕食前には戻るわ。明日の園遊会に備えて今夜は早く休みたいもの」


「そうだね……」


 サシャは長く深い溜め息をついてティーカップを置き、静かに席を立ち上がると、ゆっくりとアリスの席まで近づいてきた。

 そうして警戒して身を硬くするアリスの横に立ってその左手を取り、愛しむように自身の両手の中に握りこむ。

 柔らかく包み込むようなサシャの大きな手の温かさに、アリスの胸は昨日のような、正体の分からない泣きたくなるような切ない痛みをおぼえた。


「……ではアリス、私はもう行くが、気をつけて出かけるんだよ……」


 王宮というより戦地にでも趣くような悲壮感が漂わせた、サシャの出勤の言葉だった。


「分かったわ、サシャ。行ってらっしゃい」


 挨拶を返すアリスの顔を、最後にサシャはサファイア色の瞳を揺らして見つめたあと、握っていた手を優しくテーブルの上へと戻し、背中を向けて立ち去っていく。


 サシャが廊下へ消えるのを見送ったアリスは、安堵の溜め息をつき、食事もそこそこに自室に戻って出かける準備を始めた。

 今朝がた第三支部で送ったメッセージ・カード2通のうち、1通はマラン伯爵夫人宛で、そろそろ依頼しておいた迎えが来る頃合だ。

 結社では上の者の命令は絶対なので、断わられない前提の返信不要で、時間を7時45分に指定して馬車の迎えを頼んである。

 8時前にサシャが出勤することを踏まえてその時間にしたのだが、偶然にもNo.5との約束時間前なので、精神体と本体の両方を操りながら面会しないでも済む。


 さすがに『色じかけ』前提では、No.5に精神体で会いに行くわけにはいかない。

 失敗すればアリスにとって鞭打ち半殺しより辛い罰が待っていることを思えば、今回ばかりはNo.5の説得に絶対に成功しなければならないのだ。


(気合いを入れなくちゃ)


 決意を抱き――アリスは指定時間の少し前に到着したマラン伯爵家からの迎えの馬車に、精神体側で乗り込んだ。

 魔族に変化済の本体は先に異界への扉をくぐっている。

 同時操作は苦手なので、マラン伯爵家に到着次第、精神体を本体へ戻す予定だった。

 あとは、マラン伯爵夫人が適当に誤魔化してくれるだろう。


(アリバイ工作が容易になったのは助かるわね)


 アジトの廊下を歩きながら、クィーンはつくづくと思った。

 今日に限っては多少他人と約束する時間にしては早い気もしたが、これからはこうして日中も実体で動きやすくなる。 


 おかげで物凄く長い廊下を通っても、約束の8時の5分前に、無事にNo.5の間の扉の前に到着することが出来た。 


(いよいよね……)


 扉を開ける前にクィーンは大きく深呼吸して、心の準備をかねて頭の中でNo.5の情報をおさらいした。

 結社において大幹部の情報は極秘扱いで、本来なら元直属の上司か同じ支部の伝令係以外はその正体を知り得ない。


 ただし、アニメ知識があるクィーンだけはその限りではない。


 彼女はNo.5が新興国アメリア帝国の皇太子であり、ついでに父である皇帝がNo.1のブラックことダーク、母が第3皇妃のNo.7であることまで知っていた。

 加えて前世の小学校高学年時、近所にあった大型書店で立ち読みしたアニメ情報誌によって、彼が出番が少ない割に、かなり女性人気が高いキャラだったといういらない知識まである。


 No.5の人気の理由は皇子設定と、人間姿でも魔族姿でも華やかで麗しい見た目のせいだろう。

 皇子姿の時は煌びやかな衣装に甘い顔立ちと青い瞳、ダークブロンドの髪のトップを立ち上げ気味にして毛先を遊ばせ、サイドの髪と前髪を長くしたホスト風の髪型をしている。

 その髪型は魔族姿になってもあまり変わらず、そのまま長さを胸下まで伸ばして色を青色に変えた感じで、瞳の色にいたっては色が変わらず、顔だちがややキツくなって肌色は浅黒くなるが、他キャラに比べて顔の印象はそこまで変わらない。

 全体的な外見も、異名『青の堕天使』という名前通り、鳥のような青く大きな翼を持ち、ドレープの入った青いローブを纏う姿は、魔族でありながら天使そのもののような神々しい美しさがある。

 しかし、中身については天使とは無縁の、カーマインが「女好き」「無邪気」と評したように、いかにも明るく軽い調子で、過剰なほど女性に愛想が良かった印象だ。


(果たしてノリについていけるかしら?)


 根暗なクィーンが不安を覚えながら、扉をノックすると、


「はーい、今開けるから待ってて」


 中から弾んだ調子の声が響いてきて、自動で扉が開く。

 No.5はその異能の特性から、念力や念波を使って触らずとも物を動かすことが出来るのだ。


 緊張しながら扉をくぐったクィーンは、壁、天井、床の四方が光沢のある青い石材で造られた、通称『青の間』と呼ばれているNo.5の間の独特の雰囲気に圧倒される。


「早くこっちに来て座って、No.9!」


 呼ばれて声がした方向に視線を送ると、部屋の中央にある料理が並んだ大テーブルの上に両足を乗せ、骨付き肉を持った片手を上げているNo.5の姿が見えた。

 クィーン同様、椅子に座る時は邪魔な翼を収納しているようで、今は青い髪とローブを着た普通の魔族姿だ。


「はい」


 呼ばれるままにクィーンが早足で歩いて行くと、不思議なことに、なぜか距離が近づくごとにNo.5の瞳が驚愕したように見開かれていった。

 そしてとうとうテーブルの傍まで到着した時、手に持っていた骨つき肉をガシャンと皿の上に落とす。


「……どうかしたんですか?」


 不審に思って問いかけるクィーンに、呆然とした表情のNo.5が問いかける。


「No.9、変な質問するけど、君ってば……幼い頃、母親に捨てられたりしていない?」


 いきなり何を言い出すのだろう。

 クィーンはとまどいながらも即答する。


「いえ、捨てられてはいません」


「本当に? だってそのストレートの髪にウエーブを入れて、瞳の色を黒にしたら俺の母親に顔の造形がそっくりなんだ。

 もしかして人間の時は金髪碧眼だったりしない?」


「そうですが……」


「やっぱり! 俺の種違いの姉さんなんでしょう?」


 と、有り得ないことを口走りながら両腕を広げて立ち上がるNo.5の姿に、思わずぎょっとしてクィーンは大声で否定した。


「ち、違います、人違いです!」


「否定しなくてもいいんだ。分かっているから」


 一体何を分かっているというのだろう?


「本当に違います! 私の人間姿は父に瓜二つの容姿だし、母は父一筋でしたから!」


 それ以前に記憶では、No.5はグレイと同じ17歳で、クィーンより年上のはずだ。


「えっ? そうなの?」


 近づきかけていた足をピタリと止め、No.5は改めてまじまじとクィーンの顔面を凝視したのち、がっくりと両腕を下ろして呟いた。


「……たしかに良く見たら、俺の母親より君の方が数段美しい……そうか……ついに会えたと思ったのに……」


 自分より美しい女の存在を一切認めぬ、ナルシストのNo.7に聞かれたら大変な問題発言である。

 No.5は脱力したようにテーブルに手をついて寄りかかり、言い訳のように理由を語った。


「……驚かせてごめんね……最近、俺の母には前夫との間に娘がいて、彼女も結社にいるという情報を掴んだもんだから……。

 てっきり俺の母親に似ている君の容姿を見て、姉なのかと思ったんだ」


(――その前に、魔族としての顔が似ているからって、人間の状態で似ているとは限らないと思うんだけど……)


 内心つっこみを入れつつ、クィーンは相槌を打った。


「そういうことだったんですね」


「うん、自慢じゃないけど俺の情報網はさほど優れていないから、姉の情報についてもいまだに噂の片鱗程度しか入手できていない。

 実のところ、人数が一人なのか二人なのかもあやふやで、容姿についても一切不明なんだ。

 だけど俺にとっては唯一の同腹の兄弟だし、ぜひいつか感動の姉弟対面をしたいと思っている」


 クィーンも何か知っていればぜひ教えてあげたいが、あいにく結社内の情報にうとく、アニメにもNo.7の産んだ娘だと明かされている結社員は出てこなかった。


「会えるといいですね」


 No.5はクィーンの言葉に頷きながら、気を取り直したように暗かった表情を一転、ぱーっと明るくさせた。


「まぁ、人違いなのは残念だけど、よく考えると君が姉じゃなくて物凄く幸運だ!

 完璧な美というのはどれも似かよるというけど、その母をも越える、魔族としての隙がないまでの美しい造形は、人間としても相当な美貌を誇っている証拠だろう?

 俺はあらゆる意味で父を越える予定でね。当然、妻となる女性も、母以上の美女と心に決めている。

 でもって、君は俺が生まれて初めて出会った母より美しい貴重な女性だ!

 大幹部のNo.9ならば公私ともに良いパートナーになりそうだし、もし良かったら、正妃候補として俺の国に来ない?」


(え? これって、求婚されている?)


 異例の展開の早さと軽さである。


「えっと素性も年齢も分からないのに?」


「大丈夫、うちの国はあまり身分に煩くないから」


 No.5が言うように、新興国であるアメリア帝国には奴隷制度はあっても貴族制度はなく、皇位を継ぐのにも母の身分も年齢順も関係ない、完全実力主義である。

 アニメ情報によるとNo.5の母親であるNo.7も、元は劇場で歌っていた美しい歌姫であり、夫がいる身でありながら皇帝に見初められ、アメリア帝国の後宮に入ったらしい。


 突然過ぎるのと、機嫌を損ねられない立場を思い、冗談なのか本気なのかという部分からクィーンが思い悩んで口ごもっていると、No.5が椅子を引いてにこやかな笑顔を向けてくる。


「なんて、急に言われても困るよね。とりあえず、さあ、ここに座って。

 一緒に夜食を食べながら話そうか?」


 クィーンはNo.5の発言によって初めてアメリア帝国が現在、夜の時間帯であることを知る。


 困ったことに朝食を食べたばかりで、食欲はさっぱりなかったが、頼みごとがある手前、断わるのも感じが悪いのでクィーンは素直に引かれた椅子に腰を落とした。

 アメリア帝国の宮廷料理なのだろうか。テーブルの上には食材を丸ごと使ったような大胆な料理が並んでいる。

 No.5は向かいの席に戻ると、骨付き肉をふたたび手に持ち、無邪気な笑顔をクィーンに向けて話しかけてきた。


「俺のことはブルーって呼んでね。

 No.9は普段なんて呼ばれているの?」


「クィーンです。ブルー様」


「クィーンだね。ブルーでいいよ。なりたてでも大幹部同士だし、対等なんだから敬語にしなくていいからね」


「分かったわ。ブルー」


「さあ、食べてクィーン。俺、物を食べている女の顔ってそそるから好きなんだよね」


 いかにも女好きのブルーの発言に悪寒をおぼえつつ、クィーンはおずおずと普段見慣れぬ料理が並ぶテーブルに手を伸ばした。

 中でも特に興味の惹かれた料理をブルーの作法に習って手づかみすると、殻を剥いて直接身にかぶりついて頬張る。


(うわっ、ロブスター、おいしい)


 手間暇かけた料理が多いフランシス王国と違って、見た感じアメリア帝国の場合は茹でたり焼いただけの単純料理が多いので、その分素材の味そのものが味わえそうだ。

 料理を食べるクィーンを楽しそうに眺めて、ブルーが唐突な質問を投げかけてきた。


「ねぇ、クィーンは、現在の結社の体制について、どう思う? 不満とかない?」


 どう思うも何も、特に考えたこともなかった。

 物事を深く考えると頭が痛くなってくる持病があるので、クィーンは今まで極力難しいことは考えず、与えられた任務を単純にこなすだけの人生を送ってきたのだ。

 おかげでたまに無謀な特攻をして聖弓使いに殺されそうになる以外では、基本的にカーマインを怒らせることがない、忠実な僕としてこれまでやってきた――そのかいあっての、現在の大幹部の地位なのである。


「……別にこれと言って不満はないわ……」


「そうなの? 俺には、腐るほど不満があるんだけど。

 たとえばさ、いくら魔王様が元『秩序の大天使』でも、ちょっと結社は書類まみれ過ぎじゃない? 

 俺はねっ、面倒くさいから書類が大嫌いなんだっ!」


 逆に結社の管理が書類中心なことはクィーン的には好ましい。

 他人と会話するのが苦手なので、文章で指示や資料を貰い、時に報告も済ませることが出来るのが有り難いのだ。

 ブルーの不満はまだまだ続く。


「それとさ、直接魔王様と会う権限を持った四天王にばかりに権力が集中しているのも面白くないと思わない?

 何で第一支部のトップである俺が、自由に魔王様に会えないわけ? 意味が分からないし、おかし過ぎるよっ!

 あと、異名からしてNo.4が持っている『天使の嘆き』って俺に与えられるべき武器じゃない?

 なんで天使と関係ない、No.4があの最強武器を持っているわけ? 俺のと今からでも交換すべきだ!

 あとあと、何で、本部とか支部とかで管轄区域を決めるんだよっ?

 第一支部最強の俺が敵いそうにない、聖鎌使いを手続き不要で他の支部の大幹部、君あたりに倒して貰いたくてたまらないよっ!」


 随分不満や注文が多いようだ。


(どれも魔王様決定だし、変更無理だと思うんだけど)


「他にも色々おかしいことがあるよ! たとえばNo.3とNo.4の能力とか!

 俺だって魔族時に人間時の能力が反映されて、それによって変化後も優劣がつくことは理解している。

 だけど、魔力については別だ。異能で霊感が備わっている俺にだけは分かる! あの二人だけあきらかに他の大幹部に比べて魔力の総量値が大きすぎるんだ。

 これはどう考えても、魔王様がえこ贔屓をして多く力を与えたとしか思えない。こんな不平等は抗議してしかるべきだっ!

 クィーンだって最初から差をつけられるなんて許せないだろう?」


 グレイの魔力が大きい理由を知っているクィーンは、ブルーの機嫌を損ねないように控えめに否定した。


「人間時にすでに特別な能力を持っていたとは考えられないの?」


 ブルーは雷に打たれたような表情で、発言したクィーンの顔を見やる。


「――特別な能力――!? それって、神や天使が持っている高い『霊力』のこと?

 言われてみると聖書の中にも、人間でありながら生まれつき高い霊力が備わっている、神に選ばれし聖者が何人か出てくる……。

 ……そうか……その可能性は考えてみなかった! そう考えてみると合点がいくね!

 クィーン、君って美しいうえに、なんて賢いんだっ!」


(なぜだろう。誉められてもちっとも嬉しくない)


「……そうでもないわ」


「だけど、その仮定が合っているとしたら、魔王様に抗議しても無駄じゃないかっ――元からの能力差で片付けられてしまう!

 これは俺の計画を根底から揺るがす大誤算だ!」


 ブルーは大げさな動作で頭を抱えた。


「かくなるうえは、魔力で勝てないのなら別の能力で勝つしかない。

 俺の入手した情報によると、現在結社で魔力を抜かした身体のみを使った戦闘能力が一番高いのは、君か第二支部にいるNo.13らしい。

 クィーンは素早さが、No.13は身体能力が結社一高いと聞いている。

 俺はいずれNo.4に順位戦を挑んで、最強武器の『天使の嘆き』を入手する予定なので、その流れ上、番犬のNo.13は倒さなければいけない。

 No.13は身体能力だけで頭が弱いし、No.4は魔力が巨大でも戦闘力以外に能力が振られているので、勝算がある気はするんだけど……。

 No.1やNo.2はともかく、No.3だけは、幽体化対策に魂を斬るという『天使の嘆き』を持ってしても、俺の腕では倒せる気がしないんだ。

 ――そこでクィーン、物は相談なんだけど、『天使の嘆き』を入手したら貸しだすから、俺のかわりにNo.3を倒してくれない?」


 ブルーの爆弾発言にクィーンは、思わず頬張っていたロブスターの身を口から吹き出す。


「――なっ……!? そんなのっ、無理ですっ!」


(私がグレイ様を倒すなんてとんでもないっ!)


「……うーん……やっぱり、クィーンでも無理だと感じるんだ。そうだよね、魔力差があり過ぎるもんね。

 そうなると、ここは妥協して、No.3を四天王に残留させるしかないかな……。

 あっ、でも安心して! どちらにしても、クィーンは実力が高いし、魔族としても人間としても俺の妻になって欲しいという気持ちは変わらないからっ!

 将来的にはクィーンには、四天王にしてNo.2の『レッド』になって貰いたい」


「……レッド、ですか?」


「だってクィーンはその真っ赤な瞳以外は全身黒だからね。ブラックという名称は新四天王からは排除したいんだ。

 残りの一枠は、未定かな。もしもNo.13がNo.4の犬じゃなければ、新四天王メンバーのシルバーとして勧誘するんだけどね」


「新四天王メンバー?」


 次々思いがけない台詞がブルーの口から飛び出してくる。


「うん、クィーン! 俺はね、結社を変革して新体制を作りたいんだ! 

 そのためにまずはNo.4を倒し、最強武器『天使の嘆き』を手に入れ、次にNo.2とNo.1を血祭りにあげて、二代続いたブラックがおさめし『黒の時代』を終幕させ、この俺がトップになった新しい『青の時代』を築くんだっ!」


 拳を振り上げ、熱弁を奮うブルーの顔を呆気に取られて見ながら(大変な人物に関わることになってしまったな)とクィーンは冷や汗をかいて思った。


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