マジックその1 そろばん大会の帰りにお姉さんに話しかけられて、なりゆきでヒーローになっちゃった?!
「それでは、全国そろばん早打ち大会優勝者の速水有希くんにインタビューです!」
レポーターの女性はそう言って、どこにでもいそうな普通な印象の髪型の有希という少年に近づいた。ここは埼玉のとある行政センター。ここで先ほどまで、大人も参加するそろばんの早打ち大会が開催されていたのだ。そして今、大会が終わり優勝者へのインタビューが始まるところであった。
「まず初めに、優勝した今の気持ちは?」
「はい、とても嬉しいです。」
有希は明るい表情で答えた。彼は11歳でまだ小学生であるにも関わらず、この大人も参加する大会において優勝を手にしたのだ。インタビューも終わりに近づき、レポーターは最後の質問を有希にした。
「では最後に、有希くんの将来の夢はなんですか?」
「テレビのヒーローみたいに、たくさんの人を助けられるようになりたいです!」
「素敵な夢ですね!インタビューに答えていただきありがとうございました!」
有希は笑顔ではっきりと答えた。彼はヒーローもののテレビアニメや特撮が大好きな年相応の少年なのである。憧れのヒーローに近づくために、日々勉強や運動に努力を惜しまず取り組んだ結果、彼は稀代の天才と呼ばれるまでになったのだ。インタビューと表彰式も終わり、有希は自分の住む家へ帰るために電車に乗っていた。行先は群馬の小さな住宅街。迷うことなく駅にたどり着き、そこからバスで自宅近くのバス停まで向かった。そこまでは時間があるので、有希はスマートフォンにさしてあるイヤホンを耳に付けてラジオを聴くことにした。すると奇妙なニュースが耳に入ってきた。
「次のニュースです。人が怪物に襲われるという事件が昨日から相次いで起きている件で、警察は今日被害にあった周辺の住民に対し、聞き込み調査を開始しました。」
「人を襲う怪物、いったい何者なんだろう?」
有希は昨日から現れるようになったというこの怪物は気になっていた。本当にそれは怪物なのか?本当にそうだとしたら、何が目的なのか、どうして現れたのか、それが気になって仕方がなかった。まるでヒーローアニメの悪役のようだと思ったからだ。そう思っていると、バスの運転手が次に止まる場所をアナウンスした。
「次はー宝町に止まりまーす。」
「あぁ、もう着くんだ。」
有希は停車ボタンを押して、そのバス停で止まってもらうようにした。そして数分後もはそこにたどり着き、運転手にお礼を言ってバスを降りていった。
「運転手さん、ありがとうございます。」
「またのご利用をお待ちしてまーす。」
そして自宅へ帰ろうとすると、もう夕方で空があかね色に染まっていた。もう日が暮れそうなので、有希は急いで帰ろうと早足で自宅へ向かおうとすると、後ろから突然女性の声に呼び止められた。
「ねぇ、ボク?」
「えっ・・・・・?」
その声はかなり大人びていて、すぐに大人の人だとわかった。有希は恐る恐る振り向くと、驚くことにそこには宙に浮く箒に座っている、童話の魔女のような姿の胸の大きな女性が有希を見下ろしていた。有希は驚いて少し後ずさりしたが、それでもその女性の話を聞くことにした。
「えっと、おばさんは一体誰?」
「おばさんじゃなくてお姉さん、よ!」
「あぁ、すみません。」
女性は不機嫌な態度で訂正した。有希は苦笑いで謝りながらも、その女性の人間らしい反応が見れて少し安心した。有希は続けて質問をした。
「えっと、お姉さんは僕になにか用があるの?」
「そう!君にはとっても大事なことをしてほしいの。」
そう言って女性は箒から降りて、有希の目線までしゃがんで話を続けた。
「ねぇ、君は正義のヒーローになりたいよね?」
「えっ、うん!僕の憧れなんだ!」
ヒーローという単語に反応して、有希は目を輝かせて話した。女性はこの反応に何か確信を持つと、予想もしないことを言い出した。
「それなら話が早いわ!単刀直入に言うけど、君にはヒーローになってほしいの!」
「えっ、ええぇ?!そんなこと急に言われても・・・・・。っていうかおば、お姉さんは誰なの?」
「あっ、そうよね。紹介が遅れたわ。私は特殊怪人対策委員会の咲楽美代子よ。」
「特殊怪人対策委員会?」
「そうよね、今日極秘に立てられたのだから知ってるわけないわよね。」
魔女の姿の女性、咲楽美代子は箒から降りて警察手帳のようなものを見せながら自己紹介した。有希は何が何だかよくわからなくなりながらも一つずつ理解するために質問を続けた。
「怪人って、さいきん人を襲ってるっていう?」
「そうよ。最近の調査で警察でも手におえない存在だとわかったの。それで、私たちの出番ってわけ。」
美代子はかぶっていた帽子の中から金色に光る腕輪を取り出した。
「それはなに?」
「これは、うーん・・・・・。そうだ!変身アイテム、みたいなものかな?」
「変身アイテム!?これでヒーローになれるの!?」
「うーん、変身ヒーローとはちょーっとだけ違うんだけどー・・・・・。」
ヒーロー関連の話題になりとたちまち興奮して迫る有希に美代子は少し引きながらも説明を続けた。
「これを付けてこの町の、そしていつかは世界の平和を守ってほしいの!」
「で、でも、どうして僕なの?」
「それはね、君が選ばれた存在だからよ。」
「特別・・・・・。」
有希は自分が特別な存在だと言われてとても嬉しくなった。できれば美代子の助けになりたいと思ったが、どこか怪しい話で誘拐しようとしているのではと言う思考もあったので、この話は断ることにした。
「あの、申し訳ないんですけど、やっぱり僕・・・・・。」
有希がそこまで言いかけると、突如どこかから獣の唸り声が聞こえてきた。その声はまるで、特撮ヒーローに出てくる怪人のようだった。
「グルオォォォォォ・・・・・!!」
「えっ、なに今の!?」
「いけない!ボク、こっち!」
有希が突然のことに動揺していると、美代子が有希の手をつかんで引っ張るように走った。有希も引かれるままに走って、気付くと空き倉庫のような場所まで来ていた。空はもう日が落ちて、ずっかり夜になっていた。真っ暗な倉庫の中で美代子は有希に話しかけた。
「ボク、大丈夫?」
「う、うん。あと僕の名前は、速水有希って言うんだ。」
「わかったわ。有希くん。ここまでくればもう大丈夫なはずだから。」
美代子は有希を安心させるために、腰を下ろして有希を豊満な胸に抱きかかえた。有希は突然抱えられて驚いたが、美代子の包容力のおかげかすぐに安心することができた。最初は完全に誘拐されてしまったとも考えたが、彼女は安心していい人だと感じることができた。とりあえず落ち着いたところで、有希は美代子から離れることにした。
「ありがとう、もう大丈夫。」
「そう、よかったわ。」
有希が耳を澄ませると、それほど遠くないところで銃声とパトカーのサイレンの音が聞こえていた。怪人がもうここまで来ているということだとすぐに理解できた。
「ねぇ、こっちに来てるみたい。どうしてなの?」
「えっ?な、なんでだろうねー・・・・・。」
「お姉さん、なにか知ってる?」
「あはは、わかっちゃうよね・・・・・。」
有希は美代子の様子のおかしさからすぐになにかを隠していることに気が付いた。美代子も覚悟を決めて、有希にありのままの事情を説明することにした。
「あのね、今ここにきている怪人は、君を狙っているのよ。」
「えぇ、僕を!?」
「そう、君は特別な存在だって、お姉さん言ったわよね。あれは嘘でもなんでもないの。人間の中には「エナジー」という潜在能力の源があるんだけど、君の中のエナジーは他の人よりも特別に強いの。それで、怪物も君の高いエナジーを利用したいから君を探しているのよ。そしてこのリングは、そのエナジーを最大限まで引き出すことで、特別な力を使えるようにするものなの!」
説明しながら美代子は、先ほどのリングを再び取り出した。美代子が有希に接触したのは、有希の中の高いエナジーをこの世界の平和を守るために使うためであった。有希はまるで正義のヒーローそのままの話に動揺しながらも、胸の奥では興奮が湧き上がってきていた。
「そんなにすごいもの、僕に使えるのかな?」
「使えるわよ!だって君は、特別なんだから!」
有希と美代子は暗闇の中で目を見合わせた。表情は分からないが、お互いの気持ちは確かに通じ合っていた。そうしていると、誰かが倉庫の入り口から有希と美代子をライトで照らしてきた。そのまぶしさに手で目を隠しながらそのライトで照らす方向を向くと、ライトで2人を照らしていたのはごく普通の警官だった。
「美代子さん!少年も無事か!ここももう危ない、早く別の場所へ!」
「え、えぇ!」
「・・・・・っは!?おまわりさん後ろ!!」
有希が警官の後ろを指差すと、警官の背後のちょうど頭の上に銀色の熊の顔が見えた。すぐさま警官が振り向くが、その熊は警官を払いのけるように吹っ飛ばした。勢いよく飛ばされた警官は地面に叩きつけられてしまったが、体勢を立て直して腰に差してあった拳銃を構えた。
「くぞっ、バケモノめ!!」
「グルオォォォォォ!!」
唸り声を上げる熊の怪物が有希と美代子の前に現れた。その姿は、胴体と腕、下半身に中世の騎士のような鎧を纏い、手と頭が銀色の熊のそれという異形の姿をしていた。有希はその姿を恐れながら美代子に聞いた。
「あ、あれが最近ニュースでやってる、怪物なの?!」
「そうよ、彼らの名は「ウィザー」と言って、怒り、悲しみ、嫉妬と言ったマイナスの感情がエナジーの暴走によって爆発してしまった人間なの。」
「あれも、人間なの?」
「ええ、今のところ、元の人間に戻す方法はないわ。」
有希はあの怪物「ウィザー」も、人間が暴走したものであるという事実に驚いた。それと同時に、多くの人間を助けたいという一心で、有希の心の中で正義感が燃え上がった。
「お姉さん!リングを僕に!」
「戦って、くれるの!?」
「うん!だから早く!!」
有希は美代子からリングを受け取り、ウィザーに向かって走り出した。一方、警官は怪物に向かって拳銃で発砲し続けたが、ウィザーは撃たれた部分を仰け反らせはするものの、効果そのものは全くないようであった。
「拳銃も効かないのか!?」
「グルオォォォォォ!!」
そして拳銃の弾が切れた時、熊のウィザーは唸り声をあげて警官にとどめを刺すべく突っ込んで行った。その時、ウィザーの背後に突然飛んできた火球が直撃した。その火球による攻撃が効果的だったようで、ウィザーはその場で火に焼かれてもがき苦しんだ。警官が驚いて火球の飛んできたウィザーの背後を見ると、そこにはあの金色のリングを腕に装着し、右手に火の粉を纏った有希の姿があった。
「少年?!そのリングは・・・・・!」
「凄い!やっぱり私の目に狂いはなかったわ!!」
勇気を持ってウィザーに立ち向かう有希の姿に美代子は目を輝かせて歓喜した。ウィザーは有希の方を向いてそのまま突進してきたが、有希は臆することなく右手に力を集中させると、今度は周囲に突風を巻き起こし、その風を操り、警官を巻き込まないように真横からウィザーに叩きつけた。ウィザーはすさまじい突風を横から受けて、たまらず飛ばされて倒れ込んだ。美代子は想像以上の有希の潜在能力と適応力に驚かされるばかりであった。
「すごい!初めてであんなに使いこなすなんて!」
「お姉さん!僕でも使えたよ!」
有希が美代子に手を振ってリングの好調具合を伝える。その姿はまだあどけない少年の様相を見せながらも、その瞳は迷いが一切ない勇敢なヒーローのようであった。ウィザーは低いうなり声を上げながら立ち上がると、突然有希に向かってしゃべりだした。
「グルゥゥゥ・・・・・、な、なんだてめぇは!ただのガキじゃねぇのか!?」
「ん?君、普通にしゃべれたんだ。君はなんでそんな姿で暴れてるんだい?」
「ハッ!俺がこの町で一番強いってところを見せるためだよ!ピストルも効かない無敵の体を手に入れて、やっと他人から見下される人生も終わると思ったのに!!」
「そっか、君は弱い自分がいやで暴れてたんだね。でも、だからって暴力に任せて人を押さえつけようとするのは、弱いのと同じだよ。」
「なんだとぉ!?ガキがぬかすんじゃねぇ!!」
ウィザーは自分の弱さを指摘され、怒りに任せて雪に再び突進をしかけてきた。いままでと違いかなりの速度で有希に近づいてくるのを見て、美代子は焦った。それとは対照的に、有希は余裕の表情を浮かべて、突進してくるウィザーの目の前で突風を横切らせた。ウィザーがそれに驚いて停止すると、先ほどまでそこにいたはずの有希の姿がいなくなっていたのだ。
「なにっ!?どこに行った?」
「ここだよ。」
ウィザーが周囲を見回していると、真後ろから有希の声が聞こえたので慌てて振り向いた。その瞬間、後ろにいた有希は炎を纏う右手を思い切り振り上げ、その炎でウィザーを包み込んで焼き尽くした。至近距離で猛火を受けたウィザーは、火だるまのまま有希から離れてもがき苦しんだ。
「グッ、グオォォォォ!!!ば、馬鹿な・・・・・!こ、この俺がぁ!!」
「人間に戻って、少しは反省してね。」
「えっ、有希くん?人間に戻るって・・・・・?」
美代子は有希の発言が不可解だった。有希が放った台詞は、ウィザーを元に戻す方法もないのにまるでこれから人間に戻るかのような言葉だった。次の瞬間、炎から開放されたウィザーは自身のすべての力を失ったかのように力なく倒れると、それまでの恐ろしい熊の姿が光の中に消えて、一人の学ランの男の姿に変わった。この光景に美代子は非常に驚いた。ウィザーを人間に戻すことは今まで不可能と思われていた。不可能だったはずのことを、有希は実現してしまったのだ。
「信じられない・・・・・!これが有希くんの力なの?」
「ヒーローはね、いつだって不可能を可能にしてきたんだよ!」
有希は美代子に向かって、さわやかな笑みで白い歯をキラリと光らせ、右手で高らかにグーサインを出した。
ウィザーを倒し、町の平和を取り戻した有希は、美代子の箒に乗せてもらい自宅へと帰るところであった。ウィザーと化していた学ランの男はひとまず警察や特殊怪人対策委員会に対応を任せて、有希は上空からの町の景色を楽しんでいた。
「うわぁ、僕の町って空からだとこんなに綺麗だったんだ。」
「そうね、東京なんかより自然が多くて私は好きよ。」
2人で空の景色を眺めていると、美代子が有希に質問をしてきた。
「ねぇ、有希くん?ウィザーと戦ってるとき、なんで元の人間に戻すことができたの?」
「え?うーん、なんでだろう?このリングを付けたとたん、なんだかいろいろなことが手に取るようにわかるようになったんだ。」
「このリングには、私でもわからないような秘密があるのかもしれないわね・・・・・。」
美代子は有希の才能と、腕輪についてさらに調べなければならないと思った。美代子の胸の中に、まだ知られていない秘密を解明しなくてはならないという使命感が生まれていた。ある地点まで行くと、有希が住宅地を指差して自宅の場所を美代子に教えた。美代子は箒の高度を下げて、そのまま有希の自宅の前まで降りてきた。2人は箒から降りて、家の玄関の前まで来た。
「お姉さん、ありがとう!それじゃ、おやすみなさい。」
「どういたしまして。・・・・・っあ!ちょっと待って!」
突然美代子が家に入って玄関を閉めようとする有希を引き留めた。有希が驚いた様子でドアを開けると、美代子は言い出した。
「私、今日は君のお家に泊まらせてもらうわ!」
「ええーっ!!なんで!?」
「ほら、いつ君がウィザーに襲われるかわからないから、ボディーガードをしてあげるわ!」
美代子が突拍子もないことを言い出すので、有希も考えこんでしまった。たしかに寝ているところを襲われてしまったらひとたまりもない。しかし大人の女性を家に入れてしまっていいものか、と様々な思考を張り巡らせていた。時間もそろそろ10時を回ろうとしていたところであった。有希は、様々なことを考えた結果、美代子を家に迎えることに決めた。
「うん、わかった。今日はお母さんも出張でいないし、お姉さん、入って!」
「ありがと~!それじゃ上がらせてもらうわね?」
美代子は有希にお礼を言って家に上がると、まず始めにリビングに案内された。そこに入ると、大きな液晶テレビとソファーが正面にあり、右を向くとキッチンと傍にテーブルと椅子が、左を向くと大きな窓から見えるこれまた大きな中庭あった。その一般人から見たら明らかに広々として充実したリビングに美代子は驚かされた。
「有希くんのお家凄いわね!外から見た感じじゃ、ちょっと大きなお家くらいにしか見えなかったのに。」
「お父さんがあまり目立ちたがらないから、見た目は普通に、中身だけ広くしてって言って作らせたんだ。」
「有希くんのお父さんはお金持ちなのかしら?」
「お父さんは弁護士で高給取りなんだ。」
有希が少し自慢げに言うと、思い出したように美代子に風呂に入るよう勧めた。
「そうだ、お風呂先使っていいよ。シャワーでよければだけど。」
「いいのかしら?有希君の方が疲れてるんんじゃない?それにここは有希君のお家だし。」
「いいんです。僕はこれから勉強しなきゃだから。」
「わかったわ。それじゃ使わせてもらうわね?」
美代子は有希の言葉に甘えて風呂場へと向かい、有希も2階の自室へ向かっていった。風呂場でシャワーを浴びながら、美代子はこれからのことについて考えていた。リングによって発揮された有希の膨大なエナジー、そしてそれを狙うウィザーからどうしたら有希を守れるのか。しかしいくら考えても、その答えは美代子の考えられる中で1つだけであった。シャワーを終えて、バスタオルで身体や髪を拭いていざ着替えようとすると、美代子はある重大なミスに気が付いた。
「あっ!着替え、ないんだったー・・・・・。」
そう、急に有希の家に入ったので、着替えを用意してなかったのだ。時間はすでに11時を回っており、箒で今から取りに行くにも時間がかかるので、仕方なく美代子は今日着ていた下着と服を再び着ることとした。浴室を出て2階へ来ると、いくつもドアがある廊下があった。どの部屋に有希がいるかわからなかったので、とりあえず廊下で有希を呼ぶことにした。
「有希くーん、お風呂あがったわよ!」
「はーい、こっちの部屋だよ。」
有希は美代子に呼ばれて、廊下の一番手前のドアから顔を出して美代子を自室に招き入れた。有希の部屋は広々としながら質素で整理整頓されたきれいな部屋であった。美代子は有希の生活の良さに感心した。
「綺麗な部屋ねぇ。」
「いつもきれいにするよう言われてるんだ。」
「お母さんってスパルタなの?」
「違うよ。むしろちょっとだらしないくらい。お父さんもあまり家に帰らないし、僕がしっかりしてかなきゃって。」
「そうなのねぇ。」
美代子は有希にとことん感心した。むしろ尊敬したいくらいの聖人ぶりに、有希の背中からまばゆい後光が見えるようであった。そんなことを話しているうちに、もう時計は11時半を指していた。普通の良い子ならもう寝る時間である。時計を見た有希は、クローゼットから一枚の掛布団を取り出して、美代子に自分のベッドになることを勧めた。
「もう寝なきゃだね。お姉さんは僕のベッドに寝ていいよ。僕は下で寝るから。」
「えっ!い、いいわよそこまで気を遣わなくても!私が下で寝るから、有希君は自分のベッドで寝て!」
慌てた美代子が凄い勢いで有希に言うので、有希も勢いに押されて自分のベッドに寝ることにした。美代子は先ほど有希が出した掛布団にくるまって、部屋に置いてあったクッションを枕にして寝た。美代子は自分にとことん気を遣う有希に申し訳なさを感じていたので、せめて寝る場所まで取るような真似はすることがなくて安心した。そうして2人は眠りにつき、朝が訪れた。
「うーん、ん・・・・・。ちょっと寝過ぎたかしら?」
美代子が目覚めると、時間は朝の9時だった。今日は日曜日ということもあり、時間を気にせず良く寝ることができたことには満足したが、その気になれば床でも眠れてしまう自分に少し複雑な気分になった。とりあえず起き上がり、背伸びをしてベッドを見ると、そこには有希の姿はなかった。
「あら、どこ行ったのかしら。」
美代子は部屋を出て階段を下りると、リビングからおいしそうな匂いが漂っていた。その匂いに引き寄せられるようにリビングに入ると、おいしそうなスクランブルエッグとコンソメスープがテーブルに乗せられていた。
「あら、おいしそうねぇ!」
美代子が出来のいい朝食に目を輝かせていると、リビングの出入り口から有希の声が聞こえてきた。
「あ、お姉さんおはよう!」
「ん?あら有希くん、おはよう・・・・・ん?!!」
美代子が振り向くと、そこには上半身裸で下もトランクスのみのまま、バスタオルで髪を拭く無防備な姿の有希がいた。有希の小学生にして健康的で美しい肉体を見てしまった美代子は、衝撃と興奮で言葉を失ったまま固まってしまった。
「あああ・・・・・!!こっ、これはっ!!!」
「あ、その朝食はお姉さんの分だよ。僕は作った時にもう食べちゃったから大丈夫。トースターの中にパンが焼いてあるから、いま持ってくるね?」
有希がバスタオルをソファーにかけて、パンを取りにキッチンの方へ歩いて行こうとすると、美代子が我に返って有希を静止した。
「だっダメよ!有希くん!!」
「えっ、どうしたの?」
「だからえーと、まずは服を着て!」
「う、うん・・・・・。」
美代子ががに股になるほど必死になって両手のひらを前に突き出して相手を静止するジェスチャーをするので、有希は服を着に自室へ行くことにした。それに安心して美代子が指の力を抜いたその時、誰かがリビングのドアを思い切り開けて飛び込むように入ってきた。
「たっだいまー!!有希ちゃーん、ママ今日は早く帰れたわよー♡」
それは有希の母であった。予定より早く家に帰れたのがうれしかったのかハイテンションリビングに飛び出すと、そこには半裸の有希と、有希に今にも襲いかかろうとしているように見える美代子の姿があった。衝撃のタイミングで有希の母が現れたことで、その場の空気が一瞬にして凍りついた。有希と美代子も、有希の母に挨拶をすることしかできなかった。
「あ、お母さんおかえり・・・・・。」
「ど、どうも・・・・・。」
あまりに衝撃的な瞬間を見てしまった有希の母も、咄嗟に浮かんだ言葉を叫ぶしかできなかった。
「変態だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
次回の「リトルヒーロー・マジック!」は?
「速水有希です。お母さんをなんとか説得してその場を落ち着かせた僕。それから僕はクラスメイトの時子ちゃんとショッピングに行くんだけど、その先でウィザーが現れた!あのリングは家に置いてきちゃったし、僕一体どうすれば?!」
次回!外出時は忘れ物を確認しないと後で後悔するかも?!
「次の話も、見てくださいね♪」