心潜力者サイコダイバー<野坂真琴>
野坂真琴は派手な噂の絶えない娘である。
援助交際はデマにしても、やれ大学生と付き合ってるだの繁華街で深夜うろうろしてただの。
地毛なのか明るい髪の色や短い制服のスカートなどもその噂に拍車を掛けてるし、本人自身も特に否定はしないからだ。
けど、僕は知ってる。
噂の真偽はともかく、野坂真琴が本当は優しい女の子だということを。
雨が降る通学路。
捨てられた子犬が入った段ボール。
その上に掛けられた可愛い傘。
跪き、慈愛の顔を浮かべ撫でる彼女。
子犬を労わる彼女の顔は安らぎに満ちていた。
自身は雨に打たれてるというのに……
その姿は何故か気高く美しく見えた。
思わず声を掛けると、
「ちっ、違うし!
こんな子が心配な訳ないし!」
そこらで売ってる牛乳でなく、ちゃんと子犬用のミルクを買ってきておきながら何を言ってるんだか。
僕は苦笑すると、不貞腐れる彼女に話し掛けた。
「捨て犬?」
「あ? ああ。
そう……みたい。
あたしが通り掛かったら震えてるこの子が……って!
何で神楽に話さなきゃならないし!」
赤面し憤慨する野坂さん。
僕は肩を竦めると彼女に提案した。
「僕の知り合いで捨て犬の飼い主を捜してくれる人がいるけど……
どうする? 声、掛けてみる?」
「マジで!?
あ、いや……今のは喜んだ訳じゃ……
あ~もう!
……お願いします」
煩悶し頭を下げる彼女は可愛かったのを覚えてる。
素直になれない普通の女の子。
それが僕の中の彼女。
だからこそそんな彼女の提案には正直驚いた。
一体どんな事をするというのか?
「野坂さん、君は……」
「真琴でいいし(ぼそっ)」
「じゃあ真琴、何か対応策があるの?」
「要は敵から法子を精神的に守ればいいんでしょ?」
「あ、まあそうだけど」
「じゃあこうする」
不機嫌そうに呟いた真琴が天野さんの胸に手をやる。
そして、
「サイコダイブ」
その姿が発光するや否や、
天野さんの中に瞬時に掻き消える!
「ま、真琴!?」
「大丈夫。ただ法子の心の中に入っただけだし。
ね、法子?」
「その通り。
現在私のブレインコアには精神体と化した真琴が潜入してきている」
天野さんの口から放たれる二重会話。
腹話術にも似た複雑な感じ。
「よ、っと。
敵からの精神干渉攻撃を遮断、
且つ法子のアストラルにロック掛けたし。
これで大丈夫でしょ」
「助かる。
これで私もフィールド維持に専念出来る」
どうやら大丈夫らしい。
しかしこの慣れた手並みや対処法を見るに。
真琴はどうやら精神潜行系のエスパーだったようだ。
ヘタしたら精神感応持ちなのかも。
だったらヤバイな~結構真琴に対して……
「ちゃんと伝わってきてるし。
神楽の思う事全部」
あ~やっぱ筒抜けだったかー
駄目だよね、級友に対し照れる仕草が可愛いとか思っちゃ。
「きゅ、級友じゃないし……(ぼそっ)」
頭を掻きながら困る僕に真琴が不服そうに呟く。
魔法少女と化した僕が言うのも何だけど、年頃の女の子は難しい。
だけどどうしたものだろう。
天野さんのフィールドのお蔭で何とか場は保てている。
けど膠着状態に変わりはない。
このままでは千日手だ。
と、僕は思っていたんだけど。
「やれやれ……こりゃあ俺が動かないと駄目か?」
面倒くさそうにしながら、
どこからか出したのだろう?
派手な装飾の長剣を構えた有馬涙威君は嘆息するのだった。