決闘術師デュエリスト<如月真綾>
如月真綾はクラス委員長である。
黒髪をお下げにし、眼鏡が似合う委員長オブ委員長である。
2年連続でクラス委員長に立候補した彼女に訊いてみた事がある。
どうしてそんな面倒な事をするの、って。
僕には煩雑な仕事にしか見えない委員長職に魅力を感じなかったから。
その時の彼女はまなじりをピクリともせず、不愛想に、
「何となく落ち着かないから」
と答えた。
それが照れ隠しなのか本心なのか分からないけど、僕の中で委員長っていう存在は如月真綾そのものを表す単語になったのは確かだ。
いつも颯爽と雑務をこなし、必要と在ればクラスの舵取りさえする。
真面目さが形容されたとしかいえない委員長だったのだが……
「2次元を仲介したランク5の形骸寄生体による攻撃、か……
残念ですけど、私のシールドを貫く事は出来ないみたいですね」
眼鏡をクイっと上げながら怪しい分析結果を解説する委員長。
何ですか、それ?
「まずは小手調べから参りますか。
<Duress>からの<Thoughtseize>」
不敵に笑う委員長の手から放たれる2枚の符。
それは宙を舞い途中で砕け散り、
パキン!
脳髄を軋む音色を奏でる。
すると苦悶の声を上げ麗華さんの影から出てくるのは、蝙蝠の様な翼を持つ黒一色のバケモノ。
捻じれた角を持つそれは、まさに悪魔と形骸するに相応しい。
悪魔は怒りの声をあげて委員長に稲妻を放つ。
しかしその稲妻は委員長に届く目前で掻き消されてしまうのだった。
「<Dissipate>です」
委員長の冷めた声に矢継ぎ早に魔法を放つ悪魔。
だが委員長は焦る事はなくあくまで冷静に、
時に打ち消し、
時に障壁を纏い、
その攻勢を的確に捌いていくのだった。
「あらあら。
そんなお粗末な構成でいいんですか?
もう無くなっちゃいますよ……魔導書が」
指摘された瞬間、慌てて自らの身を顧みる悪魔。
されど時既に遅し。
もうその身体は朝霜のごとく消えて行こうとしていた。
「残念。アナタでは決闘術師には成れないみたいですね。
もっと遊びたかったんですけど……
これでお終いです。<Psychic Drain>」
普段は見せない、官能的とすら言える蠱惑的な笑みを浮かべる委員長。
放たれたその呪文は悪魔を分解するだけに留まらず全てを吸収しつくしていた。
「ご馳走様でした。
うふ……うふふ」
上機嫌すぎて怖い。
思わず声を皆が掛けるのを躊躇ったその時、
轟音と共に自分達のいる塔が揺れる。
な、ななななんだ!?
慌てて外を見上げれば、消え去ったガーゴイルの代わりに、
今度は雲を突き破り下降してきた巨大な気球船。
その気球船からはまるで蜘蛛の様に小さな飛行物体を吐き出し、
そいつらが撃った弾が僕達のいる塔に当ったみたいだ。
「麗華さん!」
数を相手取るには数。
もう一度先程の術が使えればあるいは……
期待を込めた眼差しに、麗華さんは残念そうに、
「ごめんなさい、御期待には添えませんわ」
「どうしてですか?」
「先程の術、少しインターバルを必要としますの」
「どのくらいです?」
「あと5分は」
5分。
カップラーメン2個分にも満たない時間が長く感じられる。
あの飛行物体の砲撃力なら、それだけの時間があればここら辺を荒野に出来るだろう。
身構える宇宙刑事に決闘術師。
流石にあれだけの数を一気に殲滅する手段はないらしい。
こうなれば、いよいよ僕の……
ステッキを手に魔力を練る僕。
けどその前には、
いつの間にか風変わりなクラスメイト、天野法子が立ち塞がっていた。
……またこのパターン?(涙)